今回のテーマはちょっと怖い元素、ヒ素(砒素)です。

ヒ素と聞いて何が思いつくでしょうか?ちょっとマイナーな元素ですが、1998年に日本中を震撼させた元素です。いわゆる和歌山カレー事件で使われた毒物がこのヒ素を含有する物質だったんです。ではヒ素はどんな毒なのでしょうか?

それではヒ素の性質や事件について解説していく。担当は事件当時小学生だった科学館職員のたかはしふみかです。

ライター/たかはし ふみか

危険物や毒劇物の取り扱いの資格を持つ化学系科学館職員。お前が一番危険物と言われている。子供から大人まで幅広い世代に科学の面白さを伝えたいと仕事に励んでいる。

ヒ素とはどんな元素?その性質を確認

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ヒ素は名前は知っているけどあまり知らない、という人も多いでしょう。そこでまず、どんな元素かコトバンクで調べてみましょう。

天然に遊離して産出することもありますが、雄黄(石黄)As2S3、鶏冠石As4S4、硫砒(りゅうひ)鉄鉱FeAsSなど、おもに硫化鉱物として存在します。

毒性

ヒ素の化合物は有毒で農薬用に使われるが、生物への蓄積を恐れて他のものに置き換えられつつある。三酸化二ヒ素はガラスの透明度をあげたり脱色したりする目的で少量添加される。ヒ素化合物には強い毒性をもつものが多い。

用途

合金添加剤に用いられる。銅に少量加えると耐熱性を増し、鉛に加えると硬さを増すなどの特徴をもち、主として鉛‐アンチモン系の軸受合金などに添加される。最近は高純度ヒ素の用途が開けつつある。ヒ化ガリウムGaAs、ヒ化インジウムInAsなどの化合物半導体として、また半導体への添加剤として用いる。とくにGaAsは赤色あるいは赤外発光ダイオード、マイクロ波素子、集積回路、半導体レーザー、太陽電池などに用いられる。ヒ素の硫化物、高純度ヒ素の単結晶は赤外線をよく通すので赤外線写真用レンズ、フィルターなどに用いられる。

過去に事件で使われたこともあるヒ素。その化合物が強い毒性を持っているのです。一方、ヒ素は半導体の添加剤や赤外線をよく通す性質からレーザー、太陽電池などに用いられています。では、ヒ素という元素について確認してみましょう。

ヒ素As

ヒ素As

image by Study-Z編集部

元素記号 As

原子番号 33

原子量 74.92

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ヒ素の毒性

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ヒ素の化合物の一種である三酸化二ヒ素(As2O3 )、は亜ヒ酸とも呼ばれています。この三酸化二ヒ素は毒性が強く、殺鼠剤や殺虫剤、農薬として使用されてきました。ただし、安全や環境への影響を考え、最近では利用が減ってきています。江戸時代には石見銀山ねずみ捕り、という物騒な名前で呼ばれていたこともありました。ちなみに石見銀山という名前がつけられていますすが、亜ヒ酸を含む砒石は石見銀山では採られていなかったそうです。

また、海外では「poudre de succession(相続の粉薬)」「fool's poison(愚者の毒)」と呼ばれていました。これは三酸化二ヒ素が遺産相続の殺人に使われることが多かったからです。なぜ犯罪に使われたかというとヒ素には入手しやすいという利点がある一方、検出しやすく犯行がばれやすいから。つまり用意して相手に飲ませるのは簡単だけど、すぐ捕まるということなのですね。

ヒ素はもちろん、ヒ素を含む無水ヒ素、硫化第一ヒ素などヒ素を含む様々な物質が毒物に指定されています。一方、三酸化二ヒ素は悪性腫瘍や皮膚病の薬として使われてきました。以前は白血病の治療薬としても使われていたとは驚きですね。

ヒ素の事件史

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ヒ素による事件について解説します。

1955年 ヒ素ミルク中毒事件

大手メーカの粉ミルクによって起きたヒ素中毒事件。この粉ミルクには安定剤として粉ミルクに第二燐酸ソーダ(Na2HPO4)が加えられていました。この第二リン酸ソーダが安い工業用のものだったため、ヒ素が含まれていたことが原因で事件が起きたのです。大手メーカーの粉ミルクで多くの乳幼児が飲んでいたため、1万3千名もの乳児がヒ素中毒になり、130名以上の死亡者がでました。このミルクを飲んだことでその後もずっと後遺症に悩んだ被害者や、結婚や就職の際に差別を受けることとなった被害者も大勢います。

この事件からミルクを販売する企業に対して不買運動が起こりました。そして今も食の安全性について考えるときにこの事件が引き合いとされています。

1998年 和歌山毒物カレー事件

1998年に起きた通称「和歌山毒物カレー事件」。地域の夏祭でカレーに亜ヒ酸が混ぜられるという恐ろしい事件が発生したのです。カレーを食べた67人が中毒症状を起こし、小学生を含む4人が命を落としました。犯人として祭の準備に参加した夫婦が捕まっています。

毒薬についてはこちらの記事をどうぞ。

あの英雄の死因もヒ素?

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フランスの英雄として知られるナポレオン・ボナパルトの死因もヒ素だたっという説があります。

ナポレオンって誰?という人はこちらの記事を読んでくださいね。

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ナポレオンはヒ素による毒殺で亡くなった、又は壁紙に使われたヒ素によって中毒死したという説があります。壁紙にヒ素とはどういうことでしょうか?

ヒ素は以前、顔料の原料として緑色の絵の具などに含まれていたのです。1778年、ヒ素を含む酸性亜ヒ酸銅(CuHAsO3)によるシェーレグリーンという緑色の顔料がカール・ヴィルヘルム・シェーレによって合成されました。これは毒性が非常に強い物質です。また、より高い品質の顔料としてエメラルドグリーンと呼ばれる顔料が開発されました。しかしこちらにもCu(C2H3O2)2·3Cu(AsO2)2とヒ素が含まれているのです。このヒ素をカビが代謝して有機ヒ素化合物を作り、それが空気中に舞ったためこの顔料を含んだ壁紙を使う部屋の住人がヒ素中毒となりました。

フィクションとヒ素

ヒ素によってなくなる描写がリアルだと知られているのがフランス人作家フローベルによる『ボヴァリー夫人』。田舎の平凡な若い婦人が不倫、借金におぼれついに毒殺するという過激な物語です。

また和歌山毒物カレー事件をモチーフにした作品もあります。事件の捜査に協力することとなり事件を医学の面から解明した研究者の視点から事件を描いた帚木 蓬生の『悲素』 (新潮文庫) です。科学と事件の解明というと科捜研や法医学者といったイメージが強いでしょう。この作品では普段捜査とは全く関係のない研究者である医師が、和歌山県警の要請によって事件にかかわる物語です。和歌山カレー事件について知りたい人にはもちろん、研究者として社会に貢献する道を探している人にもおすすめな1冊となっています。

ヒ素と犯罪史

日常あまりなじみがなく、毒としてのイメージが強いヒ素。実際にその用途は殺鼠剤や殺虫剤、農薬などが知られています。また手軽に入手できる毒として、フィクションの世界でもおなじみです。

しかし、ヒ素は薬として使われていたこともあります。また、赤外発光ダイオード、マイクロ波素子、集積回路、半導体レーザー、太陽電池、赤外線写真用レンズといった利用方法もあるのです。

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化学理科

ヒ素とはどんな元素?隠された秘密を元素周期表マニアの科学館職員が分かりやすく説明!

今回のテーマはちょっと怖い元素、ヒ素(砒素)です。

ヒ素と聞いて何が思いつくでしょうか?ちょっとマイナーな元素ですが、1998年に日本中を震撼させた元素です。いわゆる和歌山カレー事件で使われた毒物がこのヒ素を含有する物質だったんです。ではヒ素はどんな毒なのでしょうか?

それではヒ素の性質や事件について解説していく。担当は事件当時小学生だった科学館職員のたかはしふみかです。

ライター/たかはし ふみか

危険物や毒劇物の取り扱いの資格を持つ化学系科学館職員。お前が一番危険物と言われている。子供から大人まで幅広い世代に科学の面白さを伝えたいと仕事に励んでいる。

ヒ素とはどんな元素?その性質を確認

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ヒ素は名前は知っているけどあまり知らない、という人も多いでしょう。そこでまず、どんな元素かコトバンクで調べてみましょう。

天然に遊離して産出することもありますが、雄黄(石黄)As2S3、鶏冠石As4S4、硫砒(りゅうひ)鉄鉱FeAsSなど、おもに硫化鉱物として存在します。

毒性

ヒ素の化合物は有毒で農薬用に使われるが、生物への蓄積を恐れて他のものに置き換えられつつある。三酸化二ヒ素はガラスの透明度をあげたり脱色したりする目的で少量添加される。ヒ素化合物には強い毒性をもつものが多い。

用途

合金添加剤に用いられる。銅に少量加えると耐熱性を増し、鉛に加えると硬さを増すなどの特徴をもち、主として鉛‐アンチモン系の軸受合金などに添加される。最近は高純度ヒ素の用途が開けつつある。ヒ化ガリウムGaAs、ヒ化インジウムInAsなどの化合物半導体として、また半導体への添加剤として用いる。とくにGaAsは赤色あるいは赤外発光ダイオード、マイクロ波素子、集積回路、半導体レーザー、太陽電池などに用いられる。ヒ素の硫化物、高純度ヒ素の単結晶は赤外線をよく通すので赤外線写真用レンズ、フィルターなどに用いられる。

過去に事件で使われたこともあるヒ素。その化合物が強い毒性を持っているのです。一方、ヒ素は半導体の添加剤や赤外線をよく通す性質からレーザー、太陽電池などに用いられています。では、ヒ素という元素について確認してみましょう。

ヒ素As

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元素記号 As

原子番号 33

原子量 74.92

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