「料理は科学」という言葉を聞いたことはあるか?熱によって食品に含まれる物質を変化させたり、味や香りの元となる物質を生み出したり組み合わせたりするのは、まさに科学そのものです。料理に用いられる化学変化の中でも、特に重要なものは「カラメル化反応」なのですが一体どのような反応なのでしょうか。

料理が大好きなサイエンスライター、チロと一緒に解説していきます。
チロ

ライター/チロ

放射能調査員や電気工事士など様々な「科学」に関係する職を経験したのち、教員の道へ。理科教員10年を契機に米国へ留学、卒業後は現地の高校でも科学教師として勤務した。帰国後は「フシギ」を愛するフリーランスティーチャー/サイエンスライターとして活躍中。

カラメル化って何?

Classic brown caramelized crust on a Crème brûlée
By Takeaway - Own work, CC BY-SA 3.0, Link

カラメルという言葉、時々耳にしますが一体どのような物質なのでしょう?

カラメル(Caramel)はラテン語からフランスを経由して英語に入って来た言葉で、お菓子の「キャラメル」と同じものです。つまりカラメル化とはキャラメルを作り出すこと。ちなみにフランス語では「キャラメリゼ」。カフェなどでこの言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。

カラメル化反応の特徴と性質

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「カラメル化=キャラメルをつくること」はお菓子づくりには役立ちそうですが、その他の料理にも使えるのでしょうか? なぜ料理を美味しくする反応だと言われているのでしょう?

糖+熱=おいしさ

Caramelisation of carrots.jpg
CC BY-SA 2.0, Link

「カラメル化反応」の引き起こし方は案外簡単です。砂糖やブドウ糖のような糖分を、焦げないように加熱するだけ。すると色が褐色に変わり甘くて香ばしいにおいがして来ます。このにおいが料理を劇的に変える、魔法の成分なのです。

独特の風味を生み出す香気成分

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人間の舌が感じ取ることのできる味は「甘味・塩味・酸味・苦味・旨味」の5種類だけだと言われています。でも私たちはもっと複雑な味が分かりますよね? 実はこれ、嗅覚のはたらきによるもの。例えばかき氷のシロップの味は甘味だけですが、そこに異なる香料を加えることでイチゴ味やメロン味を生み出しているのです。

つまり、私たちが味だと思っているのは、舌で感じる味と鼻で感じるにおいが合わさった感覚。カラメル化によって生み出された甘くて香ばしい香気成分が他の物質とも混ざり合い、何とも言えない美味しそうなにおいを作る。そしてそれをわれわれ人間は「味」として認識するのです。

コゲとはどう違う?

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カラメル化が起きると食品の色が茶色に変化することから、焦がしているのだと思う人がいますが、カラメル化は焦げることとはまったく異なります。カラメル化が起きると、糖分の化学変化により複雑な構造を持つ香味成分ができるのですが、コゲは有機物が炭化したもの。つまり炭素です。

しかし料理で使われる「焦げ目」や「お焦げ」は食品を完全に炭化させたものではなく、カラメル化反応や後述するメイラード反応の生成物も含まれているので美味しく感じるのです

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カラメル化反応の科学

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実はカラメル化は非常に複雑な反応のため、そのプロセスが完全には解明されていません。しかも反応の生成物は数百種類にも及びます。しかし、その中でも特に重要な物質に焦点を見ていきましょう!

物質名&化学式はコチラ

カラメル化の原料となるのは糖。炭素と水素と酸素というたった3種類の元素からなる物質です。しかし、加熱によって組み合わせが複雑に変化し様々な物質を生み出みます。

あの美味しそうな香りを生み出す成分の一つはジアセチル(C4H6O2) 。なんと30〜40代の「オヤジ臭」の原因物質と同じ匂いなのだとか。キャラメルマキアートと部長が同じ匂いだったなんてびっくりですね!

褐色の色味を生み出すのは糖分子がたくさん結合してできるキャラメランズ (C24H36O18)、 キャラメレンズ (C36H50O25)、キャラメリンズ (C125H188O80)という高分子化合物グループ。可愛い名前ですね。

温度とpH

カラメル化は常温では起こらないため、加熱する必要があります。そして糖の種類によって必要な温度は異なるのです。果物に含まれる果糖は105℃で反応が始まりますが、ブドウ糖は150℃、砂糖は170℃まで熱しなければ反応しません。

つまりニンジンやタマネギをカラメル化したければ、沸騰した湯で湯がくのではなく、フライパンなどで炒める必要があるのです。また反応はpHにも影響を受け、酸性・アルカリ性環境下では反応が早まります。

メイラード反応との違い

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ステーキなどの焼き目も褐色で香ばしいですよね。これもカラメル化なのでしょうか? 実はこれ「メイラード反応」と呼ばれるアミノ酸と糖の化学反応であり、カラメル化とは全く別物なのです。メイラード反応が起きると「メラノイジン」という褐色色素が生み出されて色が変化すると同時に、種々の香気成分も生まれます。

メイラード反応とカラメル化反応の一番の違いは温度。高温環境下でしか反応が起きないカラメル化と違い、メイラード反応は常温でもゆっくりと進行します。味噌や醤油が熟成しているうちに黒っぽく変化するのも、メイラード反応の結果です。

ちなみに日本語ではMaillardを「メイヤード」と読みますが、Lが二つならんだ音はY と同じ音なので、英語では「メイヤード」、フランス語では「マヤール」と発音されます。

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カラメル化反応を使った料理

カラメル化反応はどのような料理に用いられているのでしょうか?

(1) キャラメル

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最も代表的なものは、そのままズバリ「キャラメル」です。砂糖・クリーム・バター・バニラエッセンスなどを熱してカラメル化させたものは四角く成型され、「キャラメルキャンディー」として食べらます。

(2) プリンのソース

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シロップを熱して作ったカラメルソースは、プリンなどのソースとして使われます。香ばしくほろ苦いあのソースが、味のアクセントになっていますよね。またカラメルは食品の着色料にも用いられます。代表的なものはコーラ。あの黒い色はカラメル色素なのです。

(3) あめ色玉ねぎ

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カレーなどを作るときにはいきなり水で煮るのではなく、まず材料を炒めますよね? 一体なぜなのでしょう。野菜には糖分が含まれているので、炒めることでカラメル化し味に深みが増します。これをとことん突き詰めたのが飴色タマネギ。水に煮出すとオニオンスープになのです。(飴色になる反応はカラメル化反応とメイヤード反応の両方が関わっています。)

カラメル化反応は料理を美味しくするマジック

料理は様々な化学反応が関わっています。その中でもカラメル化反応は美味しさのレベルをワンランク上に高めるテクニック。焦がさないように気をつけながら、上手に活用してみてください!

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化学理科

料理を10倍美味しくするカラメル化反応とは?化学式、メイラード反応についても元米国科学教師チロがわかりやすく解説!



「料理は科学」という言葉を聞いたことはあるか?熱によって食品に含まれる物質を変化させたり、味や香りの元となる物質を生み出したり組み合わせたりするのは、まさに科学そのものです。料理に用いられる化学変化の中でも、特に重要なものは「カラメル化反応」なのですが一体どのような反応なのでしょうか。

料理が大好きなサイエンスライター、チロと一緒に解説していきます。
チロ

ライター/チロ

放射能調査員や電気工事士など様々な「科学」に関係する職を経験したのち、教員の道へ。理科教員10年を契機に米国へ留学、卒業後は現地の高校でも科学教師として勤務した。帰国後は「フシギ」を愛するフリーランスティーチャー/サイエンスライターとして活躍中。

カラメル化って何?

Classic brown caramelized crust on a Crème brûlée
By TakeawayOwn work, CC BY-SA 3.0, Link

カラメルという言葉、時々耳にしますが一体どのような物質なのでしょう?

カラメル(Caramel)はラテン語からフランスを経由して英語に入って来た言葉で、お菓子の「キャラメル」と同じものです。つまりカラメル化とはキャラメルを作り出すこと。ちなみにフランス語では「キャラメリゼ」。カフェなどでこの言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。

カラメル化反応の特徴と性質

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「カラメル化=キャラメルをつくること」はお菓子づくりには役立ちそうですが、その他の料理にも使えるのでしょうか? なぜ料理を美味しくする反応だと言われているのでしょう?

糖+熱=おいしさ

「カラメル化反応」の引き起こし方は案外簡単です。砂糖やブドウ糖のような糖分を、焦げないように加熱するだけ。すると色が褐色に変わり甘くて香ばしいにおいがして来ます。このにおいが料理を劇的に変える、魔法の成分なのです。

独特の風味を生み出す香気成分

image by iStockphoto

人間の舌が感じ取ることのできる味は「甘味・塩味・酸味・苦味・旨味」の5種類だけだと言われています。でも私たちはもっと複雑な味が分かりますよね? 実はこれ、嗅覚のはたらきによるもの。例えばかき氷のシロップの味は甘味だけですが、そこに異なる香料を加えることでイチゴ味やメロン味を生み出しているのです。

つまり、私たちが味だと思っているのは、舌で感じる味と鼻で感じるにおいが合わさった感覚。カラメル化によって生み出された甘くて香ばしい香気成分が他の物質とも混ざり合い、何とも言えない美味しそうなにおいを作る。そしてそれをわれわれ人間は「味」として認識するのです。

コゲとはどう違う?

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カラメル化が起きると食品の色が茶色に変化することから、焦がしているのだと思う人がいますが、カラメル化は焦げることとはまったく異なります。カラメル化が起きると、糖分の化学変化により複雑な構造を持つ香味成分ができるのですが、コゲは有機物が炭化したもの。つまり炭素です。

しかし料理で使われる「焦げ目」や「お焦げ」は食品を完全に炭化させたものではなく、カラメル化反応や後述するメイラード反応の生成物も含まれているので美味しく感じるのです

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