突然ですが皆は放射線と放射能の違いを区別できるか?
今回は放射線に関する知識を学習していこう。放射性崩壊という現象を通じて、核分裂反応との違いやエネルギー、半減期の計算方法などを、原子物理学も学習していた理系ライター「ふっくらブラウス」と解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

機械系出身ライター。力学をはじめとした四力学のほか、材料特性などを通じて化学分野も学習。原子物理学の基礎や原子力発電に関しても学んだ経験がある。

放射性崩壊とは原子核の一部が放出される現象

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放射性崩壊(放射性壊変ともいう)とは、不安定な原子核が安定しようとして、原子核の一部が放出される現象を指します。

放射性崩壊などの現象を通じて、原子核から放出される物質群が放射線と呼ばれるものです。また、放射線を出す物質を放射性物質、1秒間に放出する放射線の数を放射能といい、単位Bq(ベクレル)で表します。

不安定な原子核の元素、つまり放射性元素には原子番号が高い、サイズの大きな原子が多いです。サイズが大きい原子が不安定になりやすい原因について、まず解説していきます。

原子核の構造と安定性

原子核の構造と安定性

image by Study-Z編集部

原子は、原子核を中心に電子が周囲に飛び回っている構造であり、また原子核は陽子と中性子から構成されます。陽子と電子は電荷(電気的なかたより)を持っており、陽子が+の電荷、電子が-の電荷です。

原子が持つ陽子の数を陽子数、陽子と中性子の合計数を質量数といいます。各元素の原子番号と陽子数は一致し、また陽子の数と電子の数も同数となることがポイントです。

陽子が集まっている原子核は、そのままでは同じ電荷間の反発力で壊れてしまうように思えます。そうならない理由は、陽子や中性子間に核力という強い力がはたらいているためです。

核力は力が強い反面、有効範囲が安定せず、陽子1個分ほど離れただけで機能しなくなります。また、サイズが大きい原子核ほど陽子数が多い(反発力も大きい)ため、安定しにくいんです。

つまり原子核は、静電気的な反発力と核力のバランスによって成り立っていると言えます。このバランスを整えるために、原子核の一部を切り離す現象が放射性崩壊です。

放射性系列:放射性崩壊は繰り返し起こる

放射性物質の中には、一度の放射性崩壊で安定するものもあれば、変化後の物質も不安定でまた放射性崩壊するものもあります

そのような放射性元素の一連の崩壊をまとめたものが放射性系列(崩壊系列)です。自然界には3種の放射性系列が存在します。

まず1つがトリウム232(質量数232のトリウム原子のこと)からラドン220などを経て、鉛208まで続くトリウム系列です。質量数が4nの核種が続くので、4n系列とも呼ばれます。

他にはウラン238からラジウム226を経由し鉛206となるまでの、質量数4n+2の核種が続くウラン系列や、ウラン235からアクチニウム227を経由し鉛207となる、質量数4n+3の核種が続くアクチニウム系列が挙げられますね。

これらの系列は、核種の質量数が4ずつ変化しているのが特徴です。これは、放射性崩壊の1種であるα崩壊という現象が原因となります。

\次のページで「放射性崩壊の種類と生じる放射線」を解説!/

放射性崩壊の種類と生じる放射線

放射性崩壊の種類と生じる放射線

image by Study-Z編集部

放射性崩壊は原子核が安定するために一部を切り離す現象ですが、切り離されるものによって3種類に分類可能です。

具体的には、原子核からヘリウムの原子核と同等の塊を切り離すα崩壊、中性子が電子を切り離して陽子になるβ崩壊、電磁波としてエネルギーのみ放出するγ崩壊に分かれます。

原子核の陽子数や中性数が変化することがあるのが放射性崩壊の特徴です。

陽子、中性子の組成を核種といい、実は元素の種類は核種が持つ陽子数(原子番号)で決まるんですね。また中性子数の変動は、元素の種類そのものは同一の別物質、同位体(アイソトープ)を生成します。

では、3種類の崩壊によって核種がどのように変化するのか、それぞれのメカニズムや生じる放射線についてより詳しく見ていきましょう。

α崩壊はヘリウム原子核を放出

α崩壊では、陽子2個と中性子2個からできる粒子、つまりヘリウム原子の核と同一のものを放出します。α線と呼ばれる放射線は、α崩壊にともなって放出されるヘリウム原子核のことです。

α崩壊では、原子核の陽子数が減る(原子番号が変わる)ため、反応前後で元素の種類が変化します。具体的にはα崩壊を起こすと、陽子数としては2つ、質量数としては4つ低い別の分子に変化するんですね。

α線は、ほかの放射線と比べて質量が大きいため持っているエネルギーが高いですそのぶん別原子に邪魔されやすく紙一枚あれば進行を止められますが、その分表面にエネルギーが集中するので注意が必要になります。

またα線は陽子を含むため電荷があり、高いエネルギーで別原子が持つ電子に衝突、電子をはじき出してしまうんです。放射線によって別原子が持つ電子が外れるはたらきを電離作用といいます。

β崩壊は中性子が電子を放出

β崩壊は、原子核を構成する陽子が中性子に、もしくは中性子が陽子に変化する現象です。中性子が電子を放出して陽子になる、陽子が電子を受け取り中性子となる、陽子が+の電荷をもつ陽電子を放出して中性子になるの3通りの反応があります。

β崩壊は、陽子と中性子の数を均一にし、反発力と核力のバランスを取るために起こるものです。またα崩壊と同様に、β崩壊でも陽子の数が変化するので元素の種類が変わりますね。

陽電子を放出するものをβ+崩壊、電子を放出するものをβ-崩壊ともいいます。β+崩壊で放出される陽電子をβ+線、β-崩壊で放出される電子をβ-線といい、それらを総称したものがβ線です。

β線はα線と比べて質量が小さいので別原子を透過しやすく、電荷を持つので電離作用も持ちます

γ崩壊はエネルギーのみを電磁波として放出

原子核にかかる反発力や核力によるエネルギーのほか、原子核自体の運動エネルギーを放出する現象がγ崩壊です。具体的には、γ崩壊では余剰エネルギーが電磁波(光)に形を変えて放出されます。

γ崩壊で放出される電磁波がγ線です。γ崩壊では、原子核を構成する粒子が変化しないので元素そのものも変化しません

γ線は粒子ではないため質量を持たず、α線やβ線と比べてもエネルギーが低いぶん、別原子を簡単に透過します。また、電磁波なので電子にも影響し、電離作用も持つ放射線です。

γ線は、エネルギーを電子に吸収され電子が飛び出す(β線となる)などさまざまな現象が原因で、次第に消滅していきます。

放射性物質の半減期とその計算方法

放射性物質は次第に放射性崩壊を起こして、安定した別の物質になるということは、時間が経てば放射性物質は自然に減少することになります。

ある放射性元素がいつ放射性崩壊を起こすかについては、反発力と核力のバランスが絶えず変化しているため、確率的にしか判断できません。しかし、原子が大量にある状況(物質を構成している状況)では、全体で見ると放射性崩壊の発生頻度が均一化され、安定して減少すると考えることができます

シンプルに考えれば、原子が多いほど時間単位の崩壊頻度は上がりますね。そのことを式にすると

\次のページで「放射線の性質とそのエネルギー」を解説!/

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という形になります。これは、原子数Nを時間tで微分した微分方程式で、簡単に言えば原子N個の崩壊率はその原子数自身に比例するというだけのことです。また、λは崩壊定数とよばれる定数で、各元素の崩壊のしやすさを表します。

この式を、半減期t'に原子数が半減する、つまりN0/2個になるという条件を代入、計算して整理すると

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となります。この式から、半減期までにかかる時間を求めることが可能です。

放射線の性質とそのエネルギー

放射性崩壊などの核反応で生じる放射線は凄まじいエネルギーを持っています。陽子や中性子と極めて小さい粒子がなぜ大きなエネルギーを持つことができるのでしょうか?

その答えは、核反応によってエネルギーが生じるメカニズムを考えることで理解が可能です。

放射線が持つエネルギーの計算方法

実は、陽子と中性子が集まった原子核の質量は、陽子と中性子を別個カウントした合計質量よりもわずかに小さくなっているんです。この質量の差を質量欠損といいます。

この質量欠損が、放射性崩壊含む核反応が大きなエネルギーを持っている原因なんです。核反応では、反応前後で生じる質量欠損が得られるエネルギーに変化し、そのエネルギーは以下の式を使って計算されます。

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これは、あのアインシュタインが特殊相対性理論にもとづいて導き出した関係式です。この式はエネルギーEと質量mは本来等価なものであることを示しています。またcは光の速度を表した記号です。

また、小さな粒子が大きなエネルギーを持つ理由もこの式から見てとれます。光速度c=2.99792458×108[m/s]という大きな値をさらに二乗しているので、わずかな質量でも膨大な量のエネルギーを持つことになるんです。

この式を利用するには、光速度と質量欠損、2つの情報が必要ですね。光速度は定数なので問題はないのですが、では質量欠損はどのように求めるればいいのでしょうか?

核種を考える場合など、原子含む質量が非常に小さい粒子の質量は原子質量単位uという単位を使います。1[u]=1.66054×10-27[kg]であり、陽子1個と中性子1個の平均質量とほぼ同一です。

ここで元素の質量数×原子質量単位=原子核の質量とほぼ同値となることを考えると、反応前後の原子核の質量をそれぞれ求め、差を計算することで質量欠損を求めることができます

質量欠損と光速度を式に代入して放射線1個分エネルギーを求めると、放射性元素にもよりますが可視光がもつエネルギーの数百万から数億倍にもなるんです。

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核分裂と放射性崩壊の違いは?

Fission chain reaction.svg
User:Fastfission - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

放射性崩壊は、ある核種が原子核の一部である放射線を放出しながら変化する現象だと解説しました。では、同じく放射線が生じる現象である核分裂とは何が違うのでしょうか?

放射性崩壊は、基本的に核種の一部を切り離すだけで安定する程度の元素で起こる現象です。しかし、あまりに陽子数と中性子数のバランスが悪い核種では、放射性崩壊だけでは安定することができません。

そのため、核種の一部を切り離すのではなく、核種自体が同程度の質量数を持つ2つの元素に分裂してしまいます。このように、核種自体が分裂してしまう現象が核分裂です。

特に、極めて不安定な原子核に中性子線が衝突してしまうと、状況によっては核分裂を引き起こしてしまいます。また、核種が核分裂するときに中性子も一緒に放出するので、別の核種がまた核分裂するというような連鎖反応を起こしてしまうんです。

原子力発電では核分裂を発電に利用していて、中性子の速度を減速材で遅らせるなど、連鎖反応が起こり過ぎないようにコントロールしています。

放射性崩壊は原子核の一部を放出して核が安定する現象

放射性崩壊は、陽子数と中性子数のバランスが不安定な原子核が、核の一部を放射線として放出して変化した状態のことです。

放射性崩壊には3種類あります。具体的には、α崩壊はヘリウム原子核を、β崩壊は電子(もしくは陽電子)を、γ崩壊は余剰エネルギーを電磁波として放出する現象です。

放射線は非常に大きなエネルギーを持ち、物質の透過性および電離作用を持っています。

核分裂は放射性崩壊とは異なり、非常に不安定な原子核がほぼ半分に分かれてしまう現象です。核分裂の引き金となるのが中性子線であり、核分裂でも中性子線が発生するので、核分裂は連鎖反応を起こします。

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化学原子・元素物理物質の状態・構成・変化理科量子力学・原子物理学

放射性崩壊ってどんな現象?核分裂との違いや放射線のエネルギー、半減期の計算方法を理系ライターが5分でわかりやすく解説!

突然ですが皆は放射線と放射能の違いを区別できるか?
今回は放射線に関する知識を学習していこう。放射性崩壊という現象を通じて、核分裂反応との違いやエネルギー、半減期の計算方法などを、原子物理学も学習していた理系ライター「ふっくらブラウス」と解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

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放射性崩壊とは原子核の一部が放出される現象

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放射性崩壊(放射性壊変ともいう)とは、不安定な原子核が安定しようとして、原子核の一部が放出される現象を指します。

放射性崩壊などの現象を通じて、原子核から放出される物質群が放射線と呼ばれるものです。また、放射線を出す物質を放射性物質、1秒間に放出する放射線の数を放射能といい、単位Bq(ベクレル)で表します。

不安定な原子核の元素、つまり放射性元素には原子番号が高い、サイズの大きな原子が多いです。サイズが大きい原子が不安定になりやすい原因について、まず解説していきます。

原子核の構造と安定性

原子核の構造と安定性

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原子は、原子核を中心に電子が周囲に飛び回っている構造であり、また原子核は陽子と中性子から構成されます。陽子と電子は電荷(電気的なかたより)を持っており、陽子が+の電荷、電子が-の電荷です。

原子が持つ陽子の数を陽子数、陽子と中性子の合計数を質量数といいます。各元素の原子番号と陽子数は一致し、また陽子の数と電子の数も同数となることがポイントです。

陽子が集まっている原子核は、そのままでは同じ電荷間の反発力で壊れてしまうように思えます。そうならない理由は、陽子や中性子間に核力という強い力がはたらいているためです。

核力は力が強い反面、有効範囲が安定せず、陽子1個分ほど離れただけで機能しなくなります。また、サイズが大きい原子核ほど陽子数が多い(反発力も大きい)ため、安定しにくいんです。

つまり原子核は、静電気的な反発力と核力のバランスによって成り立っていると言えます。このバランスを整えるために、原子核の一部を切り離す現象が放射性崩壊です。

放射性系列:放射性崩壊は繰り返し起こる

放射性物質の中には、一度の放射性崩壊で安定するものもあれば、変化後の物質も不安定でまた放射性崩壊するものもあります

そのような放射性元素の一連の崩壊をまとめたものが放射性系列(崩壊系列)です。自然界には3種の放射性系列が存在します。

まず1つがトリウム232(質量数232のトリウム原子のこと)からラドン220などを経て、鉛208まで続くトリウム系列です。質量数が4nの核種が続くので、4n系列とも呼ばれます。

他にはウラン238からラジウム226を経由し鉛206となるまでの、質量数4n+2の核種が続くウラン系列や、ウラン235からアクチニウム227を経由し鉛207となる、質量数4n+3の核種が続くアクチニウム系列が挙げられますね。

これらの系列は、核種の質量数が4ずつ変化しているのが特徴です。これは、放射性崩壊の1種であるα崩壊という現象が原因となります。

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