今回は「やみつきの仕組み」をテーマに学んでいきます。

諸君が“やみつき”と言われてパッと思いつくのは、食べ物のことではないでしょうか?それは、食品パッケージによくこの言葉が使われているからだと考えられる。ではなぜ、その食品を作っている会社は“やみつき”という言葉を商品に使ったのか?やみつきとはどういう状態のことを言い、どのような仕組みなのかという観点からこの疑問を解決していく。また、やみつきと依存症との共通点も学習していこう。

高校・大学にて生物を専攻していた農学部卒ライター園(その)と一緒に解説していきます。

ライター/園(その)

数学は苦手だけれど、生物と化学が得意な国立大学農学部卒業の元リケジョ。動物の中でも特に犬が好きで、趣味は愛犬をモフること。分かりやすく面白い情報を発信していく。

やみつきとは

やみつきとは、コトバンクにおいて以下のように示されています。

1. 病気にかかること。また、病気のかかりはじめ。

2. 趣味や勝負ごとに熱中してやめられなくなること。

出典:“やみつき”.コトバンク(参照2022/3/14).

食べ物のやみつきになる仕組み

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食べ物に関するやみつきとは、「おいしい」と感じた食べ物に熱中して食べ続けてしまうことを言います。

なぜやみつきになるシステムがあるのか?

ずっと同じものを繰り返し食べ続けていれば、ある栄養の不足によって栄養のバランスが崩れたり、食べすぎによって肥満になったりするかもしれません。そのような状態は健康とは言えないですよね?ではなぜ、私たちの中には健康な状態を阻害してしまうかもしれないシステムがあるのでしょうか?

その答えを一言で言うと、「生物を存続させるため」です。ある生物が種を存続させるためには、生きるために食事をとることと増えるために繁殖をすることが必要になります。この2つを繰り返し生物に行わせることで、その生物自身を存続させることにつながるのです。つまりこのシステムは、意思とは関係ない本能的な機能だと言えます。

\次のページで「やみつきの基本」を解説!/

やみつきの基本

上記では生物全体の話をしてきましたが、ここではあなた自身のことを考えてみましょう。あなたがやみつきになっている(ハマっている)食べ物を考えてみてください。その食べ物は「おいしい」ですよね?つまり、まずいと感じた食品に対してはやみつきにならず、「おいしい」と感じることがやみつきになるスタートだということです。

食品を食べて「おいしい」と感じたとき、生理的に放出されるβ-エンドルフィン。それは脳内麻薬様物質と呼ばれ、幸福な気持ちにさせる作用があります。そのため、おいしい食べ物を食べると私たちは幸せな気持ちになるのです。

やみつきにかかせない脳内報酬系

やみつきにかかせない脳内報酬系

image by Study-Z編集部

食べ物に関するやみつきとは、「おいしい」と感じ、食べるのをやめられなくなることでした。前者は上記で解説した通りで、後者に関与するのが脳内報酬系と呼ばれるものです。脳内報酬系では、脳が感じた「おいしい」などのプラスの感情を報酬とし、この報酬が感知されると腹側被蓋野が活性化することからスタートします。

脳内報酬系における重要な神経伝達物質のドーパミン

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脳内報酬系で働くもっとも重要な神経伝達物質であるドーパミン。これは、腹側被蓋野→側坐核に行くルートと腹側被蓋野→前頭前野に行くルートがあります。

腹側被蓋野→側坐核

「おいしい」「気持ちいい」などの感情は何度でも味わいたいですよね?なので、腹側被蓋野から側坐核にドーパミンが分泌されると、その報酬を得るきっかけとなった行動を強化するように働きます。つまり、「おいしい」という感情を繰り返し味わうため「おいしい」と感じるようになった行動(つまり「おいしい」食べ物を食べる行動)を強化するのです。

腹側被蓋野→前頭前野

腹側被蓋野から前頭前野にドーパミンが放出されると、食べたものとβ-エンドルフィンの放出が記憶され、次その食べ物に出会ったときに見ただけで「おいしい」という感情が思い出されるでしょう。

\次のページで「脳内報酬系の活性化」を解説!/

食べ物のやみつきになる流れ

食べ物を食べる→「おいしい」と感じる・β-エンドルフィンの放出→幸福感を感じる(報酬)→腹側被蓋野が活性化・ドーパミンの放出→【腹側被蓋野→側坐核のルート】・【腹側被蓋野→前頭前野のルート】→別の機会にその食べ物に出会う→見ただけで「おいしい」という感情が思い出される→【腹側被蓋野→側坐核のルート】→食べる→味の情報→報酬系活性化→視床下部(摂食中枢)→摂食促進→食べる…

 

【腹側被蓋野→側坐核のルート】

腹側被蓋野活性化→側坐核→報酬系が活性化→高揚感(快感)→もっと食べたい

 

【腹側被蓋野→前頭前野のルート】

腹側被蓋野活性化→前頭前野→食べたものとβ-エンドルフィンの放出を記憶

脳内報酬系の活性化

脳内報酬系の活性化は、欲求が満たされた場合だけでなく報酬を期待して行動しているときにも起こります。これは、ドーパミンが報酬そのものではなく、報酬を手に入れる前の期待感や報酬を手に入れるための行動に関与しているからです。

依存症とは

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WHO(世界保健機関)が提唱した依存症の定義を要約したものは、以下のように示されていました。

ある快感を覚えた特定のものごとを繰り返し行うことによってさらなる刺激がほしくなり、ほかのことに優先してそれをせずにはいられない、しないことが耐え難い状態

出典:榎本稔.よくわかる依存症.2016,p8

依存症とやみつきのメカニズムの共通点

やみつきでは、食べ物を食べて「おいしい」と感じると脳内報酬系においてドーパミンが放出されるというものでした。そして、依存症では、依存症を誘発する薬物やアルコールなどの物質が脳内報酬系に直接または間接的に作用し、ドーパミンを強制的に放出させます。つまり、脳内報酬系においてドーパミンが作用するということが共通している点です。

\次のページで「依存症とやみつきの相違点の考察」を解説!/

依存症とやみつきの相違点の考察

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上記で依存症とやみつきの共通点を解説しましたが、相違点もあります。

同じものを繰り返して摂取したくなるという現象は薬物やアルコール依存と類似しているが、薬物依存とは異なり日常の生活に支障が出ることはほとんどないのも特徴である。

出典:堀尾勉.やみつき食品に関する研究. 2014,95

なぜ、食べ物のやみつきは薬物依存ほどの依存性がないのでしょうか?それは、食品は食べることで栄養素の補給という目的を果たせているからだと考えます。繰り返し摂取することで耐性ができ、やみつきになっているものを食べることに快感を感じにくくなっても、身体的には体の栄養になる満足感を得られるからというのが私の考えです。

食品のパッケージに“やみつき”という言葉が使われる理由

やみつきとは、「おいしい」と感じた食べ物に熱中して食べ続けてしまうことでした。そしてその仕組みは、生得的に備わっているもので自分の意志ではどうしようもない依存症と共通するメカニズムもあるということが分かったかと思います。つまり、食品会社が“やみつき”という言葉を使っているのは、依存してしまうくらいその食品を食べ続けてほしいという思いからではないでしょうか?

スーパーで「やみつき○○」という商品を見かけたら、ぜひこの記事で学んだことを思い出してみてください。

イラスト使用元:いらすとや

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なぜ“やみつき”になるのか?その仕組みや依存症との共通点についても農学部卒ライターが徹底わかりやすく解説!

今回は「やみつきの仕組み」をテーマに学んでいきます。

諸君が“やみつき”と言われてパッと思いつくのは、食べ物のことではないでしょうか?それは、食品パッケージによくこの言葉が使われているからだと考えられる。ではなぜ、その食品を作っている会社は“やみつき”という言葉を商品に使ったのか?やみつきとはどういう状態のことを言い、どのような仕組みなのかという観点からこの疑問を解決していく。また、やみつきと依存症との共通点も学習していこう。

高校・大学にて生物を専攻していた農学部卒ライター園(その)と一緒に解説していきます。

ライター/園(その)

数学は苦手だけれど、生物と化学が得意な国立大学農学部卒業の元リケジョ。動物の中でも特に犬が好きで、趣味は愛犬をモフること。分かりやすく面白い情報を発信していく。

やみつきとは

やみつきとは、コトバンクにおいて以下のように示されています。

1. 病気にかかること。また、病気のかかりはじめ。

2. 趣味や勝負ごとに熱中してやめられなくなること。

出典:“やみつき”.コトバンク(参照2022/3/14).

食べ物のやみつきになる仕組み

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食べ物に関するやみつきとは、「おいしい」と感じた食べ物に熱中して食べ続けてしまうことを言います。

なぜやみつきになるシステムがあるのか?

ずっと同じものを繰り返し食べ続けていれば、ある栄養の不足によって栄養のバランスが崩れたり、食べすぎによって肥満になったりするかもしれません。そのような状態は健康とは言えないですよね?ではなぜ、私たちの中には健康な状態を阻害してしまうかもしれないシステムがあるのでしょうか?

その答えを一言で言うと、「生物を存続させるため」です。ある生物が種を存続させるためには、生きるために食事をとることと増えるために繁殖をすることが必要になります。この2つを繰り返し生物に行わせることで、その生物自身を存続させることにつながるのです。つまりこのシステムは、意思とは関係ない本能的な機能だと言えます。

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