中学や高校の生物の授業でよく登場する「形成層」。植物に対してどういう影響を与え、どんな植物のどの部位に存在するか説明できるでしょうか。そこで、今回は「形成層」について生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

形成層って何?

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「形成層」とは、木本双子葉類と裸子植物の茎や根に存在する分裂組織のことを言います。ここでは、活発に細胞分裂が繰り返されることで、次々と新しい細胞が誕生し、植物が成長していくのです。

形成層はどこにある?茎の構造を解説

形成層はどこにあるのかを知るには、まず植物の茎や根の構造を知る必要があります。今回は茎を例に説明していきますね。

植物には、土壌中から吸収した栄養分を植物体内で運搬するための「篩管」があり、その周りに篩管を支える「篩部繊維」や篩管にタンパク質を供給する「伴細胞」などがあります。これらをまとめて「篩部」と呼ぶのです。

また、根から吸収された水分や無機塩類が通る通路として「道管」があり、その周囲には道管を支えるための「木部繊維」などが存在し、これらを合わせて「木部」呼びます。全ての植物は、木部が植物の中心側にあり、篩部が木部よりも外側に位置するのです。

この「篩部」と「木部」2つ合わせて「維管束」と言います。まとめると、「維管束」には、植物体内に水分や養分を行き渡らす、植物を成長させる、植物体を支持するといった役割があるのです。

さて、本題の「形成層」はどこに存在するのでしょうか。実は、形成層は木部と師部の間にあります。ここで注意していただきたいのは、形成層は双子葉類には存在しますが、単子葉類には存在しません。双子葉類と単子葉類の詳しい茎の構造の違いは、次にご紹介します。

1. 双子葉類

1.  双子葉類

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アブラナやエンドウなどの双子葉類の場合、上記の図のように、維管束が綺麗に環状に並ぶという特徴があります。そして、形成層は木部と篩部の間にあり、全ての維管束と繋がっているのです。

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2. 単子葉類

2.  単子葉類

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ススキなどの単子葉類の茎は上記の図のように、双子葉類と違って維管束が環状に並ばずに、散乱しています。これは、維管束の間に柔細胞(有機養分を貯める細胞)が入り込んでいるためです。このように、単子葉類は維管束が綺麗な円形に並んでおらず、形成層もありません。

形成層の役割

形成層の役割は、二次肥大成長です。そもそも肥大成長(二次生長)とはその名の通り、植物を太らせる成長のことを言います。「二次肥大成長」があるならば、「一次肥大成長」もあると予想できそうですね。一次肥大成長は、成長点で先に向かって伸びながら茎も一緒に太くなる成長のことを言います。ここで、一次木部と一次篩部が形成されるのです。植物によっては、ここから更に肥大成長が起こることがあり、これを「二次肥大成長」と言います。

ちなみに、縦に伸長する成長である先端成長(一次生長)は茎頂分裂組織によって起こるのでしたね。

二次肥大成長

二次肥大成長

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上記の図のように、細胞分裂によって、形成層からどんどん新しい細胞が生まれ、内側には木部が、外側には篩部が形成されていきます。これらを二次木部と二次篩部と言うのです。やがて、木部が蓄積されていくと、一次木部たちはぎゅうぎゅう詰めになり、形が崩れてしまいます。最終的に形成層内部には木部が密集するのです。このように、形成層は植物の茎の直角方向細胞数の増加をもたらし、結果的に植物を肥大させます。

単子葉植物の場合、形成層がないので、二次肥大成長はなく、一次肥大成長しかみられません。一部の単子葉植物の中には、二次肥大成長が存在しないのですが、一次肥大成長の段階で一気に茎が肥大するものもあります。

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形成層と接ぎ木

ここでは、形成層の少し発展的な話について触れていきましょう。農業技術の1つとして、「接ぎ木」というものがあります。この接ぎ木と形成層の関係について学んでいきましょう。

接ぎ木とは

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接ぎ木とは、2つの植物体を、人の手によって作られた切断面を接着して1つの個体にすることです。土台となる部分を「台木」と呼び、上部は「穂木」と言います。接ぎ木をする主な利点は、以下の通りです。

1 病害虫に弱い品種の穂木を、病害虫に強い品種の台木に接ぐことで病害虫を防除できる。

2 樹勢の強い品種を穂木に、樹勢の弱い品種の台木に接ぐことで、樹をわい化(小さく)させる。

3 成長が遅い果樹の穂木を、成熟した樹の台木に接ぐことで早く収穫できる。

4 連作障害に強い品種を台木にすることで、連作障害に強くなる。

(連作障害は、同じ作物を同じ圃場で繰り返し育てることで生育不良になり、収量が下がってしまう障害です。)

このように、接ぎ木は農業場面でたくさん利用されているのです。この接ぎ木と形成層の関係について簡単に学びましょう。

接ぎ木がうまくいくかどうかは形成層次第!

接ぎ木を成功させるには、長年培った技術とコツが必要になります。接ぎ木をする上で、最も気を付けていることは、穂木と台木の形成層の一部をしっかりと接着させることです。形成層を十分に接着できなければ、その接ぎ木された植物は枯れてしまいます。

形成層が傷つくと、そこに傷害ホルモンによって「カルス」が形成されるのです。カルスとは人間でいうとかさぶたのようなもの。穂木と台木のカルスがくっつくことで、切断面がガッチリと固定されて一体化します。これで、養分や水分が植物体内に行ったり来たりすることができて、1つの植物体として生存できるのです。

接ぎ木は主に果樹トマト、ナスなどのナス科植物、キュウリやスイカなどのウリ科植物に行われます。

農業技術は、植物の特性を上手に使いながら発展してきたのですね。

形成層は植物を太らせる!

形成層は双子葉類の肥大成長に関わることを学びましたね。肥大成長をすることで、しっかりと植物体を支えることができます。植物の茎や根の構造は想像以上に複雑で、覚えることが大変ですが、受験でも頻繁に出題されるので、しっかりと頭に入れておきましょう。

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形成層とは?どこにあるの?単子葉類と双子葉類の茎の構造も現役理系学生がわかりやすく解説

中学や高校の生物の授業でよく登場する「形成層」。植物に対してどういう影響を与え、どんな植物のどの部位に存在するか説明できるでしょうか。そこで、今回は「形成層」について生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

形成層って何?

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「形成層」とは、木本双子葉類と裸子植物の茎や根に存在する分裂組織のことを言います。ここでは、活発に細胞分裂が繰り返されることで、次々と新しい細胞が誕生し、植物が成長していくのです。

形成層はどこにある?茎の構造を解説

形成層はどこにあるのかを知るには、まず植物の茎や根の構造を知る必要があります。今回は茎を例に説明していきますね。

植物には、土壌中から吸収した栄養分を植物体内で運搬するための「篩管」があり、その周りに篩管を支える「篩部繊維」や篩管にタンパク質を供給する「伴細胞」などがあります。これらをまとめて「篩部」と呼ぶのです。

また、根から吸収された水分や無機塩類が通る通路として「道管」があり、その周囲には道管を支えるための「木部繊維」などが存在し、これらを合わせて「木部」呼びます。全ての植物は、木部が植物の中心側にあり、篩部が木部よりも外側に位置するのです。

この「篩部」と「木部」2つ合わせて「維管束」と言います。まとめると、「維管束」には、植物体内に水分や養分を行き渡らす、植物を成長させる、植物体を支持するといった役割があるのです。

さて、本題の「形成層」はどこに存在するのでしょうか。実は、形成層は木部と師部の間にあります。ここで注意していただきたいのは、形成層は双子葉類には存在しますが、単子葉類には存在しません。双子葉類と単子葉類の詳しい茎の構造の違いは、次にご紹介します。

1. 双子葉類

1.  双子葉類

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アブラナやエンドウなどの双子葉類の場合、上記の図のように、維管束が綺麗に環状に並ぶという特徴があります。そして、形成層は木部と篩部の間にあり、全ての維管束と繋がっているのです。

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