今回は適応放散について学んでいこう。適応放散とはもともと同じ起源の生物が住む環境に合わせて姿かたちを変えることです。ダーウィン・フィンチという鳥は住む地域によってくちばしの形が異なる。これは住む島の環境によって食べるものが違うからです。また、オーストリアに住むカンガルーやコアラなどの有袋類も適応放散によって出現した生物の例です。今回はそんな適応放散について具体例を挙げながら学生時代、獣医学部で動物のことを学んでいたライターみんちが解説します。

ライター/みんち

学生時代、獣医学部で動物の知識を学んだ。趣味は動物園巡り。ライターとして、初心者にもわかりやすく、質のある情報を提供できるよう、日々奮闘中。

適応放散とは?

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適応放散とは、もともと起源が同じ生物が、住む環境に合わせて姿かたちを変えること。姿かたちと言っても、体の内部の構造や機能が変化する場合(生理学的変化)や、生物そのものの外見的な見た目が変わる場合(形態学的変化)もあります。これは1917年、H.F.オズボーンにより提唱されました。

生物が環境に合わせて姿を変えていくこと!

例えばダーウィン・フィンチという鳥の仲間は、「エサの食べ方」によってくちばしの形状が異なります。この鳥は小さな島々に生息しているのですが、その島ごとの環境によってくちばしの形や大きさが変化していったそうです。ダーウィン・フィンチについてはまたあとから詳しく説明しますね。

ここで一つ勘違いしないでほしいのが、「1つの祖先から様々な種類の子孫が出現する」ではないこと。もし、1つの祖先から多様な種が生まれたとすると、それは進化全般に言えることですよね。重要なのは進化の規模が大きいこと1種の祖先から多くの種に分化した場合にだけ適応放散とよばれます。適応放散は時間がたてばたつほどその効果は高まります。

ここまでで、適応放散とは同一の祖先をもつ生物が住む環境に合わせて生理的、形態的に変化していくということがわかりましたね。ここからは、適応拡散が起こりやすい場所とはどんなところか、詳しく見ていきましょう。

適応放散が起こりやすい場所とは?

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適応放散が起こりやすい場所とはずばり、ニッチに空きがある場所と言えます。ではニッチとは何でしょうか?

\次のページで「ニッチに空きがある地域」を解説!/

ニッチ(生態的地位)とは生物が生きるために適した環境のこと

私たち人間も生きるためには住む場所が必要ですよね。生物も同じように、生きていくためには適した環境が必要です。しかし同じエリアに多くの種がいると場所や食べ物の奪い合いが起きてしまいますよね。そこで競争に勝ち抜いたり、争いが起きないように棲み分けをするなどして、すみかとして獲得した環境のことをニッチ(生態的地位)といいます

環境といってもさまざま。動物が生活する場所は地上、海洋、空、樹上など意外とたくさんあるんです。しかも肉食性、虫食性、植物性など生物ごとに食べるものも違いますよね。さらに言えば、昼間に活動するのか、夜に活動するのかなど活動時間なども要素に入ります。このようにニッチの要素は幅広くあるんです。

ニッチに空きがある地域

このように適応放散はニッチに空きがある場所で起きやすいといわれています。一般的に、長い間安定した生物群集は、ニッチは空きがない状態です。しかし、そこで大規模な撹乱が起こるとニッチに空きができます。大規模な撹乱というのは、山火事などで大規模に撹乱された森林や、火山の噴火が起きた地域、さらに大きな話になれば地球全体で大量絶滅が起きたときなど。そうするとニッチの一部を占めていた生物が滅んでしまうこともありますよね。すると、環境の回復とともに、生き残った生物が祖先となり、多様化していくことで適応放散が起こります

閉鎖されている地域

もう一つは閉鎖的空間で起きやすいということ。島や大陸などは、生物の住む場所に限りがありますよね。そのため自分のニッチを獲得するために、時には過酷な環境をすみかにしなければならないときも。こうして普通ならば適さない環境に身を置くことで、結果的にその環境に合った体の形や習性を獲得していくようになるのです。つまり、本来ならば適さない環境に身を置くことが、適応放散のきっかけになっているということですね。

適応放散の例をみていこう

ここからは、具体的な適応放散の例を見ていきましょう。

\次のページで「その1:オーストリアの有袋類」を解説!/

その1:オーストリアの有袋類

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有袋類とはお腹に袋を持った生物。カンガルーやコアラなどが有名ですね。彼らの赤ちゃんはわずか1cmばかりの小さく未熟な状態で生まれてきて、お母さんの育児嚢とよばれる袋の中で母乳を飲んで成熟します。一方で、私たち人間はお母さんの胎盤から栄養をもらうことである程度成熟した状態で生まれてきますね。このような生物は有胎盤類と言われます。イヌやネコ、ウシ、ウマなども有胎盤類の仲間です。

有袋類は1億年以上前に分岐し、オーストラリア大陸という孤立した大陸に取り残されてしまった哺乳類です。なんとなく種類が少なそうなイメージですが、実は140種以上も存在するんですよ。その理由は、オーストラリア大陸には外敵がほとんどいないため、それぞれの環境に適応しながらこれだけの数を増やしてこれたからだと考えられています。

その2:ガラパゴス諸島のダーウィン・フィンチ

ダーウィン・フィンチはガラパゴス諸島、ココ島の島々にだけ生息するスズメのような小さな鳥です。祖先はみんな同じくちばしの形をしていましたが、それぞれが競争相手のいない島々をすみかにして長い時間を過ごしたことで、島の環境の違いに合わせて多様な特徴や習性を獲得したと考えられています。

その形質の1つがくちばし。花や木の実を食べるフィンチもいれば、昆虫を食べるフィンチ、中には他の動物の血液を常食とするフィンチなど本当に様々な食性に分化しているんですね。

ガラパゴス諸島はもともと生物が存在せず、ニッチに空きが多い環境でした。そして最初にこの島にたどり着いた生物が祖先となり、爆発的に適応放散していったと考えられています。ガラパゴス諸島は赤道直下に分布し、沖縄のように年間を通してあたたかい地域です。それなのに寒冷地に住むイメージのペンギンが生息するなど、適応放散の結果、普通では生息するのに適さないような動物まで生息しているんですよ。

適応放散に似ている「収束進化」とは?

適応放散に似た意味の言葉で収束進化というものがあります。収束進化とは、生物学的には別の種類に分類されるはずなのに、姿かたちが似ている動物のことです。

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例えばサメとイルカ。両者とも海洋に生息していますが、サメは魚類、イルカは哺乳類と分類学上では全く別の生き物なんですよ。

それなのになぜこんなに姿が似ているんでしょうか?その答えは、住む場所がどちらも海だから。海で生きる生物はみんな泳ぐ能力が必要ですよね。そのため、泳ぐ能力を身に着けるために、進化の過程でヒレや水の抵抗をなくすための身体に姿を変えていったのです。このように収束進化とは、本来は別々の生物なのに、取り巻く環境が同じような条件であるために似通った姿に進化していくことをいいます。

生物の多様性を守ろう

ここまで読んでいただきありがとうございました。今回は「適応放散」について解説してきました。適応放散とはもともと1種の祖先から住む環境に合わせて様々な姿に変わっていくことをいいましたね。有袋類やダーウィン・フィンチは適応放散の有名な例です。このように生物が適応放散という進化をしていく裏側には、生物たちのニッチをかけた生存戦略があったわけですね。日本でも小笠原諸島は適応放散の起きている地域です。小笠原の固有種たちは島という閉鎖された空間のなかで独自の進化を遂げてきたんですね。小笠原の美しい景観や貴重な生物たちを守っていきたいですね。

画像使用元:いらすとや

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理科生態系生物生物の分類・進化

適応放散とは?有袋類やフィンチの例をもとに獣医学部卒ライターがわかりやすく解説!

今回は適応放散について学んでいこう。適応放散とはもともと同じ起源の生物が住む環境に合わせて姿かたちを変えることです。ダーウィン・フィンチという鳥は住む地域によってくちばしの形が異なる。これは住む島の環境によって食べるものが違うからです。また、オーストリアに住むカンガルーやコアラなどの有袋類も適応放散によって出現した生物の例です。今回はそんな適応放散について具体例を挙げながら学生時代、獣医学部で動物のことを学んでいたライターみんちが解説します。

ライター/みんち

学生時代、獣医学部で動物の知識を学んだ。趣味は動物園巡り。ライターとして、初心者にもわかりやすく、質のある情報を提供できるよう、日々奮闘中。

適応放散とは?

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適応放散とは、もともと起源が同じ生物が、住む環境に合わせて姿かたちを変えること。姿かたちと言っても、体の内部の構造や機能が変化する場合(生理学的変化)や、生物そのものの外見的な見た目が変わる場合(形態学的変化)もあります。これは1917年、H.F.オズボーンにより提唱されました。

生物が環境に合わせて姿を変えていくこと!

例えばダーウィン・フィンチという鳥の仲間は、「エサの食べ方」によってくちばしの形状が異なります。この鳥は小さな島々に生息しているのですが、その島ごとの環境によってくちばしの形や大きさが変化していったそうです。ダーウィン・フィンチについてはまたあとから詳しく説明しますね。

ここで一つ勘違いしないでほしいのが、「1つの祖先から様々な種類の子孫が出現する」ではないこと。もし、1つの祖先から多様な種が生まれたとすると、それは進化全般に言えることですよね。重要なのは進化の規模が大きいこと1種の祖先から多くの種に分化した場合にだけ適応放散とよばれます。適応放散は時間がたてばたつほどその効果は高まります。

ここまでで、適応放散とは同一の祖先をもつ生物が住む環境に合わせて生理的、形態的に変化していくということがわかりましたね。ここからは、適応拡散が起こりやすい場所とはどんなところか、詳しく見ていきましょう。

適応放散が起こりやすい場所とは?

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適応放散が起こりやすい場所とはずばり、ニッチに空きがある場所と言えます。ではニッチとは何でしょうか?

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