今回は「自己免疫疾患」について見ていこう。この病気は免疫機能に異常が起こり、自分の免疫機能が自分の体を攻撃することで発症する病気です。ここ最近、日本でも患者数が増加しているようです。この記事では自己免疫疾患について、大学院で免疫について研究し、現在も研究者として活動しているライターポスドクランナーと一緒に解説していきます。

ライター/ポスドクランナー

大学院で免疫について研究し、現在も研究者として活動を続け多くの研究成果を出すべく日々奮闘している。

自己免疫疾患ってどんな病気?ざっくり解説!

自己免疫疾患ってどんな病気?ざっくり解説!

image by Study-Z編集部

私たち人間の体には病原体やウイルス、花粉やほこりなどの異物から身を守るための機能として免疫が備わっています。通常、免疫は体内に入ってきた異物を攻撃して排除したり、傷ついた細胞を修復したりすることで、私たちの体を健康に保ってくれている。

ところが、なんらかの原因によって、この免疫機能に異常が生じると、本来守るべき自分自身の細胞や組織を異物として認識し、攻撃してしまい、身体の様々な部位に病気を発症する。これが自己免疫疾患です。

検査・診断、治療法

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自己免疫疾患は血液検査と症状に基づく医師の判断により診断されます。自己免疫疾患の多くが免疫系の異常が原因となり発症する病気であるため、免疫機能を正常にすることを目的としてデキソメタゾンなどの免疫抑制剤や免疫グロブリン、炎症を和らげるためにステロイドなど抗炎症薬の投与が一般的です。

しかし、多くの場合は、発症してからかなりの時間経過を経て疾患と認識されるので、非常に治りにくく、治療薬の効果も限定的となっている。そのため、早期の発症診断方法の確立が待たれています。

原因

残念ながら自己免疫疾患の原因は、完全には明らかにされていません。ウイルス感染や薬剤、遺伝子異常、ホルモン、ストレス、環境の変化などが関与していると推定されていますが、人それぞれです。体内のタンパク質が変化してしまい異物として認識されてしまうケースや、免疫を制御する機能に何らかの障害が起きてしまい、自分の細胞を異物として認識してしまうケースもあります。人によっては、遺伝的に自己免疫疾患を発症しやすい体質の場合もある。

自己免疫疾患のメカニズムとは?

ヒトの免疫システムは先天的に備わっている自然免疫(先天性免疫)と獲得免疫(後天性免疫)の2種類に分けられる。外敵が生体内に侵入すると、先ず自然免疫が働き外敵が侵入するのを防ぎます。それでも防御できない場合に次に獲得免疫が作動し外敵が生体内に侵入することを防いでいる。

一般的に馴染みが深いのは獲得免疫です。私たちが普段行っている予防接種(ワクチン摂取)は弱毒化あるいは不活化した抗原(ワクチン)を体内に入れることで獲得免疫の機構を使い抗体をあらかじめ作るために行います。これにより、いざという時に抗体が素早く産生されるので症状の悪化を防げるのです。

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自然免疫に異常が起こり、自己炎症疾患が起こる

自然免疫では白血球やマクロファージと呼ばれる細胞が体内に侵入した異物を取り込み、消化し、分解します。この自然免疫は自己免疫疾患の要因とはあまり考えられていません。遺伝子の変異などで自然免疫系に異常が起こり、過剰な免疫反応が起こり臓器障害を生じる病気は自己炎症性疾患と呼ばれます。

自己免疫疾患では自己抗体や自己反応性Tリンパ球などを認めますが、自己炎症性疾患では自己抗体や自己反応性Tリンパ球は認めないのが違いです。

獲得免疫の異常が自己免疫疾患の原因になる

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Made, for the sake of free knowledge to all mankind, by Mikael Häggström (User:Mikael Häggström);tossh_eng for some ja labels - http://en.wikipedia.org/wiki/Immune_system, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

獲得免疫では外敵(抗原)が侵入すると、免疫の司令塔であるリンパ球の一種のT細胞がB細胞に対して、抗原に対応する抗体を産生するようにシグナルを送ります。抗体は抗原と結合し、それをマクロファージなどが細胞内に取り込んで分解し、排除する。この獲得免疫の異常によって引き起こされるのが自己免疫疾患です。

近年の研究では、T細胞やB細胞の機能に異常が起こり、自分の体にある組織や細胞を異物として認識し、攻撃するようになると考えられています。T細胞に関する研究をもとに、自己免疫疾患の治療薬の開発が、現在、盛んに進められているところです。

自己免疫疾患の代表例

自己免疫疾患の代表例

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自己免疫疾患は数多くの病気を含む包括的な概念です。自己免疫疾患は全身の組織に炎症が起こる「全身性自己免疫疾患」と、特定の臓器を攻撃する抗体によって臓器の機能がおかされる「臓器特異的自己免疫疾患」に大別される。

全身性自己免疫疾患では体中のどこにでもあるような抗原に対して免疫反応が起こるのに対して、臓器特異的自己免疫疾患では臓器の中の特定の組織中の抗原に対して自己免疫反応が起こるのが違いです。どちらの場合も、標的となった臓器や組織に慢性的な炎症が起こってリンパ球や食細胞が浸潤し、組織が破壊されます。

バセドウ病、橋本病、1型糖尿病、シェーグレン症候群、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病、多発性硬化症、自己免疫性溶血性貧血、潰瘍性大腸炎などが自己免疫疾患の代表例です。

その1:バセドウ病、橋本病

バセドウ病や橋本病ではどちらも甲状腺が異物として認識され、障害を受け動悸、発汗、むくみ、疲労感などの症状が出現します。バセドウ病は甲状腺を異物とみなして産生された抗体(TSHレセプター抗体)が、甲状腺を刺激することで甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、身体の新陳代謝が活発になり過ぎる病気です。一方の橋本病は、甲状腺を異物とみなして産生された抗体(抗サイログロブリン抗体、抗マイクロゾーム抗体)が、甲状腺自体の細胞を破壊して起こります。甲状腺の破壊により甲状腺ホルモンの分泌が減り、身体の新陳代謝は停滞してしまう病気です。

その2:1型糖尿病

1型糖尿病はインスリン分泌の機能を担う膵臓のβ細胞が障害により、インスリンの分泌不全が起こること発症します。通常はインスリンの作用によって細胞内にブドウ糖が取り込まれ、エネルギー源として利用されるのですが、インスリンの分泌不全が起こるとブドウ糖が細胞内に取り込まれなくなるので血糖値が上昇する。口渇、多飲、多尿、体重減少などが症状として認められます。

\次のページで「その3:関節リウマチ」を解説!/

その3:関節リウマチ

関節リウマチでは関節の内面を覆っている滑膜に炎症が起こります。そうすると滑膜が増殖して周囲の軟骨や骨を溶かし関節に長期間にわたって炎症が起こることで、結果として関節が破壊され関節の腫れ、変形脱臼、こわばり、痛みなどが現れる。

アレルギーは自己免疫疾患ではない?

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アレルギーも免疫機能に異常が生じた状態ですが、花粉症などのアレルギーは自己免疫疾患ではありません。この2つの病気の大きな違いは、免疫が体内の物質に反応するのか、外から侵入してきた物質に反応するのかにあります。アレルギーは免疫が外から侵入してくる無害な物質にまで反応してしまい、免疫反応が過剰に起こっている状態なのです。

自己免疫疾患とコロナウイルスの関連性は?

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自己免疫疾患の人が新型コロナウイルスにかかりやすいといった報告はありません。ただ、感染すると重症化する恐れもあるので予防は重要です。一部研究では新型コロナウイルス感染後の息切れ、頭痛、咳、倦怠感、認知機能障害、ブレインフォグ(頭にもやがかかったような状態)、筋肉痛などの慢性的な後遺症の原因に自己免疫疾患が関与している可能性が示唆されていますが、明確な答えは出ていません。

また、これまでに1億人以上の日本人が行なっているワクチン接種ですが(2022年2月17日 現在)、現在のところ世界的にみてもワクチン接種に伴う、自己免疫疾患の報告はありません。一般的に感染症に伴い認められる自己免疫疾患は、感染後数週間以内に発症することから、ワクチン接種による副反応が数年たってから起こるということはほぼないと思われる。本人の意思や症状に応じた主治医との相談もあると思いますが、自己免疫疾患で治療中の患者さんであってもワクチン接種が推奨されています。

自己免疫疾患は突然、誰にでも起こりうる病気

自己免疫疾患は突然、誰にでも起こりうる病気です。日本でも患者数は年々増加しています。あなたの身近にも病気で苦しんでいる人がいるかもしれません。その原因は薬剤、感染症、ストレスと様々です。周りへの理解と共にバランスの取れた食事、運動、質のいい睡眠など健康的な生活を送ることで予防していきましょう。

イラスト使用元:いらすとや

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タンパク質と生物体の機能体の仕組み・器官理科生物

自己免疫疾患とは一体何?原因や症状、アレルギーとの関係などを現役研究者がわかりやすく解説

自然免疫に異常が起こり、自己炎症疾患が起こる

自然免疫では白血球やマクロファージと呼ばれる細胞が体内に侵入した異物を取り込み、消化し、分解します。この自然免疫は自己免疫疾患の要因とはあまり考えられていません。遺伝子の変異などで自然免疫系に異常が起こり、過剰な免疫反応が起こり臓器障害を生じる病気は自己炎症性疾患と呼ばれます。

自己免疫疾患では自己抗体や自己反応性Tリンパ球などを認めますが、自己炎症性疾患では自己抗体や自己反応性Tリンパ球は認めないのが違いです。

獲得免疫の異常が自己免疫疾患の原因になる

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Made, for the sake of free knowledge to all mankind, by Mikael Häggström (User:Mikael Häggström);tossh_eng for some ja labels – http://en.wikipedia.org/wiki/Immune_system, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

獲得免疫では外敵(抗原)が侵入すると、免疫の司令塔であるリンパ球の一種のT細胞がB細胞に対して、抗原に対応する抗体を産生するようにシグナルを送ります。抗体は抗原と結合し、それをマクロファージなどが細胞内に取り込んで分解し、排除する。この獲得免疫の異常によって引き起こされるのが自己免疫疾患です。

近年の研究では、T細胞やB細胞の機能に異常が起こり、自分の体にある組織や細胞を異物として認識し、攻撃するようになると考えられています。T細胞に関する研究をもとに、自己免疫疾患の治療薬の開発が、現在、盛んに進められているところです。

自己免疫疾患の代表例

自己免疫疾患の代表例

image by Study-Z編集部

自己免疫疾患は数多くの病気を含む包括的な概念です。自己免疫疾患は全身の組織に炎症が起こる「全身性自己免疫疾患」と、特定の臓器を攻撃する抗体によって臓器の機能がおかされる「臓器特異的自己免疫疾患」に大別される。

全身性自己免疫疾患では体中のどこにでもあるような抗原に対して免疫反応が起こるのに対して、臓器特異的自己免疫疾患では臓器の中の特定の組織中の抗原に対して自己免疫反応が起こるのが違いです。どちらの場合も、標的となった臓器や組織に慢性的な炎症が起こってリンパ球や食細胞が浸潤し、組織が破壊されます。

バセドウ病、橋本病、1型糖尿病、シェーグレン症候群、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病、多発性硬化症、自己免疫性溶血性貧血、潰瘍性大腸炎などが自己免疫疾患の代表例です。

その1:バセドウ病、橋本病

バセドウ病や橋本病ではどちらも甲状腺が異物として認識され、障害を受け動悸、発汗、むくみ、疲労感などの症状が出現します。バセドウ病は甲状腺を異物とみなして産生された抗体(TSHレセプター抗体)が、甲状腺を刺激することで甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、身体の新陳代謝が活発になり過ぎる病気です。一方の橋本病は、甲状腺を異物とみなして産生された抗体(抗サイログロブリン抗体、抗マイクロゾーム抗体)が、甲状腺自体の細胞を破壊して起こります。甲状腺の破壊により甲状腺ホルモンの分泌が減り、身体の新陳代謝は停滞してしまう病気です。

その2:1型糖尿病

1型糖尿病はインスリン分泌の機能を担う膵臓のβ細胞が障害により、インスリンの分泌不全が起こること発症します。通常はインスリンの作用によって細胞内にブドウ糖が取り込まれ、エネルギー源として利用されるのですが、インスリンの分泌不全が起こるとブドウ糖が細胞内に取り込まれなくなるので血糖値が上昇する。口渇、多飲、多尿、体重減少などが症状として認められます。

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