みんなは「雌雄異株」という言葉を聞いたことをあるでしょうか?中学校や高校の生物の授業では、あまり触れられないが、様々な花の構造を知る上では欠かせないワードです。雌雄異株とは何なのか、どういった特徴やどういった植物の種類があるのかについて、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

雌雄異株とは?

image by iStockphoto

花と言えば、中心に雌しべがあり、その周りに雄しべを持つものを想像しがちですが、実は、全ての植物の花がこのような構造をしているとは限らないのです。その1つとして「雌雄異株(しゆういしゅ)」があります。

「雌雄異株」とは、雌花(めばな)と雄花(おばな)を別の個体に付ける種子植物のこと。そもそも、「雌花」とは、雌しべのみ機能している花のことであり、「雄花」は雄しべのみ機能している花のことです。そして、雌花は「雌株」に、雄花は「雄株」に付きます。

詳しいことは後ほどご紹介しますが、雄株と雌株に分けたことで、長く生存するための大きなメリットが生まれたと同時に、デメリットも生じてしまったのです。

雌雄異株の利点と欠点の話に進む前に、まずは雌雄異株とよくセットで耳にする雌雄同株(しゆうどうしゅ)について学びましょう。

雌雄同株との違いは?

雌雄同株との違いは?

image by Study-Z編集部

上記の図のように、雌雄異株は雄花と雌花が別個体につくのに対して、雌雄同株は同じ個体に雌花と雄花の両方をつけるのです。雌雄同株の植物の例として、トウモロコシ、キュウリ、スイカ、カボチャなどが挙げられます

雌雄異株のメリット

雌雄異株である主なメリットとして「自家受粉を免れられること」が挙げられます。そもそも自家受粉とは何なのか、それをなぜ避ける必要があるのかについても学んでいきましょう。

自家受粉を避けられる

自家受粉とは、ある花に形成される花粉が同じ個体で形成された柱頭にくっつく(受粉する)ことです。この場合、確実に受粉が成功し、子孫を残せるというメリットがあります。しかし、これは近親交配になってしまうので、遺伝的多様性が低下することで、様々な環境に対応できなくなり子孫を残せないという可能性が高くなってしまうのです。さらに、近い遺伝子同士が交配することで、有害な表現形質が現れる(近交弱性という)こともあります。

雌雄異株は雄花と雌花がそれぞれ違う個体に存在することで、自家受粉を完全に避けることが可能です。その代わり、他家受粉(花粉が別個体の花の雌しべに受粉すること)することで、遺伝的多様性を保ちながら子孫を残すことができます。

\次のページで「雌雄異株のデメリット」を解説!/

雌雄異株のデメリット

雌雄異株であることで、近親交配を避けられて、様々な環境でも子孫が残せるという利点がありましたよね。それでは、雄花と雌花が異なる個体にあることでどういったデメリットがあるのでしょうか。ここでは、雌雄異株のデメリットを学びましょう。

近くに異株がいなければ子孫を残せない

雌雄異株の欠点は、雄花をつけている個体と雌花をつけている個体同士が離れていると、受粉ができずに子孫を残せないことです。花粉は、風や虫によって他の花に運ばれるのでしたね。雄花と雌花が離れすぎていると花粉が雌花の柱頭に辿り着く確率が下がってしまい、そもそも受粉に至らない可能性が高まってしまいます

雌雄異株の植物例

それでは、雌雄異株にはどういった植物があるのでしょうか。実は、雌雄異株の植物は私たちの身近にたくさん存在しているのです。ここでは、例として3種類の植物とそれらの特徴や、農業での利用をご紹介します。

1. イチョウ

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10月~11月に実がなるイチョウ。その実はギンナンと呼ばれ、地面に落ちているものを誤って踏んでしまうと独特な臭いが広がりますよね。このギンナンも雄株の花粉が雌株の胚珠に取り込まれて受精することで実るのです。

イチョウの街路樹をよく見ますが、近年、ギンナンのキツイ臭いを嫌う人々が増えたことで、街路樹のほとんどは、ギンナンを結実しない雄株のイチョウを植えるようにしています。この雄株たちは、接ぎ木で個体を増やしているそうですよ。

(接ぎ木とは、植物の枝や芽を切り取って、他の植物と接着させて1つの個体にすることです。)

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2. キウイフルーツ

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果樹であるキウイフルーツも雌雄異株の1つです。キウイフルーツを実らせるには、雄株と雌株の2本が必要になりますね。確実に受粉して、最終的に結実させるためには、雌株の花と雄株の花の開花時期が同じである必要があります。雌株と雄株が同じ品種であっても、開花時期が一致しないことがほとんどです。そのため、雄株と雌株は異なる品種を育てなければならず、これにより、受粉ができます。

他にも、雄株の花粉を冷凍保存する、もしくは花粉を購入して人工授粉させることで、より確実に受粉し、キウイフルーツが実るのです。

3. ホウレンソウ

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ホウレンソウの雄株の花粉は風で運ばれる風媒花なので、虫をおびき寄せるために必要な大きくて派手な花びらをつけません。一方、雌株は花粉をしっかりと受け取るために、雌しべが長く伸びています。

実は、ホウレンソウはたまに「性転換」を起こすことがあるのです。通常、雌株だけを孤立させると、雄花がいなことで受粉・受精ができず種子を形成せずに枯死してしまいます。しかし、ごく稀に一部の雌株が、なんとか子孫を残そうと、枯れる直前に雄花を咲かせることがあるのです。この雌株に咲いた雄花から花粉が放出されて結実することがあります。最近は、ホウレンソウのこの特性を使った品種育成も行われているそうですよ。

雌雄異株は植物の生存戦略

雌雄異株は、雄花と雌花を異なる個体につけるような植物のことを言いましたね。雌雄異株は遺伝的多様性を保ちながら子孫を残すことができるというメリットがありながら、雄株と雌株が離れすぎていると、受粉できないというデメリットもありますね。植物には様々な花の付け方があり、どれもその植物が生存するために最適な方法を取っているのです。雌雄異株もその生存戦略の1つであることを覚えてくださいね。

イラスト引用元:いらすとや

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3分で簡単雌雄異株!メリットや植物の種類、雌雄同株との違いを現役理系学生がわかりやすく解説

みんなは「雌雄異株」という言葉を聞いたことをあるでしょうか?中学校や高校の生物の授業では、あまり触れられないが、様々な花の構造を知る上では欠かせないワードです。雌雄異株とは何なのか、どういった特徴やどういった植物の種類があるのかについて、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

雌雄異株とは?

image by iStockphoto

花と言えば、中心に雌しべがあり、その周りに雄しべを持つものを想像しがちですが、実は、全ての植物の花がこのような構造をしているとは限らないのです。その1つとして「雌雄異株(しゆういしゅ)」があります。

「雌雄異株」とは、雌花(めばな)と雄花(おばな)を別の個体に付ける種子植物のこと。そもそも、「雌花」とは、雌しべのみ機能している花のことであり、「雄花」は雄しべのみ機能している花のことです。そして、雌花は「雌株」に、雄花は「雄株」に付きます。

詳しいことは後ほどご紹介しますが、雄株と雌株に分けたことで、長く生存するための大きなメリットが生まれたと同時に、デメリットも生じてしまったのです。

雌雄異株の利点と欠点の話に進む前に、まずは雌雄異株とよくセットで耳にする雌雄同株(しゆうどうしゅ)について学びましょう。

雌雄同株との違いは?

雌雄同株との違いは?

image by Study-Z編集部

上記の図のように、雌雄異株は雄花と雌花が別個体につくのに対して、雌雄同株は同じ個体に雌花と雄花の両方をつけるのです。雌雄同株の植物の例として、トウモロコシ、キュウリ、スイカ、カボチャなどが挙げられます

雌雄異株のメリット

雌雄異株である主なメリットとして「自家受粉を免れられること」が挙げられます。そもそも自家受粉とは何なのか、それをなぜ避ける必要があるのかについても学んでいきましょう。

自家受粉を避けられる

自家受粉とは、ある花に形成される花粉が同じ個体で形成された柱頭にくっつく(受粉する)ことです。この場合、確実に受粉が成功し、子孫を残せるというメリットがあります。しかし、これは近親交配になってしまうので、遺伝的多様性が低下することで、様々な環境に対応できなくなり子孫を残せないという可能性が高くなってしまうのです。さらに、近い遺伝子同士が交配することで、有害な表現形質が現れる(近交弱性という)こともあります。

雌雄異株は雄花と雌花がそれぞれ違う個体に存在することで、自家受粉を完全に避けることが可能です。その代わり、他家受粉(花粉が別個体の花の雌しべに受粉すること)することで、遺伝的多様性を保ちながら子孫を残すことができます。

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