クロマトグラフィーって聞いたことあるか?いくつかの成分が混じってしまっている混合物の中身を検出するために行われる最も簡単な手法の1つなんです。
大学で化学を専攻した学生は、学部時代の実験でクロマトグラフィーを使うんです。100年以上前に発見された手法ですが、現代でもまだまだ通用するんです。
学生実験で実際に何種類かのクロマトグラフィーを勉強したライター小春と一緒に解説していきます。

ライター/小春(KOHARU)

見た目はただの主婦だが、その正体は大阪大学大学院で化学を専攻していたバリバリの理系女子。大学院卒業後はB to Bメーカーで開発を担当し、起きている現象に「なぜ?』と疑問を持つ大切さを実感した。

1分で分かるクロマトグラフィーの概要

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化学の発展の多くは自然界に存在する物質を元にして、物質固有の性質について研究した結果が基礎となっています。しかしながら自然界に存在する物質が純物質であることは非常に稀なため、大抵の場合は調べたい目的物質を混合物から分離しなくてはなりません

今回ご紹介するクロマトグラフィーは、こういった時に使用される分離分析の手法です。

クロマトグラフィーの仕組みが分かる身近な例

図工の時間、画用紙に絵の具を塗った後、うっかり水をこぼしてしまったことはありませんか?水が絵の具を広げてしまい大変なことになりますよね。これは水性絵の具に対して水をこぼしたために起こってしまうことなのですが、この「溶かしたいもの」を「溶かせる(運べる)もので溶かす」原理がクロマトグラフィーに利用されているのです。

クロマトグラフィーとは物質を物理的に分離する方法のこと

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分離分析の方法の総称がクロマトグラフィー(Chromatography)です。2つの相間(固定相と移動相)での物質の分配や吸着を利用して物理的に分離する方法をすべてクロマトグラフィーと呼んでいます。

先ほどの絵の具の例だと、画用紙が固定層で水が移動相です。水性ペンでも同じ実験ができますよ。例えば、同じ黒いサインペンでも、作った文房具メーカーが違えば成分は違います。サインペンのインクはいくつかの色の成分を独自の配合で混ぜてできていますが、クロマトグラフィーを使えばどんな色成分からできているか簡単に分かるのです。

クロマトグラフィーの誕生は1906年のロシア

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1906年に葉緑素の研究をしていたロシアの植物学者ツヴェットが、植物色素を分離させる方法を発見し、クロマトグラフィーが誕生しました。

ツヴェットの発見前から葉緑素が複数の色素から成り立っていることは推測されていたのですが、その組成は分からないままでした。ツヴェットが抽出した色素を立てたカラムの上に置き、上から石油エーテルを流したところ、葉緑素を色の異なる吸着帯として分離することができたのです。

このツヴェットが開発した手法は、ギリシャ語のChroma(色)とGraphos(記録)から、Chromatography(クロマトグラフィー)と呼ばれるようになりました。

クロマトグラフィーを高校化学だけで分かるように解説

ここから、相互作用の詳細などの難しい説明は省いて、できるだけ分かりやすくクロマトグラフィーの原理を説明していきます。

\次のページで「クロマトグラフィーの原理は2相との相互作用がポイント」を解説!/

クロマトグラフィーの原理は2相との相互作用がポイント

クロマトグラフィーでは2つの相を使用しますが、1つの相は固定し、もう1つの相は一定方向に移動させることからそれぞれ「固定相」「移動相」と呼んでいます。

混合物のうち固定相との相互作用が弱い成分はすぐに固定相から溶出し、固定相との相互作用が強い成分は固定相に長い時間保持されるので、混合物の各成分が試料導入点からの距離の違いとなって分離されるのです。このとき、試料導入点からの距離=固定相からの溶出時間ですので、複数の成分が混ざっていても別々の場所に溶出します。

単成分ごとに使用した固定相からの溶出時間が分かっていれば、結果を見ることで混合物に含まれていた成分が何か分かるというわけです。

クロマトグラフィーの種類と使い分け

クロマトグラフィーの種類と使い分け

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クロマトグラフィーの分類方法はいくつか種類がありますが、ここでは西川計測株式会社のHPを参考にしています。

この中でも特に有名なものは、ガスクロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーです。

クロマトグラフィー理解に必須! 薄層クロマトグラフィー

ここでは、筆者小春が実際に大学の学生実験で使用した薄層クロマトグラフィーを例に、結果の分析法についてご紹介します。クロマトグラフィーには他にもたくさん種類があってそれぞれ分析内容は異なるので、後ほど詳しくご紹介しますね。

薄層クロマトグラフィーとは?

薄層クロマトグラフィーとは?

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薄層クロマトグラフィー(以下TLC)は、混合物中の成分の固定相と移動相(液体)との親和性の違いに基づいて分離します。

TLCの固定相は、ガラス製の不活性なプレート表面にシリカゲルからなる吸着剤の薄い膜がコーティングされたものが多いです。移動相は有機溶媒であることが多いですが、解析・分離しようとしている物質に合わせて選びます。

TLCを用いる大きなメリットとしては、プレート表面に複数サンプルをのせて同じ展開溶媒で同時に分析可能なことと、高価な装置が不要なことでしょう。

薄層クロマトグラフィーの用途

薄層クロマトグラフィーの代表的な用途としては以下が挙げられます。

残留薬物、食品・環境サンプル中の抗生物質の分析
食品・化粧品中の色素、成分、防腐剤および甘味料の同定・定量
製剤処方の品質管理・純度試験
HPLC前の迅速ハイスループットスクリーニング
化学反応の確認検査

\次のページで「薄層クロマトグラフィーの原理(1)吸着プロセス」を解説!/

薄層クロマトグラフィーの原理(1)吸着プロセス

TLCプレートの片方の端にサンプルをスポットし、有機溶媒の入った密閉容器内に立てかけます。この有機溶媒が移動相です。

移動相は毛細管力によりプレート上を上向きに移動していくのですが、サンプルもこれまで吸着していた固体相を脱離して移動相に溶解し、移動相と共にプレート内を上昇します。上昇中、サンプルは固定相と移動相の間で吸着と脱離を繰り返しているので、吸着しやすさの差が移動の速度に反映されるのです。

吸着のしやすさは成分ごとに違うので、成分ごとにプレート状にスポットとして固定されます。これが吸着プロセスです。

薄層クロマトグラフィーの原理(2)Rf値

移動相がプレートの一番上に達したら、プレート上にスポットとして現れた分離された成分と各成分の保持係数(Rf値)を評価します。Rf値は成分ごとに異なる値を持っているので、この値が分かればサンプル中の成分を同定できるのです。

吸着プロセスは、極性の異なる化合物(エステル、アルコール、酸)の分離や、固定相との相互作用エネルギーに差がある構造異性体の分離に適しています。例えば、アルコールからエステルへ合成しているときであれば、生成物に対してTLCを行えばその生成物がアルコール(原材料のまま)なのか、うまく実験が成功してエステルが作れているか、一目で見分けられるのです。

しかしこの手法では「何が」サンプルに入っているかは分かっても「どのくらい」入っているかは分かりません。量を知るためにはまた別の測定法をする必要があります。

クロマトグラフィーは、化学物質の組成を簡単に素早く分析する手法

クロマトグラフィーにはたくさんの種類がありますが、その基本となる原理はどれも同じです。クロマトグラフィーは再現性よく、混合物の成分を定性的に分析することができるので、大変便利な手法ですよ。

今回は例として薄層クロマトグラフィーについて触れました。原理が面白いなと思った方は是非、ガスクロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィーについても調べてみてください。それぞれの物質の物理的性質を学ぶ重要性に気がつけると思います。

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化学理科

高校化学でも分かるクロマトグラフィー!阪大院卒ライターがわかりやすく解説!

クロマトグラフィーって聞いたことあるか?いくつかの成分が混じってしまっている混合物の中身を検出するために行われる最も簡単な手法の1つなんです。
大学で化学を専攻した学生は、学部時代の実験でクロマトグラフィーを使うんです。100年以上前に発見された手法ですが、現代でもまだまだ通用するんです。
学生実験で実際に何種類かのクロマトグラフィーを勉強したライター小春と一緒に解説していきます。

ライター/小春(KOHARU)

見た目はただの主婦だが、その正体は大阪大学大学院で化学を専攻していたバリバリの理系女子。大学院卒業後はB to Bメーカーで開発を担当し、起きている現象に「なぜ?』と疑問を持つ大切さを実感した。

1分で分かるクロマトグラフィーの概要

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化学の発展の多くは自然界に存在する物質を元にして、物質固有の性質について研究した結果が基礎となっています。しかしながら自然界に存在する物質が純物質であることは非常に稀なため、大抵の場合は調べたい目的物質を混合物から分離しなくてはなりません

今回ご紹介するクロマトグラフィーは、こういった時に使用される分離分析の手法です。

クロマトグラフィーの仕組みが分かる身近な例

図工の時間、画用紙に絵の具を塗った後、うっかり水をこぼしてしまったことはありませんか?水が絵の具を広げてしまい大変なことになりますよね。これは水性絵の具に対して水をこぼしたために起こってしまうことなのですが、この「溶かしたいもの」を「溶かせる(運べる)もので溶かす」原理がクロマトグラフィーに利用されているのです。

クロマトグラフィーとは物質を物理的に分離する方法のこと

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分離分析の方法の総称がクロマトグラフィー(Chromatography)です。2つの相間(固定相と移動相)での物質の分配や吸着を利用して物理的に分離する方法をすべてクロマトグラフィーと呼んでいます。

先ほどの絵の具の例だと、画用紙が固定層で水が移動相です。水性ペンでも同じ実験ができますよ。例えば、同じ黒いサインペンでも、作った文房具メーカーが違えば成分は違います。サインペンのインクはいくつかの色の成分を独自の配合で混ぜてできていますが、クロマトグラフィーを使えばどんな色成分からできているか簡単に分かるのです。

クロマトグラフィーの誕生は1906年のロシア

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1906年に葉緑素の研究をしていたロシアの植物学者ツヴェットが、植物色素を分離させる方法を発見し、クロマトグラフィーが誕生しました。

ツヴェットの発見前から葉緑素が複数の色素から成り立っていることは推測されていたのですが、その組成は分からないままでした。ツヴェットが抽出した色素を立てたカラムの上に置き、上から石油エーテルを流したところ、葉緑素を色の異なる吸着帯として分離することができたのです。

このツヴェットが開発した手法は、ギリシャ語のChroma(色)とGraphos(記録)から、Chromatography(クロマトグラフィー)と呼ばれるようになりました。

クロマトグラフィーを高校化学だけで分かるように解説

ここから、相互作用の詳細などの難しい説明は省いて、できるだけ分かりやすくクロマトグラフィーの原理を説明していきます。

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