今回は金属元素の一つ「イリジウム」をテーマに紹介していきます。イリジウムは加工が難しい金属ですが、その難しさを逆に利用してかつては原器(測定の基準となる標準器)の材料となっている。重さや長さの基準となるイリジウムは非常に重要な元素です。今回は「イリジウム」の特徴と歴史や利用例を化学メーカーの研究員ライターY.oB(よぶ)と一緒に解説していきます。

ライター/Y.oB(よぶ)

大学・大学院と合成化学を専攻した後、化学メーカーで研究職として勤務。白金族元素の触媒反応で製品開発に携わった経験のある化学に詳しいライター。

イリジウムの性質、特徴を解説!

image by iStockphoto

イリジウムの性質や特徴を一言で表すならば、それは頑丈です。融点は高く、展延性は乏しい。さらに反応性も乏しいため、加工が難しい金属になります。イリジウム単体の比重は全元素中2番目に大きいため、非常に重いです。


この章では頑丈なイリジウムについて、性質や特徴を学んでいきましょう。

性質その1 腐食しない

image by iStockphoto

イリジウム単体の反応性の低く、酸やアルカリ、常温では王水(濃硝酸:濃塩酸=1:3)すら反応しません。削り取って粉末にした後であれば、王水に少量溶ける程度です。常温程度では空気中酸素に酸化もされないため、耐腐食性能と耐酸化性能を持った材料として利用しています。


王水はほとんどの金属を溶かす事ができる液体です。酸の比率はテストにも出るので覚えておきましょう。

性質その2 白金族元素を硬くする

image by iStockphoto

イリジウムはその頑丈な性質を合金に利用しています。特に白金族元素との合金は耐高温耐酸化の性質や強度を上げる。ロジウムや白金とイリジウムの合金は有名です。他の材料では耐えられない条件でも、イリジウム合金なら使用できます。

性質その3 イリジウム塩は虹色になる

image by iStockphoto

イリジウムは塩として存在している場合があり、この塩類は水溶液にすると様々な色に呈色する。そのため、虹の神イリスに因んでイリジウムと名付けられました。

\次のページで「イリジウムの歴史と産出国について解説!」を解説!/

イリジウムの歴史と産出国について解説!

image by iStockphoto

イリジウムは白金の精製工程の残渣から発見されました。加工困難な金属であるため、その利用も歴史も限定されたものとなっています。さらにイリジウムは産出は非常に少量です。少量で加工困難ですが、非常に重要な元素になります。


この章ではイリジウムの発見の歴史や産出国について学んでいきましょう。

イリジウムを発見したのは誰?

image by iStockphoto

イリジウムを発見したのはイギリスの学者スミソン・テナントです。1804年にスミソン・テナントは白金残渣からイリジウムとオスミウムを同時に発見しました。また、ダイヤモンドが炭素である事も証明した功績があります。


残念ながら乗馬しながら、橋を渡っている途中で橋が崩落し、亡くなりました。

イリジウムの歴史とは?

Platinum-Iridium meter bar.jpg
不明 - Originally downloaded from :http://www.mel.nist.gov/div821/webdocs-14/lsi_2.htm on NIST website Image currently at Length—Evolution from Measurement Standard to a Fundamental Constant, Physical Measurement Laboratory, US National Institute of Standards and Technology (NIST) website. No copyright attribution appeared with image., パブリック・ドメイン, リンクによる

イリジウムの加工の難しさはそのまま利用の少なさでもありましたが、1889年にフランス国際度量衡局は白金90%とイリジウム10%の合金で1キログラムを定義しました。イリジウム合金の変化のしにくさを利用した事になります。2018年までの約130年間はこの合金が1kgの基準となっていました。


また、1889年にメートル原器も同様にイリジウム合金で定義され、1960年まで1メートルの基準となっていました。この原器の複製30本の内の1本が日本に配布され、現在は産業技術総合研究所に保管されています。

イリジウムの産出国はどこ?

image by iStockphoto

イリジウムの産出国は南アフリカです。南アフリカが全産出量の95%を占めています。年間の産出量は4トン程度とかなり少量。地表に少量しか存在していない事が理由です。イリジウムは比重が大きすぎるため、マグマの中でも沈んでいきます。そのため、噴火が起きなければ地表に出てきません。


地球内部のマントルには地表と比較すると遥かに高濃度のイリジウムが含まれている。また、隕石にも高濃度のイリジウムが含有されているため、地表でイリジウム濃度が高ければ隕石が落ちた可能性があります。

イリジウムの利用例を解説!

image by iStockphoto

イリジウムの加工は難しいが、現在では様々な応用例があります。非常に高い耐熱性能を利用したものや、化学業界では近年研究が盛んな光反応に使用する触媒の一つがイリジウムです。


この章では現在のイリジウムの利用例について学んでいきましょう。

\次のページで「光反応の触媒とは?」を解説!/

光反応の触媒とは?

image by iStockphoto

光照射で酸化還元反応を起こす触媒の一つがイリジウム触媒です。光を与えるだけで触媒が原料を目的物へ変換します。非常に温和な条件で環境にも優しい反応なので、近年研究が盛んな反応形式です。特に可視光で酸化還元反応を起こす触媒はロジウムとイリジウム触媒が知られています。また、熱で反応させた場合では合成できない構造を光反応では合成できる例も知られているため、注目度が高い反応形式です。

耐熱、耐腐食性イリジウム合金とは?

image by iStockphoto

イリジウム利用のほとんどが合金利用です。特にるつぼの材料としての利用は一般的で、人口サファイア用るつぼに使用されています。人工サファイアの製造には高い耐熱性が求められるため、イリジウム合金は最適です。


その他、耐酸化性も高いため、高温になっても酸化皮膜を形成しづらい性質があります。この性質はエンジンの点火プラグの電極に利用されている。

宝飾品としての価値はある?

image by iStockphoto

イリジウムは宝飾品に利用もされています。しかし、単体そのものの価値ではなく、白金合金の材料としての利用です。非常に不変性が高いため、サビや変色、くすみも出ないため、宝飾品の美観を損ねません。


また、酸やアルカリに反応しないイリジウムは金属アレルギーになりにくいと言えます。金属アレルギーは汗等で金属が微量溶け出して起こりますが、イリジウムは全く溶けません。

イリジウムはとにかく頑丈な材料

高い融点、展延性のなさ、高い硬度、反応性は少ない性質を持つイリジウムは非常に頑丈です。利用のほとんどがその頑丈さを利用しています。産出は少なく、比重が重く地表にほとんどいない元素です。高濃度で発見できる場所は隕石か特殊な地層になります。特殊な地層の年代が中世白亜紀と新生代古第三紀の2つ。これが恐竜絶滅が隕石だと言われてる理由です。

" /> イリジウムとは一体何?性質や触媒反応、歴史や利用例などを現役研究員が5分でわかりやすく解説! – Study-Z
化学原子・元素理科

イリジウムとは一体何?性質や触媒反応、歴史や利用例などを現役研究員が5分でわかりやすく解説!

今回は金属元素の一つ「イリジウム」をテーマに紹介していきます。イリジウムは加工が難しい金属ですが、その難しさを逆に利用してかつては原器(測定の基準となる標準器)の材料となっている。重さや長さの基準となるイリジウムは非常に重要な元素です。今回は「イリジウム」の特徴と歴史や利用例を化学メーカーの研究員ライターY.oB(よぶ)と一緒に解説していきます。

ライター/Y.oB(よぶ)

大学・大学院と合成化学を専攻した後、化学メーカーで研究職として勤務。白金族元素の触媒反応で製品開発に携わった経験のある化学に詳しいライター。

イリジウムの性質、特徴を解説!

image by iStockphoto

イリジウムの性質や特徴を一言で表すならば、それは頑丈です。融点は高く、展延性は乏しい。さらに反応性も乏しいため、加工が難しい金属になります。イリジウム単体の比重は全元素中2番目に大きいため、非常に重いです。


この章では頑丈なイリジウムについて、性質や特徴を学んでいきましょう。

性質その1 腐食しない

image by iStockphoto

イリジウム単体の反応性の低く、酸やアルカリ、常温では王水(濃硝酸:濃塩酸=1:3)すら反応しません。削り取って粉末にした後であれば、王水に少量溶ける程度です。常温程度では空気中酸素に酸化もされないため、耐腐食性能と耐酸化性能を持った材料として利用しています。


王水はほとんどの金属を溶かす事ができる液体です。酸の比率はテストにも出るので覚えておきましょう。

性質その2 白金族元素を硬くする

image by iStockphoto

イリジウムはその頑丈な性質を合金に利用しています。特に白金族元素との合金は耐高温耐酸化の性質や強度を上げる。ロジウムや白金とイリジウムの合金は有名です。他の材料では耐えられない条件でも、イリジウム合金なら使用できます。

性質その3 イリジウム塩は虹色になる

image by iStockphoto

イリジウムは塩として存在している場合があり、この塩類は水溶液にすると様々な色に呈色する。そのため、虹の神イリスに因んでイリジウムと名付けられました。

\次のページで「イリジウムの歴史と産出国について解説!」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: