中学の理科や高校化学で蒸留と分留について習ったと思うが、その違いをちゃんと理解しているか?「固体と液体の混合物」から液体を取り出すのが蒸留、「液体と液体の混合物」から液体を取り出すのが分留なんて雑な覚え方をしてるんじゃないでしょうな?液体と液体の混合物から液体を取り出すことも立派な蒸留です。蒸留酒が良い例です。
今回は、蒸留と分留の違いと使い分けについて学んでいこう。テストや入試でよく出てくる項目だから、一度きちんと理解しておくように。化学に詳しいライターの小春と一緒に解説していきます。

ライター/小春(KOHARU)

大阪大学・大学院で化学を専攻。卒業後はメーカーで開発を担当。最先端の有機デバイスやセンサー開発について詳しい。

結婚を機に退職した今は、子供に身の回りの自然科学や家電の仕組みをどのように教えるか、日々考えている。

蒸留と分留の違いは「なし」!分留は蒸留の一種

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蒸留は英語でdistillation 、分留(分別蒸留)はFractional distillationと言います。この名前を見て分かる通り、分留は蒸留の一種なのです。緑茶と煎茶の違いをイメージしたら分かりやすいかもしれません。分留は蒸留の中に含まれています。

元の混合物が「液体と固体」か「液体同士」かで見分けるという人もいるでしょう。これは覚え方としては良いかもしれませんが、理解としては少し甘いかもしれません。

蒸留と分留の定義の違いは?

分留は蒸留の1種だとざっくりお伝えしましたが、詳しく説明する前にまずはそれぞれの定義を復習しましょう。

蒸留とは、液体の混合物を分離する操作の一種

蒸留とは、液体の混合物を分離する操作の一種

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混ざってしまった物質を分けるとき、それぞれの物質が固有に持っている性質を活かせば、それらを再び分けることができます。蒸留は、液体の混合物(液体と液体、または液体と固体)を沸点の差を利用して分離する手法です。余談ですが、なぜ物質同士で沸点が違うのかというと分子のサイズが違うためですが、長くなるのでここでは割愛します。一般に、分子量が大きいほど沸点は高くなると覚えれば十分でしょう。

液体の混合物を加熱しているとき、先に気体になるのはより沸点が低い成分ですね。
先に気化した成分だけを集めてみましょう。この気体を冷やしていけば状態変化が起き、加熱する前の状態(液体または固体)に再び戻ることが想像できますか?これで、混合物を2種類に分けることができました。この操作を蒸留と呼びます

分留とは2種類以上の液体の混合物を、沸点の違いを利用して分離する操作

分留とは2種類以上の液体の混合物を、沸点の違いを利用して分離する操作

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分留は、分別蒸留の略称です。すなわち分留は蒸留の一種といえます。

3種類以上の成分が混じった溶液の場合、それぞれの成分に分けるためには蒸留を繰り返さなくてはなりません。この操作を分留と呼んでいます。

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蒸留と分留の目的とは?

蒸留と分留の定義について確認できたところで、それぞれの目的を理解し、必要に応じて手法の使い分けができるようにしましょう。

蒸留の目的:不純物を取り除き高付加価値な液体を生み出す

混ざっている液体同士の沸点の差が大きい時、または混じっている物質が固体不揮発性の液体ときは、単なる蒸留で分離することができます。(この世に不揮発性の液体はあるの?と思うかもしれません。しかし、インクジェットに使われている液体や、イオン液体と呼ばれる液体は不揮発性の液体なのです。加熱して安全かどうかという疑問は消えませんが。)

では、そもそもなぜ分離する目的は何か分かりますか?例えば、原料には不要なものが含まれていることが多いです。それを純粋な製品にするためには蒸留などの操作によって不純物を取り除く必要があります。これにより、高付加価値を生み出せるんです。

分留の目的:混ざり合った混合溶液から3種類以上に分ける

混ざった物質の沸点の差が小さい場合、1回の蒸留では完全に成分を分離できません。

3種類以上の物質が溶け込んでいる場合も、成分ごとに分けるためには繰り返し蒸留する必要があります。この操作が分留です。工業的には、何度も繰り返し蒸留することは非効率的であるため、分留菅(塔、カラム)というものを用い、見かけ上は1回の蒸留で成分を分離させています。

蒸留と分留の実験や操作内容をご紹介!

実験室レベルで蒸留や分留をする際に使用する器具や注意点をまとめて解説します。定期テストや受験で頻出ですよ!

蒸留の実験法は?

蒸留の実験では、溶液を加熱して気化した気体を冷やして収集します。純度を高めること、混じったものを分離することが目的です。

それぞれの実験で使われる実験器具

枝付きフラスコ:原料を仕込む
沸騰石:突沸を防ぐ
冷却管:蒸気を冷却する
温度計:気化した気体の温度を測る
ヒーター(バーナー):液体を温める
(バーナーを使用する場合、ガラスに直接火が当たらないように金網を使用すること。ウォーターバス、または、オイルバスで温めても良い)
保温剤:気化した気体が液体に戻ってしまうのを防ぐ
ビーカー:低沸点成分を受け入れる

\次のページで「蒸留の実験の注意点!テストや受験に頻出のポイントを解説」を解説!/

蒸留の実験の注意点!テストや受験に頻出のポイントを解説

蒸留の実験操作は受験でも頻出ですね。覚えることがたくさんあると思われがちですが、実験の目的をきちんと理解しておけば、覚える必要もありません。

蒸留の操作手順でよく聞かれるポイントは以下の通りです。

1. フラスコに入れる混合物の量は半分以下にする
(目的:水面が高いと、沸騰した際に溶液が枝のほうに流れ込んでしまう恐れがあるため)
2. フラスコに沸騰石を入れる
(目的:突沸を防ぐため)
3. 温度計の下端部は、フラスコの枝元にくるようにする
(目的:「出てきた気体」の温度を測るため)
4. フラスコの底に金網を敷く
(目的:ガラスを局部的に熱すると割れる恐れがあり危険だから)
5. リービッヒ冷却器の水は下から上に流す
(目的:上から下に流すと、水が流れ出てしまうため。冷却器内に水が満たされず、冷却効率が落ちてしまう)
6. 蒸留の始めと終わりに出てくる液体は捨てる
(目的:集めた液体の純度を高めるため。蒸留の始めと終わりに出てくる液体は不純物を含んでいやすいから)
7. 受け器は密閉しない
(目的:密閉すると圧力がかかってしまい危険だから)

このうち、2、4、7は実験中の危険を避けるため、1、3、5、6は分離の精度を上げるために必要な操作です。

日常で見かける「蒸留」「分留」

蒸留や分留は理科の世界の話だけだと思っていませんか?普段生活するなかで、蒸留したものや分留したものはたくさん使っていますよ。それぞれ一例ずつご紹介していきます。

蒸留の例「蒸留酒」

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一般に、お酒は原料を発酵させて作られますが、これを醸造酒と呼びます。醸造酒をさらに蒸留してできたものが蒸留酒です。

\次のページで「分留は蒸留の一種!混合物を1回の蒸留で分離できるかどうかがポイント!」を解説!/

原料:麦芽→発酵→醸造酒:ビール→蒸留→蒸留酒:ウイスキー
原料:ぶどう→発酵→醸造酒:ワイン→蒸留→蒸留酒:ブランデー
原料:米→発酵→醸造酒:日本酒→蒸留→蒸留酒:米焼酎

出典:SAKETIMES
https://jp.sake-times.com/knowledge/word/sake_joryushu

お酒の主成分はエタノールですから、沸点はおよそ78度。水の沸点である100度より低いので、例えば80度ほどの温度で蒸留することで水と分離することができますね。

アルコールだけを気化させるわけですから、糖分や酸味、旨味などの成分は気化していません。ゆえに、蒸留酒には糖分があまり含まれません。ウイスキーは太りにくい!と言われるのはこのためです。アルコール以外の香味成分も蒸留によって抽出されるため、独特の風味や味わいになりますよ。

分留が最も活躍している場は、間違いなく石油精製工場でしょう。貯蔵所から石油精製工場に運ばれた原油は、高さ50mほどの蒸留塔でいろいろな石油製品に分けられます。沸点の低い物質は上部で取り出され、沸点の高い物質は底部から取り出しているそうです。

日本における石油化学製品は、ここで分離される「ナフサ」が原料になっていることがほとんど。さらに、日常でも使う軽油や灯油、ガソリン、重油もこの石油精製工場の蒸留塔で分離することでつくられます。

分留は蒸留の一種!混合物を1回の蒸留で分離できるかどうかがポイント!

蒸留は、沸点の違いをもとに液体を分離する手法です。その中でも、分留は3種類以上の液体を段階的に分離する手法を意味し、主に原油から沸点別に製品を取り出すのに利用されています。蒸留は、塩化ナトリウム水溶液(沸点が800度近くの塩化ナトリウムと水の混合物なので、容易に分離できる)や、水とエタノールの混合液(蒸留酒の作り方と同じ)が例として挙げられますよ。

日常生活のどこで化学を活かせるのか?と聞かれることもありますが、「不純物が混じってしまった液体があって、不純物を除いて液体の純度を高めたい」ときに蒸留を知っていれば活かすことができます。

どの分離法を選択すると、最も安く最も収率良く目的物質が集められるか?自分の引き出しが多いほどより良い選択ができますよ。知識という武器を集めていきましょう!

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化学理科

5分で分かる蒸留と分留の違い!目的や仕組み、実験方法などを阪大院卒理系ライターがわかりやすく解説

中学の理科や高校化学で蒸留と分留について習ったと思うが、その違いをちゃんと理解しているか?「固体と液体の混合物」から液体を取り出すのが蒸留、「液体と液体の混合物」から液体を取り出すのが分留なんて雑な覚え方をしてるんじゃないでしょうな?液体と液体の混合物から液体を取り出すことも立派な蒸留です。蒸留酒が良い例です。
今回は、蒸留と分留の違いと使い分けについて学んでいこう。テストや入試でよく出てくる項目だから、一度きちんと理解しておくように。化学に詳しいライターの小春と一緒に解説していきます。

ライター/小春(KOHARU)

大阪大学・大学院で化学を専攻。卒業後はメーカーで開発を担当。最先端の有機デバイスやセンサー開発について詳しい。

結婚を機に退職した今は、子供に身の回りの自然科学や家電の仕組みをどのように教えるか、日々考えている。

蒸留と分留の違いは「なし」!分留は蒸留の一種

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蒸留は英語でdistillation 、分留(分別蒸留)はFractional distillationと言います。この名前を見て分かる通り、分留は蒸留の一種なのです。緑茶と煎茶の違いをイメージしたら分かりやすいかもしれません。分留は蒸留の中に含まれています。

元の混合物が「液体と固体」か「液体同士」かで見分けるという人もいるでしょう。これは覚え方としては良いかもしれませんが、理解としては少し甘いかもしれません。

蒸留と分留の定義の違いは?

分留は蒸留の1種だとざっくりお伝えしましたが、詳しく説明する前にまずはそれぞれの定義を復習しましょう。

蒸留とは、液体の混合物を分離する操作の一種

蒸留とは、液体の混合物を分離する操作の一種

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混ざってしまった物質を分けるとき、それぞれの物質が固有に持っている性質を活かせば、それらを再び分けることができます。蒸留は、液体の混合物(液体と液体、または液体と固体)を沸点の差を利用して分離する手法です。余談ですが、なぜ物質同士で沸点が違うのかというと分子のサイズが違うためですが、長くなるのでここでは割愛します。一般に、分子量が大きいほど沸点は高くなると覚えれば十分でしょう。

液体の混合物を加熱しているとき、先に気体になるのはより沸点が低い成分ですね。
先に気化した成分だけを集めてみましょう。この気体を冷やしていけば状態変化が起き、加熱する前の状態(液体または固体)に再び戻ることが想像できますか?これで、混合物を2種類に分けることができました。この操作を蒸留と呼びます

分留とは2種類以上の液体の混合物を、沸点の違いを利用して分離する操作

分留とは2種類以上の液体の混合物を、沸点の違いを利用して分離する操作

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分留は、分別蒸留の略称です。すなわち分留は蒸留の一種といえます。

3種類以上の成分が混じった溶液の場合、それぞれの成分に分けるためには蒸留を繰り返さなくてはなりません。この操作を分留と呼んでいます。

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