今回は「紡錘体」について解説していきます。紡錘体は生物の授業で習ったことがあるな。しかし名前は聞いたことがあっても、詳しい構造や特徴については知らない人も多いでしょう。一緒に、紡錘体がどのような構造体なのか勉強していこう。高校では学習しない内容についても触れていきます。さらに、紡錘体の有糸分裂の際の役割についても、おさらいしていこうと思う。
この記事では学生時代、細胞周期について研究していた経験のある理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

紡錘体とは何か?

紡錘体とは、細胞周期の分裂期に現れる繊維状の構造のこと。姉妹染色分体を娘細胞に1セットずつ間違いなく分配するためには、この紡錘体がなくてはならないものですね。

動物細胞の場合、紡錘糸は中心体から伸びていることは既に学習しましたか。この中心体にはγチューブリンという環状構造があり、紡錘糸が形成される起点となっています。

紡錘糸は微小管でできている

image by iStockphoto

紡錘糸の正体は微小管という繊維状の構造物です。そのため紡錘糸は紡錘体微小管と呼ばれることも。

微小管の構成単位は、αチューブリンβチューブリンという2種類のタンパク質が二量体になったものです。この二量体が13組環状に並び、そこに多数の二量体が結合して、ストローのような中空の構造をとっています。

微小管にはプラス端とマイナス端がある

Mikrotubula007 en.png
Qniemiec - 投稿者自身による作品, inspired by initial file File:Mikrotubula007.PNG as posted by User:Karol007 in 2006, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

微小管はαβチューブリン二量体が多数結合していますが、この二量体は全て同じ向きに並んで結合しています。その鎖の一端はαチューブリン側になりますが、これをマイナス端、逆側のβチューブリン側をプラス端と呼ぶことを覚えておきましょう。基本的にどちら側にもαβチューブリン二量体は結合できますが、プラス端の方が伸長していくスピードが速いことが知られています。

先ほど、中心体のγチューブリンが紡錘糸の形成される起点になっていることを説明しましたね。紡錘糸を形成している微小管は、中心体のγチューブリン側がマイナス端側になっており、プラス端の方が伸長するようになっています。

微小管は動的不安定という特徴がある

微小管は動的不安定という特徴がある

image by Study-Z編集部

微小管はαβ-チューブリン二量体が重合したり脱重合をしたりを繰り返しています。この特徴が動的不安定と呼ばれるもの。そのため、紡錘糸も伸長と収縮を繰り返しているように見えます。この動的不安定であることが、微小管が機能する上で重要であることが分かっているのです。

例えば、微小管の重合を阻害する薬剤であるコルヒチン。これを分裂期の細胞に作用させることで、細胞は分裂中期で停止することが知られています。つまり、微小管が重合できないと、紡錘糸としての役割を果たすことが出来ないということですね。

逆に微小管の脱重合を阻害するタキソールという薬剤もあります。タキソールを分裂期の細胞に作用させると紡錘糸は伸長する一方となり、同様に分裂中期で分裂は停止してしまうのです。

このタキソールはパクリタキセルという一般名で、抗がん剤としても用いられています。がん細胞は細胞分裂が盛んな細胞。微小管の脱重合阻害により細胞分裂を阻止し、がん細胞を死滅に追いやる効果が認められているというわけです。

\次のページで「紡錘体の役割は姉妹染色分体の分配」を解説!/

紡錘体の役割は姉妹染色分体の分配

image by iStockphoto

紡錘体は有糸分裂の際に、姉妹染色分体を娘細胞に分配するという、重要な役割をもっていますね。ここからは、分裂期の紡錘体に着目していきましょう。

紡錘体の形成

有糸分裂に必要不可欠な紡錘体、その形成は分裂期の前期に始まります。動物細胞においては、紡錘糸の形成起点は中心体。この中心体は間期で複製されて、分裂期前には2つ存在します。2つの中心体は核の片側で待機しているような状態でいますが、分裂期が開始すると徐々に両極に移動し始めるように。そうすると中心体を起点にαβチューブリン二量体が重合し、紡錘糸が形成し始めるのです。

紡錘糸は形成され始めると、αβチューブリン二量体が重合と脱重合をすることで、細胞内で伸長と収縮を繰り返すようになります。

紡錘糸は動原体に結合する

Spindle apparatus.svg
Lordjuppiter - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

分裂期の前中期に入ると角膜が消失するため、紡錘糸は伸長と収縮をするうちに、染色体に結合できるようになります。

この時の染色体は棒状に凝縮しており、複製された染色体が2本1セットとなって姉妹染色分体になっていますね。この染色体の中央付近のくびれている部分がセントロメアセントロメアの領域には動原体(キネトコア)というタンパク質の複合体が結合しているはずです。この動原体に紡錘糸が付着することで、紡錘糸が動原体を介して染色体に結合するしくみとなっています。

このような過程を経て紡錘糸に結合した染色体は、赤道面に整列するように並ぶ、というわけです。

微小管の脱重合による染色体の分配

姉妹染色分体を結合させていたコヒーシンというタンパク質が分解することで、分裂期の後期に入ります。紡錘糸を形成している微小管が脱重合することで、各染色体は両極に引っ張られるように移動。さらに中心体自体もそれぞれが遠ざかるように離れることによって、染色体は1セットずつ分かれていくことになります。

このように、有糸分裂では紡錘体の形成と、微小管の重合と脱重合が染色体分配において重要な働きを担っているのです。

\次のページで「紡錘体チェックポイント」を解説!/

紡錘体チェックポイント

分裂期の中期において、もし微小管が全ての動原体に正しく結合できていなかったら、どうなるでしょうか。2つの娘細胞のうち、一方の細胞は染色体が1本多く、もう一方は染色体が1本少ないといった状況になりかねません。

そこで、染色体が2つの娘細胞に均等に分配されるために、動原体に微小管が結合しているかをチェックする機構が備わっています。これが紡錘体チェックポイント。動原体に正しく微小管が結合していないと、シグナルが発せられ、それにより細胞周期が停止されるのです。細胞周期を停止している間に正しく動原体と結合しなおす、というわけですね。

このチェック機構にも多くのタンパク質複合体が関与しており、複雑に制御し合っていることが研究されています。

細胞分裂は多くのタンパク質によって行われる

今回は「紡錘体」について解説いたしました。紡錘体の構造や機能、有糸分裂には、多くのタンパク質が関与していることは、お分かりいただけたかと思います。用語やタンパク質の名称など、整理して覚えておきましょう。

また、今回は紡錘体チェックポイントについて紹介しましたが、細胞周期には他にもチェックポイントがあります。例えばDNAの複製は完了しているか、DNAは損傷を受けていないかなど、その都度チェック機構が働いているのです。

私たちの体を構成しているのは、たくさんの細胞。この細胞で起こっていることを知ることで、病気のメカニズムの解明や、治療薬の開発にも繋がっていくかもしれませんね。

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理科生物

紡錘体の構造や特徴、有糸分裂時の役割について!理系院卒ライターが5分でわかりやすく解説!

今回は「紡錘体」について解説していきます。紡錘体は生物の授業で習ったことがあるな。しかし名前は聞いたことがあっても、詳しい構造や特徴については知らない人も多いでしょう。一緒に、紡錘体がどのような構造体なのか勉強していこう。高校では学習しない内容についても触れていきます。さらに、紡錘体の有糸分裂の際の役割についても、おさらいしていこうと思う。
この記事では学生時代、細胞周期について研究していた経験のある理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

紡錘体とは何か?

紡錘体とは、細胞周期の分裂期に現れる繊維状の構造のこと。姉妹染色分体を娘細胞に1セットずつ間違いなく分配するためには、この紡錘体がなくてはならないものですね。

動物細胞の場合、紡錘糸は中心体から伸びていることは既に学習しましたか。この中心体にはγチューブリンという環状構造があり、紡錘糸が形成される起点となっています。

紡錘糸は微小管でできている

image by iStockphoto

紡錘糸の正体は微小管という繊維状の構造物です。そのため紡錘糸は紡錘体微小管と呼ばれることも。

微小管の構成単位は、αチューブリンβチューブリンという2種類のタンパク質が二量体になったものです。この二量体が13組環状に並び、そこに多数の二量体が結合して、ストローのような中空の構造をとっています。

微小管にはプラス端とマイナス端がある

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Qniemiec投稿者自身による作品, inspired by initial file File:Mikrotubula007.PNG as posted by User:Karol007 in 2006, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

微小管はαβチューブリン二量体が多数結合していますが、この二量体は全て同じ向きに並んで結合しています。その鎖の一端はαチューブリン側になりますが、これをマイナス端、逆側のβチューブリン側をプラス端と呼ぶことを覚えておきましょう。基本的にどちら側にもαβチューブリン二量体は結合できますが、プラス端の方が伸長していくスピードが速いことが知られています。

先ほど、中心体のγチューブリンが紡錘糸の形成される起点になっていることを説明しましたね。紡錘糸を形成している微小管は、中心体のγチューブリン側がマイナス端側になっており、プラス端の方が伸長するようになっています。

微小管は動的不安定という特徴がある

微小管は動的不安定という特徴がある

image by Study-Z編集部

微小管はαβ-チューブリン二量体が重合したり脱重合をしたりを繰り返しています。この特徴が動的不安定と呼ばれるもの。そのため、紡錘糸も伸長と収縮を繰り返しているように見えます。この動的不安定であることが、微小管が機能する上で重要であることが分かっているのです。

例えば、微小管の重合を阻害する薬剤であるコルヒチン。これを分裂期の細胞に作用させることで、細胞は分裂中期で停止することが知られています。つまり、微小管が重合できないと、紡錘糸としての役割を果たすことが出来ないということですね。

逆に微小管の脱重合を阻害するタキソールという薬剤もあります。タキソールを分裂期の細胞に作用させると紡錘糸は伸長する一方となり、同様に分裂中期で分裂は停止してしまうのです。

このタキソールはパクリタキセルという一般名で、抗がん剤としても用いられています。がん細胞は細胞分裂が盛んな細胞。微小管の脱重合阻害により細胞分裂を阻止し、がん細胞を死滅に追いやる効果が認められているというわけです。

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