そのときロンドンでは墓荒らしが流行っており、ジョンは墓荒らし屋と仲良くなることで死体を手配してもらえるようになりました。彼は持ち前のトーク力と受けの良さであっという間に墓荒らし界で有名になったんですよ。
墓荒らし事業をして死体を収集?!
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そんな弟の活躍によって兄ウィリアムは1つの図版を発表しました。それは「妊娠初期から臨月直前までの子宮の解剖図」。これは当時の医学者たちにとって衝撃的でした。
なぜかというと、それまで考えられていた妊娠の概念をくつがえすものだったからです。それまでの妊娠の概念は、ギリシャ時代の学説に倣って「人間のお腹のなかには“小さいサイズの人間”が入っておりそれが大きくなって赤ちゃんが産まれる」と考えられていました。しかし、ウィリアムの発表によって「妊娠初期の赤ん坊はトカゲのような形で、成長する中で手足が生えて徐々に人間の形に形成されていく」ということが明らかになったのです。
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しかしそれ以上に医学者たちを驚かせたのが、妊娠中の女性の死体を多数集めたこと。当時、解剖には死刑囚の遺体を使うしかありませんでしたが、妊娠中の女性だけは特別に死刑にしてはいけないという決まりがありました。そのため、妊娠中の女性の死体は仕入れるのが難しかったんですね。
しかし、ジョンは死体を葬儀社から買い取ったり、墓荒らしに金を握らせ、埋葬されたばかりの死体を掘り起こして自分に届けさせました。こうして妊娠女性の死体のサンプルを30以上も手に入れたんですよ。
次第にジョンは死体の仕入れ業務だけでなく、兄の解剖の手伝いもするようになります。すると手先の器用さを発揮し、死体の解体や腑分け、血管などの細部の仕分け作業までできるようになりました。やがて兄を凌駕するほどの腕前になり、解剖教室の実技すべてを任されるようになりました。
才能を認められ最高の外科医の助手に
ジョンの解剖学者としての才能を見出した兄は、大病院に勤めるウィリアム・チェゼルデンに師事させました。チェゼルデンはイギリスの外科医・解剖学者。外科手術の確立に大きな影響をおよぼした人物です。
彼が亡くなった後は同じくイギリスの外科医でガンが発がん物質によるものであることを最初に示した人物であるパーシヴァル・ポットに師事しました。
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