今回は「異化」について解説していきます。異化という言葉は聞いたことがあるでしょうか。高校の生物の授業で学んだことを覚えている人もいるでしょう。異化は生体内で行われる代謝の一つです。異化の定義や、同化との違い、呼吸や発酵についておさらいしていこうと思う。
この記事では生物学に詳しい、理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

異化とは何か?

image by iStockphoto

異化とは、外から取り込んだ「複雑な物質」を「簡単な物質」に分解する反応のこと。この反応の過程でエネルギー貯蔵物質のATPという化合物を蓄えることができます。具体的な異化の例として挙げられるのは、呼吸や発酵など。ここから、一つ一つ詳しく解説していきますね。

エネルギー貯蔵物質、ATPとは

まずは、異化によって得られる「ATP」について説明しましょう。ATPはアデノシン三リン酸の略。その名の通り、リン酸が3つ結合した化合物なのです。このリン酸どうしの結合は「高エネルギーリン酸結合」といって、結合が切断されるときに多くのエネルギーを放出します。つまりエネルギーが必要なときに、このATPを分解することで、エネルギーを取り出すことが出来るというわけ。

このエネルギーは生体内のあらゆる場面で利用されています。例えば筋収縮、物質の能動輸送、物質の合成などです。このように、生命活動を行う上でATPはなくてはならない物質。つまり、異化という反応はATPを得るために行われる反応であるといえます。

同化との違い

異化と同じような言葉に、「同化」というものがありますね。同化とはATPのエネルギーを使って簡単な物質」から「複雑な物質」を合成する反応のこと。つまり異化とは逆の反応ですね。

具体的な例としては光合成などの炭酸同化があります。光合成では、光エネルギーとATPのエネルギーを用いて、水と二酸化炭素(簡単な物質)からグルコース(複雑な物質)という高分子の化合物を合成する反応ですね。

異化①発酵とは

image by iStockphoto

異化の例として代表的なものに、「発酵」という酸素がない状況下で行われる反応があります。例えば、酵母によって行われるアルコール発酵は、グルコース(複雑な物質)を分解し、エタノールと二酸化炭素(簡単な物質)を合成する反応。乳酸菌によって行われる乳酸発酵は、グルコース(複雑な物質)を分解し、乳酸と二酸化炭素(簡単な物質)を合成する反応です。これらによって、グルコース1分子からATPを2分子だけ得ることが出来ます。

\次のページで「異化②呼吸とは」を解説!/

異化②呼吸とは

異化の例として、もう一つ挙げられるのが「呼吸」です。呼吸は酸素を用いて、炭水化物やタンパク質、脂質(複雑な物質)を、二酸化炭素や水(簡単な物質)に分解する反応。

これによって、グルコース1分子から、なんと38分子のATPが合成されます。発酵と比較すると、とても効率の良い反応ですね。

呼吸の反応では高分子の複雑な物質を少しずつ、酵素を使って段階的に酸化していきます。ここではグルコースを分解する場合において、大きく3段階に分かれていますので、1段階ごとに解説していきましょう。

1.解糖系

まずグルコースがピルビン酸に分解されるまでの過程を「解糖系」といいます。解糖系の反応の場は細胞質基質です。

実は、ATPを得るために必要となってくるのが、電子と水素イオンを少しずつ取り出すということ。ここでは補酵素という化合物が活躍します。補酵素は反応過程で生じる電子と水素イオンと結合して、運搬する役割があるのです。

解糖系ではNADという補酵素が、電子と水素イオンと結合してNADHになります。補酵素に運搬された電子と水素イオンは、後々大事な反応をしますから覚えておいてくださいね。

解糖系の過程は1分子のグルコースから2分子のピルビン酸、2分子のATP、2分子のNADH生じることになります。

2.クエン酸回路

Animal mitochondrion diagram en (edit).svg
Mariana Ruiz Villarreal LadyofHats - the diagram i made myself using adobe illustrator. as a source for the information i used the diagrams found here:[1], [2], [3], [4], [5], [6] and [7]., パブリック・ドメイン, リンクによる

クエン酸回路では解糖系で作られたピルビン酸がミトコンドリアに運ばれます。反応の場はマトリックスです。クエン酸回路では直接酸素を使いませんが、ここからは酸素がないと反応が進まないことを覚えておきましょう。

マトリックスに移動したピルビン酸は、まずアセチルCoAになります。ここからクエン酸回路の始まりです。クエン酸回路は8つの反応が行われ、サイクルを回るように反応が続きます。クエン酸回路の反応は脱炭酸酵素脱水素酵素が働くことに。二酸化炭素と、電子と水素イオンを取り出す反応が行われます。電子と水素イオンを受け取る役割がNADとFADという補酵素です。

クエン酸回路では2分子のピルビン酸と水から、6分子の二酸化炭素と、8分子のNADH、2分子のFADH2、2分子のATPが合成されることになります。

3.電子伝達系

Ja-CellRespiration.svg
Fvasconcellos, RegisFrey, ふわふわ - modification of File:CellRespiration.svg, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

最終段階は電子伝達系。ここで、解糖系とクエン酸回路で補酵素に運搬された電子と水素イオンを使った反応が行われます。反応の場はミトコンドリアの内膜に埋め込まれたタンパク質。

このタンパク質の間を、補酵素によって集められた電子が次々に受け渡されていきます。その時に発生したエネルギーを利用して水素イオンがミトコンドリアのマトリックスから膜間腔に輸送されるというしくみ。

その結果、膜間腔の水素イオン濃度が高まり、濃度勾配が生じます。すると水素イオンがは濃度勾配に従って、膜間腔から内膜に埋め込まれたATP合成酵素を通過してマトリックスに移動。このときに多量のATPが合成されます。そして膜間腔からマトリックスに移動した水素イオンは、酸素と反応して水になるというわけ。

電子伝達系の反応過程では、12分子の補酵素と酸素から、水と34分子のATPが合成されることになるのです。

\次のページで「呼吸の反応のまとめ」を解説!/

呼吸の反応のまとめ

呼吸の反応のまとめ

image by Study-Z編集部

解糖系とクエン酸回路、そして電子伝達系の反応をまとめると、このような反応式になります。覚えておくとよいでしょう。

C6H12O6+6H2O+6O2→6CO2+12H2O+38ATP

また、糖以外にも、脂質やタンパク質をもとにATPを合成する反応経路も存在します。脂質もタンパク質も分解されて、最終的にはクエン酸回路に入り、のちに続く電子伝達系でATPを得るわけです。

ちなみに、重症な外傷を負ったときや飢餓状態のとき、悪性腫瘍があるときは、体の脂肪やタンパク質(筋肉など)を分解してATPを得る反応が過剰に働くことに。このような状態を、異化亢進状態といいます。

同化と異化を整理して覚えよう

今回は「異化」について解説いたしました。異化はATPを生成するために行われる反応。そのために「複雑な物質」から「簡単に物質」に分解されるとこが、お分かりいただけたでしょうか。

たくさんの化学反応が行われ、一見複雑に見える呼吸。苦手意識を持つ人もいると思いますが、呼吸の反応でよく覚えておいた方がよいのが、電子と水素イオンの流れです。解糖系とクエン酸回路で集められた水素イオンと電子が、最終段階で電子伝達系でATP合成に利用されること。これはとても重要なところですので、しっかり理解しておくとよいでしょう。

" /> 異化って何か説明できる?同化との違い、呼吸や発酵について理系院卒ライターが簡単にわかりやすく解説! – Study-Z
理科生物

異化って何か説明できる?同化との違い、呼吸や発酵について理系院卒ライターが簡単にわかりやすく解説!

今回は「異化」について解説していきます。異化という言葉は聞いたことがあるでしょうか。高校の生物の授業で学んだことを覚えている人もいるでしょう。異化は生体内で行われる代謝の一つです。異化の定義や、同化との違い、呼吸や発酵についておさらいしていこうと思う。
この記事では生物学に詳しい、理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

異化とは何か?

image by iStockphoto

異化とは、外から取り込んだ「複雑な物質」を「簡単な物質」に分解する反応のこと。この反応の過程でエネルギー貯蔵物質のATPという化合物を蓄えることができます。具体的な異化の例として挙げられるのは、呼吸や発酵など。ここから、一つ一つ詳しく解説していきますね。

エネルギー貯蔵物質、ATPとは

まずは、異化によって得られる「ATP」について説明しましょう。ATPはアデノシン三リン酸の略。その名の通り、リン酸が3つ結合した化合物なのです。このリン酸どうしの結合は「高エネルギーリン酸結合」といって、結合が切断されるときに多くのエネルギーを放出します。つまりエネルギーが必要なときに、このATPを分解することで、エネルギーを取り出すことが出来るというわけ。

このエネルギーは生体内のあらゆる場面で利用されています。例えば筋収縮、物質の能動輸送、物質の合成などです。このように、生命活動を行う上でATPはなくてはならない物質。つまり、異化という反応はATPを得るために行われる反応であるといえます。

同化との違い

異化と同じような言葉に、「同化」というものがありますね。同化とはATPのエネルギーを使って簡単な物質」から「複雑な物質」を合成する反応のこと。つまり異化とは逆の反応ですね。

具体的な例としては光合成などの炭酸同化があります。光合成では、光エネルギーとATPのエネルギーを用いて、水と二酸化炭素(簡単な物質)からグルコース(複雑な物質)という高分子の化合物を合成する反応ですね。

異化①発酵とは

image by iStockphoto

異化の例として代表的なものに、「発酵」という酸素がない状況下で行われる反応があります。例えば、酵母によって行われるアルコール発酵は、グルコース(複雑な物質)を分解し、エタノールと二酸化炭素(簡単な物質)を合成する反応。乳酸菌によって行われる乳酸発酵は、グルコース(複雑な物質)を分解し、乳酸と二酸化炭素(簡単な物質)を合成する反応です。これらによって、グルコース1分子からATPを2分子だけ得ることが出来ます。

\次のページで「異化②呼吸とは」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: