昼の長さと夜の長さの変化によって示す生物の反応のことを「光周性」という。最も有名な光周性は植物の花芽形成ですが、この仕組みを説明できるでしょうか。今回の記事では、光周性による花芽形成の仕組み、植物の光の感じ方などについて、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

光周性とは?

「光周性(こうしゅうせい)」とは、昼や夜といった明期と暗期の長さの変化に対して生物の行動や生理現象が影響を受ける性質のことを言います。最も有名な光周性は、今回学習する植物の「花芽形成(かがけいせい)」です。また、植物の茎の伸長や落葉、休眠にも光周性が依存していることが言われています。植物以外にも、昆虫の休眠や羽化、脊椎動物の換羽や発情、移動運動なども光周性が関与しているという研究結果もあるのです。

花芽形成と日長の関係とは?

花芽形成と日長の関係とは?

image by Study-Z編集部

植物の光周性の代表例として「花芽形成」がありましたね。花芽形成とは、植物が成長するにあたって、花芽ができる過程のことを言います。実は、多くの植物の花芽形成は日長(正しくは暗期の長さ)に依存しているのです。

実際に私たちの周りには季節によって咲く花が異なりますよね。例えば、チューチップやツツジは春に咲きますし、ヒマワリやアジサイは夏に咲き、コスモスやキクは秋に咲きます。このように、花によって開花するタイミングが異なるのは光周性によるものだと言えるのです。

花芽形成に影響を与える一定時間の連続した暗期のことを「限界暗期」と言います。植物が花芽を形成するために必要な暗期が、この限界暗期よりも短いのか長いのかによって、「長日植物」、「短日植物」、「中性植物」の3つのグループに分類することがでるのです。ここからは各グループの特徴について学んでいきましょう。

1. 長日植物

image by iStockphoto

「長日植物」は暗期が「限界暗期」よりも短いときに花芽形成する植物のことです。イメージとして、夜の時間が一定の時間よりも短い、つまり昼の時間が長いと花芽形成することになります。長日植物の限界暗期は10時間~14時間です。長日植物は春咲きや秋まき、越冬植物が多いことが特徴であり、例としてダイコンやアブラナ、コムギなどがあります。

2. 短日植物

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「短日植物」は「長日植物」と反対に暗期が「限界暗期」よりも長いときに花芽形成する植物のことを指します。夜の時間が一定の時間よりも長い、つまり昼の時間が短いと花芽が形成されるというイメージですね。短日植物の限界暗期は8時間~12時間です。短日植物には、春まきや秋咲き、一年生の植物が多く、例えばダイズやアサガオ、コスモスなどがあります。

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3. 中性植物

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「中性植物」は暗期の長さに依存する長日植物や短日植物と異なり、花芽の形成が日長に関係なく行われる植物のことを指します。そのため、限界暗期がないので、いつでも花芽形成が行われるのです。四季咲きの植物が多く、例としてナスやトマト、ソバなどがあります。

植物は光受容体で光を感じる

植物が花芽形成するかどうかは暗期の長さによるのでしたね。それでは、植物は日照をどのように感知しているのでしょうか。実は、植物にある光受容体が日照を感知しています。光受容体はいくつも存在しますが、花芽形成で最も活躍すると言われているのは「フィトクロム」という光受容体です。このフィトクロムについて解説していきますね。

フィトクロムとは?

フィトクロムとは?

image by Study-Z編集部

フィトクロムには赤色光吸収型であるPr型(不活性型フィトクロム)と遠赤色吸収型であるPfr型(活性型フィトクロム)の2タイプがあります。赤色光の波長は600nm~700nmで太陽光にも含まれており、遠赤色光の波長は700nm~800nmです。上記の図のように、Pr型のフィトクロムに赤色光を当てるとPfr型になり、Pfr型に遠赤色光を照射する、もしくは暗期の環境下にさらすとPr型になります。

短日植物の場合、Pr型が13時間前後(短日植物の限界暗期は8時間~12時間であるから)、蓄積されると花芽形成へと誘導されるのです。一方で長日植物の場合、フィトクロムがPr型だと花芽形成が抑制されます。この抑制が解除されると長日植物の花芽形成が促進されるのです。

花芽形成のしくみ

植物は葉で日長の情報を受容することで、花芽形成をするか否かが決まるのでした。

花芽形成の促進に働く物質を「フロリゲン」と呼びます。これまで、このフロリゲンの正体を明らかにしようと、多くの研究者が奮闘しました。その結果、長日植物であるシロイヌナズナのフロリゲンは「FTタンパク質」であり、短日植物であるイネのフロリゲンは「Hd3aタンパク質」であることが明らかになったのです。それぞれのフロリゲンの働き方について詳しく学んでいきましょう。

長日植物:シロイヌナズナの場合

長日植物のシロイヌナズナは、葉で日長を感知すると、葉の維管束の師部の細胞内でFT遺伝子によってフロリゲンであるFTタンパク質が合成されます。このFTタンパク質が篩管を通って茎頂まで移動し、茎頂に存在するFDタンパク質(他の遺伝子の働きを調節するタンパク質)と結合し、花芽形成の最初の段階で必要になるAP1遺伝子を稼働させることで花芽形成が開始されるのです。

\次のページで「短日植物:イネの場合」を解説!/

短日植物:イネの場合

短日植物であるイネの場合、フロリゲンの正体は「Hd3aタンパク質」なのでしたね。光受容体であるフィトクロムがPfr型であるとHd3a遺伝子の発現がされないことで、花芽形成が抑制されます。この抑制が解除される(もしくは何かしらの物質で促進される)と、Hd3a遺伝子が転写、翻訳されてHd3aタンパク質が合成され、それが篩管を通って茎頂に辿り着くと花芽形成を促進されるのです。

光周性は日長に対する生物の反応のこと!

光周性は植物や動物でみられる日照時間の変化に対して反応する性質のことでしたね。今回は、最も有名な光周性として、植物の花芽形成についてご紹介しましたが、花芽が形成されるかどうかは、多くの植物は日照時間(暗期の長さ)に左右されるのでしたね。日照時間を感知する仕組みから花芽が形成されるまでの流れを解説しましたが、まだハッキリと分かっていないこともあります。この光周性による花芽形成の研究がどのように発展していくのか注目していきたいですね。

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理科環境と生物の反応生き物・植物生物

植物の光周性って何?花芽が形成される仕組みについても現役理系学生がわかりやすく解説

昼の長さと夜の長さの変化によって示す生物の反応のことを「光周性」という。最も有名な光周性は植物の花芽形成ですが、この仕組みを説明できるでしょうか。今回の記事では、光周性による花芽形成の仕組み、植物の光の感じ方などについて、生物に詳しいライターききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

光周性とは?

「光周性(こうしゅうせい)」とは、昼や夜といった明期と暗期の長さの変化に対して生物の行動や生理現象が影響を受ける性質のことを言います。最も有名な光周性は、今回学習する植物の「花芽形成(かがけいせい)」です。また、植物の茎の伸長や落葉、休眠にも光周性が依存していることが言われています。植物以外にも、昆虫の休眠や羽化、脊椎動物の換羽や発情、移動運動なども光周性が関与しているという研究結果もあるのです。

花芽形成と日長の関係とは?

花芽形成と日長の関係とは?

image by Study-Z編集部

植物の光周性の代表例として「花芽形成」がありましたね。花芽形成とは、植物が成長するにあたって、花芽ができる過程のことを言います。実は、多くの植物の花芽形成は日長(正しくは暗期の長さ)に依存しているのです。

実際に私たちの周りには季節によって咲く花が異なりますよね。例えば、チューチップやツツジは春に咲きますし、ヒマワリやアジサイは夏に咲き、コスモスやキクは秋に咲きます。このように、花によって開花するタイミングが異なるのは光周性によるものだと言えるのです。

花芽形成に影響を与える一定時間の連続した暗期のことを「限界暗期」と言います。植物が花芽を形成するために必要な暗期が、この限界暗期よりも短いのか長いのかによって、「長日植物」、「短日植物」、「中性植物」の3つのグループに分類することがでるのです。ここからは各グループの特徴について学んでいきましょう。

1. 長日植物

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「長日植物」は暗期が「限界暗期」よりも短いときに花芽形成する植物のことです。イメージとして、夜の時間が一定の時間よりも短い、つまり昼の時間が長いと花芽形成することになります。長日植物の限界暗期は10時間~14時間です。長日植物は春咲きや秋まき、越冬植物が多いことが特徴であり、例としてダイコンやアブラナ、コムギなどがあります。

2. 短日植物

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「短日植物」は「長日植物」と反対に暗期が「限界暗期」よりも長いときに花芽形成する植物のことを指します。夜の時間が一定の時間よりも長い、つまり昼の時間が短いと花芽が形成されるというイメージですね。短日植物の限界暗期は8時間~12時間です。短日植物には、春まきや秋咲き、一年生の植物が多く、例えばダイズやアサガオ、コスモスなどがあります。

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