毎年やってくるジメジメした季節「梅雨」が好きだという人はあまりいないかもしれないが、実は我々日本人に多大な恩恵をもたらす自然現象です。しかし、時として土砂崩れや河川の氾濫などの災害も引き起こすな。一体、この梅雨はどのようなメカニズムで起こるのでしょう?
今回は梅雨について、気象に詳しいサイエンスライターのチロと一緒に解説していきます。
チロ

ライター/チロ

放射能調査員や電気工事士など様々な「科学」に関係する職を経験したのち、教員の道へ。理科教員10年を契機に米国へ留学、卒業後は現地の高校でも科学教師として勤務した。帰国後は「フシギ」を愛するフリーランスティーチャー/サイエンスライターとして活躍中。

梅雨前線とは?

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日本に梅雨の長雨をもたらすのは、列島上空に長いあいだ居座る雨雲。この雨雲を作り出してるのが、梅雨前線です。よく聞く名前ですが、いったい前線って何なのでしょう? そして、なぜ前線があると雨が降るのでしょうか?

梅雨前線は停滞前線

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前線とは、暖かい空気のかたまりと冷たい空気のかたまりがぶつかっているところ。「暖かい空気と冷たい空気ってすぐ混ざっちゃうんじゃないの?」と思うかもしれませんが、これがなかなか混ざらないんです。なぜなら暖かい空気は冷たい空気より軽く、上にのぼっていってしまうから。お風呂のお湯も上の方が暖かくて、下が冷たくなってることがありますよね?そして暖かい空気がのぼるとき、雲が発生し雨を降らすのです。

暖かい空気と冷たい空気が、ほとんど等しい力で押し合っている状態の前線が「停滞前線」。梅雨をもたらす梅雨前線も、この停滞前線の一種です。停滞前線は力士が同じ力で押し合っている相撲の取り組みのように、なかなか移動しません。そのため長雨になるんですね。

梅雨前線は気団がぶつかりあって出来る

梅雨前線は気団がぶつかりあって出来る

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同じ性質をもつ空気のかたまりを気団といいます。空気は私たちが思っている以上に混ざりにくいものなので、日本を含む東アジア上空にはいくつかの気団が常に存在しており、それらがぶつかりあった面に前線ができるのです。梅雨前線を作り出すのは、北のオホーツク海気団と南の小笠原気団。夏が近づくと小笠原気団がオホーツク気団を北へ北へと追いやります。その結果、梅雨前線も九州沖縄から東北へと徐々に北上していくのです。

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天気図に梅雨前線を表す記号はない

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cs:User:-xfi- - 投稿者自身による作品 (own drawing), パブリック・ドメイン, リンクによる

ニュースなどでよく聞く「梅雨前線」という言葉。これを表す専用の記号がきっとあると思いきや…。実はないんです。前線の記号は世界共通のものなので、東アジア特有の気象現象である梅雨前線を表す記号は存在しません。その代わり、停滞前線の記号が用いられます。晩春から初夏にかけて日本列島上空に居座る停滞前線を見つけたら、それが梅雨前線。というわけです。

梅雨前線と災害

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大自然は時として牙を剥き、人間社会に災害をもたらします。梅雨も例外ではなく、時として大きな被害につながることも。一体どのような時に災害が起きるのでしょう?

集中豪雨を引き起こす「クラスター」とは?

令和2年(2020年)7月3日からの大雨・斜め写真・球磨川地区(熊本県八代市、芦北町、球磨村)124A2643.jpg
By 国土地理院 (Geospatial Information Authority of Japan), CC BY 4.0, Link

梅雨の時期にはしばしば集中豪雨が起き、大きな被害をもたらします。記憶に新しいところでは、2020年7月には熊本県を中心に集中豪雨が発生、球磨川が氾濫し多くの住宅が浸水しました。また2021年7月に東海地方で発生した記録的な大雨では、熱海市伊豆山地区で盛り土が崩れ、大規模な土石気流が発生。どちらの災害でも、多くの尊い人命が失われました。

梅雨前線によって集中豪雨が発生するときは、梅雨前線に向かって南西から湿った風が吹き込み「クラスター」が発生しています。クラスターとは大雨をもたらす積乱雲が多数重なり、大きなかたまりになっている状態。気象庁はクラスターの発生を「高解像度降水ナウキャスト」というシステムで監視し発表しています。梅雨時期には天気予報を定期的にチェックし、災害発生前に避難などの行動を起こすことが重要です。

最近よく聞く「線状降水帯」との関係は?

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Original: Japan Meteorological Agency, Add the date and time: Pekachu - 「梅雨前線及び台風第3号による大雨と暴風(pdf) 」 p.5、気象庁『梅雨前線及び台風第3号による大雨と暴風 平成29(2017)年6月30日-7月10日(速報) 』、2017-07-11, CC 表示 4.0, リンクによる

ある場所で積乱雲が発生する条件が揃った状態が続くと、発生した雲が移動しても次々に新しい雲が生み出され、ほとんど同じ場所で長時間におよび激しい雨が続きます。このような場所はふつう直線状になることから、ついた名前が線状降水帯。最近ニュースなどでよく聞きますよね。同じ「線」という字が使われてはいるものの、線状降水帯と前線はそのメカニズムも規模も全く異なる現象です。線状降水帯の発生メカニズムは完全に解明されているわけではないものの、クラスターと同様に前線に暖かい空気が流れ込むことも原因の一つと考えられています。

こういう天気図の時は要注意!

こういう天気図の時は要注意!

image by Study-Z編集部

通常、梅雨前線はその北側に雨雲を発達させます。しかし梅雨前線に向かって暖かく湿った空気が大量に流れ込むときは、南側に線状降水帯やクラスターが発生し集中豪雨を引き起こすのです。暖かく湿った風の吹き込みは太平洋高気圧の縁に沿って北上することが多いので、上の図のような天気図の時に自分の住んでいる場所が前線付近や前線の南側だった場合は注意が必要。天気予報を見る時には、天気図上の前線の位置と等圧線の形にも注目しましょう。

しかし気象現象は複雑で、これ以外にも豪雨の引き金となりうる要素はあります。やはり梅雨時期には天気予報をこまめにチェックし、前線が近くにあるとき、そして気象予報士が「大気の状態が不安定」と言っている時には大雨の心構えをしておきましょう。

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梅雨前線の恩恵

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時に災害をもたらす梅雨ですが、梅雨がもたらす恩恵にも計り知れないものがあります。

もし梅雨がなかったら?

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日本における年間降水量のピークは梅雨の時期。全体の4分の1ほどの雨をわずか1ヶ月強の期間に降らせます。夏に向かって暖かくなる時期における雨は植物栽培にとって不可欠なもの。田植えや夏野菜の植え付けは梅雨がなければ不可能です。そして夏場に増える水使用のために、水がめであるダムに貯水をしておくためにも梅雨が大きな役割を果たしています。もし、梅雨がなかったら…食糧危機と水不足の二重苦が待ち受けているのは間違いありません。

梅雨の生み出した日本の文化

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毎年やってくる梅雨が日本文化に及ぼした影響は計り知れません。たとえば日本の家の構造。レンガや石でできた大陸の建築物とは違い、日本の家屋は通気性に富んだ木材で作られており、障子やふすまなども開け放せば開放的な空間になります。また床を地面から離す高床式の構造にすることで、多雨の時期でも湿気がこもらないようにしているのです。

そして日本の伝統的な服装も、この湿度の高さに対応しています。ゆったりとした和服は通気性がよくなるようにデザインされており、下駄や草履などの足を覆わない履き物も湿度の高い環境を生き抜くためにはベストなチョイスですよね。高温多湿で雨の多い日本で、ヨーロッパで発明されたスーツや革靴を履き、コンクリートの家で暮らす現代人の生活は日本の環境にはマッチしていないのかもしれません。

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秋雨前線とは?

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小笠原気団とオホーツク気団がぶつかり合ってできる前線は、梅雨前線だけではありません。夏が終わりに近づくと、小笠原気団の勢力が弱まり、北からオホーツク気団が張り出してきます。そして境界面には「秋雨前線」という停滞前線ができるのです。梅雨前線とそっくりな秋雨前線ですが、一番の違いは進む方向。秋雨前線は北から南に向かって進みます。また秋雨は梅雨と比較すると小規模で始まりと終わりもはっきりしないため、梅雨のように「入り」と「明け」は発表されません。

梅雨を「知ること」が一番大切

我々日本人の生活に密接に関係する梅雨。毎年やってくるこの季節と上手に付き合うには、梅雨についてよく知ることが大切です。毎日何気なく見ている天気予報を、ちょっと注意深く聞くだけでも梅雨がもたらす気象現象への理解が深まるはず。起こりうる災害への備えにも繋がります。そして、雨の日には雨を楽しむ「心の余裕」も持っていたいですね。

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地学理科

梅雨前線とは?特徴やでき方、気団との関係、秋雨前線についても元米国科学教師チロがわかりやすく解説!

梅雨前線の恩恵

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時に災害をもたらす梅雨ですが、梅雨がもたらす恩恵にも計り知れないものがあります。

もし梅雨がなかったら?

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日本における年間降水量のピークは梅雨の時期。全体の4分の1ほどの雨をわずか1ヶ月強の期間に降らせます。夏に向かって暖かくなる時期における雨は植物栽培にとって不可欠なもの。田植えや夏野菜の植え付けは梅雨がなければ不可能です。そして夏場に増える水使用のために、水がめであるダムに貯水をしておくためにも梅雨が大きな役割を果たしています。もし、梅雨がなかったら…食糧危機と水不足の二重苦が待ち受けているのは間違いありません。

梅雨の生み出した日本の文化

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毎年やってくる梅雨が日本文化に及ぼした影響は計り知れません。たとえば日本の家の構造。レンガや石でできた大陸の建築物とは違い、日本の家屋は通気性に富んだ木材で作られており、障子やふすまなども開け放せば開放的な空間になります。また床を地面から離す高床式の構造にすることで、多雨の時期でも湿気がこもらないようにしているのです。

そして日本の伝統的な服装も、この湿度の高さに対応しています。ゆったりとした和服は通気性がよくなるようにデザインされており、下駄や草履などの足を覆わない履き物も湿度の高い環境を生き抜くためにはベストなチョイスですよね。高温多湿で雨の多い日本で、ヨーロッパで発明されたスーツや革靴を履き、コンクリートの家で暮らす現代人の生活は日本の環境にはマッチしていないのかもしれません。

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