今回は「有糸分裂」について解説していきます。みんなは有糸分裂って何のことだか分かるか?染色体が凝集し、有糸分裂によって娘細胞に分配される過程について、解説していこうと思う。高校生物で体細胞分裂について学習したことがあると思うが、今回は少し踏み込んで細胞分裂について学んでいきます。
この記事では学生時代、細胞周期について研究していた経験のある理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

有糸分裂とは

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有糸分裂(ゆうしぶんれつ)とは、細胞分裂で核分裂が起こる際に、染色体が紡錘体によって娘細胞に分配される分裂様式のことをいいます。この紡錘体を構成する糸状の構造物が紡錘糸。この紡錘糸によって複製された各染色体が1本ずつ、引っ張られるように両極に移動します。

分裂してできる2つの娘細胞に、染色体が1本ずつ確実に分配される仕組みが有糸分裂の特徴。有糸分裂は真核生物の体細胞分裂で起こっていることを覚えておきましょう。

減数分裂は有糸分裂?

減数分裂は生殖細胞を作る過程で行われる分裂のことですね。連続して2回の核分裂を行うことによって、染色体数を半減させることができます。減数分裂も紡錘体によって染色体が分配される分裂ではありますが、通常は有糸分裂というと、減数分裂は含まれず体細胞分裂のみを意味することが多いようです。

無糸分裂ってあるの?

有糸分裂があるなら無糸分裂もあるのでしょうか。無糸分裂という用語は、以前は使われることがあったようです。分裂時に紡錘体が使われずに分裂する分裂様式で、核がちょうど真ん中辺りからくびれるようにして2つに分かれます。病気の細胞や古くなった細胞に見られるイレギュラーな現象とのこと。無糸分裂という言葉は現在ではあまり使われていないようです。

細胞周期とは

細胞周期 説明図.svg
すじにくシチュー - 投稿者自身による作品, CC0, リンクによる

細胞周期とは1つの細胞が分裂して2つの娘細胞になる過程の一連の周期のことです。DNAの複製期(S期)分裂期(M期)、そしてそれらの準備期間(S期の前のG1と、S期の後の2)によって構成される細胞周期。細胞周期を繰り返すことによって、細胞分裂は行われています。

実は、この細胞周期の進行には多くのタンパク質が複雑に関与しているのです。これらのタンパク質が正常に機能することで細胞分裂は繰り返されてます。

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有糸分裂の準備

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分裂期において有糸分裂を行う前には準備が必要になります。その準備というのはDNAの複製中心体の複製。それぞれについて整理していきましょう。

DNAの複製

有糸分裂の準備として重要な準備が、DNAの複製です。真核生物の細胞には核膜に包まれた核が存在しています。細胞が2つに分裂するためには、核の中にあるDNAも2セット必要になりますね。DNAはタンパク質を合成するための設計図になるため、娘細胞に確実に同じ情報を受け継がせる必要があります。

DNA複製期(S期)では元のDNA鎖をほどいて、それぞれを鋳型にして新たな鎖を合成しますね。このDNAの半保存的複製によって、同じ遺伝子をもつ2つの染色体ができます。これが姉妹染色分体と呼ばれているもの。この姉妹染色分体は複製が終了してから分裂期まで、コヒーシンというタンパク質で接着された状態になっています。

もし姉妹染色分体が離れ離れになっていたら、分裂期に娘細胞に1本ずつ分配することができないかもしれません。分裂期まで姉妹染色分体が接着して存在していることは、とても重要なことなのです。

中心体の複製

動物細胞の有糸分裂の前には、中心体も複製されます。中心体はやがて微小管を放射状にのばし、紡錘体を形成する中心になるのです。そのため分裂するときに、両極に1つずつ必要。この中心体は有糸分裂が始まると両極に移動して、紡錘糸を放射状に形成するため星状体と呼ばれます。

分裂期(M期)とは

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Ascendinglotus2 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

それでは、ここで有糸分裂が行われる、細胞周期の「分裂期」に注目していきましょう。分裂期は英語ではMitotic phaseです。そのためM期と呼ばれています。分裂期は有糸分裂をおこなう核分裂と、細胞質分裂がおこりますね。分裂期は前期、前中期、中期、後期、終期に分かれています。

前期、前中期

分裂期の前期に入ると、動物細胞は核外にある2つの中心体の間に紡錘糸が伸びてきます。この紡錘糸の正体は微小管というもの。微小管はチューブリンというタンパク質でできています。実は、チューブリンが付加したり乖離したりを繰り返して、微小管は伸び縮みしているという特徴があるのです。

染色体はどうなるかというと、コンデンシンというタンパク質によってDNAが巻き上げられ、糸状だった染色体が太く凝集して棒状になっていきます。ここで注目したいのが、染色体の中央付近でくびれているところ。セントロメアといって、動原体(キネトコア)というタンパク質が集合する部分です。

核膜が消失すると、収縮と伸長を繰り返している紡錘糸が動原体に付着すると結合。こうして分裂期は中期へと移行します。

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中期、後期

中期、後期

image by Study-Z編集部

分裂期の中期では、紡錘体が結合した姉妹染色分体が赤道面に並びます。そして姉妹染色分体を接着する役割をしていたコヒーシンが分解されることにより、姉妹染色分体は分離。後期には紡錘糸が収縮することによって、染色体は両極に引っ張られて移動します。

このようにして、2コピーあったDNAは1コピーずつ、正確に娘細胞に分配されるのです。

終期

終期になると各娘細胞に分配された染色体は、それぞれ核膜に包まれます。こうして核分裂は終了するわけです。

さらに、終期に始まる大きな出来事といえば細胞質分裂。この胞質分裂がどのように起こっているか詳しくみていきましょう。

動物細胞の場合は、染色体が両極に移動し終わると、赤道面辺りに収縮環というものが現れます。収縮環は主にアクチンフィラメントミオシンフィラメントというタンパク質でつくられた環状の構造体。収縮環によって細胞膜が内側に引っ張られるように分裂が起こります。

植物細胞の場合は細胞壁があるため、動物細胞のような収縮環でくびれるように分裂することはできません。2つの娘細胞を仕切るために、間に新しい細胞壁をつくることで細胞質分裂をおこないます。この新しい細胞壁は分裂期中期に姉妹染色分体が並んでいた赤道面付近に、ゴルジ体由来の小胞が集まって形成されるのです。

遺伝情報を伝えるために欠かせない有糸分裂

今回は「有糸分裂」について解説いたしました。染色体が複製されて分離し、2つの細胞に分かれる。このように書いてあると単純な出来事のように感じるかもしれませんが、実際には紡錘体や多くのタンパク質が複雑に関与しています。1つでも正常に働かないと、同じDNAをもつ細胞はうまれません。染色体が1本多い、少ない、欠けているなどの問題がある細胞は、通常の細胞とは異なる性質をもつかもしれません。がん化してしまうかもしれません。染色体を確実に分配する有糸分裂というシステムは、とても重要なものなのです。

体内で分裂を繰り返す細胞は少ないですが、分裂する細胞が確実に有糸分裂を行うことで、私たちの体は維持されています。普段生活している中で意識することはありませんが、こうした細胞内の出来事に興味を持って勉強してみると、面白いかもしれませんよ。

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理科生物

3分で簡単有糸分裂!娘細胞に染色体が分配される過程について理系院卒ライターがわかりやすく解説!

今回は「有糸分裂」について解説していきます。みんなは有糸分裂って何のことだか分かるか?染色体が凝集し、有糸分裂によって娘細胞に分配される過程について、解説していこうと思う。高校生物で体細胞分裂について学習したことがあると思うが、今回は少し踏み込んで細胞分裂について学んでいきます。
この記事では学生時代、細胞周期について研究していた経験のある理系院卒ライターtomato1121と解説していきます。

ライター/tomato1121

大学と大学院で学んだことを元に、生物の楽しさを伝えたいと思いライターになる。生物学の知識を分かりやすく伝え、多くの人に興味を持ってもらえるように日々奮闘中。

有糸分裂とは

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有糸分裂(ゆうしぶんれつ)とは、細胞分裂で核分裂が起こる際に、染色体が紡錘体によって娘細胞に分配される分裂様式のことをいいます。この紡錘体を構成する糸状の構造物が紡錘糸。この紡錘糸によって複製された各染色体が1本ずつ、引っ張られるように両極に移動します。

分裂してできる2つの娘細胞に、染色体が1本ずつ確実に分配される仕組みが有糸分裂の特徴。有糸分裂は真核生物の体細胞分裂で起こっていることを覚えておきましょう。

減数分裂は有糸分裂?

減数分裂は生殖細胞を作る過程で行われる分裂のことですね。連続して2回の核分裂を行うことによって、染色体数を半減させることができます。減数分裂も紡錘体によって染色体が分配される分裂ではありますが、通常は有糸分裂というと、減数分裂は含まれず体細胞分裂のみを意味することが多いようです。

無糸分裂ってあるの?

有糸分裂があるなら無糸分裂もあるのでしょうか。無糸分裂という用語は、以前は使われることがあったようです。分裂時に紡錘体が使われずに分裂する分裂様式で、核がちょうど真ん中辺りからくびれるようにして2つに分かれます。病気の細胞や古くなった細胞に見られるイレギュラーな現象とのこと。無糸分裂という言葉は現在ではあまり使われていないようです。

細胞周期とは

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すじにくシチュー投稿者自身による作品, CC0, リンクによる

細胞周期とは1つの細胞が分裂して2つの娘細胞になる過程の一連の周期のことです。DNAの複製期(S期)分裂期(M期)、そしてそれらの準備期間(S期の前のG1と、S期の後の2)によって構成される細胞周期。細胞周期を繰り返すことによって、細胞分裂は行われています。

実は、この細胞周期の進行には多くのタンパク質が複雑に関与しているのです。これらのタンパク質が正常に機能することで細胞分裂は繰り返されてます。

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