みんなは「二次遷移」という用語を聞いたことはあるか?よく一次遷移とセットで聞くが、これら2つの違いを説明できるでしょうか。今回は二次遷移の特徴、一次遷移との違い、人間による二次遷移の利用などについて生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

二次遷移って何?

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そもそも遷移(せんい)とは何を意味するのでしょうか。生物学での遷移とは、ある地域に生育する植物群落(植生)が長い年月をかけて、個体数や種が変化することを意味します。シンプルに言うと、「裸地から森林が形成されるまでの一連の流れ」ということです。

そんな遷移の中でも、山火事、洪水、がけ崩れ、森林伐採などによって、そこに生息していた植物たちが消滅した後に起こる遷移のことを「二次遷移(にじせんい)」と言います。

一次遷移の遷移過程とは?

一次遷移の遷移過程とは?

image by Study-Z編集部

二次遷移は植生が人為的、もしくは自然的な要因で破壊された後に起こる遷移のことでしたね。

一方、「一次遷移」とは火山活動や地殻変動などで生じた、生物が侵入したことがない場所から始まる遷移のことです。生物が全く存在しない場所における遷移の過程は以下のように進みます。

1.  裸地:地衣類やコケ類が侵入する。

2.  草原:草本類の植物が生長し始める。

3.  低木林:強光下で育つ陽樹の低木が出現する。

4.  陽樹林:低木だった陽樹が成長し成熟する。

5.  混交林:森林の下部の光不足により陰樹が誕生する。

6.  陰樹林(極相林):陰樹が主に生息する。

陰樹林になると、植生が安定します。この状態のことを植物学者のフレデリック・クレメンツによって「極相」と名付けられました。

なお、上記の図に示されている植物例は温暖な地域に生息しているものです。気候条件によって植生が変わることを頭に入れておいてください。

\次のページで「一次遷移と二次遷移の違いと共通点」を解説!/

一次遷移と二次遷移の違いと共通点

一次遷移と二次遷移について学びましたが、両者には似ている点と異なる点があります。ここでは、一次遷移と二次遷移の共通点と相違点を勉強しましょう。

1 共通点:遷移が裸地から始まる

一次遷移と二次遷移はどちらも植物が地表に全く存在しない裸地から始まります。ただし、1つ頭に入れていただきたいことは、「両者の遷移開始時の地表の見た目は同じであるにも関わらず、土の状態が全く異なる」ということです。詳しいことは後ほど解説しますね。

2 相違点:遷移スピード

一次遷移は、裸地から極相林に至るまで、およそ1000年もかかると言われています。一方で、二次遷移の場合は、破壊の規模にもよりますが、極相に到達するまでおよそ数百年しかかからないのです。このように一次遷移と二次遷移では遷移のスピードが大きく異なります。

なぜ二次遷移の遷移スピードが一次遷移より早いの?

二次遷移が一次遷移に比べて遷移スピードが早いのですが、それには、主に3つの理由があります。それぞれについて学習しましょう。

\次のページで「理由1 土壌の有無」を解説!/

理由1 土壌の有無

実は、同じ裸地でも、二次遷移には既に土壌が存在しており、一次遷移には土壌が存在していません。

土壌は植物の生育に無くてはならない存在なのです。土壌は水分を保持するだけでなく、植物の生育に必要な窒素、リン、カリウムなどの養分を蓄えます。また、土壌中には土壌生物も生存しており、それが落ち葉や動植物の遺骸を分解して生成された無機成分を植物の養分として受け渡すという働きも。

このように土壌があることは、植物が生育しやすい環境にあることを意味するのです。そのため、二次遷移は土壌のない一次遷移よりも遷移スピードが早いことが分かりますね。

理由2 種子や根の有無

二次遷移の土壌には養分の他にも、植生が破壊される前の植物の種子や根が既に埋まっており、しばらく経つとこれらが芽生えてきます。そのため、更地から始まる遷移である一次遷移と比べると、遷移スピードが早いのです。

理由3 周囲の植物の有無

二次遷移の場合、裸地の周りに植物が残っていることがあるのです。その植物からの種子が裸地に飛ばされることや、植物に生息する動物の排泄物に種子が紛れて、それが裸地に落とされることがあります。これらの種子の存在が二次遷移の遷移スピードを早める要因だと言えますね。

二次遷移の事例

ここからは、実際に世界中で観察された二次遷移について2つご紹介します。特に1つ目の事例は、入試でも出題されることがあるほど有名なので、しっかりと頭に入れておきましょう。

1 イエローストーン国立公園の森林火災

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1988年に北アメリカにあるイエローストーン国立公園にて森林火災が発生し、3000km2以上が焼き尽くされてしまいました。この森林火災で、最も個体数が多かったマツ科のロッジポールパインを大量に失うことになります。しかし、このロッジポールパインが持つ特殊な球果(松ぼっくり)のお陰で、10年後には多数の幼木が確認されました。実は、この球果には山火事などの高熱にさらされると開いて、種子を放出するという特性を持っていたのです。このため、放出された種子は焼け跡から発芽し、何年もの歳月をかけて幼木まで成長したということになります。元の森林の状態に戻るには、およそ200年~300年もかかるそうですよ。しかし、極相に達するまでに1000年かかる一次遷移と比べると、かなり短いことがわかりますね。

\次のページで「2 三河高原の土砂崩れ」を解説!/

2 三河高原の土砂崩れ

昭和47年7月12日から7月13日にかけて、4時間で300mm以上の集中豪雨が愛知県を襲い、三河高原に3000か所以上の土砂崩れをもたらしました。

この集中豪雨から8年後の崩壊地を観察したところ、崩壊地に新たに生えた植物は、その周囲の植生と同じものばかりだったそうです。このことから、周囲の植物からの種子が飛来してきた、もしくは土壌中に種子が埋まっていたことで、周囲と同じ植生になるように遷移が進んだことが考えられますね。

二次遷移の利用

私たち人間の生活のために、あえて二次遷移を起こして、その仕組みを利用することがあります。その代表例である「雑木林」「二次草原」について学びましょう。

1 雑木林

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里地や里山の中心的な存在である雑木林。日本では、クヌギやコナラ、アカマツなどの陽樹から構成していることがほとんどです。雑木林は伐採されて薪炭材(しんたんざい)にしたり、落ち葉を回収して堆肥に作り替えられたりなど、人間の手によって管理され、それを利用することで、遷移を止めています

2 二次草原

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日本の草原は、長い間、牧畜や農耕を営むために、「野焼き」などによって遷移の進行を止めて、人為的に維持してきました。例として、熊本県の阿蘇の草原が有名です。阿蘇では、少なくとも1000年前から、草原を利用し、維持し続けてきたと言われています。野焼きは春の彼岸を中心に一斉に野焼きが行われるそうです。この維持された草原は牛の放牧などに利用されています。

二次遷移と一次遷移は別物!

二次遷移と一次遷移の違いについて解説しましたが、両者の最も大きな違いは土壌の有無による遷移スピードの違いでしたね。二次遷移の土壌には植物の生育に欠かせない水分や養分に加え、植物の種子などが埋まっているので、圧倒的なスピードで遷移が進むのです。一次遷移との違いももちろんですが、二次遷移の利用についてもしっかりと覚えておきましょう。

イラスト引用元:いらすとや

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理科生き物・植物生態系生物

二次遷移とは?特徴や一次遷移との違いについて現役理系学生がわかりやすく解説

みんなは「二次遷移」という用語を聞いたことはあるか?よく一次遷移とセットで聞くが、これら2つの違いを説明できるでしょうか。今回は二次遷移の特徴、一次遷移との違い、人間による二次遷移の利用などについて生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

二次遷移って何?

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そもそも遷移(せんい)とは何を意味するのでしょうか。生物学での遷移とは、ある地域に生育する植物群落(植生)が長い年月をかけて、個体数や種が変化することを意味します。シンプルに言うと、「裸地から森林が形成されるまでの一連の流れ」ということです。

そんな遷移の中でも、山火事、洪水、がけ崩れ、森林伐採などによって、そこに生息していた植物たちが消滅した後に起こる遷移のことを「二次遷移(にじせんい)」と言います。

一次遷移の遷移過程とは?

一次遷移の遷移過程とは?

image by Study-Z編集部

二次遷移は植生が人為的、もしくは自然的な要因で破壊された後に起こる遷移のことでしたね。

一方、「一次遷移」とは火山活動や地殻変動などで生じた、生物が侵入したことがない場所から始まる遷移のことです。生物が全く存在しない場所における遷移の過程は以下のように進みます。

1.  裸地:地衣類やコケ類が侵入する。

2.  草原:草本類の植物が生長し始める。

3.  低木林:強光下で育つ陽樹の低木が出現する。

4.  陽樹林:低木だった陽樹が成長し成熟する。

5.  混交林:森林の下部の光不足により陰樹が誕生する。

6.  陰樹林(極相林):陰樹が主に生息する。

陰樹林になると、植生が安定します。この状態のことを植物学者のフレデリック・クレメンツによって「極相」と名付けられました。

なお、上記の図に示されている植物例は温暖な地域に生息しているものです。気候条件によって植生が変わることを頭に入れておいてください。

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