今回は「食細胞」というキーワードについて学習していこう。

食細胞は生体を守るしくみである免疫で活躍する存在です。食細胞の具体例や機能にくわえ、関連する用語なども広く確認していこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

食細胞

食細胞(しょくさいぼう)とは、細胞の中でも食作用(しょくさよう)をおこなうものの総称です。

とくに、私たちの体内を守る免疫のしくみで活躍する細胞について紹介されることが多いですね。

食作用

細胞が物質を細胞内に取り組み、分解することを食作用といいます。

専門的な用語では、貪食(どんしょく)といったり、ファゴサイトーシス(phagocytosis)ともよばれますね。

そうですね。ファゴサイトーシスと似ている用語に、エンドサイトーシスやエキソサイトーシスなどがあります。せっかくですので、ご紹介しておきましょう。

エンドサイトーシスとエキソサイトーシス

「サイトーシス」というのは、細胞膜を介して大きな物質を輸送する作用をさす言葉です。

細胞外から細胞内に物質を取り込む作用はエンドサイトーシス(endocytosis)、細胞内から細胞外に排出する作用はエキソサイトーシス(exocytosis)といいます。

食作用はエンドサイトーシスの一種といえますね。

小さな分子であれば、細胞膜上にあるタンパク質のトンネル(膜タンパク質)を通過できるものがあるんです。ところが、大きめの物質になるとそうもいかなくなります。

\次のページで「食作用はエンドサイトーシスの一種」を解説!/

image by Study-Z編集部

そのため、細胞膜の形状を変化させて包み込むように取り込んだり(エンドサイトーシス)、細胞内で膜につつんでおき、それを細胞膜に結合させることで外部に放出する(エキソサイトーシス)ことになるのです。

食作用はエンドサイトーシスの一種

食細胞が行う食作用は、エンドサイトーシスの一種です。細胞外にある物質を、細胞膜でつつみこみ、細胞内に取り込んでいきます。

基本的には、リソソームという細胞小器官が関係します。リソソームの内部には物質の分解を促す酵素が多く含まれているんです。

細胞外から物質を取り込んできた小胞と、リソソームが融合することで、リソソーム中の分解酵素が放たれ、物質を分解します。「”食”細胞」なので、物質を分解する現象は「消化」といわれたりもしますね。

”病原体”を取り込んで排除する

免疫ではたらく食細胞が取り込むのは、体外から侵入してきた細菌や真菌などの病原体がメインです。

食細胞が病原体を異物として認識し、食作用で処理しているからこそ、私たちはそう簡単に病気にならず、健康に生活できます。

image by iStockphoto

食細胞の例

それでは、私たちの身体ではたらいている、代表的な食細胞を3つあげてみましょう。好中球、マクロファージ、そして樹状細胞です。

\次のページで「好中球」を解説!/

好中球

好中球(こうちゅうきゅう)は、白血球の中でもとくに数が多い細胞です。

好中球を染色し観察すると、細胞内に粒々(顆粒)のようなものが見えることから、好中球は顆粒球(かりゅうきゅう)の一種、と紹介されることもあります。

顆粒球には好中球以外にも、好酸球や好塩基球がいますよ。

image by iStockphoto

体外から異物が侵入すると、好中球はその場に真っ先に集まり、食作用を行います。

細菌や真菌が侵入してきた現場へ好中球が移動する際には、遊走運動(ゆうそううんどう)とよばれる動きがみられることがあるんです。これは、細胞がアメーバのように組織の間に入り込み、移動する運動をいいます。

侵入してきたばかりの異物を好中球がどれだけ排除できるかが、体を守れるか否かの鍵になりますからね。体がストレスを負ったり、傷ができたりすると、好中球の数が増えることもわかっているんですよ。

なお、好中球が食作用で病原体を排除し、死んでしまったものが「(うみ)」となります。

マクロファージ

好中球同様に、侵入してきた病原体を排除する役割を果たすのがマクロファージとよばれる細胞です。異物の侵入初期は好中球がおもにはたらきますが、時間がたつとマクロファージも傷口に集まってきます。

Macrophage.jpg
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マクロファージはとても活発に食作用をおこないます。好中球より寿命も長く、たくさんの異物を食作用で排除し続けてくれる、頼もしい細胞です。前述の「膿」も、マクロファージが食作用で処理してくれます。

ちなみに、「たくさん異物を食べる」細胞なので、マクロファージは日本語で大食細胞とよばれることもあるんですよ。

マクロファージは他の細胞がつくるサイトカインという物質を受け取ると、さらに活発にはたらくようになります。まさに、生態を守る要のような存在です。

樹状細胞

最後にご紹介するのは樹状細胞(じゅじょうさいぼう)。この細胞も食作用を行う食細胞の一種ですが、好中球やマクロファージとは少し違った目的で異物を取り込みます。

\次のページで「自然免疫と適応免疫」を解説!/

樹状細胞の役割は、他の免疫細胞に侵入してきた異物の情報を伝えることです。

異物が侵入してくると、樹状細胞はそれを取り込み、リンパ管へむかいます。その間にも細胞内で異物は分解されるのですが、樹状細胞は、その分解した物質を細胞外に提示するのです。

これを抗原提示(こうげんていじ)といいます。

Dendritic cells.jpg
Haymanj - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

樹状細胞が掲げる異物(の一部)を、リンパ管内にいるリンパ球たちが認識すると、適応免疫とよばれるより強力な免疫システムがはたらきはじめます。

自然免疫と適応免疫

好中球やマクロファージの食作用で病原体を排除するしくみは、自然免疫という免疫システムにふくまれます。これは、多くの動物に基本的に備わっている生体防御機構です。

一方、私たち哺乳類を含めた脊椎動物は、リンパ球とよばれる免疫細胞がはたらく適応免疫(もしくは獲得免疫)という免疫システムを進化の中で手に入れました。これは、自然免疫よりも時間がかかるものの、より強く強力に病原体を排除できる仕組みになります。

そのとおりです。自然免疫だけでなく適応免疫もはたらかせるためには、樹状細胞による情報伝達が必要になります。

「どんどん病原体を食べて排除する」というわけではありませんが、樹状細胞の食作用も見逃すことができないのです。

体を守る食細胞たち

今回は食細胞のはたらきや種類などをご紹介しました。食細胞がはたらく自然免疫は、体内に侵入してきた病原体などから体を守るための防衛ラインです。

普段はあまり意識されませんが、好中球やマクロファージが日々病原体を排除してくれていることが、健康な毎日をもたらしてくれているんですね。食細胞に感謝していきたいものです。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

体を守れ!免疫で重要な食細胞とはどんな細胞?好中球・マクロファージなど現役講師がサクッとわかりやすく解説

今回は「食細胞」というキーワードについて学習していこう。

食細胞は生体を守るしくみである免疫で活躍する存在です。食細胞の具体例や機能にくわえ、関連する用語なども広く確認していこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

食細胞

食細胞(しょくさいぼう)とは、細胞の中でも食作用(しょくさよう)をおこなうものの総称です。

とくに、私たちの体内を守る免疫のしくみで活躍する細胞について紹介されることが多いですね。

食作用

細胞が物質を細胞内に取り組み、分解することを食作用といいます。

専門的な用語では、貪食(どんしょく)といったり、ファゴサイトーシス(phagocytosis)ともよばれますね。

そうですね。ファゴサイトーシスと似ている用語に、エンドサイトーシスやエキソサイトーシスなどがあります。せっかくですので、ご紹介しておきましょう。

エンドサイトーシスとエキソサイトーシス

「サイトーシス」というのは、細胞膜を介して大きな物質を輸送する作用をさす言葉です。

細胞外から細胞内に物質を取り込む作用はエンドサイトーシス(endocytosis)、細胞内から細胞外に排出する作用はエキソサイトーシス(exocytosis)といいます。

食作用はエンドサイトーシスの一種といえますね。

小さな分子であれば、細胞膜上にあるタンパク質のトンネル(膜タンパク質)を通過できるものがあるんです。ところが、大きめの物質になるとそうもいかなくなります。

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