今回のテーマは、ずばり「発光生物はなぜ光るのか?」です。

地球上には、自ら光を放つ仕組みを手に入れた生物が存在する。発光しない生物が多い中で、発光生物はなぜ光るようになったのでしょうか?また、どのようにして光っているのでしょうか?光る生き物の不思議に切り込んでいこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

発光生物は”なぜ”光るのか?

image by iStockphoto

今回のテーマは「発光生物はなぜ光るのか?」ですね。

自ら光を放ついきものといえば、私たちのよく知っているところでいうとホタルやクラゲなど。深海生物やキノコなんかにも光るものがいます。光り方にしても、ぼんやり光る程度のものから、とても明るい光まで多様です。

それらが「”なぜ”光るのか」をお話したいのですが…その前に確認しておきたいことがあります。

”なぜ”に対する答えは一つじゃない

みなさんは、どんな解説を想像してこの記事を開いてくれたのでしょうか?

”なぜ”という質問には、いくつかの答え方が考えられます。以下は、「ティンバーゲンの4つのなぜ」とよばれる考え方に基づいた、4つの答え方です。

・「何のために光るのか」…機能(理由)
・「どのようにして光るのか」…機構(しくみ)
・「どのようにして光るしくみを獲得していったのか」…系統発生(歴史)
・「どのように光るしくみができていくのか」…個体発生(発達)

※()内は筆者が言い換えたもの

”なぜ”に対して、「何のために光るのか」という答えを期待してくれた人もいれば、「どうやって光っているのか」を知りたい人もいるでしょう。

質問に対するアプローチが複数あるということを忘れてしまうと、期待していた答えが得られなかったり、議論がかみ合わなかったりします。

image by Study-Z編集部

今回は、色々な発光生物の光る”理由”をメインに紹介し、一部の生物については光る”しくみ”も少し解説していくことにします。

発光生物は「何のために」光る?

では、発光生物の光る”理由”や”目的”のうち、代表的なものをいくつかみてみましょう。

\次のページで「繁殖の相手を引き付ける」を解説!/

繁殖の相手を引き付ける

発光の目的の一つに、自分以外の生物を引き付ける”誘因”があげられます。ひきつける対象は、自身と同じ種であることもあれば、獲物など別の生物のこともありますね。

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私たち日本人にとってとくになじみ深い「光る生物」のホタル(蛍)は、繁殖期に交尾の相手を引き付けるために発光するといいます。腹部がちかちかと光る様子は、昔から初夏の光景として愛されてきました。

ホタルの発光するリズムは種ごとで異なるため、ホタルを判別するヒントの一つになります。

獲物を引き付ける

交配の相手ではなく、捕食する獲物を引き付けるために発光を使うものもいます。

これで有名なのが、深海生物のチョウチンアンコウ。頭部から生えた長い突起はエスカとよばれます。このエスカを光らせ、動かすことで獲物をおびき寄せて捕食するのです。

じつは、チョウチンアンコウのエスカが発光できるのは、チョウチンアンコウ自身の力ではありません。その内部に発光するバクテリアを共生させているんです。

自分を見えにくくする

発光することで、自分自身の姿を見えにくくすることもできます。

サメのなかまであるダルマザメは、腹部を発光させる生物です。海上から届く光とちょうどよい強さにすることで、海底側価から見たときに自身の陰が見えにくくなるようにしているのだといいます。

このタイプの発光は「カウンターイルミネーション」とよばれるんですよ。

\次のページで「敵を退ける」を解説!/

敵を退ける

前述の「自分を見えにくくする」にも関連しますが、襲ってくる外敵から逃げるために発光のしくみを利用しているものも少なくありません。

ホタルイカは小さなサイズのイカのなかまです。敵に襲われたときに青白い光を発することで、敵を驚かしたり、目くらましにして逃げるといわれています。

私たちにとってはあまりまぶしくない光でも、暗い海の中であれば、かなり見え方は変わるのではないでしょうか?

照明

暗い深海で餌を探す際、あたりを照らす照明のために発光するものもいます。魚類でも、ワニトカゲギス目のなかま…オオクチホシエソなんかが有名です。

「わからない」

生物の発光という現象にはそれぞれに理由が考えられてきましたが、「一体なぜ発光するのかわからない」というものもいます。

たとえば、ツキヨタケなどのキノコのなかまでは「昆虫の誘因をしているのかもしれない」などともいわれますが、明確な理由が解明されているわけではないんです。

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光る必要があるのかもしれないし、または「たまたま光るようになっただけ」かもしれません。

洞窟の奥深くや水深の深いところには、まだ知られていない発光生物がいるかもしれませんからね。さらなる研究の発展を期待したいものです。

\次のページで「発光生物は「どうやって」光る?」を解説!/

発光生物は「どうやって」光る?

では次に、一部の発光生物の光る”しくみ”、”メカニズム”をみていきましょう。

ホタルの発光

ホタルの発光は、ルシフェリンという物質と、ルシフェラーゼという酵素が反応することで引き起こされます。

ルシフェラーゼがルシフェリンにはたらきかけると、ルシフェリンは酸化され、その際に独特の黄色い光を発するのです。

なおルシフェラーゼには、特定のルシフェリンにしかはたらきかけることができない基質特異性があります。ホタルのルシフェリン(ホタルルシフェリン)にはたらきかけるルシフェラーゼは、とくにホタルルシフェラーゼとよばれるんですよ。

ウミホタルの発光

ウミホタルは全長数ミリほどの、小さな甲殻類のなかまです。敵が近づいたときなどに、発光する物質を放出して煙幕のように使い、逃げます。

このウミホタルの発光もホタルと同じように、ルシフェリンおよびルシフェラーゼの反応です。

ウミホタルを乾燥させたものを使って、実験室でも簡単に発行の様子を再現することができます。

オワンクラゲの発光

最後にご紹介するのはオワンクラゲというクラゲの発光メカニズムです。

以前は、いろいろな発光生物から前述のようなルシフェリン、ルシフェラーゼが見つかったこともあり、クラゲの発光も同じようなメカニズムであると考えられていました。ところが、オワンクラゲの発光メカニズムを調べた結果、これはルシフェリンとルシフェラーゼの反応ではなく、蛍光を放つタンパク質「緑色蛍光タンパク質(GFP)」とイクオリンという物質の反応であることが分かったのです。

緑色蛍光タンパク質遺伝子を組み込んだ大腸菌
DanceWithNyanko - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

このGFPの発見は、細胞学や遺伝子の研究に絶大な力を発揮することになりました。タンパク質であるGFPをつくる遺伝子をゲノムに取り込ませることで、細胞内のいろいろな働きを目で見て観察できるようになったのです。いまでは、生物学の研究になくてはならない存在となっています。

GFPを発見したのは、日本人研究者の下村脩氏。数えきれないほどのオワンクラゲを集め、発光のしくみを解き明かしました。その成果はノーベル賞を受賞するにいたっています。

まだまだいる、光る生物

今回ご紹介した発光生物はごく一部。世界にはまだまだたくさんの発光する生物がいます。なぜ光るのか、どのように光るのか…それぞれの発光生物によってその答えは違うはずです。深海や洞窟には、未知の発光生物もいるでしょう。

「光る」という見た目のインパクトもさることながら、GFPのように、発光生物由来の物質が研究に大きな影響を与える発見もあります。これからの発光生物研究の進展が楽しみでなりません。

" /> 「発光生物」はなぜ光る?光る理由や仕組みを学んでいこう!現役講師がわかりやすく解説します – Study-Z
体の仕組み・器官理科生物

「発光生物」はなぜ光る?光る理由や仕組みを学んでいこう!現役講師がわかりやすく解説します

今回のテーマは、ずばり「発光生物はなぜ光るのか?」です。

地球上には、自ら光を放つ仕組みを手に入れた生物が存在する。発光しない生物が多い中で、発光生物はなぜ光るようになったのでしょうか?また、どのようにして光っているのでしょうか?光る生き物の不思議に切り込んでいこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

発光生物は”なぜ”光るのか?

image by iStockphoto

今回のテーマは「発光生物はなぜ光るのか?」ですね。

自ら光を放ついきものといえば、私たちのよく知っているところでいうとホタルやクラゲなど。深海生物やキノコなんかにも光るものがいます。光り方にしても、ぼんやり光る程度のものから、とても明るい光まで多様です。

それらが「”なぜ”光るのか」をお話したいのですが…その前に確認しておきたいことがあります。

”なぜ”に対する答えは一つじゃない

みなさんは、どんな解説を想像してこの記事を開いてくれたのでしょうか?

”なぜ”という質問には、いくつかの答え方が考えられます。以下は、「ティンバーゲンの4つのなぜ」とよばれる考え方に基づいた、4つの答え方です。

・「何のために光るのか」…機能(理由)
・「どのようにして光るのか」…機構(しくみ)
・「どのようにして光るしくみを獲得していったのか」…系統発生(歴史)
・「どのように光るしくみができていくのか」…個体発生(発達)

※()内は筆者が言い換えたもの

”なぜ”に対して、「何のために光るのか」という答えを期待してくれた人もいれば、「どうやって光っているのか」を知りたい人もいるでしょう。

質問に対するアプローチが複数あるということを忘れてしまうと、期待していた答えが得られなかったり、議論がかみ合わなかったりします。

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今回は、色々な発光生物の光る”理由”をメインに紹介し、一部の生物については光る”しくみ”も少し解説していくことにします。

発光生物は「何のために」光る?

では、発光生物の光る”理由”や”目的”のうち、代表的なものをいくつかみてみましょう。

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