突然ですが皆は示性式という言葉を知っているか?
示性式は化学式の表記法の一つですが、そもそも化学式自体の書き方をよく覚えていないやつもいるかも知れないな。今回は、示性式を含む4種類の化学式の書き方やルール、見分け方について、元塾講師で化学や物理も担当していたライター「ふっくらブラウス」と一緒に解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

機械系出身ライター。力学をはじめとする四力学や電磁気学、材料特性など幅広く学ぶ。塾講師時代の経験を活かし、主に理数系教科について「シンプルに分かりやすく」をモットーに解説。

そもそも化学式って何?

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化学とは、物質を形づくる原子のふるまいに着目した学問です。そのため、さまざまな物質を原子の集合として記述するための方法が必要でした。

化学式は、元素の構成に着目して一つ一つの物質明示した表記法のことです。化学式によって、物質がどのような原子を何個含んでいるのか、どのような構造なのか判断することができます。

化学式は書き方やルールが異なる複数の種類があり、用途に合わせて使い分けられるものです。今回は化学式の中から、代表的な表記法を取り上げて解説していきます。

化学式の種類は大きく分けて4種類!

いくつかの化学式で書き表した1-ブテン
D.328 2008/11/4 05:19 (UTC) - selfmade by ChemDraw, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

化学分野は、有機体と呼ばれる炭素原子と水素原子を骨格とした物質を扱う有機化学、それ以外の物質を扱う無機化学の2つに分かれます。これら有機化学と無機化学では、化学式において着眼点や知りたいポイントが異なることが多いです。

また分子を作る、結晶構造をとるなど、物質の構造もさまざまであるため、化学では大きく分けて4種類の化学式を使い分けています

物質を構成する元素の種類や量、個数を考える場合は分子式か組成式、物質の構造や反応機構を考える場合は構造式か示性(しせい)式が使われるのが一般的です。

組成式と分子式:元素の数や割合を重視

化学式の中で、構成元素の数や割合に焦点を置いた式が組成式と分子式です。組成式をより正確に記述したものが分子式となります。

構造に目を向けないぶんシンプルな物質の記述に向いていて、比較的単純な構造の物質を扱う無機化学での使用が主流です。

組成式および分子式の共通ルールとして、無機化合物は陽イオンになりやすい元素から優先して書くルールが定められています。

逆に有機加工物は、C(炭素原子)、H(水素原子)を先に置き、残りの元素はアルファベット順にするのが規則です。これは、有機化合物では炭素や水素による骨格構造が重要視されるためですね。

分子式と組成式では、表せる物質や適した状況がやや異なります。それぞれ、どのような違いがあるのかより深く見ていきましょう。

組成式とは物質を構成する元素の比を表した化学式

組成式は、物質を構成する元素の種類とその構成比を表した化学式です。分子を形成する物質のほか、金属元素など原子が大量に連結して結晶を作る物質も表すことができます。

組成式を書くときは、例えばCH2Oというように構成元素右下に構成比を書き、順番に並べていきます。元素右下の数字が1の場合省略するので、CH2Oの構成比は、C:H:O=1:2:1となります。

組成式の欠点として、構成元素の整数比しか表すことができないため、同じ構成比の物質を区別できないことです。CH2O(ホルムアルデヒド)やC2H4O2(酢酸)などの物質は、全て組成式がCH2Oとなり区別できません。

現実世界では、例えば物質と物質を1:2で混合するというように、物質を量や比によって考えるのが自然です。そのため、組成式は測定など数量を判断する化学実験と相性がよく、実験的に求められた組成式を特に実験式と呼びます。

分子式とは分子を構成する元素の種類、数を表した化学式

分子式は組成式をより詳細にした化学式で、元素を構成比ではなくそれぞれの個数まで正確に表した式です。

分子式は、その名称からもわかるとおり分子の構成を示した化学式なので、分子を形成しない物質は表すことができません。実際、結晶構造を取る物質は、原子が数千~数万個単位で結合していることもあるので、分子式として表すのは現実的ではありません。

分子式は、組成式と同様に分子を構成する原子をシンプルに並べた化学式です。一つの分子に同種の原子が複数入る場合、原子の右下にその個数を書きます。

例として、組成式の項目で先述したC2H4O2(酢酸)について見てみると、炭素原子が2個、水素原子が4個、酸素原子が2個結合した物質だと判断できますね。

構造式と示性式:物質の構造を重視

組成式や分子式とは異なり、物質の構造に重点を置いた化学式が構造式、示性式です。

有機化合物は複雑な構造を持つものも多いため、特に有機化学で広く使われています。同じ分子式でも構造が異なる、異性体を持つ有機物を表すときに特に有用です。

構造式は物質の構造を紙面上で表現した化学式、示性式は有機化合物特有の官能基と呼ばれるパーツを分かりやすくした化学式となります。これらの式は構造の詳細がわかりやすい代わりに、ルールがわかりにくい面があるので、より詳しく見ていきましょう。

構造式とは原子の結合状態を再現した式

構造式とは原子の結合状態を再現した式

image by Study-Z編集部

構造式とは、物質の構造ををわかりやすくするため、原子の結合を線を使って表した化学式です。構造式において、原子どうしの結合を示した線を価標、各原子が持つ価標の数を原子価と呼びます。

価標は原子の電子共有を様子を表したものです。共有している電子対が1つなら価標1本(‐)で単結合、2つなら価標2本(=)で二重結合、3つなら価標3本(≡)で三重結合となります。

複雑な構造の有機化合物では、物質を構成する原子を全て書いてしまうと逆にわかりにくいことが多いです。そのため、構造式には画像のように略式の書き方がいくつかあります。

また、立体的な構造式に見られる太線の価標は画面手前側、破線の価標は画面奥側に伸びていることを図示した記号です。

\次のページで「示性式とは特徴的な構造(官能基)を抜き出した化学式」を解説!/

示性式とは特徴的な構造(官能基)を抜き出した化学式

構造式は価標まで書かなければならないため手間がかかります。そのため、分子の構造で特徴的な部分のみ抜き出した示性式が使われることも多いです。

示性式とは、有機化合物の性質や特徴に影響するパーツである官能基を抜き出した化学式のことをいいます。

例として、示性式ではCH2O(ホルムアルデヒド)がHCHO、C2H4O2(酢酸)がCH3COOHとなり、‐CHOや‐COOHといった官能基が見えやすくなるんですね。

また、示性式には、これまでの化学式と比べて複雑なルールがあります。それら示性式のルールを、構造式と示性式の変換を例にして詳しく見てみましょう。

構造式から示性式への変換方法

構造式から示性式への変換方法

image by Study-Z編集部

構造式および示性式は対象の分子構造が複雑になるほど、式の書き方も難しくなります。今回は示性式が複雑な有機物の例として、潤滑剤や保湿液として使われているグリセリンについて考えてみましょう。

グリセリンの分子式はC3H8O3で、直線上に連結した炭素原子(直鎖という)に一つずつ‐OHが付いただけの比較的シンプルな構造です。しかし、そんなグリセリンを示性式で表すと一気に複雑な式となります。

構造を丁寧に表した示性式は、構造式をそのまま左から右へと連結した式を書いている状態です。ここで、構造式中心の炭素は3つ以上分岐しているので、‐OHにかっこをつけて区別しているんですね。

このように、示性式中で3箇所以上にパーツがくっついた部分は、炭素の骨格部分でないパーツをかっこ書きにするルールがあります。また、示性式にてHO-と逆になっている箇所があるように、結合の方向を示すため一部を反対向きで書いてもOKです。

構造をより簡略化した書き方として、示性式中の同じ箇所をまとめた表記も使われます。官能基など特定の構造の個数のみ知りたい場合は、簡略表記の方が向いていますね。

逆に、示性式から構造式を推測するときは、式から水素(H)を取り除いて考えると炭素(C)による骨格が見えやすい。各元素の価数(持てる価標の数)をヒントに、示性式に合致するような構造を考える必要がある。

大学受験で必須!示性式中によく出てくる官能基と書き方

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有機化学における必須知識とも言える官能基。大学受験でも官能基にまつわる問題は頻出分野です。

これまで例に出したもの以外にも、官能基にはさまざまな種類があります。最後に、これらの官能基の中からいくつかピックアップし、構造や特徴をより詳しく解説しましょう。

\次のページで「官能基その1:ヒドロキシ基」を解説!/

官能基その1:ヒドロキシ基

ヒドロキシ基は有機物R‐OHのうち、‐OHを構成している部分になります(Rは炭化水素部分)。

ヒドロキシ基の特徴は、OHという構造から水とよく似た性質を持つことです。水分子H2Oと同様に、酸素側が-の電気、水素側が+の電気に偏った極性を持ち、同じく極性を持った物質とよく反応します。

そのため炭化水素部分の割合が小さく、ヒドロキシ基を持っている有機物は、水を含む極性溶媒に溶けやすいです。ヒドロキシ基を持っている物質の例として、メタノールやエタノールが属するアルコール類が挙げられます。

官能基その2:アルデヒド基

アルデヒド基は‐CHOで表される官能基で、アルデヒド基を持つ有機物R‐CHOをアルデヒドと呼びます。これまで例に挙げていたホルムアルデヒドHCHOもアルデヒドの一種です。

アルデヒド基の特徴は、水とも有機溶媒とも溶解しやすい点にあります。これは、ヒドロキシ基と同様に極性を持っているほか、CHといった炭化水素の構造を持ち、水にも有機物にもなじみやすいことが原因です。

そのほか、酸化されやすい性質や生物のタンパク質を凝固させる毒性を持っている点も知られています。生体標本に使われるホルマリンは、実はホルムアルデヒドの慣習名であり、アルデヒドが持つ毒性を有効利用したものなんです。

官能基その3:カルボキシ基

カルボキシ基は、‐COOHといった構造を取る官能基のことを指します。

カルボキシ基を含む有機物はカルボン酸と呼ばれ、酸性を示すことが特徴です。カルボン酸は一般的な酸として自然界にも多く見られ、お酢の酸味成分である酢酸のほか、クエン酸や各種脂肪酸などが含まれます。

また、カルボキシ基は‐OHや=Oといった構造を含むため、ほかの有機物との反応性が高いです。2種類以上の有機物が、水などの簡単な分子を切り捨てつつ結合する縮合反応など、様々な反応を起こします。

そのためカルボン酸は、さまざまな高分子化合物製造のもととなる重要な物質でもあるんです。

化学式は書き方によって分子式、組成式、構造式、示性式に分かれる

化学は物質を構成する原子に着目する学問で、物質を原子の結合として表記するためさまざまな化学式を使い分けています。

構成元素の比を示した化学式が組成式です。組成式は具体的な数量を扱う化学実験での構造の推測や、分子として表せない物質の表記といった場面で使われます。

分子式は、分子を構成する各元素の個数を正確に表した化学式です。構造があまり複雑でない無機物の表記に向いています。

構造式は、原子の結合を価標を使って表した化学式です。主に、異性体を考慮する必要のある有機化学の分野で、物質の構造を正確に判断する用途で使用されます。

示性式は、有機化合物の性質を決定づける官能基と呼ばれる構造を抜き出した化学式です。ヒドロキシ基やアルデヒド基など、官能基にはさまざまな種類があります。

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化学原子・元素有機化合物無機物質物質の状態・構成・変化理科

示性式って何?構造式ってどう書くの?4種類の化学式の書き方やルールを理系ライターが分かりやすくわかりやすく解説!

突然ですが皆は示性式という言葉を知っているか?
示性式は化学式の表記法の一つですが、そもそも化学式自体の書き方をよく覚えていないやつもいるかも知れないな。今回は、示性式を含む4種類の化学式の書き方やルール、見分け方について、元塾講師で化学や物理も担当していたライター「ふっくらブラウス」と一緒に解説していきます。

ライター/ふっくらブラウス

機械系出身ライター。力学をはじめとする四力学や電磁気学、材料特性など幅広く学ぶ。塾講師時代の経験を活かし、主に理数系教科について「シンプルに分かりやすく」をモットーに解説。

そもそも化学式って何?

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化学とは、物質を形づくる原子のふるまいに着目した学問です。そのため、さまざまな物質を原子の集合として記述するための方法が必要でした。

化学式は、元素の構成に着目して一つ一つの物質明示した表記法のことです。化学式によって、物質がどのような原子を何個含んでいるのか、どのような構造なのか判断することができます。

化学式は書き方やルールが異なる複数の種類があり、用途に合わせて使い分けられるものです。今回は化学式の中から、代表的な表記法を取り上げて解説していきます。

化学式の種類は大きく分けて4種類!

いくつかの化学式で書き表した1-ブテン
D.328 2008/11/4 05:19 (UTC) – selfmade by ChemDraw, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

化学分野は、有機体と呼ばれる炭素原子と水素原子を骨格とした物質を扱う有機化学、それ以外の物質を扱う無機化学の2つに分かれます。これら有機化学と無機化学では、化学式において着眼点や知りたいポイントが異なることが多いです。

また分子を作る、結晶構造をとるなど、物質の構造もさまざまであるため、化学では大きく分けて4種類の化学式を使い分けています

物質を構成する元素の種類や量、個数を考える場合は分子式か組成式、物質の構造や反応機構を考える場合は構造式か示性(しせい)式が使われるのが一般的です。

組成式と分子式:元素の数や割合を重視

化学式の中で、構成元素の数や割合に焦点を置いた式が組成式と分子式です。組成式をより正確に記述したものが分子式となります。

構造に目を向けないぶんシンプルな物質の記述に向いていて、比較的単純な構造の物質を扱う無機化学での使用が主流です。

組成式および分子式の共通ルールとして、無機化合物は陽イオンになりやすい元素から優先して書くルールが定められています。

逆に有機加工物は、C(炭素原子)、H(水素原子)を先に置き、残りの元素はアルファベット順にするのが規則です。これは、有機化合物では炭素や水素による骨格構造が重要視されるためですね。

分子式と組成式では、表せる物質や適した状況がやや異なります。それぞれ、どのような違いがあるのかより深く見ていきましょう。

組成式とは物質を構成する元素の比を表した化学式

組成式は、物質を構成する元素の種類とその構成比を表した化学式です。分子を形成する物質のほか、金属元素など原子が大量に連結して結晶を作る物質も表すことができます。

組成式を書くときは、例えばCH2Oというように構成元素右下に構成比を書き、順番に並べていきます。元素右下の数字が1の場合省略するので、CH2Oの構成比は、C:H:O=1:2:1となります。

組成式の欠点として、構成元素の整数比しか表すことができないため、同じ構成比の物質を区別できないことです。CH2O(ホルムアルデヒド)やC2H4O2(酢酸)などの物質は、全て組成式がCH2Oとなり区別できません。

現実世界では、例えば物質と物質を1:2で混合するというように、物質を量や比によって考えるのが自然です。そのため、組成式は測定など数量を判断する化学実験と相性がよく、実験的に求められた組成式を特に実験式と呼びます。

分子式とは分子を構成する元素の種類、数を表した化学式

分子式は組成式をより詳細にした化学式で、元素を構成比ではなくそれぞれの個数まで正確に表した式です。

分子式は、その名称からもわかるとおり分子の構成を示した化学式なので、分子を形成しない物質は表すことができません。実際、結晶構造を取る物質は、原子が数千~数万個単位で結合していることもあるので、分子式として表すのは現実的ではありません。

分子式は、組成式と同様に分子を構成する原子をシンプルに並べた化学式です。一つの分子に同種の原子が複数入る場合、原子の右下にその個数を書きます。

例として、組成式の項目で先述したC2H4O2(酢酸)について見てみると、炭素原子が2個、水素原子が4個、酸素原子が2個結合した物質だと判断できますね。

構造式と示性式:物質の構造を重視

組成式や分子式とは異なり、物質の構造に重点を置いた化学式が構造式、示性式です。

有機化合物は複雑な構造を持つものも多いため、特に有機化学で広く使われています。同じ分子式でも構造が異なる、異性体を持つ有機物を表すときに特に有用です。

構造式は物質の構造を紙面上で表現した化学式、示性式は有機化合物特有の官能基と呼ばれるパーツを分かりやすくした化学式となります。これらの式は構造の詳細がわかりやすい代わりに、ルールがわかりにくい面があるので、より詳しく見ていきましょう。

構造式とは原子の結合状態を再現した式

構造式とは原子の結合状態を再現した式

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構造式とは、物質の構造ををわかりやすくするため、原子の結合を線を使って表した化学式です。構造式において、原子どうしの結合を示した線を価標、各原子が持つ価標の数を原子価と呼びます。

価標は原子の電子共有を様子を表したものです。共有している電子対が1つなら価標1本(‐)で単結合、2つなら価標2本(=)で二重結合、3つなら価標3本(≡)で三重結合となります。

複雑な構造の有機化合物では、物質を構成する原子を全て書いてしまうと逆にわかりにくいことが多いです。そのため、構造式には画像のように略式の書き方がいくつかあります。

また、立体的な構造式に見られる太線の価標は画面手前側、破線の価標は画面奥側に伸びていることを図示した記号です。

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