ガス交換とはなんでしょうか。「呼吸すること」と言うこともできるが、そもそも呼吸とは何なのでしょう?肺という袋に空気を出し入れするだけで、体内の酸素や二酸化炭素の濃度が変化するのはどうしてなのでしょう。単純とも思えるガス交換について、疑問点を抽出するところから始めていこう。現役医学生ライター、たけのこと一緒に解説していきます。

ライター/たけのこ

心臓に魅せられた現役医大生。心臓外科医に憧れ、中学生の頃は血管モデルや心臓模型を作ったりして遊んでいた。個別指導の経験がある。人体全般と再生医療に興味あり。

ガス交換とは?

ガス交換とは、体内に酸素を取り込み、体内から二酸化炭素を排出することです。では、そもそもどうしてガス交換が必要なのでしょう?

ガス交換の目的

image by iStockphoto

ヒトが酸素を取り込む理由は、酸素によりエネルギーを産生するため酸素によりエネルギーを産生する機構が「呼吸」です。また、呼吸により産生された二酸化炭素は酸に該当します。このため、体内に二酸化炭素が過剰に溜まってしまうと体内は酸性に。体内が酸性に傾いた状態をアシデミアと言いますが、アシデミアでは血圧低下や不整脈、意識障害などの不調が起こりうります。したがって、体内で生じた二酸化炭素は体外に排出する必要があります酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する、これらのための機構がガス交換です。

ガス交換の場所

ガス交換の場所

image by Study-Z編集部

ガス交換の場所は2ヶ所あります。

肺呼吸(外呼吸):肺(肺胞と毛細血管の間)

細胞呼吸(内呼吸):細胞(毛細血管と細胞の間)

ヒトが酸素を取り込むのはエネルギー産生のため、というお話しをしましたが、エネルギー産生をしているのは全身の細胞。空気中の酸素をいきなり全身の細胞に送り込むことはできませんよね。このため、肺が気体の状態の酸素を取り込み、血液に酸素を乗せるまでの役割を担っています。いわゆる吸ったり吐いたりする呼吸です。この機構を肺呼吸と言います。一方、血液に乗った酸素が細胞内に取り込まれ、細胞の中でエネルギーが産生される機構は細胞呼吸。このように、肺と毛細血管の間でのガス交換と、毛細血管と細胞の間でのガス交換の2段階を経て、体の最深である細胞にまで酸素が届けられているのですね。もちろん、肺呼吸でも細胞呼吸でも、酸素を取り込むのとは逆に、二酸化炭素を排出する機構もありますよ。

\次のページで「ガス交換の仕組みは?」を解説!/

ガス交換の仕組みは?

さて、ガス交換の場所がわかったところで、その仕組みを確認していきましょう。

拡散の仕組み

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ガス交換は、拡散という現象を用いて行われています。拡散とは何なのでしょうか。

拡散とは、ある物質が濃度の高いエリアから濃度の薄いエリアに向かって移動し、エリア全体での物質濃度が均一になる現象を言います。

肺呼吸のガス交換では、肺胞から毛細血管に酸素が移動し、毛細血管から肺胞へ二酸化炭素が移動しますよね。肺胞の方が毛細血管に比べて酸素濃度が大きいため、酸素は肺胞から毛細血管に向かって拡散するのです。同様に、二酸化炭素についても、毛細血管の方が肺胞に比べて二酸化炭素濃度が大きいため、毛細血管から肺胞に向かって二酸化炭素が拡散します。

さて、気体が液体に溶ける現象はご存知でしょうか。気体はある一定の割合で液体、つまり血液に溶けます。逆もしかり、液体に溶けた気体も空気中に移動可能。このため、気体を含む肺胞と血液を含む毛細血管の間で拡散が起こりうるのですね。

細胞呼吸についても肺呼吸と同様です。毛細血管の方が細胞に比べて酸素濃度が高く、二酸化炭素濃度は低いですよね。ここでも拡散が起こり、ガス交換が成立するのです。

ここまででお気づきの方もいるかと思うのですが、十分に拡散が起こった2つのエリアでは、それぞれに含まれる物質の濃度は同じになります。つまり、肺呼吸において十分に拡散が起こった場合、肺胞と毛細血管ではその酸素分圧と二酸化炭素分圧はそれぞれ同じになりますし、細胞呼吸において十分に拡散が起こった場合には、細胞と毛細血管ではその酸素分圧と二酸化炭素分圧は同じになる、ということです。

とはいえ、これは理論上のお話。毛細血管を少しでも進めばエネルギー産生等により気体濃度は変化しますし、生物は完璧ではないので完全に拡散しているとも限りません。どれだけ拡散しやすい環境であるのか、つまりどれだけガス交換しやすいのかを図る尺度について、次の章で見ていきましょう。

換気血流比とは

換気血流比とは、ある一定時間で肺胞を出入りする空気の量と、同じ時間で肺胞を取り巻く毛細血管に流れる血流の量の比を言います。

換気血流比=単位時間あたりの肺胞換気量÷単位時間あたりの毛細血管血流量

\次のページで「拡散能力」を解説!/

肺は、縦に長い形をしていますよね。このため、肺の上の方と下の方とでは肺胞の広がりやすさや血液の流れやすさに違いが生じます。この違いにより、肺の各部位ではガス交換のしやすさに違いがあるのです。また、そもそも肺胞にまで空気が入って来られるのかどうか、毛細血管に異常があるかどうかもガス交換に影響してきます。このような、ガス交換が十分に行いやすい環境かどうかをみる指標が、換気血流比なのです。

拡散能力

ガスの種類によって、拡散のしやすさには違いがあります。この「拡散のしやすさ」が拡散能力二酸化炭素は拡散能力が高いことで有名です。簡単に血液と肺胞の間を行き来できます。逆に、酸素は拡散能力が低いことで有名。このため、拡散の窓口となる肺胞の壁に不調があった場合、酸素の移動は一層ゆっくりになり、血液に酸素が提供されにくくなります。一方、二酸化炭素は拡散能力が高いので、肺胞壁の異常の影響をあまり受けません。

ガス交換できないとどうなる?

では、ガス交換できない時に何が起こるのか見ていきましょう。

ガス交換の場所には、肺と細胞の2ヶ所がありましたね。「ガス交換の異常」というとき、本来ならばこれら両方の異常を見ていくべきです。しかし、大半の場合は肺呼吸の異常のみが扱われます。というのも、細胞呼吸のガス呼吸について扱うと、全身の細胞について見なければならず大変複雑です。よって、今回も肺におけるガス呼吸の異常について見ていきます。

肺線維症とは

肺線維症とは

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肺線維症とは、肺胞の壁がカチカチに線維化してしまう状態。ヒトの体は、炎症が起こるとその部分を修復しようとして線維化という現象を起こします。肝硬変で肝臓がカチカチになってしまうのも線維化によるもの。この線維化、肺胞の壁で起こってしまうと肺胞が正常に機能できなくなってしまいます。肺胞は、その壁を介してガス交換していましたよね。肺胞の壁が線維化することで、特に酸素が拡散しにくくなり息苦しさを感じるようになってしまいます。

肺気腫とは

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肺気腫とは、肺胞の壁が壊れることで肺胞内の空間(気腔)が広がってしまう状態。炎症により線維化が起こる場合もありますが、時に線維化すら起こらず肺胞壁が破壊されてしまうことがあるのです。肺気腫では、肺胞壁が破壊されることで肺胞の伸縮性が低下します。本来、肺胞は空気の出し入れのため、ゴム風船のような伸縮性を持っていますが、肺胞壁が壊れることで肺胞が伸び切ったゴムのようになってしまい、空気の出し入れが不十分になってしまうのです。十分にガス交換ができないことがわかりますね。ちなみに、肺気腫は喫煙が原因であることで有名です。

\次のページで「ガス交換は、肺と細胞における酸素と二酸化炭素の入れ替え!」を解説!/

ガス交換は、肺と細胞における酸素と二酸化炭素の入れ替え!

今回はガス交換について扱っていきました。ガス交換といえば肺のみを想起しがちですが、実はガス交換は細胞でも起こっています。ガス交換の理解のためには、気体について理解することが重要。化学の気体分野について勉強するとより一層理解が深まりますよ。

この記事が皆さんのお役に立てれば幸いです。

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理科生物

ガス交換とは?肺胞のはたらきって?呼吸の仕組みについて現役医学生が簡単に説明!


ガス交換とはなんでしょうか。「呼吸すること」と言うこともできるが、そもそも呼吸とは何なのでしょう?肺という袋に空気を出し入れするだけで、体内の酸素や二酸化炭素の濃度が変化するのはどうしてなのでしょう。単純とも思えるガス交換について、疑問点を抽出するところから始めていこう。現役医学生ライター、たけのこと一緒に解説していきます。

ライター/たけのこ

心臓に魅せられた現役医大生。心臓外科医に憧れ、中学生の頃は血管モデルや心臓模型を作ったりして遊んでいた。個別指導の経験がある。人体全般と再生医療に興味あり。

ガス交換とは?

ガス交換とは、体内に酸素を取り込み、体内から二酸化炭素を排出することです。では、そもそもどうしてガス交換が必要なのでしょう?

ガス交換の目的

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ヒトが酸素を取り込む理由は、酸素によりエネルギーを産生するため酸素によりエネルギーを産生する機構が「呼吸」です。また、呼吸により産生された二酸化炭素は酸に該当します。このため、体内に二酸化炭素が過剰に溜まってしまうと体内は酸性に。体内が酸性に傾いた状態をアシデミアと言いますが、アシデミアでは血圧低下や不整脈、意識障害などの不調が起こりうります。したがって、体内で生じた二酸化炭素は体外に排出する必要があります酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する、これらのための機構がガス交換です。

ガス交換の場所

ガス交換の場所

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ガス交換の場所は2ヶ所あります。

肺呼吸(外呼吸):肺(肺胞と毛細血管の間)

細胞呼吸(内呼吸):細胞(毛細血管と細胞の間)

ヒトが酸素を取り込むのはエネルギー産生のため、というお話しをしましたが、エネルギー産生をしているのは全身の細胞。空気中の酸素をいきなり全身の細胞に送り込むことはできませんよね。このため、肺が気体の状態の酸素を取り込み、血液に酸素を乗せるまでの役割を担っています。いわゆる吸ったり吐いたりする呼吸です。この機構を肺呼吸と言います。一方、血液に乗った酸素が細胞内に取り込まれ、細胞の中でエネルギーが産生される機構は細胞呼吸。このように、肺と毛細血管の間でのガス交換と、毛細血管と細胞の間でのガス交換の2段階を経て、体の最深である細胞にまで酸素が届けられているのですね。もちろん、肺呼吸でも細胞呼吸でも、酸素を取り込むのとは逆に、二酸化炭素を排出する機構もありますよ。

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