今回は「退化」をキーワードに学んでいこう。退化とは、身体の不要な器官が消失していくこと。退化といっても、何万年という時間をかけて退化するものもあれば、数日ほどの短い期間に退化するものまであり、その定義の幅は広い。また、単に不要な部位がなくなるだけではなく、生物本来の限られたエネルギーを効率よく使うためにも行われている。一見、進化と退化は対義語のようにも思えるが、実は表裏一体の関係性なんです。今回はそんな、退化の詳しいしくみや、私たち人間における退化の名残りについて学生時代、獣医学部で動物のことを勉強していたライターみんちが解説していこう。

ライター/みんち

学生時代、獣医学部で動物の知識を学んだ。趣味は動物園巡り。ライターとして、初心者にもわかりやすく、質のある情報を提供できるよう、日々奮闘中。

退化とは特定の器官が縮小・消失すること!

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退化とは特定の器官や組織、あるいは性質などが縮小したり消失したりすること。長い歴史の中で退化したものもあれば、一個体の中で完結する退化もあるんですよ。まずはその2つの例をみていきましょう。

進化の過程での退化

進化の歴史の中で、長い時間をかけて身体の一部を退化させた例として爬虫類がいます。彼らの祖先は水中でエラを使って呼吸をしていましたが、陸上での生活に適応するためにエラを退化させ、肺で呼吸をするようになりました

個体発生における退化

一方、オタマジャクシがカエルになるとき尾がなくなりますよね。この場合は、個体の発生過程での退化といえます。

このように一概に「退化」といっても、その規模は大きさはケースによってまるで違うんですね。何千年、何万年の時間をかけて退化するものもあれば、個体の成長に伴い、1、2週間程度で退化する場合もあります

不要なだけじゃない!退化が起きる理由とは?

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退化が起きる理由として、特定の身体の部位がその生物にとって生きる上で不要だったためという理由は多くあります。しかし、本当はそれだけじゃないんですよ。もっと深堀りしてみていきましょう。

効率よくエネルギーを使うため

退化の理由として効率よくエネルギーを使うためというものがあります。生物は、身体を維持するためにエネルギーが必要です。例えば人は、何もしなくてもお腹がすきますよね。つまり、不要な器官をもっていると、その分エネルギーがかかってしまうんですね。そのため不要な身体の部位にエネルギーをかけるなら、いっそ退化させた方がエネルギーを節約できるんです。

\次のページで「身体の一部を特化させるため」を解説!/

身体の一部を特化させるため

身体の一部を退化させることで、浮いた分のエネルギーを他の器官に有効利用する生物もいます。例えば寄生虫は、消化器官が退化している一方で、生殖器官が異常に発達しています。消化器官に使っていた分のエネルギーを、生殖器官を発達させるために使うことで、自分の子孫を残していこうとする賢い戦略なんですね。

このように生物は自分の身体の大きさや生産可能なエネルギー量といった限られた範囲の中で、効率よくエネルギーを回していくために退化をしているんですね。

進化と退化は表裏一体!

一般的には退化の対語は進化だと思われがちですが、実際は違います。実は退化とは進化のひとつなのです。

進化=「良くなる」は間違いだった

そもそも進化とは何でしょう?「今までよりも良い性質になる」とか「強くなる」というようなイメージがありますが、実際はそうではないんですよ。

生物学的に進化とは「その環境で生きる上で効率の良いものだけが生き残れること」をいいます。同じ種類の生物でも、いろいろな形質がある中でその環境に最も適応した形質をもつものだけが生き残ることなんです。

例えばキリン。よくキリンは高いところにある植物を食べるために首を長くしたと考えられていますが、実際はそうではなく、もともとキリンの中には首が長いキリンもいれば短いキリンもいたんですよ。その中で、たまたま高い植物を食べられる首の長いキリンだけが生き残れたんです。

つまり進化とは、いろいろな形質をもつ個体がいる中で、偶然そのときの環境に最も効率がよかったものが生き残ることをいうんですね。

進化or退化は視点の違いで決まる

進化についての定義がわかったところで、退化の例をみてみましょう。

例えばペンギン。ペンギンはもともと飛ぶ力をもっていた動物ですが、約6000万年前に飛ぶ力を失いました。なぜ飛ぶ力を退化させたのかというと、海での暮らしに特化させるためだったんですよ。

ペンギンの生息地のほとんどは南半球です。南半球は海が多く、陸地にはペンギンを襲う動物たちが生息しています。また、飛ぶことは非常にエネルギーを使う行為。そのため、海での生活に特化するために泳いで主食の魚を食べたほうが、無駄なエネルギーを使わずに効率的だったんですね。

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この例をもとに進化と退化の関連性を考えてみると、空を飛べる鳥からしてみたら「退化」であり、海で魚を主食とする哺乳類からしたら「進化」といえます。このように、退化と進化は表裏一体だったんですね。

人間にも退化の名残りがあった!

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ここまでは退化の定義や退化をする理由、進化との関連性を解説してきました。なんとなく退化は特別な進化のようにも感じられますが、実はほとんどの生物は退化をして今の姿になってきているんですよ。人間も同じです。退化の結果、今の姿になりました。その証拠に、人間の身体にはいたるところに退化の名残りがあるんですよ。詳しく見ていきましょう。

祖先は尻尾がついていた

まず、人間が退化した器官で有名なのが尻尾。はるか昔の私たちの祖先には尻尾が生えていました。その名残りが腰のあたりにある尾てい骨。おしりの下にある、少し飛び出た骨が尾てい骨です。祖先はここからしっぽの骨が続いていましたが、人やゴリラはもう尻尾は生えません

でも実は妊娠4週目の赤ちゃんにはちゃんと尻尾があるんですよ。尻尾をもつ動物の場合はそのまま成長しますが、私たち人間やゴリラなど尻尾をもたない動物はプログラム細胞死によって徐々に失われていきます。進化の歴史で尻尾がなくなったという話は聞いたことがありますが、まさかお腹の中でも尻尾の退化がおきていたなんて驚きですね。

\次のページで「こんな可愛い退化の例も」を解説!/

こんな可愛い退化の例も

さらにこんな可愛い退化の例もあるんですよ。赤ちゃんの手のひらに指を入れるとぎゅっと握り返してくれることをご存じですか?これは反射的に行われるもので、「把握反射」とよばれます。生後5~6か月までこの動きは見られますが、その後、自然と失われていきますよ。このように行動においても退化はみられるんですね。

退化のうえに今の姿がある!

ここまで読んでいただきありがとうございました。今回は「退化」についてその意味合いや進化との違いについて解説してきました。退化といっても何万年もかけて行われたものもあれば、短い期間だけで終わってしまうものもあります。また、単に不要な身体の一部が失われるだけでなく、その裏側には限られたエネルギーを効率的に利用するためといった生物の生き残るための戦略があったんですね。ほとんどの生物は退化によって今の姿になっています。退化のうえに進化がおこるといっても過言ではないですね。なんとなくネガティブなイメージにも聞こえる退化ですが、実際は生物の進化になくてはならない現象だったんですね。

画像使用元:いらすとや

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体の仕組み・器官理科環境と生物の反応生き物・植物生物生物の分類・進化

退化ってなんだ?人間にも退化の名残りがある?!進化との違いについても獣医学部卒ライターがわかりやすく解説!

今回は「退化」をキーワードに学んでいこう。退化とは、身体の不要な器官が消失していくこと。退化といっても、何万年という時間をかけて退化するものもあれば、数日ほどの短い期間に退化するものまであり、その定義の幅は広い。また、単に不要な部位がなくなるだけではなく、生物本来の限られたエネルギーを効率よく使うためにも行われている。一見、進化と退化は対義語のようにも思えるが、実は表裏一体の関係性なんです。今回はそんな、退化の詳しいしくみや、私たち人間における退化の名残りについて学生時代、獣医学部で動物のことを勉強していたライターみんちが解説していこう。

ライター/みんち

学生時代、獣医学部で動物の知識を学んだ。趣味は動物園巡り。ライターとして、初心者にもわかりやすく、質のある情報を提供できるよう、日々奮闘中。

退化とは特定の器官が縮小・消失すること!

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退化とは特定の器官や組織、あるいは性質などが縮小したり消失したりすること。長い歴史の中で退化したものもあれば、一個体の中で完結する退化もあるんですよ。まずはその2つの例をみていきましょう。

進化の過程での退化

進化の歴史の中で、長い時間をかけて身体の一部を退化させた例として爬虫類がいます。彼らの祖先は水中でエラを使って呼吸をしていましたが、陸上での生活に適応するためにエラを退化させ、肺で呼吸をするようになりました

個体発生における退化

一方、オタマジャクシがカエルになるとき尾がなくなりますよね。この場合は、個体の発生過程での退化といえます。

このように一概に「退化」といっても、その規模は大きさはケースによってまるで違うんですね。何千年、何万年の時間をかけて退化するものもあれば、個体の成長に伴い、1、2週間程度で退化する場合もあります

不要なだけじゃない!退化が起きる理由とは?

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退化が起きる理由として、特定の身体の部位がその生物にとって生きる上で不要だったためという理由は多くあります。しかし、本当はそれだけじゃないんですよ。もっと深堀りしてみていきましょう。

効率よくエネルギーを使うため

退化の理由として効率よくエネルギーを使うためというものがあります。生物は、身体を維持するためにエネルギーが必要です。例えば人は、何もしなくてもお腹がすきますよね。つまり、不要な器官をもっていると、その分エネルギーがかかってしまうんですね。そのため不要な身体の部位にエネルギーをかけるなら、いっそ退化させた方がエネルギーを節約できるんです。

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