今回は「肉鰭魚」というキーワードについて学習していこう。

肉鰭魚は魚類の仲間ですが、非常に興味深い特徴をもった生物です。我々人間が登場するまでの進化の過程でも重要な存在といわれている。どんな生物が当てはまるのか、どんな特徴があるのか…この機会に確認していこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

「ヒレ(鰭)が肉」の肉鰭魚

肉鰭魚…少々読みにくい用語ですが、「にくきぎょ」とよみます。

肉鰭魚は魚の仲間でありながら、そのヒレ(鰭)が肉質になっている生物をまとめた呼び名です。一般的には「肉鰭類(にくきるい)」という言葉を使う方が多いかもしれません。

image by iStockphoto

分類学上は、脊椎動物にふくまれる硬骨魚綱(硬骨魚類)の下位分類である肉鰭亜綱(肉鰭下綱とすることもある)に属する生物、と説明されることもあります。

しかしながら、肉鰭亜綱という分類群を設定すると、他の生物の分類にすこし影響があるため、一般的にはあまり分類学上の「肉鰭亜綱」にとらわれず、肉鰭類に独特の述べる特徴がある魚を「肉鰭魚」と呼ぶことが多いようですね。

簡単にいってしまうと、私たちも肉鰭魚になるのです。

生物の進化の道筋を表した系統樹を書き、肉鰭亜綱という分類群を想定すると、その中に我々人間を含めた哺乳類や、他の四足動物(四肢動物)もふくまれてしまうんですよ。

では”ヒレが肉質になっている魚の部分だけを肉鰭亜綱とすればいい”と思われるかもしれませんが、そうすると肉鰭魚は系統樹上では”ひとつのまとまり”とみなされない側系統とよばれる分け方になります。

\次のページで「肉鰭魚は大きく2つに分けられる」を解説!/

それが面白いんですけどね!

何はともあれ、「分類学上の肉鰭魚(肉鰭類)」を考えると少々話が複雑になってしまうので、今回は「一般的に肉鰭類と認められている魚類」について、解説をしていきたいと思います。

肉鰭魚は大きく2つに分けられる

肉鰭魚は大きく2つに分けられる

image by Study-Z編集部

現生の肉鰭魚は、大きく2つのグループに分けられると考えられます。シーラカンスハイギョの仲間です。

どちらの仲間も肉鰭魚の特徴である”肉質のヒレ”をもっていますが、長い進化の道筋を経て、その姿かたちには今やかなりの相違点がみられます。シーラカンスとハイギョ類それぞれについて、特徴や具体例などを見ていきましょう。

肉鰭魚の仲間1:シーラカンス

シーラカンスは肉鰭魚に属する生物の一つです。

もともとシーラカンスの仲間は化石として多く産出し、現在はすでに絶滅してしまった生物だと考えられていました。古生代という地質時代の地層からも化石が見つかりますが、恐竜の絶滅が起きた時代(中生代白亜紀末期)以降の化石が見つからなかったのです。

ところが1938年に生きているシーラカンスが発見されました

image by iStockphoto

その姿かたちは化石として見つかる種とそれほど変わりませんでした。まさしく『生きた化石』といえます。恐竜が繁栄するより前の時代に出現し、ひっそりと海中で命をつなぎ続けていたのです。

その後も幾度か生きて泳いでいる姿が目撃されていますし、捕獲され研究に供されたものもいます。しかしながら、やはり個体数は少ないようで、まだ研究の余地がある希少な生物です。

現生種は分布域や体色が異なる2種とする説と、それらを1種とする説があります。いずれもラティメリア属という属に分類されていますね。

シーラカンスの特徴

現生のシーラカンスは、体長1~2mほど。ずんぐりとした体で、体重は100kgを超えることも少なくありません。おもに深海に生息し、魚やイカなどの生物を捕食しているようです。

私たちが一般的に知る硬骨魚よりも多くのひれをもちます。とくに胸鰭(むなびれ)や腹鰭(はらびれ)などはしっかりした骨格と筋肉で支えられていて、これこそが”肉鰭”の由来です。その構造は、両生類によく似ているともいわれます。

Latimeria.jpg
By FunkMonk (Michael B. H.) - Own work, CC BY-SA 3.0, Link

骨格にも面白い特徴があります。シーラカンスは硬骨魚であるにもかかわらず、ほぼ全身の骨が軟骨でできているんです。

背骨(脊椎骨)も私たちのもつような硬い骨に発達しておらず、脊柱(せきちゅう)とよばれる中空の管に液体を満たしています。また内臓を保護する肋骨などもありません。

\次のページで「肉鰭魚の仲間2:ハイギョ類」を解説!/

全身を硬いうろこでびっしりと覆い、内臓を守っていると考えられていますね。

肉鰭魚の仲間2:ハイギョ類

現生の肉鰭魚で、シーラカンスよりも数が多いのがハイギョの仲間です。カタカナで書くと少しわかりにくいですが、漢字では「肺魚」とかきます。つまり、肺で呼吸する魚類なのです。

ハイギョ類の特徴

まず肉鰭魚ですから、こちらもヒレのお話から始めましょう。

ハイギョ類のヒレもやはり肉質です。種によってはまるで鞭(むち)のような細長い形状になっていて、一般的な魚のヒレとは大きく異なります。

からだは細長く、まるでウナギのような見た目です。

image by iStockphoto

忘れてはいけないのが、やはり”肺”のそんざいですね。ハイギョ、子どものころは主に鰓で呼吸をしますが、成長とともに肺が発達し、ほとんどの呼吸を肺で行うようになります。そのため、たまに水面に上がって「息継ぎ」をしなくてはいけないのです。

きちんと利点もあるんですよ。ハイギョの中には、雨がほとんど降らなくなる乾季がある地域に住むものがいます。そのようなものは、乾季の間地中で休眠状態になり、厳しい季節をやり過ごすのです。水中でしか呼吸できないのであれば、こんな芸当は難しいですよね。

\次のページで「肉鰭魚から四足動物へ」を解説!/

肉鰭魚から四足動物へ

はじめの分類の話でもありましたが、私たち哺乳類を含めた四足動物(四肢動物)は、肉鰭魚と深い関係があります。肉鰭魚の中から陸上に進出した生物が、四足動物の祖先だと考えられているのです。

肉質のヒレは、進化の過程で4本の脚に変化していったと考えられています。両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類…四足動物は、肉鰭魚の存在なくしてあり得なかったでしょう。

言ってしまえば、私たちの”ご先祖様”のような生物を、古代の姿とそれほど変わらない形で現在にも見られるのです。なんともすごいことではないでしょうか。

肉鰭魚はどこでみられる?

「本物の肉鰭魚を見てみたい!」という方。生きているシーラカンスは難しいですが、ハイギョ類であれば生きているものをみられるかも…というか、飼えるかもしれません。ハイギョ類は熱帯魚のように飼育できるんです。

ただし、肉食性なので餌を選びますし、寿命も長く、なんと数十年は生きるといわれています。飼育は十分に検討してから、責任をもって迎え入れましょう。

水族館などで飼育されていることもありますから、機会を見つけてぜひ探してみてください。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 知ってる?「肉鰭魚」とはどんな魚?シーラカンスも!概念や種類を現役講師が具体例も合わせて紹介! – ページ 2 – Study-Z
理科生物生物の分類・進化

知ってる?「肉鰭魚」とはどんな魚?シーラカンスも!概念や種類を現役講師が具体例も合わせて紹介!

それが面白いんですけどね!

何はともあれ、「分類学上の肉鰭魚(肉鰭類)」を考えると少々話が複雑になってしまうので、今回は「一般的に肉鰭類と認められている魚類」について、解説をしていきたいと思います。

肉鰭魚は大きく2つに分けられる

肉鰭魚は大きく2つに分けられる

image by Study-Z編集部

現生の肉鰭魚は、大きく2つのグループに分けられると考えられます。シーラカンスハイギョの仲間です。

どちらの仲間も肉鰭魚の特徴である”肉質のヒレ”をもっていますが、長い進化の道筋を経て、その姿かたちには今やかなりの相違点がみられます。シーラカンスとハイギョ類それぞれについて、特徴や具体例などを見ていきましょう。

肉鰭魚の仲間1:シーラカンス

シーラカンスは肉鰭魚に属する生物の一つです。

もともとシーラカンスの仲間は化石として多く産出し、現在はすでに絶滅してしまった生物だと考えられていました。古生代という地質時代の地層からも化石が見つかりますが、恐竜の絶滅が起きた時代(中生代白亜紀末期)以降の化石が見つからなかったのです。

ところが1938年に生きているシーラカンスが発見されました

image by iStockphoto

その姿かたちは化石として見つかる種とそれほど変わりませんでした。まさしく『生きた化石』といえます。恐竜が繁栄するより前の時代に出現し、ひっそりと海中で命をつなぎ続けていたのです。

その後も幾度か生きて泳いでいる姿が目撃されていますし、捕獲され研究に供されたものもいます。しかしながら、やはり個体数は少ないようで、まだ研究の余地がある希少な生物です。

現生種は分布域や体色が異なる2種とする説と、それらを1種とする説があります。いずれもラティメリア属という属に分類されていますね。

シーラカンスの特徴

現生のシーラカンスは、体長1~2mほど。ずんぐりとした体で、体重は100kgを超えることも少なくありません。おもに深海に生息し、魚やイカなどの生物を捕食しているようです。

私たちが一般的に知る硬骨魚よりも多くのひれをもちます。とくに胸鰭(むなびれ)や腹鰭(はらびれ)などはしっかりした骨格と筋肉で支えられていて、これこそが”肉鰭”の由来です。その構造は、両生類によく似ているともいわれます。

Latimeria.jpg
By FunkMonk (Michael B. H.) – Own work, CC BY-SA 3.0, Link

骨格にも面白い特徴があります。シーラカンスは硬骨魚であるにもかかわらず、ほぼ全身の骨が軟骨でできているんです。

背骨(脊椎骨)も私たちのもつような硬い骨に発達しておらず、脊柱(せきちゅう)とよばれる中空の管に液体を満たしています。また内臓を保護する肋骨などもありません。

\次のページで「肉鰭魚の仲間2:ハイギョ類」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: