今回は「生理食塩水」について見ていこう。生理食塩水は医療や実験など様々な場面で使用されているが、これからの時期は花粉症にも有効です。この記事では生理食塩水について、大学で生物学について研究し、現在も研究者として活動しているライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学院で体の仕組みについて研究し、現在も研究者として活動を続け多くの研究成果を出すべく日々奮闘している。

生理食塩水ってどんなもの?ザックリと解説

Otsuka Normal Saline.JPG
靖太郎 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

食塩(塩化ナトリウム)は血清の無機成分の90%以上を占め、細胞外液の浸透圧の維持に係る主要な因子です。ヒトの体液とほぼ等張に作られた食塩水を生理食塩水(英語ではSaline、実験ではPBS)と呼びます。生理食塩水は体液と等張であることにより、ヒトの細胞との親和性が高いです。

また、それぞれの生物の血液と等張に調製した食塩水を、生理的食塩水と言います。例えば、私たち哺乳類では0.85~0.9%の濃度に調製された食塩水が生理食塩水になりますが、両生類などの冷血動物では0.6 ~0.7%程度です。

生理食塩水はなぜいいのか?

生理食塩水は体液の浸透圧と同じであるため、浸透圧調節による細胞への水分の流出や流入が起こりにくく、細胞との親和性が良い液体です。細胞への負担があまりないなく、体にやさしい塩水と考えられています。そのため、医療の現場でも使用されているのです。

浸透圧調節の効果がある

浸透圧調節の効果がある

image by Study-Z編集部

浸透圧とは液体が半透膜越しに水を引き込む力のことです。例えば、濃度の異なる水を半透膜で隔てると、水は半透膜を自由に移動しますが電解質は通さないため、濃度の低い方(浸透圧の低い)から濃度の高い方(浸透圧の高い)に水が移動します。その結果、濃度の低い方は水が減り濃度が上がり、濃度の高い方は水が増えることで濃度が下がり、見かけ上は同じ濃度(浸透圧も同じ)になるのです。浸透圧を一定に保つための調節作用を浸透圧調節といいます。

私たちの体のなかでも浸透圧調節は行なわれおり、私たちの体液ではナトリウムが電解質としてその役割を果たしているのです。

浸透圧調節が崩れると細胞が水分を含みすぎて膨張し、破裂したり、逆に水分が失われてしまいます。そのため体液と等張である生理食塩水は浸透圧を保つために重要になのです。

生理食塩水は脱水症状に有効

生理食塩水は体が脱水時の水分補給にも有効です。医療の現場では脱水症状気味の患者さんに生理食塩水を点滴で投与することもあります。私たちの体の60パーセントから70パーセントは水分でできており、常に水分を十分に摂取する必要がありますが、効率的な水分補給には体への浸透しやすさが大事だからです。

また、経口補水液やスポーツドリンクなどの糖分とナトリウムを含んだ飲料が運動などの汗をかいた際の給水に推奨される理由には、主に2つあります。体液を等張に保つために必要なナトリウムが含まれているので汗で失われたナトリウムを補給できることと、糖分が含まれていることで腸管での水分吸収をが促進されることです。主要な糖であるブドウ糖は、腸管内でナトリウムが同時にあると速やかに吸収され、それらに引っ張られ水分も吸収されるというのがそのメカニズムになります。

なぜ水ではダメなの?

普段生活しているときの水分補給は水でも問題ないですが、運動で汗を大量にかいたときなどはダメです

汗を大量にかいたときは水分と同時に血液中のナトリウムも一緒に放出されています。水だけを飲むと血液のナトリウム濃度が薄まってしまい、体は水を飲まないようにしたり、余分な水分を尿として排泄することで、血液中のナトリウム濃度を保とうとするのです。その結果、汗をかく前の体液の量を回復できなくなり、血液循環などの体の基本的な機能や運動能力の低下、体温上昇などが起こり熱中症に繋がってしまいます。

そのため、失ったナトリウムを補給するためにも生理食塩水の方が水よりも適しているのです

\次のページで「生理食塩水の作り方」を解説!/

生理食塩水の作り方

生理食塩水の作り方

image by Study-Z編集部

薬局やドラックストアでも購入できますが、塩と水さえあれば簡単かつ安価に作ることができます。1Lの生理食塩水を作る際に必要になるものは、水1Lと食塩(塩化ナトリウム、NaCl)9gだけです。

手順1:1Lの水を沸騰させる~作り方を工程ごとに解説~

1Lの水を一度、沸騰させます。水道水をそのまま使用することもできますが、水道水をそのまま使うと雑菌が繁殖する可能性があるので注意が必要です。

なお、実験的には水を「蒸留」させて不純物を除去した蒸留水を使います。

手順2:食塩9gをお湯に溶かします~を作り方を工程ごとに解説~

食塩9gを先程のお湯に溶かします。計量スプーン小だと1.5杯分です(サラサラとした塩である食塩・精製塩は1杯約6gです)。これで溶液が冷めたら完成です。

生理食塩水の使用例

通常の生活ではほとんど使用することのない生理食塩水ですが、主に医療や実験の際に使用されています。

\次のページで「使用例1:点滴」を解説!/

使用例1:点滴

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細胞外液欠乏時、ナトリウム欠乏時、クロール欠乏時などの点滴に使用されている。嘔吐、下痢あるいは熱中症などで脱水症状になった患者さんの水分補給のための点滴などにも使用されています。

使用例2:注射

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注射で投与する多くの薬剤(抗生物質やワクチンなど)は生理食塩水で溶解したり、希釈してから使用しているのです。

多くの方が接種した新型コロナウイルスのワクチンも生理食塩水に溶解した後に接種しています。

使用例3:実験

主に動物の組織、細胞や実験用器具の洗浄に使用されますが、溶液の希釈の際に使用することもあります。

生理食塩水で鼻うがいは花粉症予防に有効?

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春が近づくとやっかいになってくる花粉症ですが、生理食塩水による鼻の洗浄 (鼻うがい)で症状が軽減できます。粘液 (鼻水) の層を薄くしてはがれやすくするとともに、炎症を引き起こすアレルゲンを鼻から取り除く効果があると考えられている。また、鼻うがいでは花粉だけでなく鼻の中のほこりやウイルスなども洗い流せ、鼻の中を清潔にできる効果もあります。生理食塩水による鼻の洗浄は、スプレーやポンプ、噴射器などを用いて行うのが一般的です。

鼻うがいの方法

1. 食塩水を人肌の温度にする。
2. 鼻の穴に差しこめるような、ノズルのついたボトルに生理食塩水を入れ、 一方の鼻を指で押さえつつ、前かがみの状態からやや上を向き、20ml程度を鼻に流し込む。
3. 鼻から生理食塩水を出しす。
4. 逆側の鼻も同様に行い、これを2~3回繰り返す。

※上記を1セットとして、1日2~3セット行うといいでしょう。ただしやり過ぎると粘膜が傷つくので注意が必要です。

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生理食塩水は私たちの体にやさしい塩水

生理食塩水は私たちの体と同じ等張液。塩と水で容易に調製が可能であり、多くの用途に使用できるので使い方を知っていると便利です。ただし、運動などで汗をかいたときには生理食塩水よりもスポーツドリンクや経口補水液の方が有効ですので注意しましょう。

イラスト引用元:いらすとや

" /> 生理食塩水はただの塩水ではない?濃度や作り方、特徴を現役研究者がわかりやすく解説! – Study-Z
体の仕組み・器官理科環境と生物の反応生物

生理食塩水はただの塩水ではない?濃度や作り方、特徴を現役研究者がわかりやすく解説!

今回は「生理食塩水」について見ていこう。生理食塩水は医療や実験など様々な場面で使用されているが、これからの時期は花粉症にも有効です。この記事では生理食塩水について、大学で生物学について研究し、現在も研究者として活動しているライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学院で体の仕組みについて研究し、現在も研究者として活動を続け多くの研究成果を出すべく日々奮闘している。

生理食塩水ってどんなもの?ザックリと解説

Otsuka Normal Saline.JPG
靖太郎投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

食塩(塩化ナトリウム)は血清の無機成分の90%以上を占め、細胞外液の浸透圧の維持に係る主要な因子です。ヒトの体液とほぼ等張に作られた食塩水を生理食塩水(英語ではSaline、実験ではPBS)と呼びます。生理食塩水は体液と等張であることにより、ヒトの細胞との親和性が高いです。

また、それぞれの生物の血液と等張に調製した食塩水を、生理的食塩水と言います。例えば、私たち哺乳類では0.85~0.9%の濃度に調製された食塩水が生理食塩水になりますが、両生類などの冷血動物では0.6 ~0.7%程度です。

生理食塩水はなぜいいのか?

生理食塩水は体液の浸透圧と同じであるため、浸透圧調節による細胞への水分の流出や流入が起こりにくく、細胞との親和性が良い液体です。細胞への負担があまりないなく、体にやさしい塩水と考えられています。そのため、医療の現場でも使用されているのです。

浸透圧調節の効果がある

浸透圧調節の効果がある

image by Study-Z編集部

浸透圧とは液体が半透膜越しに水を引き込む力のことです。例えば、濃度の異なる水を半透膜で隔てると、水は半透膜を自由に移動しますが電解質は通さないため、濃度の低い方(浸透圧の低い)から濃度の高い方(浸透圧の高い)に水が移動します。その結果、濃度の低い方は水が減り濃度が上がり、濃度の高い方は水が増えることで濃度が下がり、見かけ上は同じ濃度(浸透圧も同じ)になるのです。浸透圧を一定に保つための調節作用を浸透圧調節といいます。

私たちの体のなかでも浸透圧調節は行なわれおり、私たちの体液ではナトリウムが電解質としてその役割を果たしているのです。

浸透圧調節が崩れると細胞が水分を含みすぎて膨張し、破裂したり、逆に水分が失われてしまいます。そのため体液と等張である生理食塩水は浸透圧を保つために重要になのです。

生理食塩水は脱水症状に有効

生理食塩水は体が脱水時の水分補給にも有効です。医療の現場では脱水症状気味の患者さんに生理食塩水を点滴で投与することもあります。私たちの体の60パーセントから70パーセントは水分でできており、常に水分を十分に摂取する必要がありますが、効率的な水分補給には体への浸透しやすさが大事だからです。

また、経口補水液やスポーツドリンクなどの糖分とナトリウムを含んだ飲料が運動などの汗をかいた際の給水に推奨される理由には、主に2つあります。体液を等張に保つために必要なナトリウムが含まれているので汗で失われたナトリウムを補給できることと、糖分が含まれていることで腸管での水分吸収をが促進されることです。主要な糖であるブドウ糖は、腸管内でナトリウムが同時にあると速やかに吸収され、それらに引っ張られ水分も吸収されるというのがそのメカニズムになります。

なぜ水ではダメなの?

普段生活しているときの水分補給は水でも問題ないですが、運動で汗を大量にかいたときなどはダメです

汗を大量にかいたときは水分と同時に血液中のナトリウムも一緒に放出されています。水だけを飲むと血液のナトリウム濃度が薄まってしまい、体は水を飲まないようにしたり、余分な水分を尿として排泄することで、血液中のナトリウム濃度を保とうとするのです。その結果、汗をかく前の体液の量を回復できなくなり、血液循環などの体の基本的な機能や運動能力の低下、体温上昇などが起こり熱中症に繋がってしまいます。

そのため、失ったナトリウムを補給するためにも生理食塩水の方が水よりも適しているのです

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