今回は「原形質」について解説していきます。原形質という単語は、生物の勉強をしていてもあまり出てこないかもしれませんね。そんな原形質に注目して勉強してみないか。植物細胞でよく知られている「原形質分離」、「原形質流動」、さらには「原形質連絡」というキーワードをもとに解説していきたいと思う。
この記事では生物学に詳しい、理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

原形質ってどこにあるの?

Plant cell structure-en.svg
LadyofHats - Self-made using Adobe Illustrator. (The original edited was also made by me, LadyofHats), パブリック・ドメイン, リンクによる

原形質(げんけいしつ)という言葉は聞いたことはありますか。細胞質と名前が似ていますね。しかし厳密にいうと原形質と細胞質は異なります。原形質とは分かりやすくいうと、細胞膜で囲まれた内部のこと。つまり核や細胞質を含む部分を示します。ちなみに、細胞質とは細胞小器官と細胞質基質を合わせた部分のことですよ。

そもそもこの原形質という言葉が使われていたのは、まだ細胞についての研究が進んでいなかった時代。細胞の内部に生きている「源」のようなものが含まれていると考えられており、それが「原形質」と名付けられたそうです。従って、植物細胞の細胞壁や液胞などは「生きているとみなされない」と考えられており、原形質には含まれていません。

しかしご存じのとおり、細胞質にはそれぞれ異なる働きをする細胞小器官が含まれていますし、液胞や細胞壁も生命活動を行うために必要な器官。現在では核と細胞質をひとくくりにして考えることも少なく、原形質という言葉は用いられなくなってきました。

そんな中で原形質という言葉を使う機会があるとしたら、植物細胞における、「原形質分離」や「原形質流動」、「原形質連絡」などの用語があるでしょう。今回はこの3つについて解説していきたいと思います。

原形質分離とは

Rhoeo Discolor - Plasmolysis.jpg
Mnolf - Photo taken in Innsbruck, Austria, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

原形質分離とは植物細胞を浸透圧の高い液体に浸すと、原形質が細胞壁から離れる現象。これも授業で学習したことを覚えている人も多いかもしれませんね。

原形質分離が起こるのは、植物細胞が細胞壁をもっていることで起こる現象です。セルロースなどで形成されている、硬くて丈夫な細胞壁で囲われています。

それに対して細胞膜は半透膜という、水を通すことができる性質をもつ膜。浸透圧が高い溶液の中に入れると、細胞内の水が外液のほうに移動するため、細胞内の体積が減り原形質が細胞壁から分離するというわけですね。

原形質流動とは

image by iStockphoto

続きまして原形質流動について学習していきしょう。これも高校生物の教科書にも載っていますね。簡単に説明すると、原形質が細胞内で流れるように動く様子がみられる現象です。オオカナダモなどを用いて、葉緑体が動いている様子を観察した人もいるかもしれません。

この原形質流動は、植物細胞においてみられる現象。原形質流動はどのように起こっているのかを説明していきましょう。

原形質流動の鍵となるのはアクチンフィラメントとミオシン

原形質流動は細胞質に存在している「アクチンフィラメント」と「ミオシン」が関係しています。アクチンフィラメントを構成しているのは、アクチン分子というタンパク質。これが同じ方向を向いて複数結合し、らせん状の繊維のようになっているのがアクチンフィラメントです。アクチン分子は結合する方向性が決まっていることから、結合して伸長しやすいほうをプラス端、乖離しやすいほうはマイナス端と呼ばれています。

そしてミオシンは、アクチンフィラメントに結合しているモータータンパク質というものです。このモータータンパク質というのはATPのエネルギーを利用して、アクチンフィラメントなどの細胞骨格の上を移動するタンパク質のこと。アクチンフィラメントは、例えるならばミオシンのためのレールのような存在なのです。

\次のページで「原形質流動が起こるしくみ」を解説!/

原形質流動が起こるしくみ

原形質流動が起こるしくみ

image by Study-Z編集部

原形質流動は、実はこのアクチンフィラメントの上を移動する、ミオシンⅪが引き起こしている現象。ミオシンⅪは二本の足のようなドメインをもっていて、まるで二足歩行をするかのようにアクチンフィラメントを移動します。

そしてアクチンフィラメントに結合する部分とは別に、細胞小器官に結合するドメインも持っていることがポイントです。小胞体やミトコンドリアなどの細胞小器官を結合させたまま、ミオシンは細胞内に張り巡らされたアクチンフィラメントの上を移動します。この移動の方向がアクチンフィラメントのマイナス端からプラス端へと決まっており、それによって原形質流動が起きているというわけなんです。

原形質流動が起こる理由

ミオシンが細胞小器官を結合させて移動することによって、細胞内の物質輸送や細胞小器官の局在などに役立っていることが考えられています。

さらに最近の研究の結果から、原形質流動が細胞の大きさを決める一因になっていることが分かってきました。原形質流動の速度が速い細胞では大きな細胞に、逆に速度の遅い細胞では小さい細胞に成長するとのことです。植物は細胞のサイズを、原形質流動の速さを調整することによって決めているということでしょうか。

大きな細胞を維持するためには、その細胞内の物質輸送も活発に行う必要があるということが理由として考えらえています。

原形質連絡とは

Plasmodesmata en.svg
User:Zlir'a - File:Plasmodesmata.svg, CC0, リンクによる

原形質連絡(プラスモデスム、プラスモデスマータともいいます)は、隣り合った植物細胞同士が連絡通路を介して繋がっていること。原形質連絡という通路は細胞壁を貫通していているのが特徴。小胞体からできているデスモ小管という構造体が、原形質連絡を貫通するように存在しています。

この原形質連絡は大きな分子や細胞小器官などは通ることができません。しかし、イオンや水溶性の小さい分子は通ることが可能です。このような小さい分子が自由に拡散できる通路を、シンプラストといいます。細胞間での輸送に役立てられているほか、細胞間において情報伝達を行っていることも研究により明らかになっていますよ。

植物細胞に必要な原形質流動と原形質連絡

今回は「原形質」に注目して解説いたしました。あまり聞き馴染みのない「原形質」という用語ですが、掘り下げてみると学ぶことも多いですね。植物には動物とは異なり、神経系はありません。原形質連絡や原形質流動によって、必要な物質の輸送だけでなく、様々なコミュニケーションが行われていることも分かってきました。

陸上植物は地面に根を張り、動物のように動くことはありません。しかし植物の細胞内や細胞間では、「原形質流動」や「原形質連絡」という手法で活発に動き、生命活動を行っているのです。私たちが知らないだけで、細かい仕組みが成り立っていて、こうして生存し繁栄している。あらためて生物のすごさを感じますね。

" /> 原形質ってどこか分かる?原形質分離や原形質流動、原形質連絡について理系院卒ライターがわかりやすく解説! – Study-Z
理科生物

原形質ってどこか分かる?原形質分離や原形質流動、原形質連絡について理系院卒ライターがわかりやすく解説!

今回は「原形質」について解説していきます。原形質という単語は、生物の勉強をしていてもあまり出てこないかもしれませんね。そんな原形質に注目して勉強してみないか。植物細胞でよく知られている「原形質分離」、「原形質流動」、さらには「原形質連絡」というキーワードをもとに解説していきたいと思う。
この記事では生物学に詳しい、理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

原形質ってどこにあるの?

Plant cell structure-en.svg
LadyofHats – Self-made using Adobe Illustrator. (The original edited was also made by me, LadyofHats), パブリック・ドメイン, リンクによる

原形質(げんけいしつ)という言葉は聞いたことはありますか。細胞質と名前が似ていますね。しかし厳密にいうと原形質と細胞質は異なります。原形質とは分かりやすくいうと、細胞膜で囲まれた内部のこと。つまり核や細胞質を含む部分を示します。ちなみに、細胞質とは細胞小器官と細胞質基質を合わせた部分のことですよ。

そもそもこの原形質という言葉が使われていたのは、まだ細胞についての研究が進んでいなかった時代。細胞の内部に生きている「源」のようなものが含まれていると考えられており、それが「原形質」と名付けられたそうです。従って、植物細胞の細胞壁や液胞などは「生きているとみなされない」と考えられており、原形質には含まれていません。

しかしご存じのとおり、細胞質にはそれぞれ異なる働きをする細胞小器官が含まれていますし、液胞や細胞壁も生命活動を行うために必要な器官。現在では核と細胞質をひとくくりにして考えることも少なく、原形質という言葉は用いられなくなってきました。

そんな中で原形質という言葉を使う機会があるとしたら、植物細胞における、「原形質分離」や「原形質流動」、「原形質連絡」などの用語があるでしょう。今回はこの3つについて解説していきたいと思います。

原形質分離とは

Rhoeo Discolor - Plasmolysis.jpg
Mnolf – Photo taken in Innsbruck, Austria, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

原形質分離とは植物細胞を浸透圧の高い液体に浸すと、原形質が細胞壁から離れる現象。これも授業で学習したことを覚えている人も多いかもしれませんね。

原形質分離が起こるのは、植物細胞が細胞壁をもっていることで起こる現象です。セルロースなどで形成されている、硬くて丈夫な細胞壁で囲われています。

それに対して細胞膜は半透膜という、水を通すことができる性質をもつ膜。浸透圧が高い溶液の中に入れると、細胞内の水が外液のほうに移動するため、細胞内の体積が減り原形質が細胞壁から分離するというわけですね。

原形質流動とは

image by iStockphoto

続きまして原形質流動について学習していきしょう。これも高校生物の教科書にも載っていますね。簡単に説明すると、原形質が細胞内で流れるように動く様子がみられる現象です。オオカナダモなどを用いて、葉緑体が動いている様子を観察した人もいるかもしれません。

この原形質流動は、植物細胞においてみられる現象。原形質流動はどのように起こっているのかを説明していきましょう。

原形質流動の鍵となるのはアクチンフィラメントとミオシン

原形質流動は細胞質に存在している「アクチンフィラメント」と「ミオシン」が関係しています。アクチンフィラメントを構成しているのは、アクチン分子というタンパク質。これが同じ方向を向いて複数結合し、らせん状の繊維のようになっているのがアクチンフィラメントです。アクチン分子は結合する方向性が決まっていることから、結合して伸長しやすいほうをプラス端、乖離しやすいほうはマイナス端と呼ばれています。

そしてミオシンは、アクチンフィラメントに結合しているモータータンパク質というものです。このモータータンパク質というのはATPのエネルギーを利用して、アクチンフィラメントなどの細胞骨格の上を移動するタンパク質のこと。アクチンフィラメントは、例えるならばミオシンのためのレールのような存在なのです。

\次のページで「原形質流動が起こるしくみ」を解説!/

次のページを読む
1 2
Share: