細胞呼吸、紛らわしい名前ですね。「細胞が吸ったり吐いたりするの?」と、イメージが湧かず混乱している人も多いでしょう。さらにややこしい化学式も出てくるため、多くの学習者が頭を抱える分野です。
細胞呼吸と肺の呼吸は別物。しかし、名前の通りもちろん繋がりもある。「呼吸」について、一連の流れを抑えていこう。
現役医学生ライター、たけのこと一緒に解説していきます。

ライター/たけのこ

心臓に魅せられた現役医大生。心臓外科医に憧れ、中学生の頃は血管モデルや心臓模型を作ったりして遊んでいた。個別指導の経験がある。人体全般と再生医療に興味あり。

細胞呼吸って?

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細胞呼吸と肺の呼吸は別物です。詳しくみていきましょう。

細胞呼吸と呼吸の違いは呼吸する場所!

まず呼吸の定義から。

呼吸:外から取り込んだ酸素を用いて、体内の有機物を無機物に分解する反応。この時、エネルギーが得られる。また、二酸化炭素が排出される。

また、呼吸は2種類に分けることができます。

肺呼吸(=外呼吸):外界から肺に酸素を取り込み、肺から外界に二酸化炭素を排出する運動。吸ったり吐いたりの筋肉運動。ちなみに、肺の中の酸素と二酸化炭素は一定の割合で血液に溶け込んだり気体になったりする。

→一般的に「呼吸」でイメージされるもの。

細胞呼吸(=内呼吸):血液から細胞に酸素を取り込み、細胞内で有機物を無機物に分解する反応。この時、エネルギーが得られる。その後、細胞から血液に二酸化炭素が排出される。

→高校生物で登場し、混乱されやすい。

image by Study-Z編集部

単に「呼吸」と言われると、息を吸ったり吐いたりの運動が想像されますよね。これは「肺呼吸」。しかし、定義からお分かりいただけるように「呼吸」は単なる運動にはとどまりません。有機物が無機物に分解される段階があります。これが「細胞呼吸」です。

酸素の気持ちになってみるとわかりやすいですよ。酸素は鼻から気道に入り込み、肺へ向かいます。肺は肺胞という袋で構成されていて、その壁は薄く、周りを血管で覆われていましたね。酸素は、肺胞という空間に気体として浮かんでいる状態から、薄い壁を通り抜け血管の中に入ることができます。血管内に入った酸素は、血液の流れに乗っかって全身を回ることができますね。ここまでが「肺呼吸」。そう、厳密には「血液に乗る」ところまでが肺呼吸なのです。少しややこしいので、正直「肺呼吸は呼吸運動」であまり問題ありませんが、興味のある方に向けてご説明すると、これは拡散という現象によります。肺胞に空気がある限り、血液に溶け込まざるを得ないのです。このため「血液に乗る」までが肺呼吸なのですね。

さて、続きです。血液に乗っかり全身を巡っていた酸素は、酸素を必要としている細胞と出逢います(エネルギー産生を必要としている細胞)。そして細胞内に入り有機物の代謝に参加した後、二酸化炭素へと姿を変え、再び血液中に排出されるのです。ここまでが「細胞呼吸」。まるで細胞が吸ったり吐いたりしているみたいですね。

血液中に戻された二酸化炭素は全身を巡り、そのうち肺に到達します。そして先ほどとは逆に、血管内から肺胞へと二酸化炭素が排出されるのです。気体となった二酸化炭素は肺を出て、気道を通り体外へ出ていきます。ここまでが「肺呼吸」です。

「吸って吐いての肺呼吸、化学反応の細胞呼吸」のイメージを持っておきましょう。

細胞呼吸と発酵の違いは酸素を使うかどうか!

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次に、細胞呼吸と混同されやすい「発酵」について見ていきましょう。細胞呼吸も発酵も、共に「異化」という反応です。

異化:複雑な物質(有機物)を単純な物質に分解し、エネルギーを取り出す反応

細胞呼吸と発酵には以下のような違いがあります。

細胞呼吸:有機物の分解に酸素を用いる。有機物を無機物にまで完全に分解できる

発酵:有機物の分解に酸素を用いない。有機物を完全に無機物にまでは分解できない

\次のページで「細胞呼吸の3段階」を解説!/

ここで重要なのは、共に「異化」であるという点です。どちらもエネルギーを取り出す反応であるということを忘れないでくださいね。

細胞呼吸の3段階

細胞呼吸の3段階

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次に、細胞呼吸の山場である反応経路を見ていきます。

1. 解糖系

まず、細胞呼吸の第一段階である解糖系です。細胞質基質で、グルコースが2分子のピルビン酸にまで分解されます。ここでは酸素は必要ありません。水素は補酵素であるNAD+に預けられ、エネルギーであるATPは2分子産生されます。ちなみに、解糖系におけるATP産生はリン酸転移によるものです。あまりエネルギー産生能力のある反応ではない、ということを覚えておきましょう。

2. クエン酸回路

次に、第二段階であるクエン酸回路です。ピルビン酸は、各細胞の中にあるミトコンドリアの、そのまた中にあるマトリックスというところに入ります。ミトコンドリアは二重膜構造ですが、その一番内側です。そこで、ピルビン酸はアセチルCoAに変換されます。ややこしい名前ですが、丸覚えしてしまいましょう。

アセチルCoAはオキサロ酢酸と結合してクエン酸になります。そしてなんと、このクエン酸はいろいろな反応を経て、いずれオキサロ酢酸に戻るのです。ループが形成されていますね。よって、この反応はクエン酸回路と名付けられました。

クエン酸回路では、1分子のピルビン酸から1分子のATP 、3分子の二酸化炭素、5分子の水素が生じます。この間に必要な水は3分子です。先ほどの解糖系で1分子のグルコースから2分子のピルビン酸が産生されていたので、1分子のグルコースから産生される量・消費される量は上記の2倍、ということになりますよね。ちなみに、クエン酸回路におけるATP産生もリン酸転移によるものです。また、クエン酸回路では直接酸素は用いられませんが、間接的に酸素がなければこの回路は回りません。この点も重要なので覚えておきましょう。

3. 電子伝達系

最後に、第三段階である電子伝達系を見ていきましょう。電子伝達系はミトコンドリアの内膜で行われており、解糖系、クエン酸回路で生じた合計24原子の水素を利用して34分子のATPが産生されています。

この24原子の水素ですが、実はミトコンドリアの内膜と外膜の間に溜められています。間隙に存在する水素がマトリックスに比べて非常に多く、内膜を介して濃度勾配が出来上がっているのがわかりますね。物質は濃度の大きい方から小さい方へ流れたがる性質があるので、内膜に水車のようなものがあれば、間隙に存在する水素がマトリックスに移動するエネルギーをATPに変換することが可能です。実際、電子伝達系ではこのような仕組みでATPが産生されており、この反応を酸化的リン酸化と言います。そして、最終的にここで使われた水素は6分子の酸素と結合し、12分子の水となるのです。

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以上の反応をまとめると、こちらの図のようになります。

解糖と解糖系の違いって?

解糖と解糖系の違いって?

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酸素の有無に関わらず、エネルギー産生のためグルコースはピルビン酸にまで分解されます。この反応は解糖系でしたね。そして酸素があれば、ピルビン酸はクエン酸回路に入り更なるエネルギー産生に使われます。一般的な細胞呼吸のコースです。一方、酸素がない場合ピルビン酸は乳酸に変換されてしまいます。ここで乳酸に変換しなければ、その後も新たにグルコースを解糖系で分解できないためです。この、解糖系を経て乳酸が産生される反応を嫌気的解糖と言います。嫌気的解糖と比較して、酸素がある場合のグルコースからピルビン酸までの反応を好気的解糖と言ったりもしますが、一般的に「解糖」といえば嫌気的解糖のことを指すことが多いようです。

細胞呼吸は全身の細胞で行われているエネルギーを取り出す反応!

細胞呼吸について、呼吸との違いや意味、働きなどを見てきました。光合成も同様ですが、呼吸の仕組みは生物分野の中でもややこしい領域です。まずは定義を一つ一つ押さえること、そして自分で一枚の図にまとめてみることが理解につながります。

さまざまな説明文に触れてみることもおすすめですよ。生物は、いろいろな角度から理解することで自分の頭の中が整理されやすい分野ですから、テキストや百科事典などを参照し、納得のいく説明を探してみてください。

この記事が皆さんの理解の手助けになれば幸いです。

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タンパク質と生物体の機能体の仕組み・器官理科生き物・植物生物細胞・生殖・遺伝

細胞呼吸とは?呼吸とは違うの?意味と働きを現役医学生がわかりやすく解説!

細胞呼吸、紛らわしい名前ですね。「細胞が吸ったり吐いたりするの?」と、イメージが湧かず混乱している人も多いでしょう。さらにややこしい化学式も出てくるため、多くの学習者が頭を抱える分野です。
細胞呼吸と肺の呼吸は別物。しかし、名前の通りもちろん繋がりもある。「呼吸」について、一連の流れを抑えていこう。
現役医学生ライター、たけのこと一緒に解説していきます。

ライター/たけのこ

心臓に魅せられた現役医大生。心臓外科医に憧れ、中学生の頃は血管モデルや心臓模型を作ったりして遊んでいた。個別指導の経験がある。人体全般と再生医療に興味あり。

細胞呼吸って?

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細胞呼吸と肺の呼吸は別物です。詳しくみていきましょう。

呼吸:外から取り込んだ酸素を用いて、体内の有機物を無機物に分解する反応。この時、エネルギーが得られる。また、二酸化炭素が排出される。

また、呼吸は2種類に分けることができます。

肺呼吸(=外呼吸):外界から肺に酸素を取り込み、肺から外界に二酸化炭素を排出する運動。吸ったり吐いたりの筋肉運動。ちなみに、肺の中の酸素と二酸化炭素は一定の割合で血液に溶け込んだり気体になったりする。

→一般的に「呼吸」でイメージされるもの。

細胞呼吸(=内呼吸):血液から細胞に酸素を取り込み、細胞内で有機物を無機物に分解する反応。この時、エネルギーが得られる。その後、細胞から血液に二酸化炭素が排出される。

→高校生物で登場し、混乱されやすい。

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単に「呼吸」と言われると、息を吸ったり吐いたりの運動が想像されますよね。これは「肺呼吸」。しかし、定義からお分かりいただけるように「呼吸」は単なる運動にはとどまりません。有機物が無機物に分解される段階があります。これが「細胞呼吸」です。

酸素の気持ちになってみるとわかりやすいですよ。酸素は鼻から気道に入り込み、肺へ向かいます。肺は肺胞という袋で構成されていて、その壁は薄く、周りを血管で覆われていましたね。酸素は、肺胞という空間に気体として浮かんでいる状態から、薄い壁を通り抜け血管の中に入ることができます。血管内に入った酸素は、血液の流れに乗っかって全身を回ることができますね。ここまでが「肺呼吸」。そう、厳密には「血液に乗る」ところまでが肺呼吸なのです。少しややこしいので、正直「肺呼吸は呼吸運動」であまり問題ありませんが、興味のある方に向けてご説明すると、これは拡散という現象によります。肺胞に空気がある限り、血液に溶け込まざるを得ないのです。このため「血液に乗る」までが肺呼吸なのですね。

さて、続きです。血液に乗っかり全身を巡っていた酸素は、酸素を必要としている細胞と出逢います(エネルギー産生を必要としている細胞)。そして細胞内に入り有機物の代謝に参加した後、二酸化炭素へと姿を変え、再び血液中に排出されるのです。ここまでが「細胞呼吸」。まるで細胞が吸ったり吐いたりしているみたいですね。

血液中に戻された二酸化炭素は全身を巡り、そのうち肺に到達します。そして先ほどとは逆に、血管内から肺胞へと二酸化炭素が排出されるのです。気体となった二酸化炭素は肺を出て、気道を通り体外へ出ていきます。ここまでが「肺呼吸」です。

「吸って吐いての肺呼吸、化学反応の細胞呼吸」のイメージを持っておきましょう。

細胞呼吸と発酵の違いは酸素を使うかどうか!

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次に、細胞呼吸と混同されやすい「発酵」について見ていきましょう。細胞呼吸も発酵も、共に「異化」という反応です。

異化:複雑な物質(有機物)を単純な物質に分解し、エネルギーを取り出す反応

細胞呼吸と発酵には以下のような違いがあります。

細胞呼吸:有機物の分解に酸素を用いる。有機物を無機物にまで完全に分解できる

発酵:有機物の分解に酸素を用いない。有機物を完全に無機物にまでは分解できない

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