カルボキシ基とカルボキシル基の区別はちゃんとついているか?まさかカルボニル基と混同してい無いでしょうな?
今回は、基本的な官能基であるカルボキシ基について、ちょっとだけ大学で習う内容も踏まえながら、その特徴と反応についての内容です。大学院入試試験でも有機化学を選択したほど、化学に詳しいライター小春と一緒に解説していきます。

ライター/小春(KOHARU)

見た目はただの主婦だが、その正体は大阪大学大学院で化学を専攻していたバリバリの理系女子。大学院卒業後はB to Bメーカーで開発を担当し、起きている現象に「なぜ?』と疑問を持つ大切さを実感した。

1分で分かるカルボキシ基

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まずはカルボキシ基についてざっくり復習していきましょう。

カルボキシ基とは?

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カルボキシ基は官能基の一種で、一般にR-COOHまたは-COOHで表されます。

カルボキシ基の含まれる化合物は自然界に豊富に存在している化合物の1つです。液性は弱酸性で、有名なものでは酢酸、ギ酸、安息香酸、クエン酸が挙げられ、これらはカルボン酸と総称されます。

カルボキシ基?カルボキシル基?どっちが正解?

カルボキシ基は以前、カルボキシル基とも呼ばれていましたが、遊離基と置換基の呼び名を分けるため、現在は呼び名がカルボキシ基に統一されました

カルボキシ基を構成しているカルボニル基(carbonyl group)とヒドロキシ基(hydroxyl group)の名称を合わせて縮めたものがカルボキシ基(carboxyl group)というわけですね。

カルボキシ基のpKaは3〜5

酸解離定数(pKa)は数字が小さいほど強い酸であることを表しています。なぜならば、酸解離定数は水中における水素イオンの放出しやすさを表しているからです。

pKaに似たような言葉でpHといえば分かりやすいでしょうか。pHとpKaは違うものを指しますが、長くなるのでここでの説明は割愛します。pKaの値が小さいほど酸性度が高いことだけ覚えてください。カルボン酸のpKaは3〜5程度です。

カルボキシ基による物理的性質

カルボキシ基中のヒドロキシ基は水溶液中の水分子と水素結合をつくります。これだけ聞くとカルボン酸はすべて親水性で水に溶けやすいようですが、実際は炭素の数が多い高級カルボン酸(いわゆる脂肪酸)は水に対する溶解度が低いです。

また、電離していないカルボキシ基は、水素結合によって二量体を形成して引きつけ合う性質を持っています。このため、分子量が同程度であれば融点や沸点も同程度なのが一般的ですが、カルボキシ基は同じくらいの分子量のアルコールやアルカンに比べて沸点や融点が高いのです。

\次のページで「カルボキシ基の化学的性質」を解説!/

カルボキシ基の化学的性質

カルボキシ基の化学的性質について深掘りしていきます。カルボン酸は反応しやすいので、化学反応の起点となることも多いです。大学レベルの化学の話も出てきますが、完全に理解はできなくても頭の片隅で覚えておくと良いかもしれません。

カルボキシ基とヒドロキシ基の関係

カルボキシ基とヒドロキシ基の関係

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さて、問題です。ギ酸(HCOOH)の官能基はなんでしょうか?正解はカルボキシ基ですが、なぜカルボニル基やヒドロキシ基ではないのかと疑問に思ったことはありませんか。

カルボキシ基-COOHを構成しているのはカルボニル基 -COとヒドロキシ基 -OHですが、分子全体の特性はカルボキシ基による影響が大きく、多官能基化合物(分子内に複数の官能基をもつ化合物のこと)とは呼べません。

最も単純な構造を持つ多官能基化合物は、グリシンが挙げられます。グリシンはアミノ基とカルボキシ基を持っている多官能基化合物です。

余談ですが、多官能基の命名をするときには名付けの優先順位が決められています。カルボン酸>エステル>アミド>アルデヒド>ケトン>アルコール>アミンの順でメインの性質を担っているとされ、優先順位が高いです。

弱酸遊離反応により炭酸水素ナトリウムを加えたら発泡する

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カルボン酸の検出反応は簡単で、炭酸水素ナトリウム(重曹、NaHCO3)を加えた時に泡が出るかどうかです。弱酸からなる塩と強酸を混ぜ合わせると、弱酸が生じているこの反応を弱酸遊離反応と呼びます。発生した泡の正体は二酸化炭素というわけです。カルボン酸の方が炭酸よりも強いことが鍵となっています。

なぜカルボキシ基の-OH結合は電離するのか?(1)誘起効果

少し内容は難しくなりますが、カルボキシ基のO-H結合が解離しやすい理由を解説していきます。理由は大きく2つで、誘起効果と共鳴効果によるものです。

まず、誘起効果についてご説明しましょう。前提として、カルボニル基(=CO)は電子を引き寄せる性質が大きいです。こういった性質を持つ官能基を電子吸引基と呼んでいます。なぜカルボニル基が電子吸引基なのかはここでの説明を割愛しますので、そういうものだと受け入れてください。

電子を引き寄せる力が強いカルボニル基が、すぐ横のヒドロキシ基(-OH)の酸素上の電子を引き寄せてしまうので、ヒドロキシ基の酸素の電子密度が低くなって、酸素原子は水素原子の電子を引き付けることになります。

まとめると、カルボニル基の作用によって-OH結合をつくっている電子が酸素のほうに引き付けられるようになる→水素原子の周りの電子密度が低くなる→水素原子はH+として酸素から離れやすくなる、というわけです。このような効果を誘起効果と呼んでいます。

なぜカルボキシ基の-OH結合は電離するのか?(2)共鳴効果

もう1つの理由である共鳴効果について説明しましょう。水素イオン解離前のカルボン酸では、カルボキシ基の炭素と二つの酸素原子とを結ぶ結合(C-OとC=O)は、長さが違って非対称です。しかし水素イオンが解離してカルボン酸イオンになると、両者は等しい長さになるため負電荷は二つの酸素原子上に均等に分布し、より安定な状態になります。そのため、カルボキシ基にとっても水素イオンを手放した方が有利なのです。

言い換えれば、カルボン酸における水素イオンの解離は、解離してできるイオンにおいて負の電荷がより多くの原子上に分散していて安定化しているほど起こりやすいと言えます。これがカルボキシ基における共鳴による安定化のイメージです。共鳴についてより詳しく知りたい人は、いろいろ調べてみてください。

これら誘起効果と共鳴効果の2つの効果により、カルボキシ基の-OH結合は解離して-COO-とH+を生成しやすいのです。よって例えば酢酸(CH3COOH)では、メチル基(-CH3)の水素イオンは固くσ結合で繋がれていて解離でませんが、カルボキシ基の水素イオンは容易に水中で解離します。分子内の水素は周りの環境によって解離のしやすさが決まるというわけです。

\次のページで「押さえておくべきカルボン酸の反応」を解説!/

押さえておくべきカルボン酸の反応

カルボキシ基を持った化合物をカルボン酸と呼びますが、ここからはカルボン酸の有名な反応についてご紹介していきます。

1 エステル結合

1 エステル結合

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酸とアルコールの脱水縮合により得られる部分構造をもつ化合物をエステル、この結合をエステル結合と呼んでいます。カルボン酸もアルコールと脱水縮合してカルボン酸エステルとなりますね。

例えば、酢酸とエタノールに濃硫酸を加えて加熱すると酢酸エチルが生じますが、この反応は可逆反応です。

エステルに水酸化ナトリウムのような強塩基(強アルカリ)の水溶液を加えて加熱すると、カルボン酸の塩とアルコールが生成します。この反応をけん化と呼んでおり、セッケンの製造で利用される反応です。セッケンの場合は特に、油脂と水酸化ナトリウムが原料にしています。セッケンには1つの分子中に親水基と親油基が存在しているので、油を取り囲んで水中に分散することができるのです。この乳化と呼ばれる作用によりセッケンは汚れを落とすことができます。

2 アミド結合とペプチド結合

カルボキシ基とアミノ基が脱水縮合すると、カルボキシ基のOHとアミノ基のHが水分子となり抜けるので、-CONHと表せる結合ができます。これがアミド結合です。特に、脱水縮合する前の分子が2つのアミノ酸の場合、特別にアミド結合ではなくペプチド結合と呼んでいます。

アミド結合は、医薬品や生理活性化合物にも使われている重要な結合です。このためアミド結合形成については、多くの反応や試薬が存在していますし、今もより最適な方法が研究されています。

タンパク質は、20種類あるアミノ酸の中からいくつかのアミノ酸が直線上に繋げられたポリペプチド鎖からなっているのをご存知ですか?このとき、アミノ酸同士を繋いでいるのがペプチド結合です。タンパク質の端はアミノ酸とカルボン酸で、それぞれをアミノ酸末端(N末端)とカルボキシ末端(C末端)と呼んでいます。

3 分子内脱水反応

分子内にカルボン酸が2個以上ある場合もあります。総称して、1個だとモノカルボン酸、2個だとジカルボン酸という名前がありますね。

エステル結合、アミド結合などカルボン酸の脱水反応は容易に起こるものですが、分子内であっても起こるものなのです。これを分子内脱水反応と呼びます。

分子内脱水反応が起こる最もシンプルな分子には、マレイン酸、シュウ酸、フタル酸が挙げられるでしょう。特徴は、シス位など脱水されるカルボキシ基同士が近くにいることです。

カルボキシ基はカルボン酸の官能基で受験にも必須!

カルボキシル基はカルボキシ基の古い名前で、カルボキシ基はカルボン酸の官能基だという基本は理解できましたか?カルボキシ基の反応性の理由について深掘りするために、大学で習う誘起効果と共鳴効果についてもご紹介しました。

定期テストや大学受験で頻出のエステル結合、網戸結合、脱水反応についても触れましたので、ピンと来なかった方はぜひ教科書等で復習してみてくださいね。

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化学理科

カルボキシル基とは?カルボキシ基と何が違う?基本の官能基を例をあげて阪大院卒ライターがわかりやすく解説!

カルボキシ基とカルボキシル基の区別はちゃんとついているか?まさかカルボニル基と混同してい無いでしょうな?
今回は、基本的な官能基であるカルボキシ基について、ちょっとだけ大学で習う内容も踏まえながら、その特徴と反応についての内容です。大学院入試試験でも有機化学を選択したほど、化学に詳しいライター小春と一緒に解説していきます。

ライター/小春(KOHARU)

見た目はただの主婦だが、その正体は大阪大学大学院で化学を専攻していたバリバリの理系女子。大学院卒業後はB to Bメーカーで開発を担当し、起きている現象に「なぜ?』と疑問を持つ大切さを実感した。

1分で分かるカルボキシ基

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まずはカルボキシ基についてざっくり復習していきましょう。

カルボキシ基とは?

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カルボキシ基は官能基の一種で、一般にR-COOHまたは-COOHで表されます。

カルボキシ基の含まれる化合物は自然界に豊富に存在している化合物の1つです。液性は弱酸性で、有名なものでは酢酸、ギ酸、安息香酸、クエン酸が挙げられ、これらはカルボン酸と総称されます。

カルボキシ基?カルボキシル基?どっちが正解?

カルボキシ基は以前、カルボキシル基とも呼ばれていましたが、遊離基と置換基の呼び名を分けるため、現在は呼び名がカルボキシ基に統一されました

カルボキシ基を構成しているカルボニル基(carbonyl group)とヒドロキシ基(hydroxyl group)の名称を合わせて縮めたものがカルボキシ基(carboxyl group)というわけですね。

カルボキシ基のpKaは3〜5

酸解離定数(pKa)は数字が小さいほど強い酸であることを表しています。なぜならば、酸解離定数は水中における水素イオンの放出しやすさを表しているからです。

pKaに似たような言葉でpHといえば分かりやすいでしょうか。pHとpKaは違うものを指しますが、長くなるのでここでの説明は割愛します。pKaの値が小さいほど酸性度が高いことだけ覚えてください。カルボン酸のpKaは3〜5程度です。

カルボキシ基による物理的性質

カルボキシ基中のヒドロキシ基は水溶液中の水分子と水素結合をつくります。これだけ聞くとカルボン酸はすべて親水性で水に溶けやすいようですが、実際は炭素の数が多い高級カルボン酸(いわゆる脂肪酸)は水に対する溶解度が低いです。

また、電離していないカルボキシ基は、水素結合によって二量体を形成して引きつけ合う性質を持っています。このため、分子量が同程度であれば融点や沸点も同程度なのが一般的ですが、カルボキシ基は同じくらいの分子量のアルコールやアルカンに比べて沸点や融点が高いのです。

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