今回のテーマ「五界説」について見ていこう。

生物の分類については科学や生物の授業で多少習ったかと思うが、分類するにあたっての具体的な基準は知っているか?知らなかったりよく覚えていなかったりする人もいると思うから、今回は基本的な分類法「五界説」はどんな枠組みなのか、そして現在でも使われているのかを学習していきます。

国際生物学オリンピックメダリストで、現在は医学生として勉強しているNoctilucaに解説してもらおう。

ライター/Noctiluca

高校時代に生物学の面白さに気づき、のちに国際生物学オリンピックで金メダルを受賞。現在は自分の「好き」を突き詰めるため、医学生として勉強中。

そもそも五界説の歴史とは?誰が提唱した?

五界説の内容について説明する前に、説が生まれた経緯について少し見ていきましょう。生物界の分類の見直しにおける歴史は19世紀辺りにまでさかのぼります。

生物分類における混乱、基準の見直し

image by iStockphoto

五界説が提唱される前、生物の分類には「動物」か「植物」かという基準で大別されていました。その時代ではキノコなどの菌類も植物と扱われていたのです。

しかし顕微鏡などが発明され肉眼では見えない生物の存在が認知されるようになってくると、動物・植物の基準だけでは分類できない生物たちが続々と現れます。例えばミドリムシは光合成をしますよね?これは植物の特徴です。しかし「鞭毛」という器官を持ち、これを使うことで動き回ることができるため、動物の特徴も持っています。「これは結局どっちのカテゴリに入れればいいんだ?」という問題が起こったわけです。

他にも「菌類は光合成をしないから植物とは違うのでは?」など様々な意見が交わされ、生物の分類に見直しが必要だと分類学者らは認めました。

提唱者はロバート・ホイッタカー

そして1969年、ロバート・ホイッタカーというアメリカの生物学者が生物を5つのグループに分ける「五界説」を提唱します。多少の問題点はあれど、単純明快な基準でこれまでの分類の問題点を多く解決したため、後に広く認められるようになりました。

五界説の分類基準には何が使われている?

では次に、五界説の分類基準について解説していきます。この説に使われる基準は大きく3つです。

#1 原核・真核

まず最初に使われる基準が「原核生物」か「真核生物」かです。

原核生物とは細胞内のDNAを包む膜がない生物のこと。このカテゴリには細菌全般、として「古細菌」という極限環境に生息している微生物も含まれます。

そして真核生物はDNAを包む膜、つまり「核膜」がある生物の事ですね。一般的には真核生物の方がより複雑なオルガネラ(細胞小器官)を持ち、より複雑な働きを持つ場合が多いです。

#2 単細胞・多細胞

真核生物の場合、さらなる分類へと進みます。2つ目の分類基準は「単細胞生物」か「多細胞生物」か

単細胞生物はその名の通り、1個の細胞だけからできている生物ですね。養分の取り込み、不要な代謝物の排出、さらには体を動かすための機構などが1つの細胞内に全部収まっているのが特徴です。

一方で多細胞生物は例えば人間なら栄養摂取は消化管、排泄は腎臓、体の動きは筋肉など、それぞれの役割に特化した細胞の集まりで構成されている生物の事ですね。こちらは組織ごとに役割分担をしっかりできているのでより複雑な機能を実現できます。

\次のページで「栄養摂取の方法」を解説!/

#3 栄養摂取の方法

最後に、多細胞生物は栄養摂取の方法によって3つのグループに分けられます。

1つ目は生産者と呼ばれ、光合成などで無機物(二酸化炭素など)から有機物(デンプンなど)を作り出すことができるグループです。

2つ目は消費者というグループ。こちらは有機物を捕食という形で他の生物から摂取するグループを指します。

そして最後に分解者というグループ。強力な酵素などを体外に放出して有機物を分解し、それを養分として吸収するグループの事ですね。

五界説に含まれる5つの界はそれぞれ何?

五界説に含まれる5つの界はそれぞれ何?

image by Study-Z編集部

では先程の3つの基準で生物群を分類してみましょう。分かりやすくフローチャート風にするとこちらの通りになります。

1.原核生物(モネラ)界

Scanning electron micrograph of Escherichia coli rods
By Credit: Rocky Mountain Laboratories, NIAID, NIH - NIAID: These high-resolution (300 dpi) images may be downloaded directly from this site. All the images, except specified ones from the World Health Organization (WHO), are in the public domain. For the public domain images, there is no copyright, no permission required, and no charge for their use., Public Domain, Link

原核生物のすべては1つの界にまとめられます。こちらの生物は

・核膜を持っていない
・70Sリボソーム(30Sと50Sサブユニットから成る)を持つ
・細胞壁はペプチドグリカンという物質から成る(古細菌類はあてはまりませんが、当時は未発見だった)

といった特徴を持ちますね。

2.原生生物界

Georg August Goldfuss Protozoa Infusoria Monades.jpg
By Georg August Goldfuss - http://www.philographikon.com/goldfuss.html, Public Domain, Link

次に、真核だが単細胞の生物は原生生物界に。これはホイッタカー自身も「細かく分類するのが難しいからやむなくひとくくりにした」と認めているほど多種多様な生物が含まれます。大きく共通する特徴は

・核膜がある
・80Sリボソーム(40Sと60Sサブユニットから成る)を持つ(これはすべての真核生物で同じ)
・すべての生命活動を1つの細胞で担っている

といったところです。先程の例で登場したミドリムシは真核単細胞生物のためこの界に含まれるわけですね。

3.植物界

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そしてお次は多細胞生物の分類ですね。多細胞で生産者の生物は植物界に入ります。

・核膜があり、それぞれの役割に特化した体組織を持つ(根、茎、葉など)
・光合成ができる(葉緑体を持つ)
・細胞壁の主成分はセルロース

といった形質が特徴です。

4.動物界

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多細胞で消費者の場合、それらの生物は動物界に分類されます。主な特徴として

核膜があり、それぞれの役割に特化した体組織を持つ(消化器官、循環器など)
捕食によって栄養を摂取する
細胞壁は持たない
・捕食のために運動能力が発達

が挙げられますね。

5.菌界

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最後に、分解者の多細胞生物は菌界に含まれます。

・核膜があり、それぞれの役割に特化した体組織を持つ(栄養吸収のための菌糸、胞子を作る器官など)
・酵素を体外に分泌し有機物を分解・吸収する
・細胞壁の主成分はキチン

消費者との違いは自ら動いて獲物を捕らえるのではなくあくまで周りにある有機物から栄養を吸収することに特化している点ですね。

現在、五界説の扱いはどうなっている?

発表された当時は分類学の常識を変え、広く認められた五界説。ですが、現在の分類学者たちはこの説をどう見ているのでしょうか?

分類学ではあまり使われなくなった

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現在の分類学ではDNA解析などでより正確に進化の軌跡を辿ることができ、それによって進化学的にあまり正確ではない五界説の分類法はほとんど使われなくなりました。とはいえ多くの人にとって分かりやすい簡単な分類方法ですので、教育の場ではまだしばしば取り上げられることもありますね。

現在の分類学は生物を「古細菌(アーキア)」、「細菌(バクテリア)」そして「真核生物」の3つのドメインに分ける分類が軸になっています。これはリボソームや遺伝子の変化を考慮した結果によるもので、生物の表面的な形質だけを見るより正確な分類ができますので広く使われているのです。

五界説は原初的な分類体系、ただし今ではあまり使われない

五界説はまだ分子生物学が発達していなかった時代、大きく分類学の見方を変える考えだったといえるでしょう。特に植物界と菌界を区別した功績は大きく、現在の分子生物学の観点からでもこの部分は正しかったと証明されています。

現在の分類学ではあまり使われなくなったといえど、基礎を学びたいなら五界説から入るのはセオリーですね。もっと最近の分類法を学んでみたい人はカール・ウーズの「3ドメイン説」を見てみることをお勧めします。現在でも議論が続く分類学、覗いてみれば非常に奥が深いことが分かりますよ!

" /> 「五界説」は生物の分類法!どんな基準が使われる?生オリメダリストがわかりやすく解説! – Study-Z
理科生物生物の分類・進化

「五界説」は生物の分類法!どんな基準が使われる?生オリメダリストがわかりやすく解説!

今回のテーマ「五界説」について見ていこう。

生物の分類については科学や生物の授業で多少習ったかと思うが、分類するにあたっての具体的な基準は知っているか?知らなかったりよく覚えていなかったりする人もいると思うから、今回は基本的な分類法「五界説」はどんな枠組みなのか、そして現在でも使われているのかを学習していきます。

国際生物学オリンピックメダリストで、現在は医学生として勉強しているNoctilucaに解説してもらおう。

ライター/Noctiluca

高校時代に生物学の面白さに気づき、のちに国際生物学オリンピックで金メダルを受賞。現在は自分の「好き」を突き詰めるため、医学生として勉強中。

そもそも五界説の歴史とは?誰が提唱した?

五界説の内容について説明する前に、説が生まれた経緯について少し見ていきましょう。生物界の分類の見直しにおける歴史は19世紀辺りにまでさかのぼります。

生物分類における混乱、基準の見直し

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五界説が提唱される前、生物の分類には「動物」か「植物」かという基準で大別されていました。その時代ではキノコなどの菌類も植物と扱われていたのです。

しかし顕微鏡などが発明され肉眼では見えない生物の存在が認知されるようになってくると、動物・植物の基準だけでは分類できない生物たちが続々と現れます。例えばミドリムシは光合成をしますよね?これは植物の特徴です。しかし「鞭毛」という器官を持ち、これを使うことで動き回ることができるため、動物の特徴も持っています。「これは結局どっちのカテゴリに入れればいいんだ?」という問題が起こったわけです。

他にも「菌類は光合成をしないから植物とは違うのでは?」など様々な意見が交わされ、生物の分類に見直しが必要だと分類学者らは認めました。

提唱者はロバート・ホイッタカー

そして1969年、ロバート・ホイッタカーというアメリカの生物学者が生物を5つのグループに分ける「五界説」を提唱します。多少の問題点はあれど、単純明快な基準でこれまでの分類の問題点を多く解決したため、後に広く認められるようになりました。

五界説の分類基準には何が使われている?

では次に、五界説の分類基準について解説していきます。この説に使われる基準は大きく3つです。

#1 原核・真核

まず最初に使われる基準が「原核生物」か「真核生物」かです。

原核生物とは細胞内のDNAを包む膜がない生物のこと。このカテゴリには細菌全般、として「古細菌」という極限環境に生息している微生物も含まれます。

そして真核生物はDNAを包む膜、つまり「核膜」がある生物の事ですね。一般的には真核生物の方がより複雑なオルガネラ(細胞小器官)を持ち、より複雑な働きを持つ場合が多いです。

#2 単細胞・多細胞

真核生物の場合、さらなる分類へと進みます。2つ目の分類基準は「単細胞生物」か「多細胞生物」か

単細胞生物はその名の通り、1個の細胞だけからできている生物ですね。養分の取り込み、不要な代謝物の排出、さらには体を動かすための機構などが1つの細胞内に全部収まっているのが特徴です。

一方で多細胞生物は例えば人間なら栄養摂取は消化管、排泄は腎臓、体の動きは筋肉など、それぞれの役割に特化した細胞の集まりで構成されている生物の事ですね。こちらは組織ごとに役割分担をしっかりできているのでより複雑な機能を実現できます。

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