今回は「クロロフィル」をテーマに学習していこう。

クロロフィルは光合成色素の一種です。高校の生物学で名前くらいは聞いたことがあっても、その構造や種類までは深堀しないことが多いでしょう。植物を特徴づける反応の一つである”光合成”。それに必要な物質であるクロロフィルについて、この機会に学んでいこうじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

クロロフィルは光合成色素のひとつ!

クロロフィル(Chlorophyll)は、光合成をおこなう生物がもっている化学物質です。

私たちの眼には、クロロフィルは緑色に見えます。緑色植物が緑色なのは、このクロロフィルをたくさんふくんだ葉緑体が存在しているからにほかなりません。

このため、クロロフィルを日本語で葉緑素(ようりょくそ)と呼ぶこともあります。

ちなみに、クロロフィルは一種類の物質ではありません。クロロフィルa、クロロフィルbなど、構造の少しずつ違うものが存在します。

クロロフィルの種類については、後ほどじっくりご紹介しましょう。

クロロフィルは光エネルギーを受け取る

クロロフィルがなぜ光合成に関係するのか。それは、クロロフィルという物質が光のエネルギーを吸収することができるからです。吸収されたエネルギーは、光合成の化学反応を進めるのに使われます。

いってしまえば、クロロフィルのような光合成色素が、太陽などの光に当たることで光合成という代謝反応が可能になるのです。

image by iStockphoto

高校の生物学では、クロロフィルが受け取った光エネルギーによってどのように光合成の反応が進んでいくのかを学びます。「光化学系」という過程ですね。

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葉緑体に存在するクロロフィル

前述の通り、クロロフィルは植物の葉緑体中にあります。

タンパク質などともに一つのかたまり(複合体)をつくり、葉緑体内のチラコイド膜に埋め込まれたような形で存在しているのが基本です。

クロロフィルの種類

それでは、クロロフィルにはどんな種類があるのか、よく知られているものを中心にご紹介していきたいと思います。

クロロフィルa

クロロフィルのなかでも最も一般的なものがクロロフィルaです。酸素を発生する光合成(酸素発生型の光合成)をおこなう生物は、基本的にこのクロロフィルaをもっています。

Chlorophyll a.svg
David Richfield - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

分子量は893.49、分子式はC55H72O5N4Mgです。

クロロフィルaが吸収する光は非常に幅が広いのが特徴。波長の短い紫色の光や濃い青色の光をよく吸収するだけでなく、オレンジから赤色の光も吸収されます。

反対に、吸収しにくいのは緑色の光です。

まさに、光合成をおこなう植物のもつ色素のうち、代表的な存在といってよいでしょう。

クロロフィルaでは吸収できない波長の光を吸収し、光合成に利用するため、それぞれの植物は補助的な役割を果たす色素(補助色素)をもっているのです。

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クロロフィルb

クロロフィルbは、クロロフィルaとはわずかに構造の異なる光合成色素です(分子量907、分子式C55H70O6N4Mg)。陸上植物全般は、クロロフィルaに加えてクロロフィルbを補助色素としてもちます。

また、緑藻類などにもクロロフィルbをもつものがいるんです。

Chlorophyll ab spectra-en.svg
By Chlorophyll_ab_spectra2.PNG: Daniele Pugliesi derivative work: M0tty - This file was derived from: Chlorophyll ab spectra2.PNG, CC BY-SA 3.0, Link

クロロフィルaとbの吸収できる光の波長を比較してみましょう。クロロフィルbがよく吸収するのは、紫色よりもやや波長の長い光。また、黄色からオレンジ色の光も吸収します。

クロロフィルaと比較すると、吸収しやすい光の波長が少しずれていますよね。

陸上植物は、置かれた環境によってクロロフィルaとクロロフィルbの割合を変化させ、できるだけ多くの光を光合成に利用できるよう、工夫しているのだそうです。

クロロフィルc

クロロフィルcは、褐藻(かっそう)のなかまや珪藻(けいそう)のなかまなど、一部の藻類にみられる特徴的なクロロフィルです。

褐藻というのは、文字通り「褐色が特徴的な藻類」です。身近なところですと、ワカメやコンブなどがふくまれます。

いわゆる”海藻”には、緑藻類、褐藻類、紅藻類がありますが、それぞれもっている光合成色素の種類が異なるのです。その結果、見た目も「緑っぽいもの」「褐色(茶色)っぽいもの」「赤っぽいもの」になります。褐藻と紅藻はどちらか判断しにくいものもありますが、光合成色素を分析すれば、一発でどちらのなかまかわかるんですよ。

Chlorophyll c1.svg
David Richfield - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

さて、クロロフィルcに話を戻しましょう。

クロロフィルaとクロロフィルbはその構造がよく似ていますが、それらと比較すると、クロロフィルcは分子の形がかなり違います。

細かい話をすると、わずかな違いでクロロフィルc1クロロフィルc2などに分けられるのですが…興味のある方は調べてみてください。

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クロロフィルd

クロロフィルdも、一部の光合成生物にのみ確認されている光合成色素です。

クロロフィルdの持ち主は藍藻(シアノバクテリア)のなかま。1940年代、アメリカの研究者が紅藻を用いた実験を行った際に発見したのですが、わずかな量しか得られず、詳細不明の「幻の光合成色素」とされていました。

2000年ごろ、日本の研究者がその正体を突き止めます。クロロフィルdは紅藻でなく、紅藻の上に付着していた藍藻がもっている色素だったことが判明したのです。

その後研究が進み、私たちの眼では「色」として確認できない赤外線(赤外光)を吸収することもわかりました。

クロロフィルf

最後にご紹介するのはクロロフィルf。こちらは、2022年3月現在の時点では最も歴史が浅く、2000年に入ってから発見された光合成色素です。光合成色素や光合成の研究は世界中で長く続けられていましたが、「まだ新しい光合成色素が見つかるのか!」と多くの人がこの発見に驚きました。

クロロフィルfはほかのどのクロロフィルよりも長い波長の光…赤外線を吸収することができます。

image by Study-Z編集部

光合成色素を研究する重要性

クロロフィルの種類をご紹介しましたが、光合成色素の研究をすることにはどんな必要性があるんでしょうか?

本文中にも言及したように、光合成生物のもつ色素は分類群ごとによって違いがあります。「このグループは××をもっているが、〇〇は持っていない」のように。これは、進化の歴史の中でその分類群が分かれていった際の名残と考えられます。つまり、生物の進化や分類を考えるうえで、光合成色素は大きな手掛かりなるのです。

光合成が人類を救うかも?

光合成のしくみや光合成色素の研究は、テクノロジーの観点からも重要です。地球温暖化を食い止めるのに、盛んに光合成をする生物が役立つかもしれません。また、食糧危機においても、効率よく光合成をおこなう植物や藻類に期待がかかります。

クロロフィルをはじめとする光合成色素の研究が、人類を救う研究へとつながっていくかもしれませんね。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

光合成の要!クロロフィルとはどんな物質?どんな種類がある?現役講師がザックリわかりやすく解説!

今回は「クロロフィル」をテーマに学習していこう。

クロロフィルは光合成色素の一種です。高校の生物学で名前くらいは聞いたことがあっても、その構造や種類までは深堀しないことが多いでしょう。植物を特徴づける反応の一つである”光合成”。それに必要な物質であるクロロフィルについて、この機会に学んでいこうじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

クロロフィルは光合成色素のひとつ!

クロロフィル(Chlorophyll)は、光合成をおこなう生物がもっている化学物質です。

私たちの眼には、クロロフィルは緑色に見えます。緑色植物が緑色なのは、このクロロフィルをたくさんふくんだ葉緑体が存在しているからにほかなりません。

このため、クロロフィルを日本語で葉緑素(ようりょくそ)と呼ぶこともあります。

ちなみに、クロロフィルは一種類の物質ではありません。クロロフィルa、クロロフィルbなど、構造の少しずつ違うものが存在します。

クロロフィルの種類については、後ほどじっくりご紹介しましょう。

クロロフィルは光エネルギーを受け取る

クロロフィルがなぜ光合成に関係するのか。それは、クロロフィルという物質が光のエネルギーを吸収することができるからです。吸収されたエネルギーは、光合成の化学反応を進めるのに使われます。

いってしまえば、クロロフィルのような光合成色素が、太陽などの光に当たることで光合成という代謝反応が可能になるのです。

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高校の生物学では、クロロフィルが受け取った光エネルギーによってどのように光合成の反応が進んでいくのかを学びます。「光化学系」という過程ですね。

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