物質を冷やしたら、どこまで冷たくなるか知ってるか?
物質が冷える限界を「絶対零度」ということを知っている人もいるかもしれないが、具体的にそれは何度なのか知っている人は少ないでしょう。

さらに、物質を冷やしていくととても不思議な現象が起きるんです。

今回は、物質の冷える限界と限界まで冷えた物質が見せる不思議な現象を、化学に詳しいリックと一緒解説していくぞ!

ライター/リック

高校生で化学にハマり、大学院までずっと化学を勉強してきた化学オタク。今は化学メーカーで働きながら化学の楽しさを発信する。

物質はどこまで冷える?

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何かを冷やすとき、どうやって冷やしますか??「冷凍庫や冷蔵庫に入れて冷やす」というのが私たちにできる一番簡単な冷却方法ですよね。冷蔵庫の温度は4℃くらい、冷凍庫の温度は-18℃くらいです。

次に、-18℃より冷たいモノって何でしょうか?多くの人はドライアイスを思い浮かべると思います。ドライアイスの温度は約-79℃。さらに冷たいモノは何だろう…と考えたときに、思い浮かぶのは「液体窒素」かな?と思います。液体窒素の温度は-196℃です。

ここで、一つ気になりませんか?「温度ってどこまで下がるんだろう…」この疑問に答えるため、まずは、温度についてご紹介していきます。

温度を表す3つの指標とは?

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温度を表す単位にはいろいろな種類があるんです。ここからは、温度を表す3つの単位系をご紹介していきます。

世界的に標準、「摂氏」とは?

私たちの生活の中で一番なじみのある温度が「摂氏」ですよね。単位は「℃」で表します。水が沸騰するのは100℃で、水が氷る温度が0℃というのは当たり前ですよね。摂氏は、「セルシウス度」と呼ばれていて、世界的に広く使われている温度単位です。

スウェーデンの天文学者「アンデルス・セルシウス」が提唱した考え方で、水の凝固点を0℃、水の沸点を100℃として定義して、その間を100等分するという考え方でした。

アメリカで一般的!華氏とは?

アメリカで一般的!華氏とは?

image by Study-Z編集部

華氏って、聞いたことないですか?日本ではあまりなじみはないですが、特にアメリカでは華氏が生活の中で広く使われているんです。摂氏が【℃】だったのに対して華氏は【℉】であらわします。

華氏を提唱したのはドイツの物理学者「ガブリエル・ファーレンハイト」という人物です。華氏の定義は、彼が作った水銀温度計で水の凝固点と32度、沸点を212度と定義して、その間を180等分するというものでした。

セルシウス温度を使うと、零下の温度も日常的に出てきますよね。「マイナス〇℃」といった具合です。実は、華氏では、生活している中でマイナスは出てきません!地球上の居住可能地域の大部分の温度は0℉~100℉範囲に収まります。

表を見てもらうと分かりやすいかもしれませんが…日常生活でまず華氏がゼロ以下になることはないんですよ。ちなみに、華氏から摂氏へ換算するためには、(華氏温度-32)×5÷9で計算できます。

華氏を提唱した「ガブリエル・ファーレンハイト」はマイナスが出てくることを嫌い、測定できる最も低い室外環境温度を0℉としました。それが-17.8℃で、実験室では「氷・塩化アンモニウム・水」を混ぜることで、-17.8℃を作り出しています。

\次のページで「化学の世界ではこれ!温度を表す「ケルビン」とは?」を解説!/

化学の世界ではこれ!温度を表す「ケルビン」とは?

化学の世界では、摂氏【℃】や華氏【℉】を使うことはほとんどありません。摂氏に慣れた日本人と華氏に慣れたアメリカ人が議論するとき、いちいち温度を変換して…なんてやっていたら面倒ですよね。

なので、国際単位系(SI)と呼ばれる全世界で広く使われる単位系で温度の単位はケルビン【K】を使うと決められています。

ケルビン【K】は絶対温度とも呼ばれ、イギリスの物理学者のケルビン卿から名づけられました。「ボルツマン定数を1.380649×10−23と定めることで設定される」と定義されています。

簡単にいうと、「理想気体の原子の振動が完全に止まった状態の温度を0Kとする」というイメージで問題ありません。原子の振動が完全に止まってしまう温度のことを絶対零度といいます。つまり絶対零度=0Kということですね。

ただ、これは古典力学の考え方で、量子力学では絶対零度でも原子の振動は止まることがないと定義されるので、上の説明も完全じゃないんですが…

ちなみに、摂氏からケルビン温度への換算は、摂氏温度+273.15で計算できるんです。

絶対零度(0K)に近い極めて低い温度での原子や分子の状態を扱う学問を低温物理学といい、一つの学問の分野として、たくさんの研究がおこなわれています。

「極低温」とは?

ここでやっと極低温についてご紹介していきます。

極低温とは「絶対零度に近い温度」です。絶対零度は0Kだということは先ほどご紹介しましたよね。絶対零度付近では、常温(25℃)では見られないような現象がいくつも確認されています。

一般的に極低温は4K以下を指すことが多く、摂氏に換算すると、-269.15℃以下です。4Kは、風船に入っているガスの「ヘリウム」の沸点と同じ温度。なので、極低温ではヘリウムも液体になるんです。

そんな極低温下では、とても不思議な現象が起きることが知られています。それが「超伝導」です。金属や合金などの物質を高温から冷やし続けて、ある温度に到達すると、物性が急に変化します。この状態を超伝導状態と呼び、今も研究が盛んにおこなわれているんです。超伝導は私たちの生活をより豊かにすることができる技術として注目されているんですよ。

夢の技術「超伝導」とは?

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ここからは、「超伝導とはどんな技術なのか」ご紹介していきます。超伝導と一言でいっても、その分野は非常に広く、たくさんの研究者が一生をかけて研究していく内容です。ココだけではとても紹介きれませんので、こんな現象だよ!というのをすごく簡単にご説明していきますね!

超伝導とは、極低温下で起きる不思議な現象で、「電気抵抗がゼロになる」「磁場が超伝導体から排除される」という特徴的な性質があります。

何がすごいの?と思うかもしれませんが、「電気抵抗がゼロになる」ということは、電気エネルギーをロスなく運ぶことができるんです。電線を電気が流れると、どうしても電気抵抗で電気エネルギーから熱エネルギーへの変換が起きてしまいます。これってかなり大きなロスなんですよね。

超伝導技術が確立すれば、電気エネルギーを全くロスなく運ぶことや貯めることができるんです。

電気を貯めておくと聞いてイメージするのは電池ではないでしょうか?電池は…電気エネルギーを化学エネルギーに変換して貯めています。電気を放電するときは、電池内で化学反応を進行させて化学エネルギーを電気エネルギーへ変換しているんです。この変換でもやはりロスは起きてしまいます。

超伝導技術は電気エネルギーを全くロスなく取り出すことができる技術なんですよ!

\次のページで「超伝導とリニアモーターカー」を解説!/

超伝導とリニアモーターカー

山梨実験線で試験走行を行う改良型L0系950番台 (2020年8月29日 笛吹市にて)
Saruno Hirobano - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

超電導は次世代の乗り物に重要な技術として使われているんです。それが「リニアモーターカー」。リニアモーターカーは超伝導技術を使うことで動いているんです!

超電導状態のコイルに電流を流すことで、強力な磁気が発生します。「リニアモーターカーの車体に取り付けてある磁石」と「ガイドと呼ばれるレールに設置してあるコイルから発生した磁気」同士が引き合う力と反発する力を調整することで、車体は進む、止まる、浮くことが可能に!

超電導技術がなければ、電流をコイルに流し続けることができないので、リニアは安定して走行することができないんです。現在の技術では、超電導状態を発生させるためには、4Kの液化ヘリウムに、ニオブ-チタン合金でできたコイルを浸すことで冷却しています。

課題もたくさんの超伝導技術

超伝導はたくさんの用途がある夢の技術ですが、課題も多くあります。一番の課題は「超伝導の発現には極低温が必要不可欠」ということ。4K(-269℃)という温度を常に維持しておくにはとんでもないほどの維持費がかかってしまいますよね。

超伝導が発現する温度は材料や材質によっても違うので、超電導が発現する温度を何とか上昇させようという研究も盛んにおこなわれています。

温度と新技術の深すぎる関係を学ぶ

今回は温度を表す3つの指標と極低温下で起きる不思議な現象「超伝導」についてご紹介してきました。

日本からアメリカへ旅行すると、温度の表示はすべて華氏なので、摂氏から華氏への変換ができるようにしておくと役にたつかもしれません。

極低温下で起きる「超伝導」は、リニアモーターカーという次世代の乗り物に必要不可欠な技術です。リニアモーターカーは今後大きなニュースになりますので、ぜひチェックしておいてくださいね!

" /> 極低温とは?絶対零度との違いや温度の下がり方について理系ライターがわかりやすく解説! – Study-Z
化学理科

極低温とは?絶対零度との違いや温度の下がり方について理系ライターがわかりやすく解説!


物質を冷やしたら、どこまで冷たくなるか知ってるか?
物質が冷える限界を「絶対零度」ということを知っている人もいるかもしれないが、具体的にそれは何度なのか知っている人は少ないでしょう。

さらに、物質を冷やしていくととても不思議な現象が起きるんです。

今回は、物質の冷える限界と限界まで冷えた物質が見せる不思議な現象を、化学に詳しいリックと一緒解説していくぞ!

ライター/リック

高校生で化学にハマり、大学院までずっと化学を勉強してきた化学オタク。今は化学メーカーで働きながら化学の楽しさを発信する。

物質はどこまで冷える?

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何かを冷やすとき、どうやって冷やしますか??「冷凍庫や冷蔵庫に入れて冷やす」というのが私たちにできる一番簡単な冷却方法ですよね。冷蔵庫の温度は4℃くらい、冷凍庫の温度は-18℃くらいです。

次に、-18℃より冷たいモノって何でしょうか?多くの人はドライアイスを思い浮かべると思います。ドライアイスの温度は約-79℃。さらに冷たいモノは何だろう…と考えたときに、思い浮かぶのは「液体窒素」かな?と思います。液体窒素の温度は-196℃です。

ここで、一つ気になりませんか?「温度ってどこまで下がるんだろう…」この疑問に答えるため、まずは、温度についてご紹介していきます。

温度を表す3つの指標とは?

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温度を表す単位にはいろいろな種類があるんです。ここからは、温度を表す3つの単位系をご紹介していきます。

世界的に標準、「摂氏」とは?

私たちの生活の中で一番なじみのある温度が「摂氏」ですよね。単位は「℃」で表します。水が沸騰するのは100℃で、水が氷る温度が0℃というのは当たり前ですよね。摂氏は、「セルシウス度」と呼ばれていて、世界的に広く使われている温度単位です。

スウェーデンの天文学者「アンデルス・セルシウス」が提唱した考え方で、水の凝固点を0℃、水の沸点を100℃として定義して、その間を100等分するという考え方でした。

アメリカで一般的!華氏とは?

アメリカで一般的!華氏とは?

image by Study-Z編集部

華氏って、聞いたことないですか?日本ではあまりなじみはないですが、特にアメリカでは華氏が生活の中で広く使われているんです。摂氏が【℃】だったのに対して華氏は【℉】であらわします。

華氏を提唱したのはドイツの物理学者「ガブリエル・ファーレンハイト」という人物です。華氏の定義は、彼が作った水銀温度計で水の凝固点と32度、沸点を212度と定義して、その間を180等分するというものでした。

セルシウス温度を使うと、零下の温度も日常的に出てきますよね。「マイナス〇℃」といった具合です。実は、華氏では、生活している中でマイナスは出てきません!地球上の居住可能地域の大部分の温度は0℉~100℉範囲に収まります。

表を見てもらうと分かりやすいかもしれませんが…日常生活でまず華氏がゼロ以下になることはないんですよ。ちなみに、華氏から摂氏へ換算するためには、(華氏温度-32)×5÷9で計算できます。

華氏を提唱した「ガブリエル・ファーレンハイト」はマイナスが出てくることを嫌い、測定できる最も低い室外環境温度を0℉としました。それが-17.8℃で、実験室では「氷・塩化アンモニウム・水」を混ぜることで、-17.8℃を作り出しています。

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