地球を取り巻く空気の層、大気圏。よく聞く言葉ですが空を飛ぶことのできないわれわれ人類にとっては、未知の領域です。どのくらいの厚さがあるのか、成分はどこでも同じか、突入したらどうなるのかなどの疑問について、地学や気象に詳しいライターチロと一緒に解説していきます。
チロ

ライター/チロ

放射能調査員や電気工事士など様々な「科学」に関係する職を経験したのち、教員の道へ。理科教員10年を契機に米国へ留学、卒業後は現地の高校でも科学教師として勤務した。帰国後は「フシギ」を愛するフリーランスティーチャー/サイエンスライターとして活躍中。

大気圏の構造

image by iStockphoto

大気圏とその外側の宇宙空間の間には明確な境界が存在しません。そのため大気圏の厚みは定義によって80kmから500kmと幅があるのですが、一般的には地上から高度約100kmまでと言われています。この大気圏どこでも同じ状態なのではなく、異なる性質を持った層が地上から上空に向かって積み重なっているって知っていましたか?

大気圏は層になっている

Sunset from the ISS.JPG
By ISS Expedition 23 crew - NASA Earth Observatory, Public Domain, Link

普段の生活で空気の「重さ」を意識することはほとんどありませんよね? だけど、気体も物質である以上重さはちゃーんとあります。そして重さがあるということは、重力が働いているということ。空気は地球に向かって引きつけられているので、地上付近での密度が最も高いのです。地上から上空10kmまでの最も空気が濃い層が対流圏、その上の10km〜50kmには雲のほとんどない成層圏、さらにその上には中間圏と熱圏があり宇宙空間へとつながっています。

雲があるのは対流圏

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対流圏には全大気のおよそ75%が集中しています。上空に行くほど温度が下がって行くのが対流圏の特徴。100mあたり0.65℃ずつ気温が下がります。さらに大気中の水蒸気のほとんどがここにあるので、太陽によって温められた空気のかたまりが上昇すると冷やされて雲が発生し、雨や雪を降らせるのです。我々人間も含んだ生物にとって非常に重要な気象現象が起きているのは、対流圏なんですね。

飛行機が飛ぶのは成層圏

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地上で温められた空気が上昇し絶えず撹拌されている対流圏の上には、ほとんど雲のないおだやかな成層圏が広がっています。成層圏の一番の特徴は上空に行くほど温度が上がって行くということ。そのため対流がほとんど起きず、雲も形成されないのです。飛行機が飛んでいるのはこの成層圏の下部。空港で雨が降っていても、飛行機が飛び立ってしばらくすると雲の上に出ますよね? そこが成層圏なのです。

でもなぜ上空ほど温度が高いのでしょう? そのカギを握っているのはオゾン。大気中の酸素は通常2つの原子が結びついているのですが、上空で紫外線を浴びるとオゾンとよばれる3つの原子が結びついた物質に変化します。オゾンには紫外線を吸収する作用があるため、オゾンを含む空気は紫外線のエネルギーによって温度が高くなるのです。

オゾン層はどこにある?

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成層圏は上に行くほど温度が高くなるので、紫外線を吸収し温度を上げるオゾンの層は成層圏の一番上にあるのでしょうか? 実はオゾンの濃度が濃いオゾン層は成層圏の中程、地上から20〜30kmほどのところにあります。オゾンは成層圏全体に存在しており、成層圏上層に存在するオゾンによってほとんどの紫外線が吸収されるため、温度が一番高くなるのは成層圏の一番上になるのです。

フレッシュでクリーンな感じがすることから日本では商品名などによく使われる「オゾン」という言葉。実は、語源となったギリシャ語では「くさい」という意味なのだそうです。オゾンには特有の臭気があることから、そう名付けられたそうだが… 「オゾン脱臭」をギリシャ語に翻訳したらややこしいことになっちゃいますね!

\次のページで「大気圏に突入したら燃えるの!?」を解説!/

大気圏に突入したら燃えるの!?

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映画などで宇宙飛行士が地球に帰還する時、非常な高温に晒されるシーンがありますね。あれは科学的に正しいのでしょうか? もし人間が生身で大気圏に突入したら… どうなってしまうのでしょうか?

流れ星は大気圏に突入する隕石

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宇宙空間から地球に向かって落ちて行くと、高度100kmを過ぎたあたりで大気圏に突入します。すると瞬く間に温度が上昇し、1 万℃を超えることも。当然生身の人間は生存できません。突入時の温度上昇の主な要因は大気との摩擦ではなく「空力加熱」という現象。宇宙空間から地球に向かって落下して行く物体は、音速をはるかに超える時速3万km以上に達します。すると進行方向前面の空気が、上下左右に押しのけられずに圧縮されて「空力加熱」という現象が起き、温度が急上昇するのです。流れ星は宇宙空間を漂うチリや小石が大気圏に突入し、空力加熱によってプラズマ化したガスが見えたもの。燃え残って地上に達すると隕石になります。

大気圏に突入しても無事でいるには

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By Arjun Sarup - Own work, CC BY-SA 4.0, Link

ではもし、あなたがひょんなことから大気圏に突入しないといけなくなったら、どうしたらいいのでしょう? まず第一に考えないといけないのは突入する角度。地上にまっすぐ落ちるのではなく、斜めに突入しましょう。これはスペースシャトルが地球に帰還する時に使う方法。大気による揚力を利用し、落下速度を抑えるのです。地球をぐるぐると回りながら徐々に落ちていきましょう。

パラシュートの使用もオススメです。温度を上げる原因となる大気ですが、パラシュートを使えば減速のために利用することができます。昨日の敵は今日の友と言ったところでしょうか。また、着るものや乗るものの素材も考えなければなりません。地球に無事帰還したアポロ宇宙船はあえて溶ける素材を底面に使用し、空力加熱によって発生する熱を溶解熱として吸収したそうです。宇宙空間でそういう素材を見つけるのは至難の技ですが…

大気圏と大気汚染

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日本でも高度成長時代には社会問題だった大気汚染。最近は地球規模の汚染も顕著になり、中国から飛来するPM2.5などが話題になりました。大気汚染の原因となる化学物質の世界的拡散と、大気圏の間にはどのような関係があるのでしょう?

\次のページで「大気汚染は気流で広がる」を解説!/

大気汚染は気流で広がる

Fukushima- Panache-25-mars.svg
By Roulex_45 - Own work, from Sources : Modélisation de la dispersion des rejets radioactifs dans l’atmosphère à l’échelle globale, IRSN, 21 mars 2011, CC BY-SA 4.0, Link

対流圏には太陽エネルギーが作り出す様々な大気の流れ、すなわち気流が存在しています。モンスーン、偏西風、貿易風などがその例ですね。これらのうち汚染物質の世界的拡散の原因となっているのは、対流圏上部の強い西風「ジェット気流」です。工業による汚染物質だけでなく、2011年の福島第一原子力発電所事故によって漏れ出した放射性物質もジェット気流によってわずか数日のうちにヨーロッパにまで達しました。

成層圏の大気汚染

Pinatubo 1991-06-12 (USGS).jpg
Dave Harlow, United States Geological Survey - https://www.usgs.gov/media/images/june-12-1991-eruption-column-mount-pinatubo-taken-th, パブリック・ドメイン, リンクによる

大規模な噴火などによって、微粒子が成層圏にまで巻き上げられることがあります。前述の通り気象現象が絶えず起こっている対流圏とは違い、成層圏は空気の移動の少ない穏やかな環境。雲もできないので雨や雪によって取り除かれることもないので、ここを漂う微粒子はなかなか地上に落ちてきません。1991年に起きたフィリピンのピナツボ火山の噴火では大量のエアルゾルが成層圏に広がり何ヶ月も留まったことで地上での日射量が低下、世界の平均気温が約0.5℃低下しました。

オゾンホールの今

Ozone hole recovery.jpg
By NASA - https://svs.gsfc.nasa.gov/30602, Public Domain, Link

1990〜2000年代にかけて社会問題となったオゾンホール。クーラーの冷媒やスプレー缶などに使われたフロンガスが、オゾンを分解してしまうことが原因と分かり、フロンガスに対する使用規制が実施されました。最近はあまり聞かなくなりましたが、現在もオゾンホールはあるのでしょうか?  実は毎年春になると南極上空にオゾンホールは発生しているのですが、そのサイズは年々縮小しています。NASAによると、2040年にはオゾンホールが消滅する見込みだということです。

大気圏は層になっている

雲が出来て雨や雪の降る対流圏。その上にある穏やかで雲のない成層圏。地球で起きる様々な現象を理解するためには、大気圏のこの層構造を知っておくのはとても重要です。今度、飛行機に乗る機会があったら窓の外を眺めて見ましょう。雲ひとつない空間に出た時、あなたは成層圏にいるのです。

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地学理科

大気圏とは?高さは何キロ?突入したら燃えるの?元米国科学教師チロがわかりやすく解説!


地球を取り巻く空気の層、大気圏。よく聞く言葉ですが空を飛ぶことのできないわれわれ人類にとっては、未知の領域です。どのくらいの厚さがあるのか、成分はどこでも同じか、突入したらどうなるのかなどの疑問について、地学や気象に詳しいライターチロと一緒に解説していきます。
チロ

ライター/チロ

放射能調査員や電気工事士など様々な「科学」に関係する職を経験したのち、教員の道へ。理科教員10年を契機に米国へ留学、卒業後は現地の高校でも科学教師として勤務した。帰国後は「フシギ」を愛するフリーランスティーチャー/サイエンスライターとして活躍中。

大気圏の構造

image by iStockphoto

大気圏とその外側の宇宙空間の間には明確な境界が存在しません。そのため大気圏の厚みは定義によって80kmから500kmと幅があるのですが、一般的には地上から高度約100kmまでと言われています。この大気圏どこでも同じ状態なのではなく、異なる性質を持った層が地上から上空に向かって積み重なっているって知っていましたか?

大気圏は層になっている

Sunset from the ISS.JPG
By ISS Expedition 23 crew – NASA Earth Observatory, Public Domain, Link

普段の生活で空気の「重さ」を意識することはほとんどありませんよね? だけど、気体も物質である以上重さはちゃーんとあります。そして重さがあるということは、重力が働いているということ。空気は地球に向かって引きつけられているので、地上付近での密度が最も高いのです。地上から上空10kmまでの最も空気が濃い層が対流圏、その上の10km〜50kmには雲のほとんどない成層圏、さらにその上には中間圏と熱圏があり宇宙空間へとつながっています。

雲があるのは対流圏

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対流圏には全大気のおよそ75%が集中しています。上空に行くほど温度が下がって行くのが対流圏の特徴。100mあたり0.65℃ずつ気温が下がります。さらに大気中の水蒸気のほとんどがここにあるので、太陽によって温められた空気のかたまりが上昇すると冷やされて雲が発生し、雨や雪を降らせるのです。我々人間も含んだ生物にとって非常に重要な気象現象が起きているのは、対流圏なんですね。

飛行機が飛ぶのは成層圏

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地上で温められた空気が上昇し絶えず撹拌されている対流圏の上には、ほとんど雲のないおだやかな成層圏が広がっています。成層圏の一番の特徴は上空に行くほど温度が上がって行くということ。そのため対流がほとんど起きず、雲も形成されないのです。飛行機が飛んでいるのはこの成層圏の下部。空港で雨が降っていても、飛行機が飛び立ってしばらくすると雲の上に出ますよね? そこが成層圏なのです。

でもなぜ上空ほど温度が高いのでしょう? そのカギを握っているのはオゾン。大気中の酸素は通常2つの原子が結びついているのですが、上空で紫外線を浴びるとオゾンとよばれる3つの原子が結びついた物質に変化します。オゾンには紫外線を吸収する作用があるため、オゾンを含む空気は紫外線のエネルギーによって温度が高くなるのです。

オゾン層はどこにある?

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成層圏は上に行くほど温度が高くなるので、紫外線を吸収し温度を上げるオゾンの層は成層圏の一番上にあるのでしょうか? 実はオゾンの濃度が濃いオゾン層は成層圏の中程、地上から20〜30kmほどのところにあります。オゾンは成層圏全体に存在しており、成層圏上層に存在するオゾンによってほとんどの紫外線が吸収されるため、温度が一番高くなるのは成層圏の一番上になるのです。

フレッシュでクリーンな感じがすることから日本では商品名などによく使われる「オゾン」という言葉。実は、語源となったギリシャ語では「くさい」という意味なのだそうです。オゾンには特有の臭気があることから、そう名付けられたそうだが… 「オゾン脱臭」をギリシャ語に翻訳したらややこしいことになっちゃいますね!

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