今回は「個体群」をキーワードに学んでいこう。ところで君は、個体群と群れの違いを説明できるか?個体群とはある空間に生息する同一種の生物集団のこと。群れは行動を共にする、個体群よりも緊密な関係性のグループのことです。個体群を理解するうえで大切なのが個体群密度です。個体群密度は個体数が増えすぎないようにするために一定に保つはたらきがあるぞ。それが密度効果です。密度効果は個体群全体に影響するものから、個体レベルで影響を与えるものもある。その例がバッタの相変異です。バッタは育つ環境の個体群密度によって姿がまるで違うんです。今回はそんな個体群と個体群密度の関係性について学生時代、獣医学部で動物のことを勉強していたライターみんちが解説していこう。

ライター/みんち

学生時代、獣医学部で動物の知識を学んだ。趣味は動物園巡り。ライターとして、初心者にもわかりやすく、質のある情報を提供できるよう、日々奮闘中。

個体群とは同種の生物集団のこと

個体群とは、ある空間に生活している同一種の個体の集団のこと。例えば南極にすむペンギン、山にいるニホンザル、試験管の中のゾウリムシも個体群ですよ。

ここで気を付けたいポイントが、“同一種の集団”であること!同一種とは、生殖能力をもつ子をつくれるもの同士のことです。たとえば、ウマとロバは子どもを作ることができますが、その子どもに繁殖能力はありません。つまり、「ウマとロバは同種ではない」ということになりますね。

個体群を構成している個体同士では、空間や食べ物をめぐる競争的関係や、交配や異性をめぐって争う繁殖的関係親子関係など、密接な関係があるんですよ。

群れとは意味が違う!

image by iStockphoto

個体群と聞くと、群れで生活している動物を想像してしまいますが、実は個体群と群れは別物なんですよ。

群れとは、統一された行動がみられる生物集団のことをいいます。一緒に行動することで、食糧の確保や繁殖、外敵からの防御を効率的に行うことができるんです。つまり、群れは個体群の中の1つに過ぎないんですね。

例えば学校の教室を想像してみてください。1つのクラスを生物集団だとしましょう。すると、クラスメイトは、同じ教室という空間で過ごす個体群です。一方で、授業以外の時間でも、お昼を一緒に食べたり、仲のいいグループは群れといったイメージですね。

「個体群の中に群れがある」という概念がつかめたでしょうか?個体群と群れは同一のものだと勘違いしやすいので、注意しましょう。

ここまでで、個体群とは何か、群れとの違いについて理解できましたね。次は個体群において重要なポイントである、「個体群密度」「成長曲線」について解説していきましょう。

個体群密度とは空間に占める個体数のこと!

個体群密度とは、ある個体群において生活空間に占める個体数の密度のこと。「個体数/生活空間」という式で算出できます。簡単に言えば、人口密度の生物版ですね。

地表で生活する生物の場合は“面積”当たりの個体数で、水中のように生活空間が平面ではない生物は“体積”当たりの個体数で測定するんですよ。

成長曲線を理解しよう

個体群密度はある程度、一定の範囲で数が保たれているという仕組みがあるんですよ。一体どういうことでしょうか?

image by Study-Z編集部

グラフの青線をみてください。これは、生物が増えていく様子を表した線です。普通に考えたら、生物が繁殖を繰り返していれば、どんどん数を増やしていって青線のようになるはずですよね。

しかし、実際にそうはならないんです!次はグラフの赤線を見てください。はじめは順調に数が増えていますが、途中から数が増えずに一定の値になっていますよね。なぜこのようなS字型の線ができるのでしょうか?

答えは、個体数が増える増加にブレーキがかかる密度効果(みつどこうか)というものが働いているからです。

密度効果によって個体数は安定する!

たとえば、シカを例にあげてみましょう。シカの数が増えすぎると、木や草などの食べ物が減ったり、自分の生活空間がなくなってしまいますね。さらに、大量の排せつ物などによって生活環境が悪化してしまいます。

これらが原因で、その地域に住むシカの死亡率は増加し、出生率は低下、さらに生まれた赤ちゃんが十分に成長できなくなることも。結果的に、シカは増えすぎることなく、ある程度の数を保つことができるというわけですね。

このとき、生物が増えることができる個体数の最大値環境収容力(かんきょうしゅうようりょく)といいます。環境収容力は、生息環境や密度効果の状態によって変化するんですよ。

実際のところ、シカは環境の条件がそろえば個体数を増加させることができる生き物なんですよ。近年では農作物の被害や生態系への影響が懸念されています。

こうして個体群の数は一定に保つような仕組みになっているんですね。

育つ環境で凶暴なバッタに?!相変異とは?

image by iStockphoto

ここまでで個体群密度は、密度効果によって個体群全体の数が一定に保つしくみがそなわっていることがわかりましたね。しかし密度効果がもたらす影響は、それだけではないんですよ。

なんと驚いたことに、バッタは密度効果によって姿かたちを変えてしまうんですよ!詳しくみていきましょう。

育つ個体群密度によって姿が変わる?!

image by iStockphoto

バッタは生活する環境によってその姿が大きく変わる昆虫なんですよ。

エサが豊富にあり、周りに競争相手がいない環境でのんびり育ったバッタは、戦いを好まないおとなしい性格の「孤独相」になります。体色も緑色で、見た目の優し気ですね。

一方で、エサが乏しい環境で、1カ所に多くのバッタが集まったせいで、互いにぶつかり合って育ったバッタは群れることを好む凶暴な性格の「野生相」となります。見た目は茶色で、長く飛行するために翅(はね)も長いんですよ。なんだかギラギラした印象ですよね。

バッタの違いには、個体群密度が大きく関係しています。個体群密度が大きくなると、生き残るために、自分を目立つ色にしたり、競争的な性格になるんです。このよう同じ種でも、個体群密度によって全く別の姿に変わること相変異(そうへんい)といいます。

相変異はバッタ以外にも、ヨトウムシやカメムシ、アメンボなどでも見られますよ。

個体群は生態系を理解するための指標になる

ここまで読んでいただきありがとうございました。今回は「個体群」をキーワードに群れとの違いや、個体群密度によって生じる密度効果のしくみ、相変異についても解説してきました。個体群とは同一種の個体の集まりのこと。そして群れは、個体群の中でも同じ行動を共にするグループのことです。生物が繁殖を繰り返しても、種が増えすぎることがないのは、個体群密度が一定に数を保つ働きがあるおかげ。これは密度効果によるものでしたね。このように、密度効果は個体群全体のレベルから個体単位によるものまであります。個体レベルの場合、バッタの相変異のようにまるで姿かたちが変わってしまうものもいましたね。

個体群は単なる生物の集まりではありません。個体群からは個体群密度はもちろん死亡率、齢構成などもを知ることができます。このようなデータは、種の生態やや生態系全体の理解につながりますよ。今回の記事を読んで、少しでも地球や環境、生態系などに興味を持っていただけたら嬉しいです。

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理科生態系生物

3分で簡単個体群!育つ環境で凶暴なバッタに?!獣医学部卒ライターがわかりやすく解説!

今回は「個体群」をキーワードに学んでいこう。ところで君は、個体群と群れの違いを説明できるか?個体群とはある空間に生息する同一種の生物集団のこと。群れは行動を共にする、個体群よりも緊密な関係性のグループのことです。個体群を理解するうえで大切なのが個体群密度です。個体群密度は個体数が増えすぎないようにするために一定に保つはたらきがあるぞ。それが密度効果です。密度効果は個体群全体に影響するものから、個体レベルで影響を与えるものもある。その例がバッタの相変異です。バッタは育つ環境の個体群密度によって姿がまるで違うんです。今回はそんな個体群と個体群密度の関係性について学生時代、獣医学部で動物のことを勉強していたライターみんちが解説していこう。

ライター/みんち

学生時代、獣医学部で動物の知識を学んだ。趣味は動物園巡り。ライターとして、初心者にもわかりやすく、質のある情報を提供できるよう、日々奮闘中。

個体群とは同種の生物集団のこと

個体群とは、ある空間に生活している同一種の個体の集団のこと。例えば南極にすむペンギン、山にいるニホンザル、試験管の中のゾウリムシも個体群ですよ。

ここで気を付けたいポイントが、“同一種の集団”であること!同一種とは、生殖能力をもつ子をつくれるもの同士のことです。たとえば、ウマとロバは子どもを作ることができますが、その子どもに繁殖能力はありません。つまり、「ウマとロバは同種ではない」ということになりますね。

個体群を構成している個体同士では、空間や食べ物をめぐる競争的関係や、交配や異性をめぐって争う繁殖的関係親子関係など、密接な関係があるんですよ。

群れとは意味が違う!

image by iStockphoto

個体群と聞くと、群れで生活している動物を想像してしまいますが、実は個体群と群れは別物なんですよ。

群れとは、統一された行動がみられる生物集団のことをいいます。一緒に行動することで、食糧の確保や繁殖、外敵からの防御を効率的に行うことができるんです。つまり、群れは個体群の中の1つに過ぎないんですね。

例えば学校の教室を想像してみてください。1つのクラスを生物集団だとしましょう。すると、クラスメイトは、同じ教室という空間で過ごす個体群です。一方で、授業以外の時間でも、お昼を一緒に食べたり、仲のいいグループは群れといったイメージですね。

「個体群の中に群れがある」という概念がつかめたでしょうか?個体群と群れは同一のものだと勘違いしやすいので、注意しましょう。

ここまでで、個体群とは何か、群れとの違いについて理解できましたね。次は個体群において重要なポイントである、「個体群密度」「成長曲線」について解説していきましょう。

個体群密度とは空間に占める個体数のこと!

個体群密度とは、ある個体群において生活空間に占める個体数の密度のこと。「個体数/生活空間」という式で算出できます。簡単に言えば、人口密度の生物版ですね。

地表で生活する生物の場合は“面積”当たりの個体数で、水中のように生活空間が平面ではない生物は“体積”当たりの個体数で測定するんですよ。

成長曲線を理解しよう

個体群密度はある程度、一定の範囲で数が保たれているという仕組みがあるんですよ。一体どういうことでしょうか?

image by Study-Z編集部

グラフの青線をみてください。これは、生物が増えていく様子を表した線です。普通に考えたら、生物が繁殖を繰り返していれば、どんどん数を増やしていって青線のようになるはずですよね。

しかし、実際にそうはならないんです!次はグラフの赤線を見てください。はじめは順調に数が増えていますが、途中から数が増えずに一定の値になっていますよね。なぜこのようなS字型の線ができるのでしょうか?

答えは、個体数が増える増加にブレーキがかかる密度効果(みつどこうか)というものが働いているからです。

密度効果によって個体数は安定する!

たとえば、シカを例にあげてみましょう。シカの数が増えすぎると、木や草などの食べ物が減ったり、自分の生活空間がなくなってしまいますね。さらに、大量の排せつ物などによって生活環境が悪化してしまいます。

これらが原因で、その地域に住むシカの死亡率は増加し、出生率は低下、さらに生まれた赤ちゃんが十分に成長できなくなることも。結果的に、シカは増えすぎることなく、ある程度の数を保つことができるというわけですね。

このとき、生物が増えることができる個体数の最大値環境収容力(かんきょうしゅうようりょく)といいます。環境収容力は、生息環境や密度効果の状態によって変化するんですよ。

実際のところ、シカは環境の条件がそろえば個体数を増加させることができる生き物なんですよ。近年では農作物の被害や生態系への影響が懸念されています。

こうして個体群の数は一定に保つような仕組みになっているんですね。

育つ環境で凶暴なバッタに?!相変異とは?

image by iStockphoto

ここまでで個体群密度は、密度効果によって個体群全体の数が一定に保つしくみがそなわっていることがわかりましたね。しかし密度効果がもたらす影響は、それだけではないんですよ。

なんと驚いたことに、バッタは密度効果によって姿かたちを変えてしまうんですよ!詳しくみていきましょう。

育つ個体群密度によって姿が変わる?!

image by iStockphoto

バッタは生活する環境によってその姿が大きく変わる昆虫なんですよ。

エサが豊富にあり、周りに競争相手がいない環境でのんびり育ったバッタは、戦いを好まないおとなしい性格の「孤独相」になります。体色も緑色で、見た目の優し気ですね。

一方で、エサが乏しい環境で、1カ所に多くのバッタが集まったせいで、互いにぶつかり合って育ったバッタは群れることを好む凶暴な性格の「野生相」となります。見た目は茶色で、長く飛行するために翅(はね)も長いんですよ。なんだかギラギラした印象ですよね。

バッタの違いには、個体群密度が大きく関係しています。個体群密度が大きくなると、生き残るために、自分を目立つ色にしたり、競争的な性格になるんです。このよう同じ種でも、個体群密度によって全く別の姿に変わること相変異(そうへんい)といいます。

相変異はバッタ以外にも、ヨトウムシやカメムシ、アメンボなどでも見られますよ。

個体群は生態系を理解するための指標になる

ここまで読んでいただきありがとうございました。今回は「個体群」をキーワードに群れとの違いや、個体群密度によって生じる密度効果のしくみ、相変異についても解説してきました。個体群とは同一種の個体の集まりのこと。そして群れは、個体群の中でも同じ行動を共にするグループのことです。生物が繁殖を繰り返しても、種が増えすぎることがないのは、個体群密度が一定に数を保つ働きがあるおかげ。これは密度効果によるものでしたね。このように、密度効果は個体群全体のレベルから個体単位によるものまであります。個体レベルの場合、バッタの相変異のようにまるで姿かたちが変わってしまうものもいましたね。

個体群は単なる生物の集まりではありません。個体群からは個体群密度はもちろん死亡率、齢構成などもを知ることができます。このようなデータは、種の生態やや生態系全体の理解につながりますよ。今回の記事を読んで、少しでも地球や環境、生態系などに興味を持っていただけたら嬉しいです。

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