生物の分類の授業で聞いたことがあるかもしれない脊索(せきさく)と脊椎(せきつい)、この2つの単語の違いを知っているか?似たようなものと感じている読者さんも多そうですが実は違うものだし、「脊索動物」と「脊椎動物」も正確には違うカテゴリの生物を指す単語です。
今回は脊索動物の特徴、さらには脊椎動物との違い、動物例などについて生物学オリンピックメダリストNoctilucaとともに見ていきます。

ライター/Noctiluca

高校時代に生物学の面白さに気づき、のちに国際生物学オリンピックで金メダルを受賞。現在は自分の「好き」を突き詰めるため、医学生として勉強中。

脊索って何?脊椎(背骨)とは違うの?

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脊索(せきさく)と脊椎(せきつい)は多くの人が混同して覚えていたり違いが分からなかったりするのではないでしょうか。まずはこの部分をはっきりさせていきましょう。

脊索は背骨ではない!胚発生時にみられる部位が脊索

Larva ascidia-key.svg
Von Dieses Bild wurde in der Grafikwerkstatt (fr) überarbeitet. Du kannst dort ebenfalls Bilder vorschlagen, die zu überarbeiten, verändern oder übersetzen sind. - Derivative work of file:Larva ascidia.svg, CC BY-SA 4.0, Link

脊索(せきさく)とは胚発生時にみられる棒状の器官です。上の図は脊索動物の一種であるホヤの幼体の図ですが、6番で示されている赤い棒状の器官が脊索の部分になります。

バネのように柔軟で、硬めの寒天のような質感だと思ってもらえば分かりやすいでしょうか。初期の胚の構造を支える役割を持っており、胚の背中側に位置します。成体になると一部の動物では脊索が残ることもありますが、ほとんどの生物では他の構造に置き換わっていく部分です。

一方で、脊椎(せきつい)は「背骨」の事ですね。構造を支えるという役割は似ていますが、骨なので主成分はカルシウムです。よってより硬く、丈夫になっています。

背骨を持つ動物(脊椎動物)は脊索動物の一部

背骨を持つ動物(脊椎動物)は脊索動物の一部

image by Study-Z編集部

この図を見ればわかるとおり、脊椎(せきつい)動物は脊索(せきさく)動物の一部。つまり脊索動物の方がより広い範囲の動物を指します。

脊索動物には頭索動物や尾索動物といった脊索はみられるが、背骨がない生物も含まれているわけです。

脊索動物固有の特徴は?

脊索動物に固有の特徴は大きく5つあります。ここで注意ですが、これらの特徴はすべて胚発生時にみられる特徴であり、成体になると無くなったり目立たなくなる特徴もありますのでそこは覚えておいてください。

#1 「脊索」を有する

まず一番重要なのが先程説明した「脊索」という部位ですね。

一部の脊索動物は脊索が一生残ったり、または成長の過程で退化したりしますが、背骨がある動物はこの後脊索を背骨に置き換えていきます。脊索の名残は背骨の一つ一つの骨の間にある「椎間板」。椎間板の中央にあるゼラチン質の部分が脊索の名残だといわれています。

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#2 「背側神経管」を持つ

続いて、脊索の上に「背側神経管」という部位が形成されます。こちらは筒のような部位で、後に脳と脊髄(せきずい)の部分になっていくのです。

背中側に神経管ができるのは脊索動物のみにみられる特徴で、それ以外の動物はお腹側に神経索を形成します。(腹側神経索)また、脊索動物の神経管は筒状ですが、それ以外の動物の神経索は中が詰まった棒状という違いもありますね。

#3 咽頭部に「鰓裂」が有る

Haeckel drawings.jpg
By Romanes, G. J.; uploaded to Wikipedia by en:User:Phlebas; authors of the description page: en:User:Phlebas, en:User:SeventyThree - Romanes, G. J. (1892). Darwin and After Darwin. Open Court, Chicago., Public Domain, Link

脊索動物の3つ目の特徴、それはえらの切れ目、「鰓裂」(さいれつ)があることです。

この図は左から魚、サラマンダー(両生類)、亀(爬虫類)、ニワトリ(鳥類)そしてイノシシ、ウシ、ウサギ、ヒト(哺乳類)の胚のスケッチになります。よ~く見ると、胚発生時には爬虫類や鳥類、哺乳類にもすべてえらの部分に切れ目があることが分かりますね。

魚類などは鰓裂がそのまま残ってガス交換などの役目を果たしますが、陸上生物ではこの切れ目は塞がり、人間では耳と鼻をつなぐ「耳管」などに変化していきました。また頭索・尾索動物ではプランクトンを濾して食べるための網目としての役割を持っています。

#4 「筋節」を持つ

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そして4つ目の特徴は、「筋節」です。

魚の切り身をイメージしてみていただきたいのですが、白い筋で筋肉がいくつものブロックに区切られていますよね?これを筋節と呼びます。すべての脊索動物の幼体にみられる特徴ですが、特に脊椎動物ではそれぞれの筋節が一つの背骨に対応しているのです。

#5 「内柱」を持つ

そして最後に、脊索動物には「内柱」という分泌器官があります。

もともと内柱という器官は水中に存在するプランクトンなどを濾して食べるため、粘性の高い液体を分泌する器官でした。(これは頭索動物と尾索動物にみられます)ですが進化の過程で自分から狩りをすることができるようになった脊椎動物では、この器官は「甲状腺」に進化しています。

脊索動物にはどんな動物が含まれる?

脊索動物の特徴を学んだうえで、その中の分類を見ていきましょう。脊索動物は大きく3つのグループに分けることができます。

\次のページで「1. 頭索動物」を解説!/

1. 頭索動物

Branchiostoma lanceolatum.jpg
By © Hans Hillewaert, CC BY-SA 4.0, Link

「頭索動物」は「ナメクジウオ」という動物に代表される脊索動物の1群です。

基本的な生態として海底の砂の中に埋まり、自分ではほとんど動かずに鰓裂でプランクトンなどを濾して食べます。脊索が一生残り、背骨に置き換わらないという点が特徴です。頭から体の全長にかけて脊索が残るので頭索動物と呼ばれているわけですね。

2. 尾索動物

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続いて「尾索動物」。こちらは「ホヤ」という生物が含まれる生物群です。

見た目からは脊索動物の一種だと思いもしませんよね。こちらは海底の岩壁に固着して、頭索動物と同じく海中の小さな生物を濾して食べる生態が特徴です。こちらのグループは成体になった時に脊索がなくなってしまう点が頭索動物との違いになります。幼体から成体になるとき尻尾の方に向かってどんどん脊索が短くなっていくので尾索動物と呼ばれているのです。

尾索動物は生物学的に興味深い特徴がたくさん見られる生物群でもあります。たとえばホヤ類は体内でセルロースを生成できる唯一の動物であることなど。しかも脊椎動物である人間にそこそこ近い部類の生物であることから、研究材料としてもしばしば使われます。

3. 脊椎動物

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By User:Follix User:Jamez42 User:Albert kok User:Tiithunt - File:Elephants.jpg File:Acipenser oxyrinchus Montreal Biodome.JPG File:Tiger_shark.jpg File:Jõesilmud2.jpg, CC BY-SA 4.0, Link

そして最後に背骨がある「脊椎動物」のグループですね。

こちらはおなじみ「魚類」「両生類」「爬虫類・鳥類」「哺乳類」が含まれるグループになります。成体時脊索が背骨に置き換わり、筋肉や骨の発達によってより自発的な狩りができるように進化した動物です。よってプランクトンを食べるために使っていた鰓裂や内柱が別の役割を持つように進化していきました。

人間では鰓裂は耳管や中耳の部分に、そして内柱はホルモンを分泌する甲状腺に変化しています。

脊索動物は脊椎動物よりも広い枠組みで、頭索や尾索動物も含まれる

今回は脊索と脊椎の違い、脊索動物の主な特徴、そして脊索動物の細かい分類について見ていきました。動物界の分類について少しでも理解が深まる手助けになっていれば幸いです。

もっと深く脊索動物について知りたい方は脊索動物の進化の軌跡などを調べてみるといいでしょう。頭蓋骨や顎骨、四肢などの進化の流れを把握できるとなぜ生物がこのように分類されているのかがより分かりやすくなると思いますよ!

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理科生物生物の分類・進化

脊索動物って何?脊椎動物との違いや特徴と動物例を生オリメダリストが分かりやすくわかりやすく解説


生物の分類の授業で聞いたことがあるかもしれない脊索(せきさく)と脊椎(せきつい)、この2つの単語の違いを知っているか?似たようなものと感じている読者さんも多そうですが実は違うものだし、「脊索動物」と「脊椎動物」も正確には違うカテゴリの生物を指す単語です。
今回は脊索動物の特徴、さらには脊椎動物との違い、動物例などについて生物学オリンピックメダリストNoctilucaとともに見ていきます。

ライター/Noctiluca

高校時代に生物学の面白さに気づき、のちに国際生物学オリンピックで金メダルを受賞。現在は自分の「好き」を突き詰めるため、医学生として勉強中。

脊索って何?脊椎(背骨)とは違うの?

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脊索(せきさく)と脊椎(せきつい)は多くの人が混同して覚えていたり違いが分からなかったりするのではないでしょうか。まずはこの部分をはっきりさせていきましょう。

脊索は背骨ではない!胚発生時にみられる部位が脊索

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Von Dieses Bild wurde in der Grafikwerkstatt (fr) überarbeitet. Du kannst dort ebenfalls Bilder vorschlagen, die zu überarbeiten, verändern oder übersetzen sind. – Derivative work of file:Larva ascidia.svg, CC BY-SA 4.0, Link

脊索(せきさく)とは胚発生時にみられる棒状の器官です。上の図は脊索動物の一種であるホヤの幼体の図ですが、6番で示されている赤い棒状の器官が脊索の部分になります。

バネのように柔軟で、硬めの寒天のような質感だと思ってもらえば分かりやすいでしょうか。初期の胚の構造を支える役割を持っており、胚の背中側に位置します。成体になると一部の動物では脊索が残ることもありますが、ほとんどの生物では他の構造に置き換わっていく部分です。

一方で、脊椎(せきつい)は「背骨」の事ですね。構造を支えるという役割は似ていますが、骨なので主成分はカルシウムです。よってより硬く、丈夫になっています。

背骨を持つ動物(脊椎動物)は脊索動物の一部

背骨を持つ動物(脊椎動物)は脊索動物の一部

image by Study-Z編集部

この図を見ればわかるとおり、脊椎(せきつい)動物は脊索(せきさく)動物の一部。つまり脊索動物の方がより広い範囲の動物を指します。

脊索動物には頭索動物や尾索動物といった脊索はみられるが、背骨がない生物も含まれているわけです。

脊索動物固有の特徴は?

脊索動物に固有の特徴は大きく5つあります。ここで注意ですが、これらの特徴はすべて胚発生時にみられる特徴であり、成体になると無くなったり目立たなくなる特徴もありますのでそこは覚えておいてください。

#1 「脊索」を有する

まず一番重要なのが先程説明した「脊索」という部位ですね。

一部の脊索動物は脊索が一生残ったり、または成長の過程で退化したりしますが、背骨がある動物はこの後脊索を背骨に置き換えていきます。脊索の名残は背骨の一つ一つの骨の間にある「椎間板」。椎間板の中央にあるゼラチン質の部分が脊索の名残だといわれています。

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