この記事では「足を向けて寝られない」について解説する。

端的に言えば「足を向けて寝られない」の意味は「心から感謝している様子」ですが、なぜ感謝していると足を向けられないのか、実際にどういった場面で使うべき言葉なのか疑問に思ったことはないか?

今回は「足を向けて寝られない」の意味や語源、類語と比較した使い方の違いなどを文学部卒webライターのリカと一緒に見ていきます。

ライター/リカ

文学部卒のwebライター。在学中、様々な言葉について論文を執筆し、卒業後も日常で疑問を持った言葉についてすぐに調べることを習慣付けている。

「足を向けて寝られない」の意味や語源は?

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それでは早速「足を向けて寝られない」の意味を見ていきましょう。

「足を向けて寝られない」の意味は?

「足を向けて寝られない」を辞書で調べてみると「足を向ける」の項目に次のように記載されています。

1. 相手をないがしろにする意。「足を向けて寝られない」などの形で、恩を受けた人への感謝の気持を表わす。

2. その方向、方面へ行く。

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「足を向ける」

「足を向けて寝られない」は恩を受けた相手に対しては深く感謝し、その気持ちを忘れない様子を示す慣用句です。また、恩を受けた相手に失礼なことはできないと感じている様子を示しています。

お世話になった相手へ心から感謝している気持ちを伝える慣用句として、かしこまった挨拶やビジネスでのやりとりといった様々な場面で使用することができる言葉なんですね。

ちなみに『足を向ける』の形では1の相手をないがしろにするという意味ではほとんど使用されず、2のその方向へ行くという意味で使用するのが一般的です。

「足を向けて寝られない」の語源は?

次に「足を向けて寝られない」の語源を確認しておきましょう。

足は人の体の中で最下部であり、地面を踏む汚れた部分です。そのため足を人に向けることは失礼にあたり、とりわけ恩を受けた相手にそのような真似はできないということが由来とされています。

また、就寝時には横になるので足がどこかの方角を指しますが、恩を受けた相手の家の方角には足を向けては寝られないと思うほど感謝している様子を表しており、このことから「足を向けて寝られない」は起きている時だけではなく、寝ている時も相手への感謝を忘れないという意味で使用するようになりました。

江戸時代の江戸庶民の生活を描いた滑稽本『浮世床』(1813~23)には「江戸は諸国の為には大切な御得意様だから江戸の方へ足を向けては江戸の罰があたりやす」と記載があります。ここではお得意様への感謝と敬意の表現として使用されており、江戸時代には既に使用されている慣用句であることがわかりますね。

\次のページで「「足を向けて寝られない」の使い方は?」を解説!/

「足を向けて寝られない」の使い方は?

「足を向けて寝られない」の使い方をパターン別に例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

その1.日ごろから世話になっている人への感謝を示す時

1.大学を卒業するまで、育ててくれた両親には足を向けて寝られない
2.会社の上司には仕事について様々なことを教わった。彼には足を向けて寝られない。

こちらのパターンでは、どちらも日頃からお世話になっている相手への感謝を示す言葉として使用されています。日頃から感謝している家族や職場の上司に改めてお礼を言っているのですね。

その2.窮地を救ってくれた人への感謝を示す時

1.会社の資金繰りに困っていた時、援助をしてくれた友人には足を向けて寝られない。
2.テストの成績が悪く留年しかけた時、勉強を手伝ってくれた兄には足を向けて寝られない。

こちらのパターンでは自分ではどうにもできない窮地に陥った際助けてくれた人への感謝を示す言葉として使用されています。返しきれない恩を常に忘れずにいるという気持ちが表れていますね。

「足を向けて寝られない」の類語は?違いは?

「足を向けて寝られない」の類語として今回は「恩に着る」「身に余る」「頭があがらない」を見てみましょう。

「恩に着る」:恩を受けたことを感謝すること

「恩に着る」は人から恩を受けたことをありがたく思うことを意味する慣用句です。「着る」には「衣類を身に着ける」の他に「物事を自分の身に引き受ける」という意味があります。それが「相手からの恩をありがたく受ける」という意味になるんですね。

人に何か頼み事をする時に用いることも多く、どちらかと言えば日常会話で使用され、手紙や文書ではあまり使用されない慣用句です。

「身に余る」:受けた恩に対して謙遜すること

「身に余る」は受けた恩が不相応であると謙遜する気持ちを示す慣用句です。人から受けた評価や待遇が自身の立場や能力等に不相応でもったいないほどであると恐縮する気持ちを表し、「身に余る〇〇」という形で使用されます。

学校の先生や、職場の上司といった目上の人に対して使うことを多い慣用句です。

「頭があがらない」:恩を受けた相手に敬意を払うこと

「頭があがらない」は恩を受けた相手に敬意を払うことを意味する慣用句です。

相手に恩や借りがあるため対等な関係に立てない様子を表しており、「足を向けて寝られない」と比較してどちらかと言えば感謝よりも相手に引け目を感じているというニュアンスの方が強く感じられる言葉ですね。

\次のページで「「足を向けて寝られない」の対義語は?」を解説!/

「足を向けて寝られない」の対義語は?

「足を向けて寝られない」の対義語は「後足で砂をかける」が挙げられます。

「後足で砂をかける」:恩を受けた人を裏切ること

「後足で砂をかける」は恩を受けた相手を裏切り、迷惑をかけることを意味する慣用句です。馬や犬といった動物が後ろ足(後足)で砂を勢いよく蹴り上げて走り去ってしまう様子が由来であり、「砂をかける」が迷惑をかける・損害を与えることの比喩表現となっています。

「足を向けて寝られない」と言われた時の返し方は?

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ここまで「足を向けて寝られない」について学んできましたが、反対に相手から言われた際にはどのように返すべきでしょうか?

過剰な謙遜は失礼にあたる?

日本では昔から謙遜することが美徳とされているため、人から感謝されたり、褒められた際に過剰に謙遜してしまう人が多いのではないでしょうか?しかし、過剰な謙遜は相手の言葉を否定することにもなります。せっかく気持ちを伝えたのに全否定されれば、相手は不快な思いをするかもしれません。

そのため「足を向けて寝られない」と相手から言われた際には、過剰に謙遜するだけでなく、相手の言葉に対する感謝を伝えましょう。謙遜しつつも相手の言葉を受け入れていることを伝えることが大切です。

「足を向けて寝られない」を使いこなそう

この記事では「足を向けて寝られない」の意味・使い方・類語などを説明しました。解説で述べた通り「足を向けて寝られない」は相手への感謝とともに粗略にできないと感じている気持ちを表しており、感謝を示す言葉の中でも畏まった表現です。

感謝を示す言葉は今回例に挙げたもの以外にもたくさんあります。他の言葉との意味やニュアンスの違いを理解して「足を向けて寝られない」を使いこなしましょう。

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国語言葉の意味

【慣用句】「足を向けて寝られない」ってどういう気持ち?意味や使い方・言い換え・対義語を文学部卒webライターがわかりやすく解説

この記事では「足を向けて寝られない」について解説する。

端的に言えば「足を向けて寝られない」の意味は「心から感謝している様子」ですが、なぜ感謝していると足を向けられないのか、実際にどういった場面で使うべき言葉なのか疑問に思ったことはないか?

今回は「足を向けて寝られない」の意味や語源、類語と比較した使い方の違いなどを文学部卒webライターのリカと一緒に見ていきます。

ライター/リカ

文学部卒のwebライター。在学中、様々な言葉について論文を執筆し、卒業後も日常で疑問を持った言葉についてすぐに調べることを習慣付けている。

「足を向けて寝られない」の意味や語源は?

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それでは早速「足を向けて寝られない」の意味を見ていきましょう。

「足を向けて寝られない」の意味は?

「足を向けて寝られない」を辞書で調べてみると「足を向ける」の項目に次のように記載されています。

1. 相手をないがしろにする意。「足を向けて寝られない」などの形で、恩を受けた人への感謝の気持を表わす。

2. その方向、方面へ行く。

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「足を向ける」

「足を向けて寝られない」は恩を受けた相手に対しては深く感謝し、その気持ちを忘れない様子を示す慣用句です。また、恩を受けた相手に失礼なことはできないと感じている様子を示しています。

お世話になった相手へ心から感謝している気持ちを伝える慣用句として、かしこまった挨拶やビジネスでのやりとりといった様々な場面で使用することができる言葉なんですね。

ちなみに『足を向ける』の形では1の相手をないがしろにするという意味ではほとんど使用されず、2のその方向へ行くという意味で使用するのが一般的です。

「足を向けて寝られない」の語源は?

次に「足を向けて寝られない」の語源を確認しておきましょう。

足は人の体の中で最下部であり、地面を踏む汚れた部分です。そのため足を人に向けることは失礼にあたり、とりわけ恩を受けた相手にそのような真似はできないということが由来とされています。

また、就寝時には横になるので足がどこかの方角を指しますが、恩を受けた相手の家の方角には足を向けては寝られないと思うほど感謝している様子を表しており、このことから「足を向けて寝られない」は起きている時だけではなく、寝ている時も相手への感謝を忘れないという意味で使用するようになりました。

江戸時代の江戸庶民の生活を描いた滑稽本『浮世床』(1813~23)には「江戸は諸国の為には大切な御得意様だから江戸の方へ足を向けては江戸の罰があたりやす」と記載があります。ここではお得意様への感謝と敬意の表現として使用されており、江戸時代には既に使用されている慣用句であることがわかりますね。

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