突然ですが「臨界ミセル濃度」って言葉を知ってるか?
100人中99人は答えがノーでしょうな。

軽く説明すると、「臨界ミセル濃度」とは界面活性剤の疎水基同士が凝集してミセルを形成するときの最低濃度のことです。
これが理解できれば、界面化学という分野をより身近に感じることができるぞ!
それじゃあ今回は現役エンジニアライターのえぬいちと一緒に解説していきます。

ライター/えぬいち ゆうや

元理系大学院卒で現在は素材メーカーにて高分子の研究開発をしているサンプル数1(n=1)の現役エンジニア。学生時代に培ったプレゼン能力と塾講師経験を駆使して、化学の面白さを一般人にわかりやすく紐解いていく。

臨界ミセル濃度って何?ざっくり解説

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臨界ミセル濃度(CMC:Critical MIcelle Concentration )を一言で言うと、

「水溶液中に溶け出した界面活性剤同士が集まってミセルが生成され始める最小の濃度」のことです。

この濃度を上回るとミセルが自然に生成され、下回るとミセルは自然に壊れます

界面活性剤とは?

水と油は互いに溶け合うことはなく、両物質間に界面という境目を作ります。そこに石けんを加えると界面はなくなり、水と油が溶け合った状態になるのです。石けんには水と油の界面に働く力(表面張力)を弱める作用があり、この性質を界面活性と言い、またそのような物質を界面活性剤と言います。

ミセルとは?

ミセルとは?

image by Study-Z編集部

界面活性剤(以降「活性剤」と略します)は水に馴染みやすい部位(親水基)と油に馴染みやすい部位(疎水基)を合わせ持ちます。活性剤の構造は丸い部分を親水基、棒の部分を疎水基と見立てたマッチ棒のような形で表されることが多いです。活性剤分子が水溶液中で多数集まって形成されることでミセルが形成されます。水溶液中において活性剤の疎水基が内側、親水基が外側を向いた球体状の粒子はミセルコロイドと呼ばれており(図の上)、油脂中では親水基が内側、疎水基が外側を向いた逆ミセルが形成されるのです(図の下)。

界面活性剤とミセルの関係は?

界面活性剤とミセルの関係は?

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ミセルが形成される順序は以下の通りです。

1. 水に活性剤を加えることで、活性剤が界面中に拡散する。

(この時疎水基が上、親水基が下を向いた状態で界面中に存在する。)

2. 活性剤を添加し続けることで界面が活性剤で埋め尽くされ、水中に溶け出す。

3. 溶け出した活性剤がある一定の濃度(臨界ミセル濃度)を超えると、疎水基同士が引かれ合いミセルが形成される。

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臨界ミセル濃度の特徴とは?

活性剤濃度が臨界ミセル濃度(以降「CMC」と略します)に達する前と後の大きな違いとしてはミセルが液中に存在するかしないかということが第一に挙げられます。よってその前後で水溶液の物性にも変化が起きる場合があるのです。この章では活性剤にも共通する性質についてそれぞれ見ていきましょう。

洗浄力

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洗浄力はCMCに達する前であれば、活性剤濃度の上昇に伴い大きくなっていきます。しかし、CMC以上に活性剤濃度を上げても洗浄力に変化はありません。これは油脂が全て活性剤に取り囲まれてミセルを形成した後に追加で活性剤を添加しても洗浄力に変化はないということです。

表面張力

表面張力は活性剤濃度が増すと著しく低下していきますが、こちらもCMC以上に活性剤濃度を上げても表面張力に変化はありません。活性剤分子は界面に広がりきると水溶液中でミセル形成を起こすため、それ以上活性剤が加えられても表面張力には無関係であるからです。

可溶化力

水に溶けにくい油脂や染料などの有機分子はミセル内部の疎水性部位に閉じ込めることができるのです。この現象を可溶化と言います。活性剤濃度の上昇に伴い溶液中のミセルの数は増加し続けるのです。よってミセル内部に取り込まれる油脂量も増加するので、右肩上がりで上昇をし続けます。

\次のページで「臨界ミセル濃度の測定方法」を解説!/

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臨界ミセル濃度の測定方法

臨界ミセル濃度の正確な値を求めるには、実験的な方法と分析装置による機械的な方法2種類あります。イオン性であるかそうでないか、活性剤の分子構造に由来する特性などを考慮して適切な手法が用いられるのです。

導電率法(イオン性活性剤に限る)

導電率法(イオン性活性剤に限る)

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活性剤がイオンを持っている場合、その水溶液は電気を通しやすくなります(導電性)。水溶液の電気の通りやすさを導電率と言い、これは電気抵抗の逆数なので電気抵抗を測定することにより導電率を求めることができるのです。活性剤の濃度を変えて導電率を測定すると上図のようなグラフが得られます。最初は活性剤濃度の増加に伴い一定の割合で導電率が増加しますが、ある濃度に達した折れ曲がります。この変わり目の濃度がCMCなのです。

分子量測定

多数の分子が集合して形成されているミセルが存在する場合、分子量の値も大きく出ます。溶質の分子量測定法としては蒸気圧降下法沸点上昇法凝固点降下法浸透圧法など多岐に渡ります。

光散乱法

光散乱法

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ミセルなどのコロイド粒子が含まれる水溶液は濁って見えます。これは粒子が光を散乱させるからであり、コロイド溶液に横から強い光を当てると光路が肉眼で見ることができるのです。この現象をチンダル現象と言い、チンダル現象による散乱光の強さは粒子が大きいほど強くなります。ミセルは活性剤濃度をCMC以上に上げることで生成されるため、活性剤濃度と散乱光の強さとの関係をグラフに書くと上図のようになります。グラフにおいて散乱光の強さが急激に上昇する点がCMCです

可溶化法

可溶化法

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水に溶けにくい油脂や染料を活性剤水溶液に加えて、よく振り混ぜて溶けるか濁るかを観察するというシンプルな方法です。濁りが見え始めた時の直前の滴下量が溶ける量の最大限であり、上図のグラフのような関係性が分かります。

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臨界ミセル濃度はミセルが形成する最小の活性剤濃度

臨界ミセル濃度はミセル形成を引き起こす境界線のような役割をしているのです。

最初にあなたが「臨界ミセル濃度」という言葉を耳にした時、「もう訳がわからないから化学嫌い」と思われたかもしれません。しかし、実は化学を学んできた私も難しいことは嫌いです。「実験が好き」、「先生が面白い」、「受験勉強で選んだ」などきっかけはたくさんあります。そこから化学の面白さに気づいて、「臨界ミセル濃度」というマニアックな用語を理解したいと思えたなら私は嬉しいです。

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化学原子・元素有機化合物理科生活と物質高分子化合物

3分で簡単臨界ミセル濃度!定義や界面活性剤との関係について現役エンジニアがわかりやすく解説


突然ですが「臨界ミセル濃度」って言葉を知ってるか?
100人中99人は答えがノーでしょうな。

軽く説明すると、「臨界ミセル濃度」とは界面活性剤の疎水基同士が凝集してミセルを形成するときの最低濃度のことです。
これが理解できれば、界面化学という分野をより身近に感じることができるぞ!
それじゃあ今回は現役エンジニアライターのえぬいちと一緒に解説していきます。

ライター/えぬいち ゆうや

元理系大学院卒で現在は素材メーカーにて高分子の研究開発をしているサンプル数1(n=1)の現役エンジニア。学生時代に培ったプレゼン能力と塾講師経験を駆使して、化学の面白さを一般人にわかりやすく紐解いていく。

臨界ミセル濃度って何?ざっくり解説

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臨界ミセル濃度(CMC:Critical MIcelle Concentration )を一言で言うと、

「水溶液中に溶け出した界面活性剤同士が集まってミセルが生成され始める最小の濃度」のことです。

この濃度を上回るとミセルが自然に生成され、下回るとミセルは自然に壊れます

界面活性剤とは?

水と油は互いに溶け合うことはなく、両物質間に界面という境目を作ります。そこに石けんを加えると界面はなくなり、水と油が溶け合った状態になるのです。石けんには水と油の界面に働く力(表面張力)を弱める作用があり、この性質を界面活性と言い、またそのような物質を界面活性剤と言います。

ミセルとは?

ミセルとは?

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界面活性剤(以降「活性剤」と略します)は水に馴染みやすい部位(親水基)と油に馴染みやすい部位(疎水基)を合わせ持ちます。活性剤の構造は丸い部分を親水基、棒の部分を疎水基と見立てたマッチ棒のような形で表されることが多いです。活性剤分子が水溶液中で多数集まって形成されることでミセルが形成されます。水溶液中において活性剤の疎水基が内側、親水基が外側を向いた球体状の粒子はミセルコロイドと呼ばれており(図の上)、油脂中では親水基が内側、疎水基が外側を向いた逆ミセルが形成されるのです(図の下)。

界面活性剤とミセルの関係は?

界面活性剤とミセルの関係は?

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ミセルが形成される順序は以下の通りです。

1. 水に活性剤を加えることで、活性剤が界面中に拡散する。

(この時疎水基が上、親水基が下を向いた状態で界面中に存在する。)

2. 活性剤を添加し続けることで界面が活性剤で埋め尽くされ、水中に溶け出す。

3. 溶け出した活性剤がある一定の濃度(臨界ミセル濃度)を超えると、疎水基同士が引かれ合いミセルが形成される。

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