今回は「タングステン」という金属について解説していきます。

タングステンは強度が高く、耐熱性・耐摩耗性に優れる金属元素の1つです。このような特徴があることから、タングステンは鉄や銅のような一般的な金属とは少し異なる用途で用いられることが多いぞ。この記事では、タングステンの化学的な性質はもちろんのこと、具体的な用途についても詳しく述べるつもりです。ぜひ、この機会にタングステンについての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

タングステンについて学ぼう!

Wolfram evaporated crystals and 1cm3 cube.jpg
Alchemist-hp (talk) (www.pse-mendelejew.de) - 投稿者自身による作品, FAL, リンクによる

皆さんはタングステンという元素をご存知でしょうか?タングステンは中学校や高校の化学の授業であまり取り扱われないこともあり、どちらかと言えば影の薄い元素ですよね。ですが、このようなイメージとは真逆で、工業的な価値が高い重要な資源ということが実際のところなのです。

今回の記事では、化学・物理学・工学などの様々な学問分野の側面から、このようなタングステンについて解明していきます。それでは早速、タングステンがどのような物質であるのかを説明していきますね。

タングステンとは?

タングステンとは?

image by Study-Z編集部

タングステンは原子番号が74クロム族金属元素(遷移元素)であり、元素記号で表示するとWとなります。また、世界的に見た場合にもタングステンの埋蔵量は少ないため、レアメタルに属する元素でもあるのです

単体のタングステンは銀白色の金属光沢をもっています。また、その比重は19.3と大きく、この値は金(Au)に匹敵するのです。その他にも、タングステンには高融点・高沸点・大きな電気抵抗といった特徴もありますよ。そして、タングステンは常温において安定性が高く、他の物質と反応しにくいという特徴もあります。さらに、タングステンは毒性が低いことから、鉛などの有害金属の代替品としての利用が進んでいますよ

タングステン鉱の分布

タングステンの単体は自然界にはほとんど存在せず、鉄重石マンガン重石灰重石などの鉱物として存在していますよ。また、タングステン鉱物の分布には偏りがあり、その大部分が中華人民共和国周辺に集中しているのです

そのため、タングステン産出国を産出量の多い順に並べると、中華人民共和国ロシアカナダオーストリアポルトガルとなります。このうち、中華人民共和国の産出量が全体の8割を超えていますよ

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タングステンと国家の安全保障

タングステンは産業・軍事の両分野で非常に重要度の高い物資でありながら、分布が偏りにあることため、世界各国が安全保障上の理由でタングステンの備蓄を行っています。これは日本も例外ではありません。

実際、2010年代には中国が日本に対してタングステンの輸出規制を行い、日本国内のタングステンが不足するという事態に陥ったことがありました。このときの教訓を生かして、日本国内で完結するタングステンのリサイクル技術を確立したのです。

タングステンの用途

ここからは、タングステンがどのような用途で使用されているかということについて、具体的な事例を通して考えていきましょう。以下では、電球のフィラメント切削工具の材料砲弾鉛の代替品という4つの事例をご紹介しますね。

このチャプターでは、それぞれの技術においてなぜタングステンが使用されているのかという点を、タングステンの特徴と結び付けて理解することが重要になります。このことを意識して記事を読み進めてみてくださいね。

電球のフィラメント

image by iStockphoto

1800年代後半に、エジソンが電球を実用化してから、電球は夜の街を明るく照らすという役割を果たしてきました。電球の内部には電気を通すフィラメントという部品が存在していますが、この部品は点灯時に高温にさらされます。電球が登場した頃のフィラメントは炭素やセルロールを主成分とするもので、寿命が長くありませんでした。

そのような状況を打破したものが、タングステンのフィラメントです。タングステンは耐熱性に優れ、電気抵抗がやや大きいことから、電球のフィラメントに適した材料だったのですねタングステンのフィラメントは1900年代初頭に実用化されました。以後、タングステンのフィラメントを採用した電球は、蛍光灯やLED電球が登場するまでの間に照明の主力となったのです。

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切削工具の材料

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タングステンの化合物である炭化タングステンや合金の鉄タングステン合金は、耐摩耗性に優れることから、ドリルの刃といった切削工具の材料に用いられています。これらの化合物や合金は、熱膨張率の温度変化が小さいことから、切削時の摩擦熱による工具の劣化を引き起こしにくいとされていますよ。

タングステン系のドリル刃製造にかかるコストの低減が進んだことから、最近はホームセンターに並んでいるホビー用のドリル刃にもタングステンを採用したものが増えてきました

砲弾

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戦車の分厚い装甲を撃ち抜くためには、非常に高い硬度をもつ砲弾を用意する必要があります。また、このような目的で使用する砲弾はできる限り重くする必要がありますよこれらの条件を満たす砲弾の材料として選ばれたものがタングステンでした。タングステンは比重が大きく、高い強度を持ち合わせるので、対戦車向けの砲弾の材料に適しているのですね。

近年では、タングステンよりもコストがやや低い劣化ウランも砲弾の材料として用いられるようになりましたが、扱いやすいといった理由からタングステンの砲弾のシェアが一定の水準を下回ることはないようです

鉛の代替品

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釣り針のおもりや狩猟用の弾丸には、古くから鉛が使われるのが一般的でした。しかしながら、これらは消耗品であり回収が困難であることから、有害な鉛が環境中に放出されることが懸念されていたのです。そこで、その鉛の代替品としてタングステンが注目されるようになりました

タングステンは比重が大きいため、釣り針のおもりや狩猟用の弾丸として使うことができますし、それが環境中の生物への与える影響は鉛よりも小さくなります。ですが、タングステンが鉛よりも高価であることから、十分な置き換えは進んでいません。

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タングステンについて学ぶ意義

中学校や高校の理科の授業でほとんど扱われることのないタングステンという地味な元素ですが、優れた特徴を多く持つことから、タングステンは電球や工具といった私たちの生活を支える製品に組み込まれているということがこの記事を通して理解できたのではないでしょうか。

今回の記事では、タングステンの性質や用途を様々な学問の側面から考察しました。ぜひこの機会に、タングステンという元素の雑学を身に着けてみてくださいね。

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化学原子・元素無機物質理科生活と物質

タングステンとはどのような金属?その性質や用途とは?現役理系学生ライターが5分でわかりやすく解説

今回は「タングステン」という金属について解説していきます。

タングステンは強度が高く、耐熱性・耐摩耗性に優れる金属元素の1つです。このような特徴があることから、タングステンは鉄や銅のような一般的な金属とは少し異なる用途で用いられることが多いぞ。この記事では、タングステンの化学的な性質はもちろんのこと、具体的な用途についても詳しく述べるつもりです。ぜひ、この機会にタングステンについての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

タングステンについて学ぼう!

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Alchemist-hp (talk) (www.pse-mendelejew.de) – 投稿者自身による作品, FAL, リンクによる

皆さんはタングステンという元素をご存知でしょうか?タングステンは中学校や高校の化学の授業であまり取り扱われないこともあり、どちらかと言えば影の薄い元素ですよね。ですが、このようなイメージとは真逆で、工業的な価値が高い重要な資源ということが実際のところなのです。

今回の記事では、化学・物理学・工学などの様々な学問分野の側面から、このようなタングステンについて解明していきます。それでは早速、タングステンがどのような物質であるのかを説明していきますね。

タングステンとは?

タングステンとは?

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タングステンは原子番号が74クロム族金属元素(遷移元素)であり、元素記号で表示するとWとなります。また、世界的に見た場合にもタングステンの埋蔵量は少ないため、レアメタルに属する元素でもあるのです

単体のタングステンは銀白色の金属光沢をもっています。また、その比重は19.3と大きく、この値は金(Au)に匹敵するのです。その他にも、タングステンには高融点・高沸点・大きな電気抵抗といった特徴もありますよ。そして、タングステンは常温において安定性が高く、他の物質と反応しにくいという特徴もあります。さらに、タングステンは毒性が低いことから、鉛などの有害金属の代替品としての利用が進んでいますよ

タングステン鉱の分布

タングステンの単体は自然界にはほとんど存在せず、鉄重石マンガン重石灰重石などの鉱物として存在していますよ。また、タングステン鉱物の分布には偏りがあり、その大部分が中華人民共和国周辺に集中しているのです

そのため、タングステン産出国を産出量の多い順に並べると、中華人民共和国ロシアカナダオーストリアポルトガルとなります。このうち、中華人民共和国の産出量が全体の8割を超えていますよ

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