日本人の主食といえば「米」。炊きたてホカホカの白いご飯があれば、もう何もいらないという人さえいるな。ですが炊いてから時間が経つとご飯はまずくなってしまう。ご飯をいつまでも美味しく保存する方法はあるのでしょうか?カギは「デンプンのベータ化」が握っているぞ。
料理が得意なサイエンスライターチロと一緒に解説していきます。
チロ

ライター/チロ

放射能調査員や電気工事士など様々な「科学」に関係する職を経験したのち、教員の道へ。理科教員10年を契機に米国へ留学、卒業後は現地の高校でも科学教師として勤務した。帰国後は「フシギ」を愛するフリーランスティーチャー/サイエンスライターとして活躍中。

ご飯がなんだかまずい!その原因とは?

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和食をはじめとするアジア圏の料理の基本は「コメ」。炊きたてのご飯には、どんなおかずも合いますね。しかしご飯は炊いてから時間が経つと美味しくなくなってしまいます。長時間保温すると、色やにおいが変化し風味が落ちてしまうのです。

では炊いたご飯を冷蔵庫で保管するとどうなるでしょう? この場合、色やにおいは変化しないのですが長い時間が経つと食感が大きく変わり、パサパサ・モソモソになってしまいます。この現象はデンプンの構造変化「ベータ化」によるものです。冷蔵庫で数日保管していたおにぎりを食べたら、パサパサで食べられたものじゃなかったという経験がある人も多いのではないのでしょうか?

デンプンのベータ化って一体何?

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ではその「ベータ化」とは一体どのような現象なのでしょうか?

そもそもデンプンってどんな物質?

そもそもデンプンってどんな物質?

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まずは「デンプン」という言葉の意味を辞書で確認してみましょう。

でんぷん【澱粉】

葉緑素を持つ植物で炭酸固定により生産され、栄養貯蔵物質として、種子・根茎・塊根・球根などに含まれる炭水化物。アミロースとアミロペクチンの集合体で、無味無臭の白色粉末。植物には澱粉粒として存在し、その構造は植物の種類によって異なる。動物の栄養源として重要。

ー 岩波書店広辞苑第六版

なにやら難しい単語がならんでいますが、要はでんぷんは「アミロース」と「アミロペクチン」という2種類の炭水化物が混ざったものです。どちらもブドウ糖がたくさん鎖状に繋がった物質なのですが、アミロースはその鎖がどこまでもまっすぐ繋がった構造、アミロペクチンはところどころで枝分かれした構造になっています。

アミロースとアミロペクチンの割合は米の種類によって違っており、もち米はアミロペクチン100%、いわゆる普通のご飯であるうるち米はアミロース20%+アミロペクチン80%です。

\次のページで「アルファ化が食感と味を変える」を解説!/

アルファ化が食感と味を変える

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生の状態の米の内部ではアミロースとアミロペクチンがキレイに並んで結晶を作っているので、硬くて食べれません。しかし水を加えて加熱すると水分子が結晶のすき間に入りこみ、柔らかくて美味しく食べられる状態の「ご飯」になるのです! この変化を「糊化」もしくは「アルファ化」と言います。

ベータ化は温度変化によって起こる

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しかし炊いたご飯を低温状態にしておくと、結晶のすき間に取り込んだ水分子が徐々に抜けていき生の米の状態に戻るのです。これを「老化」もしくは「ベータ化」と言います。炊いたお米が炊く前の生米の状態に戻ってしまうのだから、美味しくなくなるのは当たり前ですね。

また複雑に枝分かれした構造のアミロペクチンより、直線上のアミロースの方が水分子を失いベータ化しやすいのです。そのため、アミロペクチン100%のもち米は冷やしてもモチモチ感が持続するのに、アミロースを含む普通のお米(うるち米)は冷やすとパサパサになってしまうというわけ。もち米で作った赤飯は冷蔵庫に入れておいても硬くならないのに、普通の白いご飯は硬くなっちゃったという経験がある人もいるのではないでしょうか?

まずくなったご飯を再び美味しくするには

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ベータ化してまずくなってしまったご飯を、再びアルファ化させ美味しくすることはできるのでしょうか?実はデンプンの構造は温度によって何度でも変わります。そのためベータ化してしまったご飯は、もう一度加熱すればアルファ化して美味しくなるのです! 電子レンジでチンするか、フライパンなどでチャーハンにすると美味しくいただけますよ。

問題はおにぎりやお弁当などを冷たいまま食べる時。愛情を込めて作ってもらったお弁当のご飯がベータ化してしまったら悲しいですよね…。やはりポイントは加熱。おにぎりやお弁当も電子レンジでチンすれば、元どおりのふっくらご飯になります。

え? 職場や学校に電子レンジがない人はどうすればいいかって? では次のセクションで、温め直さなくてもご飯が美味しく食べるられる「ベータ化を防ぐ方法」を解説します!

ベータ化を防ぐ方法

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炊きたてのご飯のベータ化を防ぎ、いつまでも美味しさを保つにはどうしたらいいのでしょう? 

1. 乾燥させる

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数千年の昔から我々の先祖が行ってきた方法は、炊いたご飯を天日干しして乾燥させること。こうすることでアルファ化した状態のご飯が長期間保存可能な「乾飯(ほしいい)」になります。デンプンをアルファ化させるための加熱は必要ないので、食べるときは熱湯を注いでふやかすだけ。現代では熱風を用いて工業的に作った「アルファ化米」として販売され、災害用の備蓄食料やキャンプ用の食材として利用されています。

\次のページで「2. 冷凍する」を解説!/

2. 冷凍する

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冷蔵庫で保存するとベータ化して美味しくなくなるご飯ですが、なんと冷凍庫に保存すると美味しさをそのままキープできます。実はベータ化が起きる温度は決まっており、0℃以下では起こらないのです! 炊きたてのご飯が余ったら、冷蔵庫で保存するのではなく、冷凍庫に入れましょう。ただ、当たり前ですが食べる時には解凍&加熱が必要です。

3. 砂糖を加える

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魚の鮮度を保つため、お寿司は冷えた状態で食べられます。でもシャリがベータ化していてパサパサだったことってほとんどありませんよね? その秘密は酢飯の材料にありました。シャリはただのご飯ではなく、炊きたてのご飯に酢と砂糖をなじませたもの。冷蔵庫や防腐剤のない時代に発明された料理なので、殺菌のために酢を使うのは分かるのですがなぜ砂糖を入れるのでしょうか? 実は砂糖にはベータ化を防ぐ効果があるのです! 砂糖は水によく溶ける上、分子構造がデンプンに似ています。そのため、デンプン分子と水分子の結びつけを強め、水分子が抜け出なくなるというわけ。つまりお弁当のご飯を酢飯にすれば、パサパサ問題が解決するのです。

4. 低アミロース米を使う

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「毎日毎日、酢飯ばっかり食べれないよ!」という人に朗報です! なんと「ベータ化しにくい米」があるのです。それはベータ化が起きやすいアミロースの含有量が10%程度と、もち米とうるち米の中間の性質をもつ低アミロース米。スノーパールやシルキーパールという銘柄が栽培・販売されています。冷えた状態で長時間保管され、そのまま食べられることも多いコンビニのおにぎりは低アミロース米を使っているのだとか。お弁当に使うご飯を低アミロース米にするだけで、冷めても美味しいご飯が食べれますよ!

5. もち米を混ぜたご飯を使う

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しかし低アミロース米は、通常の米よりも割高です。そこでよりコストパフォーマンスの良い方法もご紹介しましょう。 その方法とは、もち米を少し混ぜてご飯を炊くことです。前述の通り、もち米はベータ化しにくいアミロペクチン100%。もち米を混ぜることでアミロペクチンの量を増やし、ベータ化を防ぐことが出来ます。ただ問題は、もち米とうるち米の比率。もち米が少なすぎると効果は薄いし、多すぎると食感が変わってしまいます。自分にとって程よい分量を試行錯誤して見つけるしかないですね。

デンプンを操る者が料理を制する!

「ご飯」という単語が食事そのものを意味するくらい、和食にとって米は重要なもの。そのご飯をいつでも美味しく食べるためには、デンプンの性質についての知識が不可欠です。科学知識を活用して、料理をレベルアップさせましょう!

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化学理科

ご飯がまずくなる原因は「デンプンのベータ化」?防ぐ方法はあるの?元米国科学教師チロが分かりやすくわかりやすく解説!


日本人の主食といえば「米」。炊きたてホカホカの白いご飯があれば、もう何もいらないという人さえいるな。ですが炊いてから時間が経つとご飯はまずくなってしまう。ご飯をいつまでも美味しく保存する方法はあるのでしょうか?カギは「デンプンのベータ化」が握っているぞ。
料理が得意なサイエンスライターチロと一緒に解説していきます。
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ライター/チロ

放射能調査員や電気工事士など様々な「科学」に関係する職を経験したのち、教員の道へ。理科教員10年を契機に米国へ留学、卒業後は現地の高校でも科学教師として勤務した。帰国後は「フシギ」を愛するフリーランスティーチャー/サイエンスライターとして活躍中。

ご飯がなんだかまずい!その原因とは?

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和食をはじめとするアジア圏の料理の基本は「コメ」。炊きたてのご飯には、どんなおかずも合いますね。しかしご飯は炊いてから時間が経つと美味しくなくなってしまいます。長時間保温すると、色やにおいが変化し風味が落ちてしまうのです。

では炊いたご飯を冷蔵庫で保管するとどうなるでしょう? この場合、色やにおいは変化しないのですが長い時間が経つと食感が大きく変わり、パサパサ・モソモソになってしまいます。この現象はデンプンの構造変化「ベータ化」によるものです。冷蔵庫で数日保管していたおにぎりを食べたら、パサパサで食べられたものじゃなかったという経験がある人も多いのではないのでしょうか?

デンプンのベータ化って一体何?

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ではその「ベータ化」とは一体どのような現象なのでしょうか?

そもそもデンプンってどんな物質?

そもそもデンプンってどんな物質?

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まずは「デンプン」という言葉の意味を辞書で確認してみましょう。

でんぷん【澱粉】

葉緑素を持つ植物で炭酸固定により生産され、栄養貯蔵物質として、種子・根茎・塊根・球根などに含まれる炭水化物。アミロースとアミロペクチンの集合体で、無味無臭の白色粉末。植物には澱粉粒として存在し、その構造は植物の種類によって異なる。動物の栄養源として重要。

ー 岩波書店広辞苑第六版

なにやら難しい単語がならんでいますが、要はでんぷんは「アミロース」と「アミロペクチン」という2種類の炭水化物が混ざったものです。どちらもブドウ糖がたくさん鎖状に繋がった物質なのですが、アミロースはその鎖がどこまでもまっすぐ繋がった構造、アミロペクチンはところどころで枝分かれした構造になっています。

アミロースとアミロペクチンの割合は米の種類によって違っており、もち米はアミロペクチン100%、いわゆる普通のご飯であるうるち米はアミロース20%+アミロペクチン80%です。

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