
お酢の酸味は「酢酸」が原因です。当たり前ですね。ですが、「氷酢酸」や「無水酢酸」という名前を聞いたことはないでしょうか。
すべて酢酸という名前が入っているが、それぞれにどんな違いがあるのか、知っているか?
今回は酢酸、氷酢酸、無水酢酸をキーワードにして、それぞれの特徴と違いを化学に詳しいライターリックと一緒に解説していきます。
ライター/リック
高校生で化学にハマり、大学院までずっと化学を勉強してきた化学オタク。今は化学メーカーで働きながら化学の楽しさを発信する。
酢酸分子の特徴を紹介
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まずは、酢酸分子がどんな分子なのか、基本的なことを紹介していきます。酢酸分子はカルボキシル基を分子内に持つカルボン酸の一つです。簡単な構造の分子で、メチル基にカルボキシル基が結合した化合物。分子量は60、融点が16.7℃の常温で無色透明の液体です。
強い酸味と刺激臭が特徴の弱酸で、工業用途、実験・研究用途など幅広い分野で使われています。化学の教科書では、強酸といえば「塩酸」や「硝酸」「硫酸」、弱酸といえば「酢酸」というほどよく登場する化合物なんです。
お酢の酸味は酢酸が原因

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料理には欠かせない調味料「お酢」。どこの家庭にも置いてあると思いますが、お酢の酸味の正体は酢酸です。ただ、お酢ってそこまで強い刺激臭はしないですよね。一般的な「お酢」の酢酸濃度は4%ほど。実は、ほとんどは水なんですよ。
逆に言うと、酢酸は4%しか入っていないのに、あれだけの臭いがするんですから、純度が高くなっていくとより強烈な臭いになっていくんです。純度が高い酢酸は本当に鼻を刺すような臭いがします…
酢酸の用途はお酢だけじゃない

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化学の教科書によく登場する酢酸ですが、工業的にも重要な化合物なんです。すぐ思い当たる用途は調味料のお酢ですが、実はお酢として利用される酢酸はそれほど多くないんですよ。
工業的な酢酸の主な用途は「酢酸ビニルの原料」「酢酸エチルの原料」です。酢酸ビニルを重合させてできるポリ酢酸ビニルは、塗料や接着剤、化粧品などに使われています。
一方、酢酸エチルは様々な原料を溶かす溶剤として化学工業分野で非常に重宝される有機溶媒です。私たちの生活の中では、インクや塗料の溶剤として使われたり、マニキュアなどの除光液としても使われています。
酢酸、氷酢酸の違いとは
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さて、ここからは「酢酸」と「氷酢酸(ひょうさくさん)」の違いを紹介していきますね。まず、酢酸は基本的に酢酸水溶液を指し、氷酢酸は純度の高い酢酸を指します。百科事典などで調べてみると、JIS(ジス)規格や日本薬局方とも99%以上の酢酸を氷酢酸と定めているんです。つまり…酢酸と氷酢酸は分子は同じで、「純度が高い→氷酢酸」「純度が低い→酢酸」なんですね。
どうして、純度の高い酢酸を氷酢酸というんでしょうか。
酢酸の性質を思い出してほしいんですが…酢酸の融点は16.7℃でしたよね。つまり、氷酢酸は温度が冷えると固化するんです。冬期に酢酸の入った試薬瓶を見ると中身が結晶化しています。そのため、純度の高い酢酸を氷酢酸と呼ぶんです。ちなみに、試薬として販売されている氷酢酸は濃度99.9%以上なんですよ。
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