この記事では「複対立遺伝子」について学習していこう。

高校の生物学において、遺伝の分野は非常に重要視される。大学入試でも出題頻度は高いが、イメージができないと理解が難しく、苦手意識を感じるやつも多いところです。今回は遺伝分野の中でも特に混乱しやすい「複対立遺伝子」について、基本的なところから学んでいきたいと思う。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

複対立遺伝子とは?

複対立遺伝子(ふくたいりついでんし)とは、同じ遺伝子座にありながらも、3種類以上の異なる形質をあらわす遺伝子群、もしくはその現象のことをさします。

のちほど詳しく述べますが、高校の生物基礎では「ABO式血液型」がこの複対立遺伝子の例として取り上げられることが多いですね。

Human male karyotype.gif
Courtesy: National Human Genome Research Institute - From w:en:Image:Human male karyotpe.gif, Uploaded by User:Duncharris., パブリック・ドメイン, リンクによる

この「複対立遺伝子」を理解するためには、「遺伝子」や「対立遺伝子」などといった、遺伝学に関する用語の予備知識が必要不可欠です。遺伝についての知識がゼロのところから、急に複対立遺伝子について理解する、というのはちょっと難しいですね。

なので、まずは遺伝学の基本的な用語や内容を確認していきたいと思います。

「複対立遺伝子」を理解するための予備知識

遺伝子とは?

まず、そもそも遺伝子というのは何なのでしょうか?

遺伝子とは、遺伝情報の本体であるDNAのうち、特定のタンパク質の情報が存在する”部分(塩基配列)”のことです。

「タンパク質Aの遺伝子」といわれたら、「タンパク質Aの情報が存在する部分(塩基配列)」という感じで捉えてもらえればよいかと思います。

image by iStockphoto

遺伝について学習すると、メンデルの行ったエンドウマメの交配実験の話がよく出てきますよね。

「花の色を決める遺伝子」といわれたのならば、「花の色を決める情報が存在する部分(塩基配列)」。「豆が丸になるかしわになるかを決める遺伝子」であれば「豆が丸かしわかを決める情報が存在する部分(塩基配列)」です。

染色体とは?

真核生物のDNAはタンパク質とともに染色体という状態になり、細胞内に存在しています。

染色体の数は、同じ種の生物であれば基本的に一定数で、人間の体細胞では46本。そのうち23本は父親からもらったもの、もう半分は母親から受け継いだものです。

染色体の姿に注目すると、同じ大きさ同じ形の染色体が2つずつ存在することがわかります。これを相同染色体といい、片方が父親由来、片方が母親由来です。

\次のページで「遺伝子座とは?」を解説!/

遺伝子座とは?

ある遺伝子が染色体のどこにあるか、という”位置”のことを遺伝子座といいます。

基本的に、各遺伝子の遺伝子座は、「〇番染色体のこの部分」というように決まっているものです。

相同染色体には、同じ遺伝子の遺伝子座があります。

対立遺伝子とは?

ある一つの遺伝子であっても、塩基配列が少しずつ異なることで、違う作用を引き起こすことがあります。たとえば、「花の色を決める遺伝子」が、花の色をピンク色にすることもあれば、白色にすることもあるのです。

そのような、同一の遺伝子(=同一の遺伝子座にある遺伝子)であるが、異なる作用を起こすもの同士を対立遺伝子とよびます。また、対立遺伝子によって現れる形質が対立形質です。

複対立遺伝子は「対立形質が3つ以上」

おまたせしました!今回のテーマである複対立遺伝子に話を戻しましょう。

本記事冒頭で、複対立遺伝子を以下のように説明しましたね。

複対立遺伝子(ふくたいりついでんし)とは、同じ遺伝子座にありながらも、3種類以上の異なる形質をあらわす遺伝子群、もしくはその現象のことをさします。

「3種類以上の異なる形質をあらわす」というのは、「対立形質が3つ以上」みられる、と考えていただいていいでしょう。

対立遺伝子と複対立遺伝子のちがい

メンデルが行ったエンドウマメの実験は、「花の色を決める遺伝子で、花がピンク色白色になる」とか、「豆の形を決める遺伝子で、豆がしわになる」というような内容でしたよね。

\次のページで「複対立遺伝子の例1:ABO式血液型」を解説!/

Mendelian inheritance 3 1.png
Magnus Manske - Originally from en.wikipedia; description page is (was) here, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

これらの遺伝子が遺伝した結果は、2種類の対立形質(ピンク色or白色、丸orしわ)のどちらかが目に見える形で現れるはずです。

このような遺伝子は、複対立遺伝子とは言わず、ただの「対立遺伝子」といいます。

ところが、複対立遺伝子では3種類以上の対立形質がみられるのです。

でも、遺伝のしくみや優性(顕性)形質、劣性(潜性)形質という考え方は変わりません。結果的にみられる形質の種類が多い、ということだけ覚えておけば、それほど面倒な話ではないんですよ。

では、複対立遺伝子の例を2つご紹介しましょう。どちらも教科書などによく掲載されているものです。

複対立遺伝子の例1:ABO式血液型

皆さんは自分自身の血液型をご存じでしょうか?血液型にはいくつかの種類があるのですが、一番一般的なのはABO式血液型でしょう。赤血球のもつタンパク質の種類によって、血液をA型・B型・O型・AB型の4種類にタイプ分けするものです。

このABO式血液型は、「A」「B」「O」という3種類の対立遺伝子によって説明されます。

3種類の対立遺伝子のうち、AとBには優劣関係がなく、OはAとBに比べて劣性(潜性)です。

image by iStockphoto

3種類の対立遺伝子があっても、一人の人がもつABO式血液型の対立遺伝子は2つだけです。相同染色体は2つ(1ペア)ずつしかありませんからね。

相同染色体の同一遺伝子座にどの対立遺伝子をもっているかによって、ABO式血液型は以下のように決定します。

image by Study-Z編集部

複対立遺伝子の例2:アサガオの葉の形

もう1つの例が、アサガオの葉の形を決める遺伝子です。

ある種のアサガオには、3種類の形があります。一般的なアサガオの葉の形である並葉、もみじの葉ような形の立田葉、細長く柳の葉のような形の柳葉です。それぞれの形になる対立遺伝子が、相同染色体上の同一遺伝子座にあります。

\次のページで「複雑そうに見えるけど、そんなに難しくない」を解説!/

そうです。各対立遺伝子は、優性(顕性)の強い順に並べると「並葉>立田葉>柳葉」となります。

たとえば、並葉になる対立遺伝子をA、立田葉になる対立遺伝子をB、柳葉になる対立遺伝子をCとしましょう。

片方の親からA、もう一方の親からBをもらったアサガオの遺伝子型はAB。これだと、優性(顕性)の強いA=並葉が表現型として現れます。

もう一つ例を。片方の親からB、もう一方の親からCをもらった、遺伝子型BCのアサガオでは、Cよりも優性(顕性)の強いB=立田葉が表現型として現れます。

複雑そうに見えるけど、そんなに難しくない

高校の生物では、このあたりの問題を苦手とする人が多いです。しかし、少し複雑そうに見えるだけで、実際のところはそれほど難しくありません。高校レベルであれば、複対立遺伝子であっても対立遺伝子の種類は3~4種類ほどが関の山でしょう。

遺伝の分野は基礎知識が重要になります。出てくる用語や考え方をしっかり身につけて、複対立遺伝子をはじめとするさまざまな問題にトライしていきましょう。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

ABO式血液型も?「複対立遺伝子」について学びなおそう!現役講師がわかりやすく解説します

この記事では「複対立遺伝子」について学習していこう。

高校の生物学において、遺伝の分野は非常に重要視される。大学入試でも出題頻度は高いが、イメージができないと理解が難しく、苦手意識を感じるやつも多いところです。今回は遺伝分野の中でも特に混乱しやすい「複対立遺伝子」について、基本的なところから学んでいきたいと思う。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

複対立遺伝子とは?

複対立遺伝子(ふくたいりついでんし)とは、同じ遺伝子座にありながらも、3種類以上の異なる形質をあらわす遺伝子群、もしくはその現象のことをさします。

のちほど詳しく述べますが、高校の生物基礎では「ABO式血液型」がこの複対立遺伝子の例として取り上げられることが多いですね。

Human male karyotype.gif
Courtesy: National Human Genome Research Institute – From w:en:Image:Human male karyotpe.gif, Uploaded by User:Duncharris., パブリック・ドメイン, リンクによる

この「複対立遺伝子」を理解するためには、「遺伝子」や「対立遺伝子」などといった、遺伝学に関する用語の予備知識が必要不可欠です。遺伝についての知識がゼロのところから、急に複対立遺伝子について理解する、というのはちょっと難しいですね。

なので、まずは遺伝学の基本的な用語や内容を確認していきたいと思います。

「複対立遺伝子」を理解するための予備知識

遺伝子とは?

まず、そもそも遺伝子というのは何なのでしょうか?

遺伝子とは、遺伝情報の本体であるDNAのうち、特定のタンパク質の情報が存在する”部分(塩基配列)”のことです。

「タンパク質Aの遺伝子」といわれたら、「タンパク質Aの情報が存在する部分(塩基配列)」という感じで捉えてもらえればよいかと思います。

image by iStockphoto

遺伝について学習すると、メンデルの行ったエンドウマメの交配実験の話がよく出てきますよね。

「花の色を決める遺伝子」といわれたのならば、「花の色を決める情報が存在する部分(塩基配列)」。「豆が丸になるかしわになるかを決める遺伝子」であれば「豆が丸かしわかを決める情報が存在する部分(塩基配列)」です。

染色体とは?

真核生物のDNAはタンパク質とともに染色体という状態になり、細胞内に存在しています。

染色体の数は、同じ種の生物であれば基本的に一定数で、人間の体細胞では46本。そのうち23本は父親からもらったもの、もう半分は母親から受け継いだものです。

染色体の姿に注目すると、同じ大きさ同じ形の染色体が2つずつ存在することがわかります。これを相同染色体といい、片方が父親由来、片方が母親由来です。

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