今回は細胞の中でも「核膜」に注目して学習していこうと思う。核は細胞の中で一番大きな細胞小器官です。核膜は、その核を構成している膜ということは理解しているでしょう。しかし核膜がどのような構造をしているか、どのような働きを担っているかは知らないことも多いと思うぞ。核内と細胞質を隔てるという以外にも大事な役割があるんです。
この記事では生物学に詳しい、理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、科学や生き物、生命のすばらしさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

核膜とは

image by iStockphoto

核膜とは、核と細胞質を隔てている膜のこと。核は細胞小器官の1つで、中には遺伝情報であるDNAが存在していますね。核がある細胞を真核細胞といいます。真核細胞をもつ真核生物に該当するのは、動物や植物、菌類や酵母など。ヒトももちろん、真核生物ですね。

ちなみに核膜がない細胞は原核細胞。細菌や古細菌が該当します。原核生物のDNAは核膜で包まれておらず、細胞質において他の細胞小器官と一緒に存在している状態です。

進化の過程で原核生物から誕生したのが、核を持つ真核細胞。核膜ができた経緯としては、原核生物の細胞膜が内側に入り込んだあとに細胞膜から分離し、核膜や小胞体が作られたという仮説が有力です。

核膜の構造

次に核膜の構造について説明していきましょう。核膜は電子顕微鏡で観察すると、二重膜でできていること、また核膜の外膜は小胞体とつながっていることが分かります。さらに、核膜孔と呼ばれる穴が複数存在していることが分かるでしょう。

核膜は内膜の内側から核ラミナというタンパク質でできた網目状の構造物で支えられています。この核ラミナは細胞が分裂期に入って核膜が消失する段階で分解、さらに分裂期が終わった後に娘細胞で核膜が生成される時に再生されるしくみが備わっているのです。

核膜に存在する核膜孔の構造

NuclearPore crop.svg
Original image of the Nucleus was created by User:LadyofHats. - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 2.5, リンクによる

核膜孔はいわば物質の通り道。核の内外での物質輸送は、この核膜孔を通って行き来されることになります。しかし、核膜孔はただ核膜に穴が開いているのではありません。

実は核膜孔には、核膜孔複合体と呼ばれる構造体が核膜を貫通するように存在しているのです。核膜孔複合体に存在しているのが、アウターリング構造と呼ばれるリング状の土台。ここに、さらに複数のタンパク質が複合体を形成して、筒状となって核膜孔を形成していることが知られています。

核膜の機能1:mRNAの合成の場

image by iStockphoto

核膜の機能の一つとして、mRNAの合成の場をつくっているということです。原核生物の場合はDNAが細胞質にありますね。細胞質で転写が行われたら、その都度リボソームがmRNAに結合し、続けてタンパク質の翻訳が行われていきます。

しかし真核細胞の場合、核膜でDNAが包まれているのが原核細胞と違うところ。核内で転写が行われ、完成したmRNAが細胞質に運ばれて細胞質で翻訳という運びになります。核膜があることで、mRNAの合成の場を区切ることができるというわけです。では、どのようにmRNAが合成されるのかを簡単に説明していきましょう。

\次のページで「合成されたmRNAの修飾」を解説!/

合成されたmRNAの修飾

核内のDNAはまずRNAポリメラーゼという酵素によって相補的なmRNA鎖が合成されますね。転写のしくみは真核細胞と原核細胞では大きな違いはありません。しかし、出来上がったmRNA前駆体が修飾を受けるかどうか、という点が違うところ。真核生物の場合、合成されたmRNAは核内で、2カ所に修飾を受けていることが明らかになっています。

1つ目は「5’キャップ」と呼ばれるもの。mRNAの合成が始まるとすぐに、mRNAの5’末端の部分に付加されます。5’キャップはメチル基をもつ、メチルグアノシンという特殊なヌクレオチドです。

2つ目は3'末端の「ポリアデニル化」というもの。これは、mRNAが合成された後の3’末端側にアデニンの反復した配列が付加されることになります。

この2つの修飾は、両端を保護することと、核外に運搬されるmRNAとしての目印のために必要であると考えられているものです。

mRNAのスプライシング

DNA alternative splicing.gif
National Human Genome Research Institute - http://www.genome.gov/Images/EdKit/bio2j_large.gif, パブリック・ドメイン, リンクによる

真核生物においては、合成されたmRNA前駆体にはタンパク質に翻訳されない領域も含まれています。タンパク質に翻訳される領域をエキソン、翻訳されない領域がイントロンです。イントロンが除去されてエキソンのみがつなぎ合わされることを、スプライシングといいます。

さらに、合成するタンパク質によっては、全てのエキソンが必要ではない場合もあるのです。エキソンの中でも不要なエキソンを除去して、必要なエキソンのみをつなぎ合わせることを選択的スプライシングといいます。選択的スプライシングによって、1つのmRNA前駆体から複数種類のmRNAが合成できるというしくみ。

このようにして核膜で隔てられた空間内で、mRNA前駆体は修飾やスプライシングを受けて成熟したmRNAに合成されるというわけです。

核膜の機能2:合成したmRNAの核外への移動を制御する

核膜の機能2:合成したmRNAの核外への移動を制御する

image by Study-Z編集部

合成されたmRNAは核膜孔を通過して細胞質に移動することが知られています。しかし核内には取り除かれたエキソンやイントロン、未完成のRNAなども存在している状態。完成したmRNAの他に、核外に運ばれるべきではないRNAが多くあります。

この中から翻訳される成熟mRNAのみが核外に出られるヒミツは、核膜孔を形成している核膜孔複合体というタンパク質にあるのです。

核内で、成熟mRNAは様々なタンパク質が結合した状態。例えば、5'キャップと3’末端のポリアデニル化に結合するタンパク質、さらにスプライシングが行われたmRNAには、その目印となるタンパク質が結合しています。

核膜孔複合体は、それらのタンパク質を認識して、核外に移動するmRNAをチェックしていることが明らかになっているのです。核膜孔が検問所のような役割を担っているのですね。核膜があることによって、合成に失敗したRNAや不要となったイントロンが誤って細胞質に出ることを防いでいるのかもしれません。

核膜の機能3:核のタンパク質の出入りを制御する

mRNA以外にも核を出入りする大きな分子があります。それはタンパク質。核内で働くタンパク質は翻訳後に細胞質から核へ運ばれます。数多くあるタンパク質の中でも、核で働くものをどのように選別するかというと、カギとなるのはアミノ酸配列。核に移行するタンパク質には核局在化シグナルと呼ばれる特定のアミノ酸配列が存在します。

核局在化シグナルを認識して結合するのがインポーチンというタンパク質。このインポーチンは結合したタンパク質を核内に運ぶ機能を担っています。核膜孔複合体はこのインポーチンを目印にして、通過してもよい物質かどうかをチェックしているというわけです。

核膜の機能について

今回は「核膜」について解説いたしました。核と細胞質を区切るためだけでなく、内部でmRNAを合成物質を行う場を提供したり、出入りする物質のチェック機能を担っているのです。

核膜やその他の細胞小器官についても、おおまかには学校の授業で学習するかと思います。しかし、研究は常に進んでおり、教科書に載っていること以上に解明されていることは多いです。1つのことを深く追求して調べてみると理解が深まり、その分野に興味をもつきっかけになるかもしれませんよ。

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理科生物

核膜の構造や機能について説明できる?理系院卒ライターが5分でわかりやすく解説!

今回は細胞の中でも「核膜」に注目して学習していこうと思う。核は細胞の中で一番大きな細胞小器官です。核膜は、その核を構成している膜ということは理解しているでしょう。しかし核膜がどのような構造をしているか、どのような働きを担っているかは知らないことも多いと思うぞ。核内と細胞質を隔てるという以外にも大事な役割があるんです。
この記事では生物学に詳しい、理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、科学や生き物、生命のすばらしさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

核膜とは

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核膜とは、核と細胞質を隔てている膜のこと。核は細胞小器官の1つで、中には遺伝情報であるDNAが存在していますね。核がある細胞を真核細胞といいます。真核細胞をもつ真核生物に該当するのは、動物や植物、菌類や酵母など。ヒトももちろん、真核生物ですね。

ちなみに核膜がない細胞は原核細胞。細菌や古細菌が該当します。原核生物のDNAは核膜で包まれておらず、細胞質において他の細胞小器官と一緒に存在している状態です。

進化の過程で原核生物から誕生したのが、核を持つ真核細胞。核膜ができた経緯としては、原核生物の細胞膜が内側に入り込んだあとに細胞膜から分離し、核膜や小胞体が作られたという仮説が有力です。

核膜の構造

次に核膜の構造について説明していきましょう。核膜は電子顕微鏡で観察すると、二重膜でできていること、また核膜の外膜は小胞体とつながっていることが分かります。さらに、核膜孔と呼ばれる穴が複数存在していることが分かるでしょう。

核膜は内膜の内側から核ラミナというタンパク質でできた網目状の構造物で支えられています。この核ラミナは細胞が分裂期に入って核膜が消失する段階で分解、さらに分裂期が終わった後に娘細胞で核膜が生成される時に再生されるしくみが備わっているのです。

核膜に存在する核膜孔の構造

NuclearPore crop.svg
Original image of the Nucleus was created by User:LadyofHats. – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 2.5, リンクによる

核膜孔はいわば物質の通り道。核の内外での物質輸送は、この核膜孔を通って行き来されることになります。しかし、核膜孔はただ核膜に穴が開いているのではありません。

実は核膜孔には、核膜孔複合体と呼ばれる構造体が核膜を貫通するように存在しているのです。核膜孔複合体に存在しているのが、アウターリング構造と呼ばれるリング状の土台。ここに、さらに複数のタンパク質が複合体を形成して、筒状となって核膜孔を形成していることが知られています。

核膜の機能1:mRNAの合成の場

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核膜の機能の一つとして、mRNAの合成の場をつくっているということです。原核生物の場合はDNAが細胞質にありますね。細胞質で転写が行われたら、その都度リボソームがmRNAに結合し、続けてタンパク質の翻訳が行われていきます。

しかし真核細胞の場合、核膜でDNAが包まれているのが原核細胞と違うところ。核内で転写が行われ、完成したmRNAが細胞質に運ばれて細胞質で翻訳という運びになります。核膜があることで、mRNAの合成の場を区切ることができるというわけです。では、どのようにmRNAが合成されるのかを簡単に説明していきましょう。

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