みんなは自然選択説とはどいう学説なのか知っているか。生物進化を起こす大きな要因でありますが、果たしてどのような役割を果たすのでしょうか。今回は、自然選択説とは何か、具体的な実例や中立説との違い、今日の進化の考え方について生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

自然選択説って何?

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「自然選択説(しぜんせんたくせつ)」もしくは「自然淘汰説(しぜんとうたせつ)」は、ダーウィンが唱えた、自然選択によって生物は進化するという説です。「自然選択」とは、ある集団にいる個体のうち、少しでも有利な形質を持つ個体が生き残り、子孫を多く残すことを言います。

自然選択は温度や降水量、食物や捕食者の存在などの「選択圧」によって引き起こされるのです。また、ある生物の集団が世代を重ねるごとに、環境に対応した形質を持つ集団になることを「適応進化」と呼びます。

 

そもそも、「進化」とは生物の形質が長い年月をかけて徐々に変化することです。そして、その進化は「遺伝子の変異」と「自然選択」によって引き起こされます。

自然選択が起こるプロセスとは?

自然選択は進化を引き起こす要因の1つであることを学びましたね。

それでは、自然選択が起こるまでにどういった過程を経るのでしょうか。ここでは、自然選択に至るまでのプロセスについて解説していきます。

1. 個体間の形質に変異が生じる

同じ種の中でも個体間には様々な形質があります。実は、この違いは「突然変異」によるものなのです。生物は子供をつくる時、親の遺伝子がコピーされて、それが子供に引き継がれるのですが、そのコピーで時々わずかなミスが生じてしまいます。このミスが「突然変異」に当たるのです。これにより、同じ種でも少しずつ形質が異なってきます。

2. 形質が遺伝する

突然変異した遺伝子の中には、次の世代に引き継がれるものがあり、この引き継ぐことを「遺伝する」と言います。進化が起こるには、遺伝子で決まる形質が世代を経て伝えられる必要があるのです。

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3. 生存や生殖に有利な形質が生き残る

遺伝した変異の中には、子孫を多く残すことや生存しやすいものがあり、それにより個体間で差が生じます。生物は自然環境によって、より生存や生殖に有利な個体が選ばれたように他個体との生存競争に勝ち生き残るのです。これが「自然選択」に当たります。

中立説とは?

中立説は、1968年に木村資生によって発表された学説で、発表当初は自然選択説との間で激しい論争が起こりました。この説は、分子レベルの遺伝子の変化のほとんどは、生存や生殖に有利でも不利でもなく、中立的なものであり、これが偶然残ることで進化するという考えを言います。自然選択説ではある変異が有利か不利かハッキリと白黒をつけますが、中立説はほとんどの変異は中立的だと言うのです。しかし現在、両説は並存することになり、現在の進化論が確立しました。ここからは、両者の具体的な違いを解説していきます。

中立説との違いは「表現型レベル」か「分子レベル」に注目すること

中立説が発表される少し前に、DNAやアミノ酸、タンパク質が解析され、それらが形質に現れないような遺伝的変異を起こしていることが明らかになりました。このことから、中立説では「分子レベル」の遺伝子の変化に着目し、そのほとんどが表現型に影響を与えないことから、生物に起こる大部分の変異は生存にとって有利でも不利でもないとしたのです。その中立的な変異を起こした遺伝子はみな平等に次の世代に偶然残るチャンスがあり、たまたま集団内に定着することで進化が起こる(遺伝的浮動という)と考えました。

一方で、自然選択説は「表現型レベル」に注目した進化論であり、表現型に現れる遺伝子の突然変異の中で、環境に適した変異が選ばれて、それが集団内に広まり定着して進化が起こることを意味するのです。

このように、両説は注目するレベルが違っていたのですね。

自然選択の事例

実際に自然選択に関連する事例が、様々な時代に世界中で報告されているそうです。ここでは、有名な4つの自然選択の実例をご紹介します。

1. オオシモフリエダジャクの工業暗化

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イギリスでは、19世紀後半から工業が発展し、それに伴って工業地帯におけるオオシモフリエダシャクの体色に変化をもたらしました。工業地帯になる前は田園地域が広がっており、その時のオオシモフリエダシャクの体色は白っぽい色(明色型)をしていたのです。田園地域の樹皮は白っぽい地衣類で覆われており、オオシモフリエダシャクは身を隠すために、樹皮の表面と同じ色の体色をしていました。しかし、工業化が進んだ地域の樹木の表面には地衣類が生息しなくなり、黒っぽい樹皮がむき出しになったのです。そのため、白色のオオシモフリエダシャクは天敵に見つかりやすく、生存に不利になりました。その代わり、樹木にカモフラージュしやすい黒色のオオシモフリエダシャク(暗色型)が増加し、工業地帯では明色型から暗色型のオオシモフリエダシャクに置き換わったのです。

これは自然選択によってもたらされて結果であり、この現象を「工業暗化」と呼ばれます。

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2. フィンチの分化

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ガラパゴス諸島とココ島にはダーウィンフィンチ類と総称される小形鳥類が存在します。それらの祖先は共通しているのですが、種間でくちばしの大きさや形が少しずつ異なっており、それぞれ異なる食物を食べるのです。これは、食料が選択圧として強く作用したと考えられます。

3. 鎌状赤血球症とマラリア

アフリカ西部ではマラリアが多発しているのですが、その地域で生活している多くの人々はこのマラリア原虫に対して耐性があります。なぜ、マラリア原虫に対する耐性があるのかを研究したところ、その人たちに「鎌状赤血球症」の遺伝子を持っていることが明らかになりました。鎌状赤血球症とは、遺伝子の突然変異によって赤血球が鎌状(三日月状)に変形し、これが毛細血管に詰まることで貧血を起こし、死に至る病気です。鎌状赤血球症の遺伝子をホモ接合で持つと、死に至るほどの深刻な貧血をもたらしますが、ヘテロ接合の場合、軽度な貧血で済むうえ、血液中に侵入してきたマラリア原虫を破壊し発病しにくくなります。

アフリカ西部の人は、突然変異で生じた鎌状赤血球症の遺伝子のお陰でマラリアから身を守ることができ、今では多くの人々が鎌状赤血球症の遺伝子を持っているのです。

4. グッピーの体色

グッピーは生息する環境に大型捕食者多くいるかいないかで、集団の体色の色が変化します。大型捕食者が少ない環境で生息するグッピーの体色は、オスはメスへの求愛のために派手な色であり、大型捕食者が多くいる環境に生息グッピーの場合、見つけられないように目立たない体色を呈するのです。

ある実験では、採取したグッピーをしばらく一緒にした後、大型捕食者がいる区画といない区画の2グループに分けて、その後の世代の体色の変化を観察しました。すると、大型捕食者がいない区画に生息するグッピーのオスは世代を重ねるごとに派手な体色になり、逆に大型捕食者がいる区画のグッピーのオスは地味な色になっていったのです。

このことから、グッピーの体色は捕食圧の大きさで左右されることが分かりました。

生物進化の考え方の移り変わり

生物進化の考え方は、長年多くの研究者の間で論争が繰り広げられました。ここでは、進化の考え方に影響を与えた「自然選択説」と「中立説」を含む4つの学説を紹介します。

1. ラマルクの「用不用説」

1.  ラマルクの「用不用説」

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用不用説は1809年にラマルクによって提唱された説です。この説では、「よく使われる器官が発達し、使われない器官は退化する。この獲得形質が遺伝する」と考えました。上記の図のように、キリンが少しでも高いところの葉を食べるために何世代に渡って首を伸ばし続けたことで、首が伸びたとしたのです。これは、つまり獲得形質が遺伝することを意味します。

後々、獲得形質は遺伝しないことが明らかになり、現在では用不用説は否定されましたが、生物進化の概念を初めて体系的に示したとして、進化論の発展に大きく貢献しました。

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2. ダーウィンの「自然選択説」

2.  ダーウィンの「自然選択説」

image by Study-Z編集部

ダーウィンの自然選択説の成立は、ガラパゴス諸島における調査で、近縁な種にも形質に少しずつ違いがあることがヒントになりました。

上記の図のように「用不用説」と異なり、長い首と短い首のキリンが混在し、生存に有利な長い首の個体が、何世代にも渡って生き残った結果、キリンの首は長くなったとしたのです。つまり、様々な形質が存在し、生存や繁殖に有利なものが子孫を残すことで進化が起こったということになります。このような考えで自然選択説が成立しました

3. ド・フリースの「突然変異説」

ド・フリースは、12年間にわたるオオマツヨイグサの形質の観察から、突然変異体が生じることと、交雑実験から突然変異体の形質が次世代に伝わることを発見しました。このことから、進化が起こるのは、突発的に起こる遺伝子の変異のためだとしたのです。

4. 木村資生の「中立説」

1968年に木村資生によって、DNAの塩基配列やアミノ酸、タンパク質の変化は生存に有利でも不利でもないものがほとんどであるという「中立説」が発表されました。この説の登場により、それまでの進化論に大きな影響を与えたのです。

自然選択による進化は個体が意識的に行っているわけではない!

自然選択説とは、様々な形質の中から生存や生殖に有利な形質が生き残り、不利なものは排除されることで進化するという考え方でした。中立説が出てから、分子レベルの遺伝子の変異には有利・不利がなく、偶然残ることで進化が起こるという考え方も生まれましたね。いずれにしろ、個体が「生き残りたい!」と思って生息環境に合う形質に変わったのではなく、様々な遺伝子の変異から、たまたま、その環境での生存に有利な形質が、もしくは中立的な変異が残るのです。

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理科生物生物の分類・進化

自然選択説とは?中立説との違いや具体例についても現役理系学生がわかりやすく解説

みんなは自然選択説とはどいう学説なのか知っているか。生物進化を起こす大きな要因でありますが、果たしてどのような役割を果たすのでしょうか。今回は、自然選択説とは何か、具体的な実例や中立説との違い、今日の進化の考え方について生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

自然選択説って何?

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「自然選択説(しぜんせんたくせつ)」もしくは「自然淘汰説(しぜんとうたせつ)」は、ダーウィンが唱えた、自然選択によって生物は進化するという説です。「自然選択」とは、ある集団にいる個体のうち、少しでも有利な形質を持つ個体が生き残り、子孫を多く残すことを言います。

自然選択は温度や降水量、食物や捕食者の存在などの「選択圧」によって引き起こされるのです。また、ある生物の集団が世代を重ねるごとに、環境に対応した形質を持つ集団になることを「適応進化」と呼びます。

 

そもそも、「進化」とは生物の形質が長い年月をかけて徐々に変化することです。そして、その進化は「遺伝子の変異」と「自然選択」によって引き起こされます。

自然選択が起こるプロセスとは?

自然選択は進化を引き起こす要因の1つであることを学びましたね。

それでは、自然選択が起こるまでにどういった過程を経るのでしょうか。ここでは、自然選択に至るまでのプロセスについて解説していきます。

1. 個体間の形質に変異が生じる

同じ種の中でも個体間には様々な形質があります。実は、この違いは「突然変異」によるものなのです。生物は子供をつくる時、親の遺伝子がコピーされて、それが子供に引き継がれるのですが、そのコピーで時々わずかなミスが生じてしまいます。このミスが「突然変異」に当たるのです。これにより、同じ種でも少しずつ形質が異なってきます。

2. 形質が遺伝する

突然変異した遺伝子の中には、次の世代に引き継がれるものがあり、この引き継ぐことを「遺伝する」と言います。進化が起こるには、遺伝子で決まる形質が世代を経て伝えられる必要があるのです。

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