この記事では、大学受験でも頻繁に出題される「長日植物」のことを一緒に学んでいきます。長日植物は日照時間が長くなると花が咲く植物のことですが、どんな種類があるのか、どのように光を感知し花を咲かせているのかを説明できるでしょうか?
植物に詳しい現役理系学生ライターのききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

長日植物ってどんな植物のこと?

image by iStockphoto

長日植物とは、暗期の長さが限界暗期以下になると花芽形成が行われる植物のことです。これは何を意味しているのでしょうか。

植物は1日の夜の時間(暗期)と昼の時間(明期)のバランス(光周期)を感知することによって、花芽をつける(花芽形成)という性質を持ち合わせています。そして、花芽形成に影響を与える連続した暗期を限界暗期というのです。

これらのことを踏まえると、長日植物は「1日の日照時間が一定時間より長くなると花を咲かせる植物」という意味になりますね。

 

長日植物のほかに、短日植物と中性植物(または中日植物)も存在し、短日植物は「暗期の長さが限界暗期以上になると花を咲かせる植物」であり、中性植物は「日長に関係なく花芽を形成する」という性質があります。このように植物によっては、日照時間の変化で花を咲かせるかどうかが決まるのです。

長日植物の特徴とは?

長日植物は限界暗期よりも暗期が短くなることで花芽形成が誘導されるという植物であることを学びましたね。この他にも長日植物の重要な特徴が2点あるので、しっかり頭に入れておきましょう。

特徴1:春咲き、秋まき、越年生植物が多い

春咲き、秋まき、越年生植物が多いのは限界暗期の長さが関係しています。春に種をまき春の終わり頃に芽がでる「春咲き生植物」、秋に種をまき夏に開花・結実する「秋まき生植物」、秋に発芽して翌春に開花・結実する「越年生植物」はいずれも花が咲く時期の暗期の長さ(もしくは日長)が共通していることがわかりますね。

限界暗期の長さについては後ほど詳しく解説します。

特徴2: 花芽形成するために「春化処理」が必要とするものもある

特徴2: 花芽形成するために「春化処理」が必要とするものもある

image by Study-Z編集部

春化処理」とは、吸水した種子を一定期間にわたって低温状態にさらすことであり、常温に戻したときに花芽形成が誘導されるのです。

例として、秋まきコムギを春に播いて開花・結実させるための春化処理が有名ですよね。もともと、秋まきコムギは、秋に種を播いて寒い冬を乗り越えて春に成長、夏に開花・結実します。しかし、春化処理をせずに春に播いてしまうと発芽はするものの、開花・結実はしません。このことから、秋まきコムギを春に播くならば一定期間の低温にさらす必要があり、春化処理は欠かせないのです。

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長日植物と短日植物の違いは限界暗期の長さにある!

長日植物は暗期が限界暗期よりも短くなることで、短日植物は暗期が限界暗期よりも長くなることで花芽が形成されるということを学習しましたね。

それでは、それぞれの限界暗期の長さはどれくらいなのでしょうか。限界暗期の長さと緯度の違いを考えながら違いを学びましょう。

限界暗期は、長日植物は約11時間で短日植物は約13時間!

長日植物の限界暗期は約11時間であり、暗期が約11時間以下になる3月中旬から4月中旬にかけて花芽形成をし、開花するということになります。一方、短日植物の限界暗期は約13時間であり、暗期が約13時間以上になる9月中旬から10月中旬にかけて花芽形成・開花するのです。

高緯度の地域では短日植物よりも長日植物が生息しやすい!

高緯度の寒冷な地域では短日植物ではなく長日植物が多く生息することをご存じでしょうか。

これは、短日植物は夏から秋に花芽形成し開花しますが、高緯度の地域では結実の時期には気温が低下し枯死することで繁殖ができません。一方で、長日植物は春頃に花芽形成・開花するので、気温が下がる前に結実し、種子の状態で冬を越すことができます。このため、高緯度の地域では長日植物が多く生息しているのです。

長日植物には何がある?

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世の中には、様々な長日植物が存在します。誰もが知っている身近な作物や野菜から雑草までと多種多用です。ここでは、ぜひ覚えていただきたい有名な長日植物を3つご紹介します。大学入試でも出題されるので、しっかりと覚えるようにしましょう。

コムギ

私たちの食生活に欠かせないうどんやパンなどの原料であるコムギは長日植物なのです。9月中旬に種をまき、10月上旬に芽が出る秋まきコムギと4月から5月に種をまいて8月に収穫する春まきコムギがあります。

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シロイヌナズナ

シロイヌナズナはアブラナ科の雑草で、日本全国の道端や海岸などに生えています。実は、シロイヌナズナは植物科学の研究でよく用いられており、後ほど出てきますが、花が咲くメカニズムの解明にも貢献したのです。

ダイコン

ダイコンも長日植物の1つであり、根菜として知られていますよね。根菜類の野菜は花芽が形成しまうと、根や茎に養分が花芽に移動することによって、品質が悪化してしまいます。そのため、ダイコンなどの根菜類を栽培する時は花芽をつけないように工夫する必要があるのです。

植物が光を感じて花を咲かせるメカニズムとは?

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植物はどのように光を感知して、花を咲かせるのでしょうか?実は、いくつかの物質によって花芽形成が誘導されているのです。ここからは、花芽形成が起こるまでのメカニズムとそれを促進する物質について学びましょう。

植物は光受容体「フィトクロム」で光を感じていた!

植物は光受容体「フィトクロム」で光を感じていた!

image by Study-Z編集部

光は花芽形成のほかにも発芽や成長方向の決定などに必要な情報なのです。そんな光を植物は光受容体で感知し、環境に応答します。花芽形成には「フィトクロム」という光受容体が関与しており、植物はこれで光を感じるのです。

フィトクロムは赤色の光を感知し「赤色光」と「遠赤色光」を区別して認識できます。フィトクロムにはPr型(不活性型)とPfr型(活性型)があり、Pr型は赤色光(およそ660nm)を吸収しPfr型になりPfr型は遠赤光(およそ730nm)を吸収しPr型になるのです。このような仕組みで植物は光を感じ取っています。

花芽形成を誘導するにはフィトクロムがPr型である必要があるので、植物に遠赤光を当てると花芽が形成されるようになるのです。

植物ホルモン「フロリゲン」が花を咲かせる引き金だった!

植物は、花芽形成に適当な日長になると、葉で「フロリゲン」という植物ホルモンを合成し、篩管を通って茎の先端である茎頂に移動して、花芽の形成を促進するのです。フロリゲンは長日植物と短日植物のどちらからも発見されていて、異なる植物種にも作用することもあるそうですよ。

フロリゲンはいくつかあり、シロイヌナズナで発見されたFTタンパク質が最も有名です。FTタンパク質はフロリゲンの1つであることを日本人の研究者である荒木崇氏によって証明されました。

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長日植物と短日植物は「限界暗期」で考えよう!

長日植物と短日植物は日長の長さで考えがちですが、連続した暗期の長さで考えるようにしましょう。

暗期の途中で光を照射して暗期を中断することを「光中断」と言います。この光中断によって花芽形成が阻害されるので、花芽形成を誘導するのは、「暗期の長さ」ではなく「連続した暗期の長さ」がポイントになるのです。

このため、明期の長さで考えるよりも連続した暗期の長さで考えることをおすすめします。

イラスト引用元:いらすとや

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理科環境と生物の反応生き物・植物生物

3分で簡単長日植物!特徴や例、短日植物との違いは?花が咲くメカニズムについても現役理系学生が徹底わかりやすく解説!

この記事では、大学受験でも頻繁に出題される「長日植物」のことを一緒に学んでいきます。長日植物は日照時間が長くなると花が咲く植物のことですが、どんな種類があるのか、どのように光を感知し花を咲かせているのかを説明できるでしょうか?
植物に詳しい現役理系学生ライターのききと一緒に解説していきます。

ライター/きき

大学生の頃は農学部に所属し植物のことを勉強した。現在は大学院に進学し植物のことを研究中。生物や植物の面白さを伝えられるライターを目指している。

長日植物ってどんな植物のこと?

image by iStockphoto

長日植物とは、暗期の長さが限界暗期以下になると花芽形成が行われる植物のことです。これは何を意味しているのでしょうか。

植物は1日の夜の時間(暗期)と昼の時間(明期)のバランス(光周期)を感知することによって、花芽をつける(花芽形成)という性質を持ち合わせています。そして、花芽形成に影響を与える連続した暗期を限界暗期というのです。

これらのことを踏まえると、長日植物は「1日の日照時間が一定時間より長くなると花を咲かせる植物」という意味になりますね。

 

長日植物のほかに、短日植物と中性植物(または中日植物)も存在し、短日植物は「暗期の長さが限界暗期以上になると花を咲かせる植物」であり、中性植物は「日長に関係なく花芽を形成する」という性質があります。このように植物によっては、日照時間の変化で花を咲かせるかどうかが決まるのです。

長日植物の特徴とは?

長日植物は限界暗期よりも暗期が短くなることで花芽形成が誘導されるという植物であることを学びましたね。この他にも長日植物の重要な特徴が2点あるので、しっかり頭に入れておきましょう。

特徴1:春咲き、秋まき、越年生植物が多い

春咲き、秋まき、越年生植物が多いのは限界暗期の長さが関係しています。春に種をまき春の終わり頃に芽がでる「春咲き生植物」、秋に種をまき夏に開花・結実する「秋まき生植物」、秋に発芽して翌春に開花・結実する「越年生植物」はいずれも花が咲く時期の暗期の長さ(もしくは日長)が共通していることがわかりますね。

限界暗期の長さについては後ほど詳しく解説します。

特徴2: 花芽形成するために「春化処理」が必要とするものもある

特徴2: 花芽形成するために「春化処理」が必要とするものもある

image by Study-Z編集部

春化処理」とは、吸水した種子を一定期間にわたって低温状態にさらすことであり、常温に戻したときに花芽形成が誘導されるのです。

例として、秋まきコムギを春に播いて開花・結実させるための春化処理が有名ですよね。もともと、秋まきコムギは、秋に種を播いて寒い冬を乗り越えて春に成長、夏に開花・結実します。しかし、春化処理をせずに春に播いてしまうと発芽はするものの、開花・結実はしません。このことから、秋まきコムギを春に播くならば一定期間の低温にさらす必要があり、春化処理は欠かせないのです。

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