皆は両性元素という元素の性質を知っているか?
両性元素は簡単に言ってしまえば酸とも塩基とも反応する元素のことなのですが、その原理はかなり複雑です。今回は両性元素が持つ性質やその理由、覚え方などを理系単科大学出身で化学に詳しいライター「ふっくらブラウス」と一緒に解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

理系単科大学出身のライター。専攻は機械だが材料の性質、特性などを通じて化学分野の知識も学んでいる。塾講師時代の経験を活かした「シンプルで分かりやすい解説」がモットー。

両性元素は酸と塩基どちらの物質とも反応する元素

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この世の物質や元素は基本的に酸とよく反応するもの塩基とよく反応するものの2種類に大きく分かれます。しかし、中には酸とも塩基とも反応することができる元素がいくつかあるんです。それら酸と塩基どちらとも反応性がある元素のことを両性元素といいます。

両性元素の性質自体はこれで終わりなのですが、そのような性質を示す理由はかなり複雑です。今回は両性元素の原理を解説するにあたり、手始めに酸および塩基とはどのようなものかおさらいしていきましょう。

そもそも酸、塩基ってどんな物質なの?

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似たような性質を示す物質のグルーブとして酸、塩基という分類は古くから使用されてきました。酸、塩基の定義方法は、時代を経てより幅広いものに拡張されています。一番シンプルな定義はアレニウスの定理と呼ばれるものです。

アレニウスの定義では、物質が水に溶けた時に電離して水素イオンH+を生じる物質が酸、水酸化物イオンOHが生じる物質が塩基とされます。中学校の教科書にのっている酸やアルカリ(水に溶けた塩基のこと)の説明と同じものです。代表的な酸は塩酸HClや硫酸H₂SO₄、代表的な塩基は水酸化物ナトリウムNaOHなどがありますね。

一方で酸は水素イオンを大量に放出するものなので、相手に水素イオンを与える物質を酸、水素イオンを受け取る物質を塩基としてアレニウスの定義を拡張した考え方もあります。このような考え方による酸、塩基の定義がブレンステッド・ローリーの定義です。この考え方では水素イオンの受渡しをベースに考えるので、同じ物質でも相手によって酸となるか塩基となるかが変わります

両性元素の性質は電気陰性度が関係している

酸、塩基については特定イオンの振る舞いに着目することで判断できます。では、物質が酸もしくは塩基と反応するとはどのようなことを指すのでしょうか?

アレニウスの定義から、酸は水素イオン、塩基は水酸化物イオンを含む物質であると考えられますね。物質は基本的に中性なので、水素イオンを含む酸は-に帯電した陰イオン、水酸化物イオンを含む塩基は+に帯電した陽イオンと結合した形をとるんです。これら酸や塩基と別の物質が反応するということは、元の物質とは別の物質に変化、つまり結合するイオンの組み合わせが変わることを指しています。

両性元素は酸、塩基の両方とイオンの組み合わせが変化する物質ということです。酸、塩基のどちらとイオンをやり取りしやすいかを決める大きな要素として、電気陰性度というものがあります電気陰性度とは、ある原子が電子をどれほど引きつけるかを表した指標で、電気陰性度が大きい元素ほど電子を引きつけやすいです。

それでは、両性元素が酸と塩基にそれぞれ反応する過程を通じて、電気陰性度がどのように関係しているのか見ていきましょう。

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電気陰性度から考える両性元素と酸の反応

電気陰性度から考える両性元素と酸の反応

image by Study-Z編集部

上記のとおり、酸は水素イオンと陰イオンが結合した物質のことです。つまり両性元素が酸と反応するということは、言い換えれば陰イオンと両性元素が結合し直して別の物質になることと考えられます。今回は具体例として両性元素であるアルミニウムと塩酸の反応に沿って考えていきましょう。

塩酸は水溶液中において、画像のとおり水素イオンH+と塩化物イオンClに分離している状態です。ここで、ある元素が塩化物イオンと結合するためには、塩化物イオンを引き付ける必要があります。そのため、水素イオンよりも陽イオンになりやすい条件、つまり電子を放出しやすい条件を満たすことが重要です。

基本的に、電気陰性度が低い元素ほど電子を引きつけにくいため、電子を放出して陽イオン化しやすい傾向があります。そのため電気陰性度が水素>対象元素の条件を満たしている場合、酸と反応することができるんです。実際に水素の電気陰性度は2.20、アルミニウムの電気陰性度は1.61であり、条件を満たしています。

電気陰性度から考える両性元素と塩基の反応

電気陰性度から考える両性元素と塩基の反応

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一方で塩基は、基本的に水酸化物イオンと陽イオンが結合した物質です。酸と同様に考えれば、陰イオンと両性元素が結合し別の物質となるように思いますが、塩基の場合もっと複雑な変化をたどります。それでは、具体例として両性元素のアルミニウムと水酸化ナトリウムの反応を見ていきましょう。

水酸化ナトリウムは溶液中で、水酸化物イオンOHとナトリウムイオンNa+に分離します。ナトリウムは電気陰性度がかなり低い元素であり、陽イオンとなっている方が安定した状態です。そのため、水酸化物イオンはアルミニウムイオンAl3+の方へと引き付けられます。

ところが、両性元素は電子を引き付ける傾向が強いことから、周囲の水分子を構成する電子も引きつけてしまうんです。このようにある粒子を水分子が取り囲むことを水和といいます。それら水分子はより-に帯電した水酸化物イオンと置き換わることで[Al(OH)4]という錯イオンになり、ナトリウムイオンと結合するんです。

この反応で重要な点は、アルミニウムの電気陰性度がナトリウムよりも高いために水酸化物イオンを引き付けることができた点となります。つまり、塩基と反応する条件は電気陰性度が塩基の陽イオン<対象元素となっていることと考えることが可能です。

両性元素の覚え方と電気陰性度に注目した見分け方

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両性元素は酸とも塩基とも反応できるちょうど中間の電気陰性度を持った元素と言えます。特に代表的なものはアルミニウムAl、亜鉛Zn、スズSn、鉛Pbの4つです。またこれらの覚え方として「あ(Al)あ(Zn)すん(Sn)なり(Pb)」という有名な語呂あわせがあります。

しかし、これら4つ以外にも両性元素は複数存在するのですが、それらを見分ける方法はないのでしょうか。実は、電気陰性度をヒントにある程度推測することが可能です。

電気陰性度は電子の引きつけやすさを表しているので、基本的に陽イオンになりやすい金属かつ原子半径の大きい後半の元素ほど大きくなります。つまり、周期表の左下から右上に行くにつれ電気陰性度は大きくなる傾向があるんです。そして、陰イオンは非金属元素が一般的なことから非金属は電子を引き寄せやすく、電気陰性度が大きくなります。

これらの特徴を踏まえると、両性元素は周期表における金属元素と非金属元素の境目となる元素に多く含まれる傾向が読み解けるんです。実際に、例に出した4つの元素は金属と非金属の境目に位置しているほか、その近辺のヒ素やガリウムなども両性元素に含まれます。

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両性元素は酸と塩基の両方と反応する元素のこと!

両性元素は酸と塩基の両方に反応して別の物質を生成する元素のことです。

電気陰性度という、電子の引きつけやすさを示した指標が両性元素が持つ性質を左右します。酸から生じる水素イオンよりも電気陰性度が低い元素は、陰イオンと結合することが可能です。また、塩基を構成する陽イオンより電気陰性度が高いと、水酸化物イオンを引き付け錯イオンを形成する形をとります。

代表的な両性元素は4つあり、覚え方として「あ(Al)あ(Zn)すん(Sn)なり(Pb)」という語呂が登場する機会が多いです。また、両性元素は性質上金属と非金属の境目に多く分布しているので、周期表から推測することもできます。

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化学原子・元素無機物質物質の状態・構成・変化理科

両性元素とはどんな元素のこと?性質や原理、見分け方を理系ライターが5分で簡単にわかりやすく解説!

皆は両性元素という元素の性質を知っているか?
両性元素は簡単に言ってしまえば酸とも塩基とも反応する元素のことなのですが、その原理はかなり複雑です。今回は両性元素が持つ性質やその理由、覚え方などを理系単科大学出身で化学に詳しいライター「ふっくらブラウス」と一緒に解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

理系単科大学出身のライター。専攻は機械だが材料の性質、特性などを通じて化学分野の知識も学んでいる。塾講師時代の経験を活かした「シンプルで分かりやすい解説」がモットー。

両性元素は酸と塩基どちらの物質とも反応する元素

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この世の物質や元素は基本的に酸とよく反応するもの塩基とよく反応するものの2種類に大きく分かれます。しかし、中には酸とも塩基とも反応することができる元素がいくつかあるんです。それら酸と塩基どちらとも反応性がある元素のことを両性元素といいます。

両性元素の性質自体はこれで終わりなのですが、そのような性質を示す理由はかなり複雑です。今回は両性元素の原理を解説するにあたり、手始めに酸および塩基とはどのようなものかおさらいしていきましょう。

そもそも酸、塩基ってどんな物質なの?

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似たような性質を示す物質のグルーブとして酸、塩基という分類は古くから使用されてきました。酸、塩基の定義方法は、時代を経てより幅広いものに拡張されています。一番シンプルな定義はアレニウスの定理と呼ばれるものです。

アレニウスの定義では、物質が水に溶けた時に電離して水素イオンH+を生じる物質が酸、水酸化物イオンOHが生じる物質が塩基とされます。中学校の教科書にのっている酸やアルカリ(水に溶けた塩基のこと)の説明と同じものです。代表的な酸は塩酸HClや硫酸H₂SO₄、代表的な塩基は水酸化物ナトリウムNaOHなどがありますね。

一方で酸は水素イオンを大量に放出するものなので、相手に水素イオンを与える物質を酸、水素イオンを受け取る物質を塩基としてアレニウスの定義を拡張した考え方もあります。このような考え方による酸、塩基の定義がブレンステッド・ローリーの定義です。この考え方では水素イオンの受渡しをベースに考えるので、同じ物質でも相手によって酸となるか塩基となるかが変わります

両性元素の性質は電気陰性度が関係している

酸、塩基については特定イオンの振る舞いに着目することで判断できます。では、物質が酸もしくは塩基と反応するとはどのようなことを指すのでしょうか?

アレニウスの定義から、酸は水素イオン、塩基は水酸化物イオンを含む物質であると考えられますね。物質は基本的に中性なので、水素イオンを含む酸は-に帯電した陰イオン、水酸化物イオンを含む塩基は+に帯電した陽イオンと結合した形をとるんです。これら酸や塩基と別の物質が反応するということは、元の物質とは別の物質に変化、つまり結合するイオンの組み合わせが変わることを指しています。

両性元素は酸、塩基の両方とイオンの組み合わせが変化する物質ということです。酸、塩基のどちらとイオンをやり取りしやすいかを決める大きな要素として、電気陰性度というものがあります電気陰性度とは、ある原子が電子をどれほど引きつけるかを表した指標で、電気陰性度が大きい元素ほど電子を引きつけやすいです。

それでは、両性元素が酸と塩基にそれぞれ反応する過程を通じて、電気陰性度がどのように関係しているのか見ていきましょう。

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