10分でわかる「ワーキングプア」定義や背景・その実態は?現役大学院生がわかりやすく解説
今回は近年、日本に限らず世界中で社会問題となっている「ワーキングプア」の背景とその実態について見ていく。「ワーキングプア」とは概略すると、就労しているにもかかわらず、収入が生活保護の水準以下しか得られないといういう状態です。社会学を研究している、現代社会や社会問題に詳しいライターのクララと一緒に解説していきます。
ライター/クララ
社会学修士号を取得し、博士号取得を目指す現役大学院生ライター。読者が社会問題を「自分ごと」として考えることができるよう、「楽しくわかりやすい現代社会の授業」を目指して日々奮闘中。
働いているのに生活が困窮しているとはどういうことか
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1990年代以降、正社員と同等、もしくはそれ以上に働いているのにもかかわらず、収入が上がらず、生活が困窮しているワーキングプアと呼ばれる人々が、日本に限らず世界で(特に先進諸国)社会問題となっています。ワーキングプアとは一体どういう状態なのでしょうか。今回は、ワーキングプアについてその背景と実態を見てみましょう。
ワーキングプアとは何か
ワーキングプアとは、正社員・もしくは正社員と同等以上にフルタイムで働いているのにもかかわらず、収入が生活保護の水準・それ以下である人たちのことです。つまり、「生活ギリギリのラインで生活することを余儀なくされている人々」のことを総称します。
ワーキングプアの人々は生活費を稼ぐことで精一杯です。スキルアップのための職業訓練や収入を上げるために転職活動をする余裕がありません。そのため、現状を改善が困難である場合が多いことが課題となっています。
日本語では「働く貧困層」とも訳されていますが、新聞やニュース等ではそのままワーキングプアと総称されることが多いです。ワーキングプアのうち、主婦パートタイマーや若年層のフリーターのように主たる生計者の家計補助として就労している人や親元を離れずに生活している人は含まれません。
ワーキングプアの定義
先にワーキングプアとは、「フルタイムで働いているのにもかかわらず収入の上昇が見込めず、生活が困窮している人々のこと」「日本には厳密な定義がない」ことを述べました。
諸外国では、ワーキングプアを「働いているのにもかかわらず収入が貧困線未満の状態の人」と定義されています。例えば、アメリカのワーキングプアの基準は、労働者のうちの「貧困ライン」(収入が貧困線未満=年収約270万円)です。日本には公式的な「貧困ライン」の基準は存在しないため、ワーキングプアの明確な基準となるものがありません。しかし、生活保護受給の給与水準が年収150万〜200万円程度となっていることから、ワーキングプア層の定義を年収200万未満とする場合が多いです。
では、なぜフルタイムで働いているのに、生活保護の水準以下の収入に陥ってしまうのでしょうか。その原因とワーキングプアが引き起こされた社会背景について見ていきましょう。
ワーキングプア問題が引き起こされた社会背景
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そもそもワーキングプアとは、アメリカで1990年代に社会問題となり、その後はカナダ・イギリス・イタリアなどの先進諸国でも社会問題となりました。かつては、貧困と失業を原因とする問題として考えられていたのです。しかし、働いているのにも関わらず、貧困状態にある、という新たな問題が欧米諸国でじわじわと浮き彫りになってきます。
日本では2006年に放送された「NHKスペシャル」でワーキングプアの実態が特集として取り上げられたことで、社会問題として注目されるようになりました。続いては、ワーキングプア問題が引き起こされた社会背景を「景気後退とグローバル化」と「社会保障の削減」にポイントを絞って説明していきます。
景気後退とグローバル化
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日本におけるワーキングプア問題のきっかけはバブル経済が崩壊した1990年代のことです。日本の景気は後退し、企業は人件費を削減するために正規雇用から非正規雇用への切り替えをするなど、雇用形態の変化が進みました。この企業の人件費の削減と非正規雇用への切り替えが、ワーキングプアの要因の1つでした。
まず、非正規雇用について説明をしておきましょう。非正規雇用とは、アルバイトや派遣社員・契約社員といった雇用形態の総称です。一方、正規雇用とは、期限の定めがない雇用形態を示します。
なぜ多くの日本企業は1990年代に正規雇用を削減・抑制し、非正規雇用に切り替えたのでしょうか。正規雇用の場合、契約期間は無期限のため、企業は労働者に対して安易に解雇することは労働法上、困難です。また、企業の都合で契約期間を待たずに、契約満了となることもあり、景気によって雇用を調整しやすいという特徴があります。
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社会保障費の削減
ところで日本では景気が後退する前の1980年頃から少子高齢化が始まっており、人口構造は大きく変化しました。そのため、国家予算に占める社会保障費は年々削減されています。
少子高齢化が進むと労働力となる生産年齢人口は減少し、医療や介護に頼らざるを得なくなる高齢者の割合は高くなりますよね。そこで国は社会保障制度を支えるために、現役世代が負担する社会保険料を上げました。
約120兆円であった社会保障費は今後も上昇を続けることが予想されており、現役世代の負担額は今後も過重になると見込まれている状況です。社会保障費の自己負担額が増えることで、収入が低い人にとっては生活に打撃が強くなることになります。非正規雇用の場合は、企業保険には加入できない場合が多いため、国民健康保険に入らなければなりません。しかし、保険料を払う余裕がないため、健康保険未加入のワーキングプア層が多いことも課題となっています。
不本意非正規雇用
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不本意非正規雇用の多さも見逃してはならないポイントです。2021年の厚生労働省のデータによると、正社員として働く意欲があるのにもかかわらず、雇用の機会がなく非正規雇用で働いている人(いわゆる不本意非正規雇用)の割合は10.7%です。つまり、現在の日本社会では、10人に1人が非正規雇用で就労を余儀なくされています。
ワーキングプアの実態
先に、ワーキングプアの基準を年収が150万〜200万円程度とする場合が多いことを述べました。実際の状況を見てみると、年収200万円以下で生活している人は国税庁の調査(令和2年度「民間給与実態統計調査」)によると、1000万人を超えています。
この調査では年間給与額100万円超200万円以下の男性は217万人(全体の7.2%)に対して女性は508万人(全体の23.4%)となっており、女性の方が圧倒的に多いことが分かりますね。
また、日本の総労働人口は約5000万人であり、働く人の約4分の1、つまり25%がワーキングプアとの状態です。さらにワーキングプアの雇用形態を見てみると、非正規雇用で働いている人が多いことがわかります。
非正規雇用の公務員
近年、非正規雇用で働く公務員が増えているのはご存知でしょうか。非正規雇用の公務員は、地方自治体が雇用する臨時職員・非常勤職員で会計年度職員と称する自治体もあり、期間限定で雇用された職員のことです。
特に出張所や図書館・公民館の窓口業務などの多くは、自治体が民間企業に業務委託をしている場合が多いため、現場で働いている職員は非正規公務員である場合が高くなります。非正規雇用の公務員の問題点は、中央政府がワーキングプアを生み出し、格差と貧困を生み出していると言えるのではないでしょうか。
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