今回は「水媒花」をキーワードとして学習していこう。

世界にはさまざまな花がありますが、そのなかでも水媒花とは、水に乗せて花粉を運ぶ”送粉”の方法を発達させたものです。具体的にはどんなところに生育する、どのような種がこれに当てはまるのでしょうか?

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

水媒花とはどんなもの?

水媒花(すいばいか)とは、花粉を水に乗せて運び、受粉させる方法をとっている花のことをさします。

地球上には多種多様な花がありますが、花粉を運ぶ=送粉の手法によって花を分類することができるんです。このページの最後にご紹介したいと思いますが、送粉方法に注目した花の呼び方として、ほかにも「風媒花」や「虫媒花」などがあります。

重要ですよ!

なんといっても、花はおしべやめしべのある生殖器官ですからね。送粉が成功し、受粉しないと次世代の種子ができません。

植物によって異なる送粉方法というのは、「生き残るために進化させてきた、それぞれの戦略」と考えてもいいでしょう。

水媒花をつけるのは”水生植物”の一部のもの

どのような植物が水媒花をつけるのかといいますと、基本的には水生植物(すいせいしょくぶつ)の一部のものです。

そうですね。水の中に生えているからこそ、水に乗せて花粉を運ぶのです。

ただし、水生植物と一口に言っても、完全に水中に身を沈めているものもあれば、水面に浮かんでいるものもいます。生育のスタイルによっていくつかのグループに分けられるので、代表的なものをご紹介しておきましょう。

いろいろな水生植物

\次のページで「沈水植物=完全に沈んでいる」を解説!/

沈水植物=完全に沈んでいる

葉や茎が全て水中に沈んでいるようなタイプの水生植物は沈水植物(ちんすいしょくぶつ)といいます。根は水底に張られ、多くが体を水中に立てるように育ちますね。セキショウモ、イバラモなどが該当します。

水媒花をつける種の多くは、この沈水植物です。

image by iStockphoto

熱帯魚などの水槽が自宅にある方は、このタイプの水生植物を「水草」として導入しているかもしれません。

ただし、花の位置については注意が必要。水中で花を咲かせるものもいますが、花だけは水面から出た位置につけるものも少なくないのです。

浮葉植物=葉は水面、根は水底

根は水底にありながら、葉は水面に浮いているような植物が浮葉植物(ふようしょくぶつ)です。水面に可憐な花を咲かせるヒツジグサや、ヒシ、オニバスなどの植物が当てはまりますね。

もちろん、水底の根から水面の葉まではつながっています。水深に合わせて伸長できる葉柄をもっているのです。

また、水面に浮かんだ葉だけでなく、水中に沈んでいる葉ももっているものもあります。

浮遊植物=完全に浮いている

葉を浮かせた状態で生活しているのが浮遊植物(ふゆうしょくぶつ)です。ぱっとみは浮葉植物とよく似ているようですが、根は水底にあるのではなく、根も葉も含めて丸ごと浮かんでいます。

image by Study-Z編集部

ウキクサやホテイアオイのように、水面上を浮遊するものや、水面近くにうかんでいるものがいます。

抽水植物=根元だけ水中

植物の”足元”…根元だけが水につかっているようなタイプのものは抽水植物(ちゅうすいしょくぶつ)とよばれます。アシやガマなどがこれにあたりますね。

おっしゃる通りです。そして今回の本題なのですが…水媒花は水にのせて花粉を運ぶものでしたよね。水生植物の花が付く位置によって、水面で受粉するものと、水中で受粉するものが存在するのです。

\次のページで「水中で受粉する水媒花」を解説!/

水中で受粉する水媒花

沈水植物のなかでも、花を水中で咲かせる種では、当然のことながら花粉も水中を漂うことになります。

アクアリウムなどによくつかわれるマツモや、ため池などに生育するイバラモなどが例として挙げられることが多いですね。

マツモ

マツモはマツモ目マツモ科の、緑色のきれいな水草です。仮根ができて水底にからだを固定することもありますが、一般的には水中を浮遊しています。浮遊植物金魚の水槽に使われることが多いことから、キンギョモという名前でも呼ばれますね。

image by iStockphoto

マツモの花には雄花と雌花があり、茎の節の部分につきます。

イバラモ

イバラモはオモダカ目トチカガミ科の植物です。

このイバラモは、花粉をつける雄花が水面近くに咲くのに対し、雌花は水底近くに咲きます。そのため、雄花から放たれた花粉は、水中を沈んでいくことで雌花にたどり着き、受精することになるのです。

水面で受粉する水媒花

水面を花粉が漂い、受粉にいたる水媒花もあります。代表的なのが、セキショウモカナダモです。

セキショウモ

Vallisneria asiatica.JPG
Show_ryu - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

セキショウモはイバラモと同じくトチカガミ科の植物です。細長い葉が特徴的で、日本でも池や水路で見ることができます。

夏から秋が開花のシーズン。花は水面に浮かぶように咲きます。そのため、花粉は水面を漂い、他の花に届くのです。

そうですね。ただし、水面に花を咲かせる種の中には、風や昆虫を利用して送粉するものもいるので、単純化するのは禁物です。

\次のページで「カナダモ」を解説!/

カナダモ

カナダモもトチカガミ科に属する植物です。学校の実験などでは、オオカナダモ属のオオカナダモが使われることが多いですね。

image by iStockphoto

カナダモの花も水面に咲き、花粉が水に流されて運ばれます。白い花弁でとてもきれいな花なんですよ。

その他の送粉方法と花

では最後に、送粉方法によって花を分類する考え方では、水媒花以外にはどんなものがあるのか、かんたんにご紹介しましょう。

水媒花同様に、無生物によって花粉を移動させるものに風媒花(ふうばいか)があります。風にのせて花粉を運ぶのです。

一方で、動物によって花粉を運んでもらうものもいます。

昆虫に運ばせる花は虫媒花(ちゅうばいか)。蜜などで昆虫をおびき寄せ、そのからだに花粉を付着させることで別の花への送粉に利用します。

また、哺乳類や鳥などに送粉してもらえるよう進化した花もあるんです。そのような場合は、動物媒花、鳥媒花などという用語が使われることがあります。

送粉方法と花の形

水や風、昆虫に鳥…花粉を別の花に届けるため、花はいろいろなものを利用しています。そして、その送粉方法は植物の形にも影響を及ぼしているのです。

風媒花であれば、花粉が風にのりやすいよう、地表面から比較的高い位置に花をつけます。虫媒花では目的の昆虫を引き寄せやすいような色や形の花弁を発達させました。今回のテーマである水媒花も、花粉が水に流されやすいような形状をとり、流れてきた花粉がくっつきやすいような柱頭をもっています。

送粉のしくみをよく知っている人は、花の形を見ただけで「どうやって花粉が運ばれているのか」を想像できるんですよ!

イラスト使用元:イラストや

" /> 水を使って花粉を運ぶ「水媒花」!どんな植物が当てはまる?具体例も合わせて現役講師がわかりやすく解説します! – Study-Z
理科生物生物の分類・進化

水を使って花粉を運ぶ「水媒花」!どんな植物が当てはまる?具体例も合わせて現役講師がわかりやすく解説します!

今回は「水媒花」をキーワードとして学習していこう。

世界にはさまざまな花がありますが、そのなかでも水媒花とは、水に乗せて花粉を運ぶ”送粉”の方法を発達させたものです。具体的にはどんなところに生育する、どのような種がこれに当てはまるのでしょうか?

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

水媒花とはどんなもの?

水媒花(すいばいか)とは、花粉を水に乗せて運び、受粉させる方法をとっている花のことをさします。

地球上には多種多様な花がありますが、花粉を運ぶ=送粉の手法によって花を分類することができるんです。このページの最後にご紹介したいと思いますが、送粉方法に注目した花の呼び方として、ほかにも「風媒花」や「虫媒花」などがあります。

重要ですよ!

なんといっても、花はおしべやめしべのある生殖器官ですからね。送粉が成功し、受粉しないと次世代の種子ができません。

植物によって異なる送粉方法というのは、「生き残るために進化させてきた、それぞれの戦略」と考えてもいいでしょう。

水媒花をつけるのは”水生植物”の一部のもの

どのような植物が水媒花をつけるのかといいますと、基本的には水生植物(すいせいしょくぶつ)の一部のものです。

そうですね。水の中に生えているからこそ、水に乗せて花粉を運ぶのです。

ただし、水生植物と一口に言っても、完全に水中に身を沈めているものもあれば、水面に浮かんでいるものもいます。生育のスタイルによっていくつかのグループに分けられるので、代表的なものをご紹介しておきましょう。

いろいろな水生植物

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