今回の記事では「帰化植物」をテーマにみていこう。

環境保全や生態系の維持などの話で耳にすることのある用語ですが、諸君はどんな植物か知っているでしょうか?具体例をいくつか確認しながら、帰化植物という存在について考えていこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

帰化植物とは?

帰化植物(きかしょくぶつ)とは、自然に生えている植物の中でも、外国から人の手によって持ち込まれ、野生でも繁殖するようになったもののことをいいます。

いわゆる「外来種」のなかでも、野外で生育するようになった植物ですね。

image by Study-Z編集部

図鑑のほか、植物や自然環境について書かれた文章などでよく目にする言葉です。どちらかというと、「つい最近海外から持ち込まれて野生化した植物」より、「野生化してからある程度の年月がたった植物」に使われる用語のように感じます。

…が、実はあまり明確な定義はないのが現状です。帰化植物とは言わず、外来種という言葉に統一している文献もあったりします。

”帰化”という言葉

帰化(きか)という言葉は、私たち人間に使われる言葉ですよね。ある国に生まれ育った人が、別の国の国籍をとることを「帰化する」といったりします。

もちろん、植物に国籍という考え方はありません(”原産国”ならある)が、帰化植物という用語は、その来歴をわかりやすく表しているといえるのではないでしょうか。

ちなみに、帰化植物を英語では「naturalized plant」と表現するようですよ。

「意図的」か「非意図的」か

帰化植物を考えるときに忘れてはいけないのが、「人の手によって持ち込まれた」という点です。

日本は島国なので機会は少ないですが、鳥や海流、風にのって外国からそれまでに生息していなかった植物が自然に侵入してくることはあります。ですが、帰化植物では人間が関与して移動した植物に限定されるのです。

そして、その移動が「意図的」か「非意図的」かは関係ありません

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\次のページで「よく名前を聞く”日本の帰化植物”5選!」を解説!/

その通りです。

農業や園芸などの目的で、意図的に外国の植物を持ち帰ることはもちろんあります。ですが、それに加えて「靴の裏に種子が付いていた」「運ばれてきた荷物に偶然種子が入っていた」など、予想されていなかった移動による植物の侵入も含まれるのです。

よく名前を聞く”日本の帰化植物”5選!

それでは、海外から日本に持ち込まれ野生化した帰化植物の例を具体的にみていきましょう。よく名前を聞く植物を5種、ピックアップします。皆さんがよく知っている植物もあると思いますよ!

帰化植物の例1:セイヨウタンポポ

春になると黄色い花を咲かせるおなじみの花、タンポポ。今現在日本の都市部で普通にみられるタンポポのほとんどは、セイヨウタンポポという種です。

”西洋”という名前の通り、元々は海外に生息していた種が日本に定着した、帰化植物の一つとして知られています。

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日本には古くから生息している在来種のタンポポが存在していました。しかし、1900年代のはじめにアメリカからセイヨウタンポポが人為的に持ち込まれると、その繁殖力の強さから、全国にその分布を拡大していったのです。

とくに、開発のため更地にされたような土地や、やや荒れた環境ではセイヨウタンポポが育ちやすく、在来のタンポポの分布域が狭くなっていきました。

地域によっては在来のタンポポとセイヨウタンポポの雑種が登場しているといいます。

帰化植物の例2:シロツメクサ

「クローバー」としてもおなじみのシロツメクサは、公園や河川敷など、いたるところで見られるマメ科の植物ですよね。よく知られた存在ですが、もともとはヨーロッパから持ち込まれた植物です。

\次のページで「帰化植物の例3:セイタカアワダチソウ」を解説!/

もともと、シロツメクサはヨーロッパからガラス製品などを輸入する際、緩衝材として用いられていたのだそうです。”ツメクサ(詰草)”という言葉はここからきています。

旺盛な繁殖力でどんどん分布域を拡大。また、あえてシロツメクサを生やすことで、別の種類の雑草を防いだり、緑化を進めるというような使い方もされています。

帰化植物の例3:セイタカアワダチソウ

セイタカアワダチソウは、キク科の多年草。秋になると黄色い花を咲かせる植物です。

線路沿いや河川敷などによく生えていて、日本では昔からススキが生育していたような場所に生息します。

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こちらは、外来生物についての話のとき、よく話題に持ち出される植物ですね。2005年に施法された「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」のなかでは”要注意外来生物”に指定されています。また、日本生態学会が「日本の侵略的外来種ワースト100」として挙げた生物の中にも名を連ねているのです。

歴史は古く、明治のころに園芸目的で持ち込まれたものが野生化したのだといいます。

繫殖力が非常に強く、空き地などにも簡単に侵入するとあっという間にセイタカアワダチソウだらけに。アレロパシーという効果も、増殖を後押しします。

アレロパシーとは、植物が作り出す化学物質によって、周囲の生物に影響を与える能力です。セイタカアワダチソウの場合は、根から「植物の成長を抑制する化学物質」を放出します。セイタカアワダチソウ以外の植物は、この物質の影響で発芽や成長がしにくくなり、セイタカアワダチソウが優占する土地になるのです。

ただし、この化学物質は多すぎるとセイタカアワダチソウ自身の種子の発芽なども抑制してしまうといいます。

\次のページで「帰化植物の例4:ブタクサ」を解説!/

帰化植物の例4:ブタクサ

キク科の植物であるブタクサは、花粉症の原因となる植物の一つとして知られています。北アメリカが原産で、明治時代に日本に持ち込まれました。

夏から初秋に咲かせる花が花粉症を引き起こしますのですが、ブタクサはやや目立ちにくい存在であるためか、前述のセイタカアワダチソウが花粉症の原因としてよく勘違いされます。

実際、原産地であるアメリカ大陸では、かなりの人口がブタクサの花粉症をもっているそうですよ。

帰化植物の例5:マツヨイグサ

最後にご紹介するのはマツヨイグサ。アカバナ科マツヨイグサ属という分類群の植物で、日本では「ツキミソウ(月見草)」や「宵待草」という名前でよばれることもあります。夜が近くなると開花する種が多いためでしょう。

黄色く大きな花も、お月様をイメージさせるのかもしれません。

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日本に昔からあった植物のような雰囲気もありますが、マツヨイグサのなかま(マツヨイグサ属)はすべて南北アメリカ大陸が原産です。それ以外の地域で見られる場合は、いずれも持ち込まれたものだということになります。

外来種・帰化植物は悪者か?

近年は”生態系の保全”や”在来種保護”という考え方が広まり、外来種や帰化植物に対する厳しい意見や対応を見ることも増えました。たしかに、日本という島国に育まれた独自の生態系や、貴重な在来種を守ることは大切です。

その一方で、外来種や帰化植物といった存在が、私たちの生活にもたらした恵みや歴史も忘れてはいけないと思います。荒れ果てた土地に繫殖力の強いシロツメクサを生やせば、虫や小動物がやってくることもあるでしょうし、緑に心安らぐ人もいるでしょう。

帰化植物や外来種という存在についてよく知り、付き合い方をしっかり考えていくことが必要ではないでしょうか。

イラスト使用元:いらすとや

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理科生態系生物

身近にもたくさんいる!「帰化植物」とはどんな植物?現役講師が具体例もご紹介!

今回の記事では「帰化植物」をテーマにみていこう。

環境保全や生態系の維持などの話で耳にすることのある用語ですが、諸君はどんな植物か知っているでしょうか?具体例をいくつか確認しながら、帰化植物という存在について考えていこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

帰化植物とは?

帰化植物(きかしょくぶつ)とは、自然に生えている植物の中でも、外国から人の手によって持ち込まれ、野生でも繁殖するようになったもののことをいいます。

いわゆる「外来種」のなかでも、野外で生育するようになった植物ですね。

image by Study-Z編集部

図鑑のほか、植物や自然環境について書かれた文章などでよく目にする言葉です。どちらかというと、「つい最近海外から持ち込まれて野生化した植物」より、「野生化してからある程度の年月がたった植物」に使われる用語のように感じます。

…が、実はあまり明確な定義はないのが現状です。帰化植物とは言わず、外来種という言葉に統一している文献もあったりします。

”帰化”という言葉

帰化(きか)という言葉は、私たち人間に使われる言葉ですよね。ある国に生まれ育った人が、別の国の国籍をとることを「帰化する」といったりします。

もちろん、植物に国籍という考え方はありません(”原産国”ならある)が、帰化植物という用語は、その来歴をわかりやすく表しているといえるのではないでしょうか。

ちなみに、帰化植物を英語では「naturalized plant」と表現するようですよ。

「意図的」か「非意図的」か

帰化植物を考えるときに忘れてはいけないのが、「人の手によって持ち込まれた」という点です。

日本は島国なので機会は少ないですが、鳥や海流、風にのって外国からそれまでに生息していなかった植物が自然に侵入してくることはあります。ですが、帰化植物では人間が関与して移動した植物に限定されるのです。

そして、その移動が「意図的」か「非意図的」かは関係ありません

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