化学において重要なハロゲン族、その中に「臭素」がある。この「臭素」という元素はハロゲン族の中でも特徴的な性質を持っている。そのわかりやすい性質から高校化学でも扱われ、反応式は大学受験にも登場する重要な元素です。そこで今回は性質や反応式、そして利用例について詳しく学んでいこう。実際に「臭素」を扱っている、化学に詳しいY.oB(よぶ)と一緒に解説していきます。

ライター/Y.oB(よぶ)

大学・大学院と合成化学を専攻した後、化学メーカーで研究職として勤務。実際に臭素を使った実験をしているため、性質や反応に詳しいライター。

臭素って何?

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臭素は周期表17族(ハロゲン族元素)の一つで、元素記号はBrです。英語でBromineと呼び、ギリシャ語の悪臭(bromos)と言う言葉から名付けられました。単体(Br2)はその名の通り、何とも表現しづらい独特な臭いです。

しかし、この臭素は他の元素にはない特徴や性質を持っており、化学反応において非常に重要な位置づけにいます。臭素を使った反応は理系の方々はすでに学んでいるかもしれませんね。順を追って、特徴や性質を学んだ後、利用例や化学反応式を見ていきましょう。

臭素の性質

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臭素の性質とは融点や沸点等の物理的な性質の事。物質によって物理的な性質が異なり、異なるからこそ化学反応に特徴を持たせる事ができます。臭素は他の元素にはない特異な物性と高い反応性を持つため、ぜひ知ってほしい元素の一つです。実際に物質の状態や反応性を学んでいきます。そして、発見から現在までの歴史と産出国も併せて学んでいきましょう。

性質その1 非金属で唯一常温液体

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単体で存在している元素で常温液体は臭素と水銀の2つです。つまり、非金属の中で液体は臭素のみ。これはテストに出るので必ず覚えましょう。見た目は赤褐色をしており、比重の重たい液体です。常温液体と教科書にも記載されていますが、常温・常圧で容易に揮発するので、赤褐色の気体が常時発生しています。

性質その2 高い反応性

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臭素は多くの金属・有機化合物と結合や反応を容易に起こす。強力な漂白作用や酸化剤でもあり、実際に単体の臭素を混ぜるだけで臭素化合物を合成しています。これはフェノールの臭素化反応で覚えているかもしれませんね。性質は同族の塩素やヨウ素と似ていますが、塩素より弱く、ヨウ素より強いです。

性質その3 臭素は危険

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高い反応性を持っているということはそれだけ危険という事です。皮膚に触れると腐食し爛れます。また、容易に揮発するため、吸い込む事故が起きやすい。使用には専用の設備内で必要です。危険なので法規制も多く、臭素を使用したい場合は代替品を使用するか、フラスコ内で必要な量だけを発生させる等の工夫をしています。

濃度が濃いと赤褐色のガスが目視確認できるが、少量では見えません。それでも独特な臭いと咳が止まらなくなるため、漏れているとすぐにわかります。

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臭素の歴史と資源

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臭素の発見はハロゲン族(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)の中で一番遅く、1820年代の事でした。自然界には単体として存在していなく、臭化物として主に海水に存在しています。そして1920年代にエンジン中の酸化鉛の沈積を防ぐため、モーター燃料ガソリン中に二臭化エチレンを添加する必要があった。この需要が臭素の工業利用に大きな発展を貢献したとされています。現代では医薬品業界や石油業界等の幅広い分野で利用され、なくてはならない元素の一つとなりました。

臭素の用途

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臭素は他のハロゲン族とは違う特異な物性と高い反応性を持っており、その性質が様々な分野で利用されています。車業界で発展し、その後は医薬品や石油業界、色素業界も使用している。最近では放射線防護服にも利用されており、実は臭素業界は成長が予想されている分野です。それでは臭素の具体的な用途例を見ていきましょう。

用途例その1 消化剤ハロン

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ハロンとはフロンの一種で消火剤に使用されているもの。成分はハロゲン化炭化水素で、負触媒効果によって鎮火する消化剤です。このハロンの中に臭化化合物が含まれています。原理の前に燃焼について学びましょう。火災によって生成された燃焼物は熱によってラジカル種を発生させ、このラジカルが燃焼を手助けします。ここに臭化化合物がいると、ラジカル種と結合して燃焼の促進を阻害。これが消火剤の仕組みです。ハロンは毒性が低く、消火能力も大変高く、さらには高価な機材や貴重な書類がある環境で使用できる優秀な消化剤になります。

用途例その2 紫色染料チリアンパープル

Tyrian-Purple.svg
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チリアンパープルは貝から抽出した紫色染料で、主成分が6,6'-ブロモインジゴという臭素化合物です。紫色は高い階級の象徴として使用されており、チリアンパープルの歴史は古いからあります。一説にはカエサルやクレオパトラ7世が使用していたらしいです。

インジゴは藍色で有名な染料で、インジゴブルーのインジゴは聞いた事があるかもしれませんね。これを臭素化すると光の吸収波長が変化し、紫色に見えるようになります。現在は合成方法が確立されているため、大量の貝やカタツムリから抽出する必要はないです。

用途例その3 医薬品 臭化ナトリウム

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臭化ナトリウムは鎮静剤、抗てんかん剤に利用されています。化学式はNaBr。体内でBr-が発生し、大脳皮質の知覚や運動中枢の興奮を抑制する働きをする。催眠作用や抗痙攣作用もあるため、19世紀後半から広く普及している薬剤です。臭化カリウムも医薬品として利用されているが、心臓への負担が大きい。臭化ナトリウムは心臓への負担が少なく、注射液としても使用している。

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臭素の化学反応

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臭素が化学反応にどのように影響しているか学んでいきます。テストにも出る重要なものですので、しっかり覚えましょう。テストの時は反応の原理から答えを出すのではなく、暗記をオススメします。これは高校化学の範囲で原理を学ぼうとすると、大学の物理を理解する必要です。それは非常に難しいため、関係性を覚えることが重要視しましょう。

この章では臭素の臭素化反応や臭素化合物の利用方法について学びます。

臭素化反応の化学式

臭素化反応の化学式

image by Study-Z編集部

臭素の反応と言えば臭素化反応です。ベンゼンやフェノールに単体臭素を反応させると、どの位置に臭素が置換されるでしょう。そもそも反応は電子の環境が直接影響します。そして、有機化学では炭素骨格と官能基が非常に重要です。ベンゼンにOH基をつけたフェノールは炭素骨格(ベンゼン環)に官能基(OH基)をつけたと見る事ができます。

ベンゼンでは臭素をどの位置でも置換できるが、フェノールでは全て位置で置換する事はできません。この理由は官能基が炭素骨格上の電子環境を変えてしまうため。この反応の位置が偏ってしまうことを位置選択性と言います。

臭素化合物と言えばカップリング反応

臭素化合物と言えばカップリング反応

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臭素化した化合物はどのように利用することができるでしょうか。その答えの一つが鈴木-宮浦クロスカップリングです。この反応は臭素化合物(ハロゲン化化合物)と有機ホウ素酸を炭素と炭素でつなぐことができます。有機化学では炭素骨格の構築は非常に重要なため、炭素-炭素結合の研究は今でも盛んです。2010年のノーベル化学賞を受賞したこの反応は混ぜるだけでできる簡便さと、抜群の汎用性の高さから化学業界に与えた影響は計り知れません。

臭素はつまり変換しやすい

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臭素は化学反応において非常に重要な役割を持っています。有機化学は炭素骨格の構築と官能基の変換が肝の学問です。臭素化合物から炭素骨格をカップリング反応で構築できるだけでなく、臭素化合物は臭素部分を他の官能基へ変換する手法が多く知られています。これにより直接導入できなかった官能基が臭素化すると導入できるようになるという事です。

ハロゲン族は同じような性質を持っていますが、臭素がよく使用されている理由があります。それは塩素化合物では反応性が乏しい点や、ヨウ素化合物は反応性が高すぎるため扱いが難しい可能性がある点です。扱いやすく、反応性が高い臭素化合物はとても優れています

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臭素とは危険だが、ないと困る物質

臭素は特異な物性と性質を持ち、単体は特に危険な物質です。今では臭素化する時にN-ブロモスクシンイミドを使いますが、工業的には今でも単体臭素を使用する場合があります。これだけ法規制で制限されているにも関わらず、利用するのは良い点がたくさんあるからです。そのリスクを背負うだけの性能や、次の工程の高い反応性を出してくれるのも臭素ですね。塩素とヨウ素ではやはり違います。これからも安全に付き合っていきたい元素の一つです。

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化学原子・元素理科

臭素とは一体何?臭いは?特徴や性質、化学式や利用例などを現役研究員がわかりやすく解説!

化学において重要なハロゲン族、その中に「臭素」がある。この「臭素」という元素はハロゲン族の中でも特徴的な性質を持っている。そのわかりやすい性質から高校化学でも扱われ、反応式は大学受験にも登場する重要な元素です。そこで今回は性質や反応式、そして利用例について詳しく学んでいこう。実際に「臭素」を扱っている、化学に詳しいY.oB(よぶ)と一緒に解説していきます。

ライター/Y.oB(よぶ)

大学・大学院と合成化学を専攻した後、化学メーカーで研究職として勤務。実際に臭素を使った実験をしているため、性質や反応に詳しいライター。

臭素って何?

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臭素は周期表17族(ハロゲン族元素)の一つで、元素記号はBrです。英語でBromineと呼び、ギリシャ語の悪臭(bromos)と言う言葉から名付けられました。単体(Br2)はその名の通り、何とも表現しづらい独特な臭いです。

しかし、この臭素は他の元素にはない特徴や性質を持っており、化学反応において非常に重要な位置づけにいます。臭素を使った反応は理系の方々はすでに学んでいるかもしれませんね。順を追って、特徴や性質を学んだ後、利用例や化学反応式を見ていきましょう。

臭素の性質

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臭素の性質とは融点や沸点等の物理的な性質の事。物質によって物理的な性質が異なり、異なるからこそ化学反応に特徴を持たせる事ができます。臭素は他の元素にはない特異な物性と高い反応性を持つため、ぜひ知ってほしい元素の一つです。実際に物質の状態や反応性を学んでいきます。そして、発見から現在までの歴史と産出国も併せて学んでいきましょう。

性質その1 非金属で唯一常温液体

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Greenhorn1投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

単体で存在している元素で常温液体は臭素と水銀の2つです。つまり、非金属の中で液体は臭素のみ。これはテストに出るので必ず覚えましょう。見た目は赤褐色をしており、比重の重たい液体です。常温液体と教科書にも記載されていますが、常温・常圧で容易に揮発するので、赤褐色の気体が常時発生しています。

性質その2 高い反応性

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臭素は多くの金属・有機化合物と結合や反応を容易に起こす。強力な漂白作用や酸化剤でもあり、実際に単体の臭素を混ぜるだけで臭素化合物を合成しています。これはフェノールの臭素化反応で覚えているかもしれませんね。性質は同族の塩素やヨウ素と似ていますが、塩素より弱く、ヨウ素より強いです。

性質その3 臭素は危険

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高い反応性を持っているということはそれだけ危険という事です。皮膚に触れると腐食し爛れます。また、容易に揮発するため、吸い込む事故が起きやすい。使用には専用の設備内で必要です。危険なので法規制も多く、臭素を使用したい場合は代替品を使用するか、フラスコ内で必要な量だけを発生させる等の工夫をしています。

濃度が濃いと赤褐色のガスが目視確認できるが、少量では見えません。それでも独特な臭いと咳が止まらなくなるため、漏れているとすぐにわかります。

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