溶解熱って聞いたことあるか?その名の通り、溶質が溶媒に溶ける時、つまり溶解時に発生する熱のことです。
モノが溶けるだけで、発熱するって不思議じゃないか?しかも物質によっては吸熱して温度を下げるようなモノもある。
今回は溶解のメカニズムを学習して、なぜ発熱や吸熱するのか理解しよう。溶解熱について、化学メーカーで研究をしているnaaaakaに解説してもらうぞ。

ライター/naaaaka

化学メーカーに研究・開発者として勤める。 製品を開発することよりも、法則や理論を見出すことに喜びを感じる困った男。

そもそも溶解ってどんな現象?

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溶解熱は、その名通り、溶解時に発生する熱です。そこで溶解熱を理解するために、まず溶解について学習しましょう。

今回は塩が水へ溶解するケースを例に、溶解を説明していきます。

イオン結晶

イオン結晶

image by Study-Z編集部

私たちが目にする塩は白い粒状の結晶です。これは塩化ナトリウムのイオン結晶であり、ナトリウムイオン(Na+)塩化物イオン(Cl-)から構成されています。

ナトリウムイオンは正の電荷を、塩化物イオンは負の電荷を持っているため、静電引力によって互いに引き付けるのです。そのためイオンがそれぞれ単体で存在するよりも、イオン結合を形成してイオン結晶として存在するほうが、安定して存在することができます。

このイオン結晶を水へ溶かすと、どうなるのでしょうか?

イオン結晶がバラバラになってイオンになる

塩を水に入れて、くるくると混ぜていると、溶けていきますよね?これはつまり、イオン結晶が電離してイオンへと戻るということ。では、なぜイオン結合により安定なはずのイオン結晶が、イオンへと戻ってしまうのでしょうか?

理由は周囲からエネルギーを受け取って、活性状態になるからです。水分子も運動しているため、塩化ナトリウムと衝突することで、この運動エネルギーが伝わります。このエネルギーがイオン結合を切断してしまうため、ナトリウムイオンと塩化物イオンに再び分裂するのです。

イオンが溶媒に包まれる

イオン結合が切れて生成したイオンはこのままでは、再びナトリウムイオンと塩化物イオンが接近して、元の安定な塩化ナトリウムへと戻ってしまいそうですよね。しかしこのようなことはありません。実際、温度を上げない限り、塩が再度析出したりはしませんよね。

これは水分子がイオンを取り囲むような配置になるため、イオン同士の接近を阻害するため、再びイオン結合を生成して、塩化ナトリウムへと戻らないのです。水分子はイオンのように電荷をもちませんが、極性があります。

極性:分子内の電気的な偏り

水分子の場合、O原子は負に、H原子は正に電荷の偏りがある

\次のページで「溶解時になぜ発熱(吸熱)する?」を解説!/

image by Study-Z編集部

そのため静電気力で、正に帯電したナトリウムイオンと負に極性を持つ水分子のO原子が引き付うため、エネルギー的に安定して存在できるのです。

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同様に、負に帯電した塩化物イオン正の極性を持つ水分子のH原子でも生じます。こうしてナトリウムイオン並びに塩化物イオンは水分子に取り囲まれるように配置されるのです。

このように溶質が、溶媒に取り囲まれることを溶媒和と言います。ナトリウムイオンも塩化物イオンも水に溶媒和されることで、エネルギー的に安定です。そのため、溶媒和によって、安定した時に生じる余剰のエネルギーが放出されます。

溶解時になぜ発熱(吸熱)する?

溶解は「イオン結晶の崩壊・イオン結合の切断」→「溶媒和」の順で進むことを説明し、各ステップでエネルギーを奪ったり放出したりすることを説明しました。このエネルギーが熱、つまり温度変化に影響をもたらしているわけです。

熱とは何か?エネルギーとの関係は?

そもそも熱とは、分子やイオンがしている運動の活発さ(運動エネルギー)を指しています。温度が高い時は分子の動きが激しく、温度が低い時は緩やかな状態と言えるのです。

また分子は外部からエネルギーを奪うと、運動エネルギーに変換されます。そのためエネルギーを奪うと、分子の動きが活発になるため、温度は上昇するのです。逆にエネルギーを放出すると、分子の運動は緩やかになるため、温度は下がります。

発熱か吸熱は、2つのエネルギーのつな引きで決まる!

溶解は、以下のステップで進むことを説明しました。

\次のページで「溶解熱の正負は見分けられる?3つの物質を例に解説」を解説!/

1. イオン結晶の崩壊・イオン結合の切断

2. 溶媒和

イオン結晶の崩壊・イオン結合の切断のために必要なエネルギー(格子エネルギー)は、周囲の水分子のエネルギーを奪うことで得ています。一方、溶媒和は電離したイオンを取り囲んで安定的な状態になるため、余剰のエネルギー(溶媒和自由エネルギー)を放出

熱とは分子や原子の運動エネルギーであるため、奪うエネルギーと放出するエネルギー、どちらが大きいかによって、溶解時に発熱するか、吸熱するかが決まります。

「格子エネルギー」<「溶媒和自由エネルギー」: 放出するエネルギーの方が大きいため、発熱する

「格子エネルギー」>「溶媒和自由エネルギー」:奪うエネルギーの方が大きいため、吸熱する

溶解熱の正負は見分けられる?3つの物質を例に解説

溶解熱の正負を、化学式や構造式だけで見分けることは残念ながらできません。正負や厳密な値を得るためには熱化学方程式を解く必要があります。

そこで、ここでは以下の3つの代表的な物質を水に溶解したケースを紹介します。

水酸化ナトリウム:溶解熱が正の物質

塩化ナトリウム:溶解熱の絶対値が小さい物質

硝酸アンモニウム:溶解熱が負の物質

\次のページで「水酸化ナトリウム」を解説!/

水酸化ナトリウム

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水酸化ナトリウムの溶解熱は正で、44.4kj/molと発熱量が大きいです。

溶解時に発熱する物質は、冷やしながら溶解させることで、溶解量を増やすことができます。これは冷やしてあげることで、溶解で生じる熱を除去しているため、溶解がより進みやすくなるためです(ルシャトリエの原理)。

塩化ナトリウム

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塩化ナトリウムの溶解熱は負ですが、-3.9kJ/mol と絶対値が小さいです。これは「格子エネルギー」≒「溶媒和エネルギー」であると言えます。

溶解熱の絶対値が小さい物質は、溶解量の温度依存性が低いですそのため塩は温度を上げても、下げても溶解量が大きくは変化しません。

硝酸アンモニウム

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硝酸アンモニウムの溶解熱は負で、-25,9kj/molと吸熱量が大きいです。溶解熱が負であるため、水酸化ナトリウムは対照的に、加熱することで溶解量を増やすことができます

また瞬間冷却剤に硝酸アンモニウムが用いられているのをご存じでしょうか?叩くと瞬間的に冷たくなる冷却剤は、叩いた衝撃によって内袋が破れます。すると隔てられていた水と硝酸アンモニウムが交わるため溶解が始まり、吸熱反応が生じるのです。

溶解熱の正負は、格子エネルギーと溶媒和エネルギーの差で決まる

「モノが溶けるだけで、なぜ熱が発生するのか?」、「なぜ溶解熱に正負があるのか?」といった疑問を溶解のメカニズムから説明しました。物質の溶解熱が正か負かを包括的に判断することは残念ながらできません。しかし今回説明した、溶媒和、そして熱とエネルギーの関係を理解することは化学を学ぶ上で重要です。生成熱や中和熱など、その他の反応熱を学ぶ際にも、ぜひ思い出してみてください。

" /> 溶解熱とはどんな現象?正負は何が原因?見分け方は?開発者ライターがわかりやすく解説! – Study-Z
化学熱力学物質の状態・構成・変化理科生活と物質

溶解熱とはどんな現象?正負は何が原因?見分け方は?開発者ライターがわかりやすく解説!


溶解熱って聞いたことあるか?その名の通り、溶質が溶媒に溶ける時、つまり溶解時に発生する熱のことです。
モノが溶けるだけで、発熱するって不思議じゃないか?しかも物質によっては吸熱して温度を下げるようなモノもある。
今回は溶解のメカニズムを学習して、なぜ発熱や吸熱するのか理解しよう。溶解熱について、化学メーカーで研究をしているnaaaakaに解説してもらうぞ。

ライター/naaaaka

化学メーカーに研究・開発者として勤める。 製品を開発することよりも、法則や理論を見出すことに喜びを感じる困った男。

そもそも溶解ってどんな現象?

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溶解熱は、その名通り、溶解時に発生する熱です。そこで溶解熱を理解するために、まず溶解について学習しましょう。

今回は塩が水へ溶解するケースを例に、溶解を説明していきます。

イオン結晶

イオン結晶

image by Study-Z編集部

私たちが目にする塩は白い粒状の結晶です。これは塩化ナトリウムのイオン結晶であり、ナトリウムイオン(Na+)塩化物イオン(Cl-)から構成されています。

ナトリウムイオンは正の電荷を、塩化物イオンは負の電荷を持っているため、静電引力によって互いに引き付けるのです。そのためイオンがそれぞれ単体で存在するよりも、イオン結合を形成してイオン結晶として存在するほうが、安定して存在することができます。

このイオン結晶を水へ溶かすと、どうなるのでしょうか?

イオン結晶がバラバラになってイオンになる

塩を水に入れて、くるくると混ぜていると、溶けていきますよね?これはつまり、イオン結晶が電離してイオンへと戻るということ。では、なぜイオン結合により安定なはずのイオン結晶が、イオンへと戻ってしまうのでしょうか?

理由は周囲からエネルギーを受け取って、活性状態になるからです。水分子も運動しているため、塩化ナトリウムと衝突することで、この運動エネルギーが伝わります。このエネルギーがイオン結合を切断してしまうため、ナトリウムイオンと塩化物イオンに再び分裂するのです。

イオンが溶媒に包まれる

イオン結合が切れて生成したイオンはこのままでは、再びナトリウムイオンと塩化物イオンが接近して、元の安定な塩化ナトリウムへと戻ってしまいそうですよね。しかしこのようなことはありません。実際、温度を上げない限り、塩が再度析出したりはしませんよね。

これは水分子がイオンを取り囲むような配置になるため、イオン同士の接近を阻害するため、再びイオン結合を生成して、塩化ナトリウムへと戻らないのです。水分子はイオンのように電荷をもちませんが、極性があります。

極性:分子内の電気的な偏り

水分子の場合、O原子は負に、H原子は正に電荷の偏りがある

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