今回は「擬死」をテーマに学んでいきます。

多くの動物にとって捕食者に食べられて死ぬことは避けたいことでしょう。そのため、生物たちは生き残るために様々な方法を進化させてきた。この記事では、その中でも不思議な行動を示す擬死について特徴や具体例を見ながら学習していこう。

高校・大学にて生物を専攻していた農学部卒ライター園(その)と一緒に解説していきます。

ライター/園(その)

数学は苦手だけれど、生物と化学が得意な国立大学農学部卒業の元リケジョ。動物の中でも特に犬が好きで、趣味は愛犬をモフること。分かりやすく面白い情報を発信していく。

戦うか逃げるか止まるか

戦うか逃げるか止まるか

image by Study-Z編集部

捕食者(食べる側)と出会ったなど極度のストレスがかかったとき、被食者(食べられる側)がとる行動の選択肢として次の3つについて考えていきます。


  1. 闘争

  2. 逃走

  3. 擬死

闘争

闘争とは、捕食者に向かって被食者が立ち向かうこと。サバンナなどの野生下では、被食者のシマウマが、捕食者のチーターに対して蹄を踏み鳴らして追いかけることで威嚇する姿も見られます。また、自分の子供が狙われた被食者のヌーが、捕食者であるライオンに対して立派な角を振りかざして子供を守るために立ち向かっていくこともあるようです。

闘争では、捕食者が去ってくれれば被食者にとって成功になります。しかし、立ち向かうことで食べられる、もしくは大けがを負う可能性もある危険な選択肢なのです。

逃走

逃走とは、捕食者に捕まる前に逃げること。ただ逃げるといっても様々な方法があります。例えば、ノウサギは速く走って逃げる戦略をとり、アナウサギは地下に掘った穴に逃げ込という戦略をとるのです。ノウサギは走って逃げきれるように、長い足と長時間逃げ続ける持久力を身につけました。一方アナウサギは、危険を察知したらすぐに逃げ込めるように巣穴から離れずに暮らすようにしています。

逃走では、捕食者から物理的に離れられるので、精神的にも被食者が一番選択しやすい選択肢であると考えられるでしょう。

\次のページで「擬死とは」を解説!/

擬死とは

image by iStockphoto

擬死とは、動物が強い刺激を受けて死んだように動かなくなることです。私たちは擬死のことを死んだふりや死にまねとも言います。これは動物が「敵に襲われたから死んだふりをしよう」と考えて行っているのではなく、反射的に起こる行動です。

擬死をする理由

あなたは熱いやかんに触ってしまったとき、素早く手を引っ込めますよね?これは、私たちの体に備わっている脊髄反射という仕組みから起こる行動です。もし、熱いやかんをそのまま触り続けていたら、あなたの手はやけどしてしまっていたでしょう。つまり、反射のおかげで手をやけどせずに済んだと言えますよね?このように反射による行動は、動物に対してメリットがあると考えられます。では、反射的に起こる行動である擬死をする動物にとってどのようなメリットがあるのか見ていきましょう。

身を守るため

一般的に擬死は対捕食者戦略と呼ばれ、その戦略をとる動物たちの多くは、捕食者から自身の身を守るために死んだふりをするのです。そんな擬死は、捕食者に捕まる前と捕まった後では行動の理由が違ってきます。

・捕まる前…動かずじっとしていることで、動くものに反応する捕食者の興味を失わせるため。

・捕まった後…動かずじっとしていることで、捕食者が捕まえている力を緩めたスキをついて逃げるため(静止することで無駄なエネルギーを消費せず、かつケガをしないようにして逃げることに備える)。

交尾のため

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CC 表示-継承 3.0, リンク

日本でも見られるキシダグモの仲間の雄は、雌への求愛の際、糸で巻いてかたまり状にした獲物を雌にプレゼントします。そして、雌が交尾をせずに獲物だけを持っていこうとしたとき、雄はそれに捕まり死んだふりをするのです。そうして、雄は雌と交尾をする機会を待ちます

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獲物を捕まえるため

image by iStockphoto

アフリカのマラウイ湖水域に住むシクリッド(カワスズメ)は、死んだふりをして獲物を待ちます。そして、近づいてきた魚を捕食するのです。シクリッドは、捕食者が擬死をする珍しい例ですね。

擬死の特徴

擬死の特徴としては以下のものが挙げられます。

・呼吸数の低下…オポッサムは擬死の際に心臓を止めるとも。

・様々な刺激に対する反応の抑制…通常の場合より光や音、感覚などの刺激に対しての反応が低下。

・筋肉硬直…通常静止している状態の筋肉と比べてより筋肉が硬直。そのため不自然な状態でも同じ態勢を長時間維持できる(カタレプシー)。

・覚醒は突然…刺激がなくても突然に起こる。また、睡眠時からの覚醒とは違って、擬死からの覚醒は目が覚めると直ちに起きていた時の活動レベルにまで戻る。

・擬死を誘発する刺激や擬死を維持する時間は動物によって様々…水生昆虫のタイコウチは水から出して手のひらに乗せると死んだふりをし、その時間は3~4時間にも及ぶ。哺乳類のタヌキは大きな音などでびっくりすると死んだふりをし、その時間は数十分から数時間。

擬死をする代表的な動物

無脊椎動物では、多くの昆虫が死んだふりをします。脊椎動物でも哺乳類のアナグマ・リス・モルモットや鳥類のハト、爬虫類のカエル・ヘビなど様々な動物で見られるので驚きですよね?

コオロギ

昆虫のフタホシコオロギは、胸の部分を前脚と一緒に親指と人差し指で左右からつまんで持ち上げられると擬死をします。フタホシコオロギは小石などの狭い隠れ場所があるところに生息しており、捕食者から狙われて狭いところに隠れる途中で胸や前脚が圧迫されて死んだふりを引き起こすそうです。このことから、フタホシコオロギの擬死は生存戦略として有効だと言えます。

\次のページで「ニワトリ」を解説!/

ニワトリ

鳥類のニワトリは、後ろから体全体を包むように拘束され、頭を低くした状態でくちばしの前から前方に向かって1本の線が引かれると擬死をします。これは、書かれた線がヘビに見えているからという説もありますが、詳しくは分かっていません。

オポッサム

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哺乳類のキタオポッサムは、捕食者に襲われると擬死をします。横になり口を少し開け、唾液からは強烈な腐敗臭がするとのこと。一般的に「動物の死がいは病原菌に感染していることが多く食べるのは危険だ」と多くの野生動物が死がいを食べるのを避けます。よって、キタオポッサムの擬死は生存戦略として有効です。

擬死の研究

擬死の研究だけでなく、動物の行動を野生で観察するのは非常に難しいことです。また、多くの擬死は捕食者から自身の身を守るためのものなので、擬死の研究のためには実験室においてわざと捕食者に被食者を狙わせる必要があります。しかし、そのような実験は非人道的だという問題があるでしょう。そのため、なかなか擬死についての研究が進まず、分かっていないことが多いようです。

ですが、この記事で擬死について学習したあなたは、死んだふりをしている動物が反射的(無意識的)に擬死を示していることが分かったかと思います。もし路上で死んだふりをしている動物を見かけたら、自転車や車などでひかれてしまわないようにそっと安全な場所に移動してあげてください。

イラスト使用元:いらすとや

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体の仕組み・器官理科環境と生物の反応生物

死んだふりでピンチを切り抜ける!擬死とは?擬死の特徴や具体例を農学部卒ライターが徹底わかりやすく解説!

今回は「擬死」をテーマに学んでいきます。

多くの動物にとって捕食者に食べられて死ぬことは避けたいことでしょう。そのため、生物たちは生き残るために様々な方法を進化させてきた。この記事では、その中でも不思議な行動を示す擬死について特徴や具体例を見ながら学習していこう。

高校・大学にて生物を専攻していた農学部卒ライター園(その)と一緒に解説していきます。

ライター/園(その)

数学は苦手だけれど、生物と化学が得意な国立大学農学部卒業の元リケジョ。動物の中でも特に犬が好きで、趣味は愛犬をモフること。分かりやすく面白い情報を発信していく。

戦うか逃げるか止まるか

戦うか逃げるか止まるか

image by Study-Z編集部

捕食者(食べる側)と出会ったなど極度のストレスがかかったとき、被食者(食べられる側)がとる行動の選択肢として次の3つについて考えていきます。


  1. 闘争

  2. 逃走

  3. 擬死

闘争

闘争とは、捕食者に向かって被食者が立ち向かうこと。サバンナなどの野生下では、被食者のシマウマが、捕食者のチーターに対して蹄を踏み鳴らして追いかけることで威嚇する姿も見られます。また、自分の子供が狙われた被食者のヌーが、捕食者であるライオンに対して立派な角を振りかざして子供を守るために立ち向かっていくこともあるようです。

闘争では、捕食者が去ってくれれば被食者にとって成功になります。しかし、立ち向かうことで食べられる、もしくは大けがを負う可能性もある危険な選択肢なのです。

逃走

逃走とは、捕食者に捕まる前に逃げること。ただ逃げるといっても様々な方法があります。例えば、ノウサギは速く走って逃げる戦略をとり、アナウサギは地下に掘った穴に逃げ込という戦略をとるのです。ノウサギは走って逃げきれるように、長い足と長時間逃げ続ける持久力を身につけました。一方アナウサギは、危険を察知したらすぐに逃げ込めるように巣穴から離れずに暮らすようにしています。

逃走では、捕食者から物理的に離れられるので、精神的にも被食者が一番選択しやすい選択肢であると考えられるでしょう。

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