お酢の酸味は「酢酸」が原因です。当たり前ですね。ですが、「氷酢酸」や「無水酢酸」という名前を聞いたことはないでしょうか。
すべて酢酸という名前が入っているが、それぞれにどんな違いがあるのか、知っているか?

今回は酢酸、氷酢酸、無水酢酸をキーワードにして、それぞれの特徴と違いを化学に詳しいライターリックと一緒に解説していきます。

ライター/リック

高校生で化学にハマり、大学院までずっと化学を勉強してきた化学オタク。今は化学メーカーで働きながら化学の楽しさを発信する。

酢酸分子の特徴を紹介

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Holger87 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

まずは、酢酸分子がどんな分子なのか、基本的なことを紹介していきます。酢酸分子はカルボキシル基を分子内に持つカルボン酸の一つです。簡単な構造の分子で、メチル基にカルボキシル基が結合した化合物。分子量は60、融点が16.7℃の常温で無色透明の液体です。

強い酸味刺激臭が特徴の弱酸で、工業用途、実験・研究用途など幅広い分野で使われています。化学の教科書では、強酸といえば「塩酸」や「硝酸」「硫酸」、弱酸といえば「酢酸」というほどよく登場する化合物なんです。

お酢の酸味は酢酸が原因

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料理には欠かせない調味料「お酢」。どこの家庭にも置いてあると思いますが、お酢の酸味の正体は酢酸です。ただ、お酢ってそこまで強い刺激臭はしないですよね。一般的な「お酢」の酢酸濃度は4%ほど。実は、ほとんどは水なんですよ。

逆に言うと、酢酸は4%しか入っていないのに、あれだけの臭いがするんですから、純度が高くなっていくとより強烈な臭いになっていくんです。純度が高い酢酸は本当に鼻を刺すような臭いがします…

酢酸の用途はお酢だけじゃない

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化学の教科書によく登場する酢酸ですが、工業的にも重要な化合物なんです。すぐ思い当たる用途は調味料のお酢ですが、実はお酢として利用される酢酸はそれほど多くないんですよ。

工業的な酢酸の主な用途は「酢酸ビニルの原料」「酢酸エチルの原料」です。酢酸ビニルを重合させてできるポリ酢酸ビニルは、塗料や接着剤、化粧品などに使われています。

一方、酢酸エチルは様々な原料を溶かす溶剤として化学工業分野で非常に重宝される有機溶媒です。私たちの生活の中では、インクや塗料の溶剤として使われたり、マニキュアなどの除光液としても使われています。

酢酸、氷酢酸の違いとは

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さて、ここからは「酢酸」と「氷酢酸(ひょうさくさん)」の違いを紹介していきますね。まず、酢酸は基本的に酢酸水溶液を指し、氷酢酸は純度の高い酢酸を指します。百科事典などで調べてみると、JIS(ジス)規格や日本薬局方とも99%以上の酢酸を氷酢酸と定めているんです。つまり…酢酸と氷酢酸は分子は同じで、「純度が高い→氷酢酸」「純度が低い→酢酸」なんですね。

どうして、純度の高い酢酸を氷酢酸というんでしょうか。

酢酸の性質を思い出してほしいんですが…酢酸の融点は16.7℃でしたよね。つまり、氷酢酸は温度が冷えると固化するんです。冬期に酢酸の入った試薬瓶を見ると中身が結晶化しています。そのため、純度の高い酢酸を氷酢酸と呼ぶんです。ちなみに、試薬として販売されている氷酢酸は濃度99.9%以上なんですよ。

\次のページで「無水酢酸と酢酸は全く違う分子だった?」を解説!/

無水酢酸と酢酸は全く違う分子だった?

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酢酸、氷酢酸の違いは先ほど紹介しましたが、もう一つ、よく似た名前の化合物を聞いたことありませんか。「無水酢酸」です。ここからは酢酸と無水酢酸の違いを紹介していきます。

無水酢酸とは、酢酸2分子から水分子を脱水した分子です。名前は似ているんですが、そもそも違う分子なんですよ。水には溶けにくいですが、水と徐々に反応して、酢酸になります。皮膚に付着すると、水疱や炎症を起こすほど反応性が高く、取り扱いには注意が必要な化合物です。高い反応性を利用して、医薬品や香料、染料など様々な製品の原料として使われています。

溶ける・溶けないは極性で決まる

溶ける・溶けないは極性で決まる

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ここからは、少し見かたを変えて、酢酸の溶ける溶媒を紹介していきます。酢酸は分子内にカルボキシル基を持っているので、「極性」が大きく水などの極性のある溶媒によく溶けるのが特徴です。

極性とは何なのか?について、ここでは詳しい説明は省略します。簡単にいうと、極性は「分子内に電子の偏りがあるかどうか」です。原子にはそれぞれ電気陰性度があり、電気陰性度が違うと電子を引っ張る力が異なるので、分子全体に電子に偏りがうまれます。

極性は溶媒に溶けるか溶けないかを決める、ひとつの基準なんです。極性のある分子は同じように極性のある溶媒によく溶け、一方で、極性のない分子は同じように極性のない溶媒によく溶けます。

酢酸はいろんな溶媒に溶ける?

酢酸は、分子内にメチル基とカルボキシル基があり、大きく分極しているので、分子全体で極性を持ちます。そのため、水やエタノールなどの極性を持つ分子によく溶けるのが特徴です。これはあたり前ですよね。

ただ、酢酸はベンゼンやトルエンにも溶けるんです。ベンゼンやトルエンは、有機溶媒の1種で代表的な無極性溶媒。つまり極性を持たない分子なんです。極性を持たない有機溶媒にも酢酸は溶けます。

酢酸が無極性溶媒に溶ける理由とは

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- 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

酢酸が無極性溶媒に溶けるのは、溶媒中で二量体を作るから

二量体は図を見てもらうと分かりやすいと思います。二量体をつくることで、メチル基の影響が大きくなり(分子内の極性が弱くなり、無極性の性質が強くなる)、無極性溶媒にも溶けることができるんです。

 

身体の中でも酢酸は作られている!?

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実は、酢酸は体内でも生産されているんです。それが、アルコールの代謝時

飲酒後、胃と腸で吸収されたアルコールは、血管を通り肝臓に集められ、アルコール分解酵素によって分解されます。アルコールは「エタノール」のことで、エタノールは酵素によってエタノール→アセトアルデヒド→酢酸へ分解されていくんです。

エタノールは最終的に酢酸へ分解され、肝臓から全身へ運ばれます。そして筋肉や脂肪組織で、二酸化炭素と水に分解され、体外へ排出されるんです。

\次のページで「酢酸と氷酢酸の違いは濃度!酢酸と無水酢酸は分子構造が違う物質だった」を解説!/

アルコールの分解時にできるアセトアルデヒドは毒性のある物質で、頭痛や吐き気を引き起こします。「二日酔い」はアルコールの分解が追い付かず、アセトアルデヒドが体内から除去できていないことが原因なんです。

酢酸と氷酢酸の違いは濃度!酢酸と無水酢酸は分子構造が違う物質だった

今回は酢酸、氷酢酸、無水酢酸の違いを紹介しました。

純度の高い酢酸は低温で固体になるため、氷酢酸と呼ばれており、一般的に酢酸は酢酸水溶液のことを言います。そして無水酢酸は酢酸とは分子構造から違う物質なんです。

さらに、酢酸分子が溶ける溶媒を紹介し、溶媒に溶ける・溶けないを決めている「極性」も少し紹介しました。極性は化学を勉強するうえで非常に大切な考え方なので、ぜひチェックしてみてください!

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化学理科

酢酸、氷酢酸、無水酢酸とは?3つの違いとそれぞれの特徴を理系ライターがわかりやすく解説



お酢の酸味は「酢酸」が原因です。当たり前ですね。ですが、「氷酢酸」や「無水酢酸」という名前を聞いたことはないでしょうか。
すべて酢酸という名前が入っているが、それぞれにどんな違いがあるのか、知っているか?

今回は酢酸、氷酢酸、無水酢酸をキーワードにして、それぞれの特徴と違いを化学に詳しいライターリックと一緒に解説していきます。

ライター/リック

高校生で化学にハマり、大学院までずっと化学を勉強してきた化学オタク。今は化学メーカーで働きながら化学の楽しさを発信する。

酢酸分子の特徴を紹介

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Holger87投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

まずは、酢酸分子がどんな分子なのか、基本的なことを紹介していきます。酢酸分子はカルボキシル基を分子内に持つカルボン酸の一つです。簡単な構造の分子で、メチル基にカルボキシル基が結合した化合物。分子量は60、融点が16.7℃の常温で無色透明の液体です。

強い酸味刺激臭が特徴の弱酸で、工業用途、実験・研究用途など幅広い分野で使われています。化学の教科書では、強酸といえば「塩酸」や「硝酸」「硫酸」、弱酸といえば「酢酸」というほどよく登場する化合物なんです。

お酢の酸味は酢酸が原因

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料理には欠かせない調味料「お酢」。どこの家庭にも置いてあると思いますが、お酢の酸味の正体は酢酸です。ただ、お酢ってそこまで強い刺激臭はしないですよね。一般的な「お酢」の酢酸濃度は4%ほど。実は、ほとんどは水なんですよ。

逆に言うと、酢酸は4%しか入っていないのに、あれだけの臭いがするんですから、純度が高くなっていくとより強烈な臭いになっていくんです。純度が高い酢酸は本当に鼻を刺すような臭いがします…

酢酸の用途はお酢だけじゃない

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化学の教科書によく登場する酢酸ですが、工業的にも重要な化合物なんです。すぐ思い当たる用途は調味料のお酢ですが、実はお酢として利用される酢酸はそれほど多くないんですよ。

工業的な酢酸の主な用途は「酢酸ビニルの原料」「酢酸エチルの原料」です。酢酸ビニルを重合させてできるポリ酢酸ビニルは、塗料や接着剤、化粧品などに使われています。

一方、酢酸エチルは様々な原料を溶かす溶剤として化学工業分野で非常に重宝される有機溶媒です。私たちの生活の中では、インクや塗料の溶剤として使われたり、マニキュアなどの除光液としても使われています。

酢酸、氷酢酸の違いとは

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さて、ここからは「酢酸」と「氷酢酸(ひょうさくさん)」の違いを紹介していきますね。まず、酢酸は基本的に酢酸水溶液を指し、氷酢酸は純度の高い酢酸を指します。百科事典などで調べてみると、JIS(ジス)規格や日本薬局方とも99%以上の酢酸を氷酢酸と定めているんです。つまり…酢酸と氷酢酸は分子は同じで、「純度が高い→氷酢酸」「純度が低い→酢酸」なんですね。

どうして、純度の高い酢酸を氷酢酸というんでしょうか。

酢酸の性質を思い出してほしいんですが…酢酸の融点は16.7℃でしたよね。つまり、氷酢酸は温度が冷えると固化するんです。冬期に酢酸の入った試薬瓶を見ると中身が結晶化しています。そのため、純度の高い酢酸を氷酢酸と呼ぶんです。ちなみに、試薬として販売されている氷酢酸は濃度99.9%以上なんですよ。

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